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南の沼の小屋中に入った3人が見たのは長いコートを着て、長い刀(?)を持った男であった。
「てめえは、四乃森蒼紫(しのもりあおし)!なんでこんなとこにいやがる!?」

第9話 輝VS蒼紫

「……キサマは抜刀斎(ばっとうさい)の……。」
「?……誰なんですか?」
「四乃森蒼紫っていって、御庭番衆(おにわばんしゅう)っていう忍びのお頭なの。」
輝は蒼紫のことを知らないので薫に教えられたのであった。
「根津や穴山のこと、かぎ回ってたのはてめえか!いったい、何のつもりで…………。
 って、今はそれどころじゃねえな。おい、てめえ、解毒に効く藻っての知らねえか?」
「ちょっと佐之助、それって頼むときの態度じゃ……。」
「……騒がしい男だ。もっとも知っていたとしても、なぜキサマらに教えねばならん?」
輝が佐之助に注意してる途中で蒼紫の冷たい一言が返ってきた。
「な……んだとぉ?」
佐之助は蒼紫の冷たい態度に怒った。
「お願いします!弥彦が……、私たちの仲間が大変なんです!」
「ふん…………。」
薫が懸命にお願いするが蒼紫はうんともすんとも言わない。
そんな態度を見かねてか輝は体を小刻みに震わしていた。そして……
「人が死ぬかもしれないのに、その態度は何なの!!」
輝は怒りを露にし蒼紫に言い放った。
「輝さん!?」
「輝!?」
輝の思わぬダイタン行動に薫と佐之助は驚いたが蒼紫はなんともしていなかった。
「あなただって、もしあなたの仲間が死ぬかもしれない状況になったらこういう事するでしょ!?」
「……関係ない……もっとも、俺には仲間などいない……。」
蒼紫に発言に輝は怒りを爆発させる
「こうなったら!腕づくでも、聞いてもらうわ!!」
「ひ、輝さん!!」
「ちょっと待て!!相手は御庭番衆のお頭だ!俺なんかよりつえぇぞ!!」
「薫さん!佐之助!弥彦の為に、ここで退くわけにはいかないんです!!
 ここで退いてしまったら、弥彦に申し分がたたないわ!!」
「でもよう……。」
「輝さん……!!」
「……おもしろい女だ……さあ、やってみろ!」
「!?」
蒼紫の回答に佐之助は驚いた。どうやら輝とやる気である。
「なにがなんでも、解毒薬について聞かせてもらうわ!」
薫と佐之助の制止を振り切り輝は蒼紫の前に出た。
「輝さん!」
「薫さん!もう止めないで下さい!」
「でも……」
薫は輝を必死に説得しようにも輝は言い聞かない、そこに佐之助が薫の肩に手を置いた。
「嬢ちゃん、もう寄せよ。」
「佐之助!?」
「ああなった輝は、もう止めることはできねえみてえだぜ。」
佐之助は顔に手を当てながら薫に言った。
「だけど……」
「あいつの目をよく見ろよ、まるで剣心みてえな目をしてるぜ。」
「!!」
薫が輝を見ると、そこにはいつもの輝ではなくまるで違う誰かを見てるようであった。
仕方なく薫は佐之助の言う通り輝を制止することをやめるのであった。

輝と蒼紫は何故かお互い刀を抜かずに相手の様子を見ていた。
「……どうした?刀は抜かんのか?」
「貴方が抜いたら抜くわ。」
「……そうか……では無理にでも抜かせてもらおうか。」
お互い距離を保ったまま決して動こうとはしない。……そして……………………。
輝が先手必勝と思ったのか先に動き出した。
(速い!)
輝の目にも止まらぬ速さに蒼紫は少々驚くが、それでも冷静に対処し輝の掌底をかわす。
しかし、そこを空かさず輝は蹴りをかます。蒼紫は右腕で受け止め空かさず輝に向けて蹴りを放つ
しかし輝はわざと体制を崩し蒼紫の蹴りをかわし、全身のバネを利用して両手を地面につきその反動で蒼紫に蹴りを放った。
(なに!?)
