銀河英雄伝説 第26話
〜〜キルヒアイスの死〜〜
ガイエスブルグ要塞でラインハルトを狙った刺客はキルヒアイスの捨て身の行動によって捕らえられ、ラインハルトは助かった。
しかし、キルヒアイスは致命傷を負ってしまった。
本来ならば彼の所持していた銃が刺客を打ち抜くはずであったのに。
昨日まではキルヒアイスだけが銃の携帯を認められていたのだから・・・
倒れたキルヒアイスによろよろと近づいていき、キルヒアイスの手をとるラインハルト。
ラインハルト「キルヒアイス・・・」
キルヒアイス「ライン・・・ハルト様・・・ご無事・・・ですか」
キルヒアイスはなにかをつかもうとするかのように震える手を差し出した。ラインハルトはその手をしっかりと握る。
ラインハルト「キルヒアイス。お前のおかげだ。見えないのか?」
キルヒアイス「もう、わたくしは、ラインハルト様のお役にたてそうもありません・・・お許しください」
ラインハルト「ばかっ、なにを言う。もうすぐ医者が来る。こんな傷はすぐ治る。
治ったら姉上のところへ勝利の報告に行こう。なっ、そうしよう」
キルヒアイス「ラインハルト様・・・」
ラインハルト「医者が来るまでしゃべるな」
キルヒアイスは大きく目を見開いて、苦しそうな声で、しかしはっきりと言った。
キルヒアイス「宇宙を、手にお入れください」
ラインハルト「・・・あぁ。あぁ、もちろんだ。お前といっしょに」
キルヒアイス「それと、アンネローゼ様にお伝えください。ジークは、昔の誓いを守ったと・・・」
かつての光景が浮かび上がる。微笑む美しい少女と燃えるような赤毛の少年の誓い。
ラインハルト「嫌だ! オレはそんなことは伝えない。お前の口から伝えるんだ! お前自身で!
オレは伝えたりしないぞ。いいか。いっしょに姉さんのところに行くんだ! キルヒアイス」
キルヒアイスの目がうつろになってゆき、最後にラインハルトに微笑みかけるような顔おして、息をひきとった・・・
ラインハルトはそれを否定するかのように首を強く横に振り、キルヒアイスに語りかける。
ラインハルト「キルヒアイス! 返事をしろ! キルヒアイス、なぜ黙っている! キルヒアイス!!」
ミッターマイヤー「だめです、亡くなりました・・・この上は、せめて安らかに・・・」
ラインハルトの肩に手を置き、そう言いかけたミッターマイヤーはラインハルトの形相に息を呑んだ。
ラインハルト「嘘をつくな、ミッターマイヤー・・・卿は嘘をついている! キルヒアイスが、私をおいて先に死ぬわけはないんだ!!」
ラインハルトのその姿に声もない一同。ラインハルトは周囲には目もくれずキルヒアイスを呼び続ける。
ラインハルト「さあ、目を開けろ、キルヒアイス・・・キルヒアイス! キルヒアイス! キルヒアイスー!!・・・・・・」 ラインハルトの叫び声がこだまする・・・
ミッターマイヤー「どうだ?ローエングラム候のご様子は?」
ロイエンタール「相変わらずだ。じっと座っておられる」
ミュラー「しかし、ローエングラム候にあれほどもろいところがおありになるとは思わなかった・・・」
ミッターマイヤー「違うな、ミュラー。オレや卿が死んでもああおなりではあるまいよ。ジークフリード・キルヒアイスは特別だ。
特別だった・・・ローエングラム候はいわばご自分自身の半分を失われたのだ。それも、ご自分のミスで」