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<あらすじ>
キン肉マン(キン肉スグル)は、キン肉星の正統な王位継承者であることを
邪悪の超人神に認めてもらうため、王位継承サバイバルマッチに挑むことになった。
準決勝第2試合にて、邪悪の神の刺客であるスーパーフェニックスと、
キン肉マンの兄であるソルジャー(キン肉アタル)の戦いが関ヶ原で繰り広げられる中、
フェニックスの配下のマンモスマンが、ソルジャーの生涯について書かれた予言書を
持って現れ、その予言書をたいまつの火に放った途端、予言書は徐々に灰と化し、
同時にソルジャーの肉体も、足元から灰色に変色し始めていった……

キン肉マン キン肉星王位争奪編 第29話 「弟よ! これがマッスル・スパークだ!! の巻」

マンモスマン「ハッハッハ……燃えろ! 燃えろ! ハッハッハ……燃えて灰になってしまえ! ハッハッハ……」

ソルジャー「こ、これは!? 両足の力が抜けていく!? 感覚がなくなっていく!?」
フェニックス「お前の存在は予言書そのもの。全てが燃え尽きるとき、お前の存在も灰となって消えるはずだ。楽しみだぜ」

大王「フェニックスとマンモスマン、何という大それたことを」
王妃「あなた、早く火を消してください!」
大王「それは不可能だ。予言書が燃え尽きるのも運命、誰にも止めることは出来んのじゃ!」
王妃「そんな! 24年ぶりに、ようやく我が子アタルの姿が見られたというのに、消えてしまうなんて!」
大王「わしらには、アタルの思い出しか残らん……ママ、記念写真は!?」
王妃「はい、肌身離さず……家出前のたった一枚の、家族の写真……」

胸元からロケットを取り出し、写真を見つめる王妃。
写真には、左にキン肉マンを身ごもった王妃、右に大王、そして中央にソルジャーが写っていたが……

王妃「アタル……ああっ、アタルの足が!」

写真のソルジャーもまた、足元から消滅しようとしていた。

大王「アタルの存在と、その生きた歴史も共に消えてしまう運命なのか!?」
王妃「あなた、お願い! 何とかして!」
大王「……関ヶ原へ行く!」
兵士「大王様、なりません!」
大王「どけい! 道をあけろー!」

やむなく大王に槍を向ける兵士を前に、大王は膝を屈するしかなかった。

大王(息子がこの世から消えるというのに、親として何もしてやれんとは……無念じゃ!)

実況「な、なんと! ソルジャーの変色部分が広がっていく!」
キン肉マン「変色ぐらいなんじゃー! 行け、ソルジャー! 何やっているー!?」
ソルジャー「う、動けん! 両足の感覚がない!」
フェニックス「いつも冷静なソルジャーも、運命の前には手も足も出んか!」

たじろぐソルジャーに対し、フェニックスはヘッドバット、パイルドライバーの連続技で苦しめる。

キン肉マン「何じゃい、ソルジャー! そんな技に掛かりおって!」
ラーメンマン「待て、ソルジャーは動く気配がない」
ロビンマスク「やはり足の変色が災いしているのか!?」
キン肉マン「そんな馬鹿な!?」

フェニックス「ソルジャーよ、もう分かったろうが、お前の両足は既にこの世のものではないのだ!」
ソルジャー(奴の言うとおり、あの予言書の一枚がこの私の存在そのものだとすれば……あの予言書が燃え尽きたとき、私自身も全てが消えてしまう運命なのか!?)
フェニックス「ようやく自分の不幸な運命に気がついたらしいな!」

フェニックスはソルジャーの体を抱えると、リングのロープをソルジャーの首と足首に引っ掛けて身動きを封じてしまう。

フェニックス「このまま時と共に、お前の体だけでなくこの世に生きた歴史そのものも、消えてしまうのだ!」
ソルジャー「私の生きた歴史も!?」
フェニックス「全てが消えうせる前に、吐くのだ! お前の正体を!」

ソルジャーのみぞおちに、フェニックスは容赦なくニードロップを連発して攻め立てる。

フェニックス「お前は、キン肉族に関係する超人なのか!? 吐くんだ!」
ソルジャー「フェニックスよ……いくら私を責めても無駄だ!」
フェニックス「吐かぬなら吐かせてみせるまでだ!」

キン肉マン「ソ、ソルジャー!? なぜ、やられっぱなしでいるんだ!? なぜ反撃しない!?」
ラーメンマン「キン肉マン!?」
ロビンマスク「落ち着け、キン肉マン! 足が消えようとしているんだ!」
キン肉マン「分かってる! でも、黙って見ていられないんだ! 放せー!」
ラーメンマン「なぜだ……なぜ、そうまでソルジャーに肩入れする?」
キン肉マン「私にも分からん!」
ロビンマスク「キン肉マン……」
ラーメンマン「その涙は?」
キン肉マン「分からん。だが、なぜかソルジャーの痛めつけられている姿を見ていると、悔し涙が出てくるんじゃ!」