蒼紫は攻撃をなんとか両腕で受け止めたが、蒼紫の腕に強い衝撃が走った。
その後輝はバク転して蒼紫との距離をとり構えをとった。
「……なんなの今のは……?」
「すげえ!あの四乃森蒼紫と互角に戦ってやがる……。」
輝の戦いに薫と佐之助は驚きを隠せなかった。
四乃森蒼紫は刀を使うが凄腕の拳法家でもある。そんな蒼紫と体術で互角に戦える者は恐らく輝が初めてであろう。
「なかなかやるな……だが、これならどうだ?」
蒼紫は不思議な動きをしてきた。
「!?」
まるで蒼紫が2人にも3人にも見えるような不思議な動きである。
「これは一体!?」
「きをつけろ輝!流水の動きだ!(原作単行本第4巻参照)」
輝は蒼紫がどう動いていてどう攻撃すべきか分からない、なんとか落ち着こうとするが動揺を隠せなかった。
「無駄だ、この流水の動きはキサマとて止めることはできん……。」
「!!」
輝が気付いたときはとき既に遅し、蒼紫の拳をモロにくらってしまう。
「うっ!」
輝はよろめいてしまうが、なんとか体制を整える。しかしその後蒼紫は拳で輝を連続攻撃する。輝はなんとか何発か受け止めるが
やはりほとんどまともにくらっていた。
「輝さん!!」
「……ハァ、ハァ……。」
「ほう、まだやれるのか。」
「当たり前よ!弥彦の為に負けるわけにはいかないの!」
「そんなにあの小僧のことが心配なのか?お前とはどういう関係があるのだ?」
「……仲間だからよ!」
「…………………………。」
「仲間を助けるのは当たり前のことよ!薫さん、弥彦、佐之助は、記憶喪失で身寄りのない私をまるで家族のように受け入れ、
 やさしくしてくれる……だから私は…………」
「…………。」
蒼紫は輝の言葉の最中にもかかわらず攻撃を仕掛けるが、それを輝は受け止め、蒼紫の拳を握る。
「!?」
「そんな人たちの為になにかやらなくちゃいけないの!他にも方法はあるかもしれないけど、それだけじゃだめなの!!
 みんなに喜んで貰いたいから!みんなを悲しませたくないから!!人を思う気持ちがあるから私は戦える!!
 あなたみたいな、人に対して無愛想で哀れむこともしない人なんかに、私は負けるわけにはいかないのよ!!」
輝は素早く蒼紫の顔面に激しい蹴りをかます。
「!!!」
攻撃は直撃した。
「はああああっ!!せい!やあ!たあ!!」」
さらにすかさず輝は拳を連発し、その後掌底、肘鉄、かかと落しを蒼紫に決めた。
「くっ…………。(戦い方は違うが、まるで抜刀斎と戦ってるみたいだ。)」
蒼紫は輝の猛攻撃に息切れを起こしていた。
「………………。」
輝も黙ったまま蒼紫を見て構えをとっていた。
しばらくすると蒼紫が言った。
「…………抜け!」
しかし、輝は刀を抜く気配がない。
「前にも言ったでしょ!?貴方が抜いたら抜くって!」
「……俺が抜くからお前も抜け!」
「………………。」
蒼紫は長い鞘の刀を取り出した。いざ刀を抜くとなんと、唾のところだけでなく鞘の後ろのところからも刀が現れた。
蒼紫最大の武器、1本の鞘に2本の小太刀を納めた『小太刀二刀流』である。
「……忠告どうり、抜かせてもらうわ!」
輝も刀を抜いた。
そして再び距離を置く、2人とも小柄な刀を持っているが、本数からして蒼紫が有利であるが状況はわからない。
何故なら輝は1本だが、先程の神速での攻撃が来るかもしれないためである。
だが蒼紫は勝負を一気に決めるためか再び流水の動きを始めた。
