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第5話 根津現る!

茜達の後ろから紫の服を着て、顔や体には刺青があり、片手には刀(木拵え)を持った若い男が現れた。
(こいつがこの事件の首謀者……!)
輝は刀を持ったまま構えを取っていた。
「てめぇら、茜達を可愛がってくれたそうだな。」
「あなたが根津なの!?」
「そうだ!茜達のやられた分お返しに来てやったぜ!」
「あなた達、人々を操って何を企んでいるの!?」
「んなこと関係ねぇ!てめぇらここでぶっ殺してやるんだからな!」
「根津様、やっちゃってくださいよう。」
「あんた達、根津様が来たからには、もうおしまいだからね!」
「今度こそケチョンケチョンにしちゃうんだから!」
三つ子と根津の怒りは頂点に達していた。
「薫さん、弥彦、ここは全部私に任せて!」
「輝!?」
「大丈夫なの!?」
「大丈夫です!前の戦いで3人の戦い方はわかってますから。それに、この中で一番強いのはおそらく
 私だから…四人くらいなんとかなります」
「……わかった!」
弥彦はしばらく考えて答えた。
「弥彦!?」
「輝を信用しろよ薫!万が一の場合は俺達でやればいいんだから。」
弥彦の言葉に薫は戸惑い、しばらく考えた。
「……分かったわ。そのかわり輝さん、死なないで……。」
「分かってます。薫さん。」
輝はたった一人で根津達に戦いを挑むのであった。

「この前は一人ずつだったから負けたけど、今回はみんなで一斉にいくわよ!」
「うん!」
「よーし!やっちゃうんだからあ!!」
茜達は一斉に輝に襲い掛かった。しかし輝は何の苦もなくかわしていった。
「くっ!この!…!?」
茜が輝に攻撃を仕掛けるも簡単にかわされ後ろから攻撃をくらってしまいその場に倒れこんでしまった。
「まずひとり!」
「この!踊鳥…えっ!?」
「やあ!」
藍が技を放とうとした途端輝の刀が藍を襲った。
「うわあっ!」
薫より攻撃が早いため体制を整える間もなく藍は吹き飛んでしまった。
「うう……こんのぉ!!」
碧はやけくそになったのか輝に斬りかかった…が
「えっ!?」
輝はいつのまにか消えていた。すると……
「こっちよ!」
碧の真上から輝の声がした。
「迦楼羅の型(かるらのかた)!!」
「!?」
碧が気付いたのも時既に遅し、真上からの輝の攻撃をまともにくらい倒れこんでしまった。
「す…すげえ!」
「あんな余力……一体どこにあるの!?」
輝の強さに薫と弥彦は驚きの色を見せずにいられなかった。
「次はあなたよ!」
輝は刀で根津を指した。
「このアマ!調子に乗るのも今のうちだ!」
根津は刀を抜き輝にいきなり襲い掛かった。輝は攻撃を受け止め応戦するもなかなか反撃にうつれなかった。。
「くっ……!」
「ウヌヌ……!」
そしてお互い睨み合ったまま一歩も譲らない勝負が繰り広げられていた。しかし連戦での疲労がきてるのか輝が僅かだが押されていた。
そして2人は距離を置いた。
「はあああ!!」
輝は駆け足で根津に斬りかかった。
「甘いんだよ!」
輝を返り討ちにしようと根津は刀を振るが輝はジャンプしてかわした。
「迦楼羅の型!!」
輝の技が根津に見事命中し再び輝は距離を置いた。根津はまだ立っていられるようだ。
「!!…こいつ……!!」
「……はあ!!」
「!?」
根津は包帯みたいなものを投げつけた。輝は防御体制にはいるもそれは輝の左腕に巻きついた。
「はっはっは!これでてめえの技も使えまい!」
「くっ!」
「輝!」
「駄目だわ!あの状態じゃ技が使えないわ!無理に使おうとすると引っ張られて体制を崩されて斬られるのがオチだわ!」
輝は懸命に踏ん張るがそれでも根津にどんどん引っ張られるのであった。
(くっ……どっちにしろこのままじゃやられる……一体どうすれば……)
踏ん張りながら輝は打開策を考えるがなかなか思いつかない。そして根津との距離が迫った来た……その時!
(……!)