ソルジャー(なぜ、やられっぱなしになっているか……それは、今のこの運命が、私の今日までの生き様の償いなのだ……24年前、私が愚かな家出などしなかったら、当然、長男である私が王位を継ぎ、弟のスグルは何不自由なく幸せな日々を過ごせるはずだった……しかし、私が消息不明となったために、スグルは正義超人界の平和を守るため、悪魔超人をはじめとする超人戦士と命がけの死闘をすることになった……私は、そんな弟の姿を密かに見ながら、一緒に戦ってやれない自分を恥じていた! そして、この王位継承サバイバルマッチも、私がキン肉王家に留まっていれば、行う必要はなかったはず。しかし、時の歯車を元に戻すことは、もはや不可能! だからこそ……だからこそ私は、こうして運命から逃げた卑怯な私自身への制裁を受けている!)

実況「ああっと! ソルジャーの体の変色が、ついに胴体の部分まで広がってきたー!」

キン肉マン「何とかならんのか……戦って敗れるんならともかく、こんなことではソルジャーが……」

ソルジャーとフェニックスの試合、それを見届けるキン肉マンたちの姿は、テレビを通して入院するキン肉マンの仲間にも伝わっていた。

キン肉マン『無念じゃー!』
テリーマン「キン肉マンの言うとおりだ! これは、まともな試合ではない!」

実況「ああっと! 変色は進んでいる! ソルジャーの体は、もう半分以上この世のものではなーい!」
大王『ソ、ソルジャー、いやアタルよ! こっちを向け!』
ソルジャー「何を言う!?」
大王『いや、もう黙っておることは出来ん! キン肉王家、長男のアタルよ……わしもママも、お前の家出を怒ってはおらんぞ!』
王妃『いいえ、怒るどころかパパもママもお前の無事をいつも祈っていたのよ!』
ソルジャー「ち、父上……母上!」
キン肉マン「ちょっと待ったー! パパ、ママ、キン肉家の長男アタルって何のことだよ!? 子供は私一人ではなかったのか!?」
大王『スグルよ、お前に秘密にしておったが、キン肉王家にはお前が生まれる24年前に家出した兄、アタルがおったのじゃ』
キン肉マン「私に兄が……私に兄がいた!?」

テリーマン「な……」
ウォーズマン「何!?」
実況『ああっと! 大王の、キン肉族の歴史を覆す衝撃の告白だ!』

マリ「えっ……」
実況『キン肉マンには、血を分けた実の兄さんがいたー!』
マリ(キン肉マンさん、あなたが前に私に言ったことを覚えているわ……)

マリの回想。夕陽が沈む海辺で、寂しそうに語りだすキン肉マンの姿が浮かぶ。

マリ『えっ、大事な秘密?』
キン肉マン『俺、子供の頃から、辛いときや悲しいときに、本当は強い兄貴がいて助けに来てくれないかなって……いつも夢見ていたんだ』
マリ『キン肉マンさん……』
キン肉マン『一人っ子なのに、笑っちゃうよな……』

マリ「その夢が、やっと叶ったというのに消えていく運命だなんて……ひどすぎるわ!」

キン肉マン「信じられん……」
大王『聞け、スグルよ。24年ぶりに現れた兄アタルは今、自らの歴史と共にこの世から永久に消えてしまうのじゃ!』
キン肉マン「な、何だって!? この世から消えてしまう? そんな馬鹿な! まだ兄と言われても、ピンと来ないのにー!」
大王『誰にも止められぬ。キン肉族の運命なのだ』
王妃『アタル……』

再び記念写真を見つめる王妃。ソルジャーの姿は、腰から下が完全に見えなくなっていた。

大王『スグルよ、せめて2度と見られぬ兄の勇姿をその目に焼き付けておくのだ!』

フェニックス「やっと分かったぜ! お前とキン肉マンを倒せば、真の王位継承者になれるということがなー!」
ソルジャー「スグルよ、私はお前に兄として何にもしてやれなかった……」
キン肉マン「兄さん? 本当に兄さんなのか……」
ソルジャー「しかし、この世から消える前に……俺の最後の戦いぶりを見届けてもらいたーい!」

ニードロップに来たフェニックスの両膝を受け止めると、ソルジャーはそのままフェニックスの体を上空に舞わせた。

ソルジャー「元祖・火事場のクソ力ー!」
キン肉マン「おおっ!?」
実況「出たー! 元祖・火事場のクソ力ー!」
解説「これがキン肉マンの火事場のクソ力の原型なんですねー!?」