「(あれからくる技つったら!)……輝!きをつけろ!回天剣舞(かいてんけんぶ)だ!!」
佐之の叫びは輝には聞こえなかったのか、輝は見向きもうなづきもしなかった。
「小太刀二刀流、回天剣舞!」
「!!」
「輝さん!!」
「輝!!」
蒼紫の得意技回天剣舞が輝に炸裂……したかのように見えたが……
(!?……妙な手ごたえ。)
蒼紫は小太刀から伝わる妙な手ごたえを感じ技を終えた後輝の方を見た。するとそこには輝ではなく
輝の背丈に似た丸太の大木が切れ端としてあった。
「これは!?」
蒼紫が不振に思ったその時、頭上から輝が落ちてきた。
「たあっ!!」
「!!」
輝の峰打ちが蒼紫に直撃しさらに輝は追撃を決める。
「吉祥の…型!!」
輝の得意技が決まり蒼紫は吹っ飛んだ。倒れはしなかったがダメージがあってか蒼紫は地面に膝をついた。
「……ぐっ……変わり身とは……やるな。」
「正確には摩利支の型(まりしのかた)っていう技なの。なんでこういう名前がついてるのか知らないけど、
 なぜか突然こういった技を思いつくことがあるの……。」
「……だが、回天剣舞をこのような形ではあるが、破るとは見事だ、……解毒剤の調合法を教えてやろう。」
「えっ!?でもまだ勝負は……。」
「オマエの戦い方は、御庭番衆に匹敵するかそれ以上だ、……これ以上戦っても、意味はあるまい……。」
「…………………………。」
「よく聞いておけ、この沼には四つの色の藻が生えている。それを緑、茶、黄、青の順に煎じれば
 解毒剤ができるが、作れるのか?」
「大丈夫です!なんでだか知らないんですけど、材料とやり方さえわかればできる、そんな気がするんです。」
蒼紫の質問に輝は自信を持って答えた。
「薫さん、佐之助、早速ですけど藻を取ってきてください。」
「輝は?」
「……ここでしばらく蒼紫さんと話し合ってみます……。」
「…………わかった。嬢ちゃん行くぜ。」
「うん……。」
薫と佐之助は藻を集めに小屋を出た。小屋には、輝と蒼紫の2人きりになった。
「………………どういうつもりだ?」
「……あなたと、話し合ってみたかったんです。」
「…………………………。」
「あなたは前に、仲間はいないって言ってましたよね……どうしてなんですか?
 御庭番衆っていう名前が今でも残っているのなら、仲間の生き残りの1人や2人いてもいいはずなのに……。」
輝の質問に蒼紫はしばらく沈黙し、その後しゃべりはじめた。
「……最初は多くの者がいた。……だが時が経つにつれ1人やめ、2人やめ、とうとう5人だけとなった。
 …………だが、あの時(原作単行本第4巻参照)……武田邸での抜刀斎との戦いの後、武田の自動回転砲(ガドリングガン)から
 俺を守るために、4人の仲間、辺見(べしみ)、式条(しきじょう)、火男(ひょっとこ)、般若(はんにゃ)が
 命を落とした……。だから俺は、あいつらを死なせてしまったことに申し訳ないと思ってる。」
「…………………………。」
「……だから、あいつらは俺のことを……」
「恨んでなんかいないわ!」
「!!」
「だって、その人達はあなたに忠誠を誓ってたんでしょ!?あなたを信頼してたんでしょ!?
 だったら、その人達の思いに応えるべくなにかやることがあるんじゃないの!?
 記憶喪失の私が言うのも難ですが、やるべきことは過去ではなく今と未来のために自分ができることをすることです!
 いつまでも昔のことにこだわっていたら、その人達が怨霊みたいでかわいそうじゃないですか!!