何かひらめいた。すると突然輝は踏ん張る力を弱めた。
「!?」
「なんで踏ん張らないの!?」
「やっと、覚悟を決めやがったのか!?死ね!!」
根津との距離が全くなくなり根津が刀が輝に襲い掛かったその時
「!?」
根津は輝の突然の行動に驚きを隠せず一瞬刀の動きを止めてしまった。
「吉祥の型(きっしょうのかた)!!」
輝は猛回転しながら根津に連撃を決めた。それと同時に左手に結ばれていた包帯を切り根津を吹き飛ばした。
「うわーーー!!」
どうやらこの技は今まで輝が使っていた技に比べキレがするどく、動きも華麗であった。どうやら輝の得意技のようだが本人は
そんなことを知る由もなかった。
(今の技……今までのと違う。なんだろう?親しみ…みたいな感じがした……。)
輝は息を切らしながら考え出したが、その後何事も無かったかのように根津の方を見た。
「バ、バカな……。この俺が、こんな女に負けるわけがねえ!」
「!?……まだやるの!?」
輝はとっさに構えをとった。
「チイッ!しつこいヤツだぜ!」
根津が輝に再び襲い掛かろうとしたその時。根津に向かって石が飛んできた。
「!」
根津はなんなくかわしたが輝に攻撃を仕掛け損ねてしまった。
「誰だっ!」
根津が石が飛んできた方向を向くと、鳥のような頭をした赤い鉢巻の男で、上着の背中には『悪』の文字が書いてあった。
「てめえこそ…一体誰なんでえ!」
男は指をポキポキと鳴らした。
「この佐之助(さのすけ)様にことわりも無く、こんな大騒ぎをやらかしやがってよ!」
「なんだてめえは!佐之助だか左馬介だか知らねえが関係ねえヤツは引っ込んでろ!」
「そうはいかねえなあ。そこの嬢ちゃんとボウズは、俺の知り合いなんだ。放っちゃおけねえな。」
「うるせえ!てめえも殺す!」
根津は男に斬りかかった。
「危ない!……え!?」
輝が呼びかけるが、彼女の心配もそっちのけで男は根津の刀を軽々と片手で受け止めた。
「へッ……おもしれえ。そっちがその気なら。……おらぁ!」
「うおっ!」
男はたった一撃の拳で根津を吹き飛ばした。
「「「根津様ぁっ!」」」
三つ子達は根津に駆け寄った。
「よくも、根津様をっ!」
「ダメよ、碧、藍!根津様を連れて帰らなきゃ。」
茜は怒る碧と藍を和ませた。碧と藍は根津を抱えながら逃げていき茜も一目散に逃げていった。
「チッ、つまんねえ奴等だぜ。こんなんじゃあ、準備運動にもなりゃしねえ。」
「…………。」
「弥彦?」
弥彦は男に対して不満げな顔をしてそして「どわっ!?」
男に弥彦は後ろからドツいてきた。
「何しやがる!」
「それは、こっちのセリフだぜ!あんな奴等、おまえの助けなんか借りなくったってよかったんだ!」
「それが、助けてくれた恩人にいうことかあっ!?それにオマエ全然戦ってねえじゃねえかよ!?」
「ウルセー!シメテヤル!」
弥彦は男に突っかかってたが
「あーもう、やめなさいっ!」
「そうよ弥彦!助かったんだからいいじゃないの!」
輝と薫によって仲裁された。
「ところで薫さん、この人は誰なんですか?なんだか親しいようなんですけど……。」
輝は薫に男の事を聞きだした。
「あっ、輝さん紹介するわ。これは佐之助っていって、私達の知り合いなの。怖い顔だけど、噛みついたりしないから
 安心して。」
「ハハハ……。」
輝は佐之助を見て思わず苦笑いをした。
「んん?そっちは?」
佐之助は輝の方を見て言った。
「あっ、神崎輝です。ワケあって薫さんのところに居候してます。」
輝は佐之助に挨拶をした。
「フーン。俺は相楽佐之助(さがらさのすけ)。佐之でいいぜ。」
佐之助は簡単な自己紹介をした。
「あの時はありがとうございました。」
輝は佐之助に礼を言った。
「いいって、礼はよう。
 ……それより、あいつら何者なんでえ?」
「わからないんですけど……」
「ねえ、何かしら、これ……。」
輝の話の途中に薫が割り込んだ。どうやら根津が倒れてた所に木の板みたいなものが落ちてあった。薫はそれが気がかりのようであった。
薫がそれを拾うとそれには東京の他に村や山、竹林が書いてあった。
輝と弥彦も木の板に目をやった。佐之助はすっぽかされてしまったようだ。
「割り符……ですね。」
「あの根津とか言うヤツが落としてったのかもしれねえぞ!」
「おい、だから、アイツはなんなんだよ!?」