ソルジャーの体から噴き出た炎が、ロープを断ち切ってソルジャーの束縛を解く。ソルジャーはその勢いで、頭上のフェニックスに追いつくと、フェニックスの首と左足に自らの右足と左足をそれぞれ絡ませる。

実況「ああっと! ソルジャー、フェニックスを何かの技に固めていく!」
キン肉マン「あの形は!?」
ラーメンマン「お前の未完成マッスル・スパークの体勢だ」
ロビンマスク「いや、そっくりだが……あの決め方は!?」
ソルジャー「スグルよ、キン肉族三大奥義のひとつマッスル・スパークは、2つが1つとなって初めて完全な技となる」
キン肉マン「2つが1つ?」
ソルジャー「今のところ弟よ、お前が知るマッスル・スパークは50%。その残りの50%の掛け方を、私が知っている!」
キン肉マン「では、あなたと私と合わせて、初めて100%のマッスル・スパークが完成すると!?」
ソルジャー「その通り! これが残る50%のアタル版マッスル・スパークだー!」

フェニックスと背中合わせになった状態で、フェニックスの両手首を掴み、同時にフェニックスの両足を自らの両足で締め上げるソルジャー。その体勢のままで急降下し、フェニックスの全身をマットに叩きつける。

キン肉マン「これが、半分のマッスル・スパーク……」
ロビンマスク「アタル版マッスル・スパークは、正に完璧なる殺人技……究極のフィニッシュホールドだ!」
ラーメンマン「これでも、まだ50%だというのか!?」
ロビンマスク「二人の未完成マッスル・スパークが合体した時に、完全無欠のスペシャル・フィニッシュホールドが完成するんだ!」
キン肉マン「命を掛けたアドバイス……ありがとう、兄さーん!」
ソルジャー「スグル……今頃になって現れた私を、兄と呼んでくれるのか!?」
キン肉マン「兄さん、誓います! 必ず100%のマッスル・スパークを完成させると!」
ソルジャー「おお! それでこそ、我が弟!」

しかし無情にも、変色していたソルジャーの足の膝から下が完全に消滅し、フェニックスの足に自由をもたらす。

フェニックス「お前の存在そのものが消えつつあることを、忘れたか!?」
ソルジャー「いかん……こ、これまでか!?」

更に、それまで実体を保っていたソルジャーの両腕までもが変色に侵されていく。

ソルジャー「私の両腕が!?」

力の弱まったソルジャーの腕を振り解き、フェニックスはソルジャーをコーナーポストに叩きつける。

ソルジャー「私の体が……」
フェニックス「ソルジャーよ、完全消滅まで時間の問題だな」
大王『な、何という……』
王妃『アタルー!』
キン肉マン「兄さーん、その両足で戦うのは無理だ! 今、助けに行くぞ!」
ソルジャー「スグル、我がキン肉王家には、無理という言葉はないのだ!」
キン肉マン「兄さん?」
ソルジャー「そうとも……自分のために命を投げ出して戦った仲間たち(ブロッケンJr、バッファローマン、アシュラマン、ザ・ニンジャ)のことを思うと、自然に力が湧いてくる!」
ラーメンマン「奇跡だ! 消滅している両足で立った!?」
キン肉マン(分かったよ、兄さん。あなたは、身をもってこの私に、何かを教えようとしているんですね?)
フェニックス「何を兄だの弟だのと、たわごとをほざいているんだ!? 元々、王位継承者はこの俺なのだ! 貴様の存在が消える前に、この手でとどめを刺し、真の王位継承者がこの俺様であることを改めて証明してやるー!」
実況「ああっと! 両足の消滅したソルジャーにフェニックス、ヘッドバットの連続技で突き上げるー!」
キン肉マン「いかん! マッスル・リベンジャーを決める気だ!」
ソルジャー「聞け、スグルよ!」
キン肉マン「兄さん!?」
ソルジャー「我が弟スグルよ、今からお前にキン肉王家3つの心得を伝える」
キン肉マン「3つの心得?」
ソルジャー「その1……正義超人界の平和を守る道に近道はない! 穏やかな道とイバラの道の2つがある時は、敢然とイバラの道を進め!」
キン肉マン「その1、心得ました!」
ソルジャー「その2……いかなる戦いであっても自分のために戦うなかれ! 戦いは人々を守るためだけに戦え!」
キン肉マン「その2、心得ました!」
ソルジャー「そしてキン肉王家最後の心得は……」
フェニックス「往生際が悪いぜ、ソルジャー!」
実況「何だ、この技は!?」
フェニックス「これがマッスル・リベンジャーの究極の姿だ!」