 その人達は今、あなたの守護霊じゃないんですか!?死してもなお、あなたのことを見守ってるんじゃないんですか!?」
輝は瞳から涙を流した。
「…………………………。」
蒼紫は輝の涙を見たが、あまり動揺する気配はなかった。そして……
「…………似てるな、……抜刀斎に。」
「えっ?」
「輝、持って来たぜ。」
会話の途中で薫と佐之助が藻を持ってきて小屋に戻ってきた。
「あ、……うん。」
輝は佐之助たちのほうを振り向いた。すると佐之助は輝の涙にきがついた。
「輝?」
「あっ、……大丈夫。目にゴミが入っただけだから……。」
輝は佐之助たちを心配させまいと涙を拭いた。そして蒼紫の言う通りに藻を緑、茶、黄、青の順に煎じ解毒薬を完成させた。
「しっかし、器用だな。料理だけでなく、薬の調合までこなすなんて……。」
「ここに道具が揃ってるから出来たって訳じゃなさそうなんです。……なんだか前にもやったような気がするんですが……。」
「……いいわ。それより早く弥彦の所へ戻りましょう。」
一行は解毒剤を手に急いで弥彦のもとへ向かうことにする。……その前に
「待て。」
「!?」
蒼紫に一旦引き止められた。
「女……名は、何という?」
蒼紫は輝に声をかけた。どうやら輝の名を聞き出すようである。
「……神崎輝。」
「……そうか、……覚えておこう……。」
「あの……。」
「……解毒薬ができたのなら、これ以上用はないだろう。」
「……蒼紫さん……。」
「……もういいだろ、行こう、嬢ちゃん、輝。」
「………………………………。」
「…………うん。」


村長の家
村長は弥彦の容態を案じながら、輝たちの無事も祈っていた。そんな時
「持って来ました!」
輝たちが部屋に駆け込んできた。
「おお!無事じゃったか!では、早く!」
「ええ。」
「弥彦!さあ、これを飲んで。」
薫は弥彦に解毒剤を飲ませた。
「うう……?」
「大丈夫、弥彦!?」
「……………………………。」
輝は、薬がちゃんと効いているのだろうかと不安になっていた。
しかし、輝の心配もなく弥彦の容態はどんどん良くなっていった。完全に解毒できたのであった。
「ここは、……俺、どうして……。」
「おお、意識が戻った。もう大丈夫じゃ。」
「……そうか、穴山にやられたんだっけ……。」
「弥彦…………よかった……。」
輝はホッとしたのか腰が抜けてしまった。
「よかったね、弥彦!」
薫も笑顔になる。
「ちぇ、大げさなんだよ。」
「だって、死ぬかもしれなかったじゃないの!……毒を盛られたんだから……。」
「そうなのか!?」
「そうだぜ、のん気なヤツだぜ!」
「……ったく!そんなことより、ほら!」
弥彦は懐から木の板を出してきた。
「こりゃあ……割符か!?」
「いつの間にこれを!?」
弥彦がいつのまにか割符を持っていたことに佐之助と輝は驚いた。
「おう、倒れかけたときに、穴山が近寄ってきたじゃん。」
「……確かにそうだけど……。」
「!」
弥彦の言葉に薫はなにかピーンときたようであった。
弥彦の言うとおり、弥彦と操られてた男が倒れたとき穴山は2人に近寄っていたのであった。
「あんた、あのわずかなスキに!?」
「おう。まだ、スリの腕は落ちちゃいなかったぜ。(原作単行本1巻など参照)」
「……あきれた。」
「まあ、いいじゃねえか。これで、弥彦もやられた分の落とし前は、つけられるってもんだぜ。」
「そうね、かかと落し一発じゃ気が済まないわ。」
「そうそう。穴山達のアジトも、ちゃんと載ってるんだぜ。」
一行は割符に目をやると、そこには東京からかなり東にある森と山が記載されていた。
「茂原の森(もはらのもり)と霊山の2ヶ所あるけど、たぶん、茂原の森の方ね。」
「そうだな。」
一行の次の目的地は茂原の森と決定した。
そこに村長さんが声をかけた。
「今日は、もう遅い。泊まっていきなされ。」
「はい、わかりました。」
こうして今度こそ一行は村長の家で静かな一夜を過ごすことになった。


そのころ南の沼の小屋に何故か百鬼が現れた。
どうやら、穴山の命令で何かをしでかすようである。
「おう、こんなとこにも人がいるとはな。おい、おまえ。」
百鬼は相手が蒼紫とは知らず無謀にも声をかける。当然蒼紫は知らんぷりしている。
「聞こえねえのか。おまえ、穴山様の下で働け。最強の軍団を作るんだ。」
「…………最強?」
「なーに、おまえは何もしなくていい。穴山様が術をかけりゃ、あっといまに最強の兵士のできあがりよ。」
「……ずいぶん手軽な『最強』だな。」
「なんだと!?」
「それ以上、最強などとふざけたことをぬかすなら……、その口封じてくれる。」
ものすごい剣幕で蒼紫は百鬼を睨む。
「生意気な!」
百鬼は腹を立て無謀にも蒼紫に斬りかかった。……当然、この後返り討ちになったのは言うまでもない。

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