状況を理解できない佐之助は理由を求めた。すっぽかしたことを申し訳なさそうに輝達は説明をした。
「この事件の首謀者みたいなんです。」
「事件?」
「近頃町で、急に人が暴れ出すの。私達、その原因を作ってる犯人を追ってるの。」
「根津達は、その一派なんだ。」
「フーン……その騒ぎなら聞いたぜ。おめえら、俺抜きで、そんな楽しそうなことをしてやがったのかい。」
「楽しんでやってるわけじゃないわ。」
「ああ、でもいただけねえな。嬢ちゃんとボウズと、その新顔(輝)だけじゃあ、何となく頼りなくていけねえ。
 ……よーし、俺も同行してやらあ。」
「いいんですか?」
「何、遠慮はなしってことよ。」
こうして3人は佐之助という頼もしい仲間を加えた。
「勝手なヤツだなあ。」
弥彦は佐之助の豪快さに呆れていた。
「でも、佐之助がいれば心強いわよ。」
「そんじゃあ、いっちょ行きますか!」
佐之助は張り切っていたが
「その前に、一旦神谷道場に戻って休みましょう。疲れましたし、この割り符のことも気になりますし。」
輝は一旦体制を整えることを提案した。
「……しょうがねえなあ。」
佐之助は仕方なく輝の意見に賛同したがなにか不満であった。
「まあまあ佐之助、晩御飯ご馳走するから……。」
と佐之助を和ませる薫であったが
「嬢ちゃんのマズイ飯なんていらねえよ。」
佐之助の言葉に薫はちょっぴりカチンときた。
「大丈夫よ、輝さんが作るから……」
薫は顔こそは笑っているが心では怒っていた。
「おい!薫!……輝もなんか言ったらどうなんだ!?」
「別に構いませんよ。食客さんが帰ってくるまでの間、私がやっておきますから。」
「輝……オマエってヤツはどうしてそんなにお人好しなんだよ……。」
薫の強引(?)なお願い(?)を易々と受け入れる輝に弥彦は呆れかえってしまう。
「輝が作るのか!?」
「大丈夫だって。輝が作る飯はうめぇんだ。」
弥彦は太鼓判を持って佐之助の疑問に答えた。
「ほう。そいつぁ楽しみだな。」

神谷道場 夕食時
「うめえ!嬢ちゃんのとは月とスッポンだな!」
佐之助は飯をかっこんでいた。
「…………(怒)」
「…………薫さん。(汗)」
怒鳴りそうになる薫を輝は冷や汗をかきながらなだめていた。
「でもよぉ、剣心が作ったのにはねえ、なんか……懐かしい味がするんだよなあ。いわゆる『お袋の味』ってヤツか?」
「確かにそうね。」
佐之助の意見に薫は同感した。
「でも、なんでこんなに料理がうまいのかも自分でもわかってねえんだ。輝は……。」
「そっか……記憶喪失じゃ、しょうがねえな。」
「…………。」
実は夕食前に輝について佐之助が聞きだしたが、記憶喪失であることを佐之助は薫から知ったのであった。
輝は記憶のことを話に持ちかけられたためうつむいてしまった。
「なーに大丈夫だって。記憶なんてちゃんと戻るからよ。だから落ち込むなよ。飯がまずくなるぜ。」
佐之助は輝を慰めた。
「……う、うん。」
「それに、こういう連中と一緒だと悩むのも馬鹿らしくなってくるぜ。……モグモグ。」
「あんたはあまり考えないからいいの!……所で輝さん、もしよかったら私にも料理を教えてくれない?」
薫は輝にお願いをした。やはり本人も気にしているようだ。
「……できる範囲でよければいいですよ。」
「ありがとう。輝さん。」
薫は喜んだ……が
「無理無理。誰から習ったって薫はうまくなんねえよ。」
喜ぶ薫に弥彦が横槍を入れた。
「弥彦!!」
再び薫はカチンとキレた。
「おかわり!」
佐之助は茶碗を薫に差し出した。
「自分でやんなさい!!」
薫は佐之助に怒鳴りつけた。
「まあまあ薫さん……。」
またしても薫をなだめる輝。
「なっ?気楽でいいだろ!?」
佐之助は輝にきいた。
「……そうですね。初めて会ったときに比べて、結構楽です。」
輝の顔に笑みがこぼれた。
「あっ!輝さん初めて笑った。」
「おお!ホントだ!今まで、笑ったことねえからな。」
「え!?」
輝は戸惑った。
「そうなんだ。笑っておかなきゃ、せっかくの綺麗な顔が台無しになるぜ。」
「もう、佐之助ったら。」
輝は思わず照れてしまった。
「「「ハハハハハハ……」」」
3人は笑い声を上げた。
こうして神谷道場での楽しい食卓は過ぎていった。

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