パイルドライバーに似た体勢で、ソルジャーの手首を掴み、両足を自らの足で挟み込むフェニックス。

ソルジャー「3つ目の心得は……正義超人から友情を失うことは、この世から太陽を失うも同じ……そんな暗黒の世に、超人界をしてはならーん!」
キン肉マン「兄さーん!」
ソルジャー「超人界に未来永劫、光あれー!」

フェニックスに体を固められたまま、コーナーの鉄柱に脳天を叩きつけられるソルジャー。そのまま血を吐いて白目を向くと、身動きしなくなった。

フェニックス「これで完全勝利だ。消えてなくなれ!」

キャプテンギブアップマッチのルールに則り、ソルジャーの左腕に巻かれたバンダナを剥ぎ取るフェニックス。続けて、ソルジャーの体を蹴飛ばして350M下の地面へと叩き落す。
バンダナが取られ、あらわとなったソルジャーの左腕に刻まれた古傷に、王妃は見覚えがあった。

王妃「あの傷跡は……あの時の……」

それは24年前、ソルジャーが家出をする際にドアを肩で破ったときに負ったものであった。

キン肉マン「アタル兄さーん!」

地面に激突したソルジャーは意識を取り戻し、キン肉マンに抱き起こされる。

キン肉マン「兄さん、しっかりするんだ!」
ソルジャー「ス、スグル、3つの心得……」
キン肉マン「確かに!」

遅れて駆けつけたロビンマスクがソルジャーの体に、ソルジャーのコスチュームである迷彩柄スーツを掛ける。

ソルジャー「ありがとう、ロビンマスク」
キン肉マン「どうして、もっと早く姿を現してくれなかったんです!?」
ソルジャー「キン肉王家の長男としての重圧に耐えかね、家出した卑怯者の私が出る幕などなかったのさ」
大王『それは違うぞ! アタル、お前がスグルの手助けをしなかったのは、スグルとその仲間の友情の絆を信じていたからだ!』
ソルジャー「ち、父上」
大王『そして、スグルがその友情をもってしても乗り切れない危機の時こそ自分の出番と……そうだな、アタル?』

自分のことなど何ひとつ分かってくれない……そう感じ、親に失望して家を出たソルジャーであったが、自分の真意をただ1人見抜いていたのが父親であることを知り、その頬を濡らした。

王妃『アタル、私たちは心の中でいつも信じていましたよ』
ソルジャー「母上……ありがとう」
キン肉マン「に、兄さん!?」
ラーメンマン「両足だけでなく、胴体まで消えている!」
キン肉マン「予言書だ! 予言書の火を消さなければ!」
ソルジャー「駄目だ……もう間に合わん」
キン肉マン「……でも!」
ソルジャー「頼む、私の肉体が完全に消え去るまで、この手を握っていてほしい。お前の手で」
キン肉マン「兄さん」
王妃『スグル、お願い! 私たちの分も、力いっぱいアタルの手を握っておくれー!』
ソルジャー「スグルよ、今日からはお前がキン肉王家の長男。いいな?」
キン肉マン「……は、はい!」

そこへ、入院していたはずのテリーマンらが駆けつける

ロビンマスク「みんな、どうしたんだ?」
テリーマン「俺たちは、偉大な先輩超人の姿を一目見たかったんだ」
ソルジャー「スグルよ、お前は素晴らしい友を持って幸せだな……これならきっと、邪悪の神たちの挑戦を退け、キン肉王家の真の王子となるだろう。友情を大切にな……」

ソルジャーは、自分の左手を握るキン肉マンの手に右手を添えると、そのまま事切れた。

キン肉マン「兄さーん!」

同時に予言書も燃え尽き、ソルジャーの肉体はスーツとマスクを残して消滅する。

大王「アタル……」
王妃「嗚呼……」

王妃の目からこぼれた涙が記念写真に落ちる。しかし、その写真にもはやソルジャーは写っていなかった。

キン肉マン「アタル兄さん、あなたが命と引き換えに教えてくれたマッスル・スパーク。そして、キン肉王家3つの心得……決して忘れません。ありがとう、兄さん!」

ソルジャーのマスクを右脇に抱え、スーツを左手で掴んで立ち上がるキン肉マンが、決意の目で仲間の呼び声に応える。

キン肉マン「ああ、やってやるとも!」

マンモスマン「ふん! 全てはおしまいよ!」

火が消えて灰のみとなった たいまつを蹴飛ばし、去っていくマンモスマン。残された予言書の灰は、風に乗って仲間たちが散っていった伊吹山へと運ばれていった。山中、手にした袋の中にその灰を回収する人物がいた。

「キン肉アタル……超人界の歴史から消してしまう。あまりにも惜しい男。せめて、偉大なる戦士の証として、この灰だけは預かっておく」

それは先の宇宙超人タッグトーナメントにて、命を落としたはずのネプチューンマンであった。
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