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第28話 由利

美浦の渓谷を後にした剣心組は幸吉の言葉どおり東へと向かい、鎮守の山へとたどり着いた。
「ここの山頂にも社があるわね。」
「とにかく入ってみよう。」
一行は山を登りながら、操られてる者や獣を相手にしながら社へとたどり着いた。
「結構迷ったなぁ。」
「この山は今までのに比べて広いからね。洞窟も複雑になっていたし。」
社の中はいたって普通の社だが、柵が張られている所があった。
「忍者屋敷のアイツが、言ってたのは、ここのことか?」
「地下に通じる道の事ね。」
一行はそれを調べるとその向こうから降りる階段を見つけた。
「本当にあったぜ!」
「行きましょう!」
そして降り立ち、地下通路を抜けると、太陽の光がまぶしい所、すなわち地上へと出たのであった。
「なんなんだここは?」
「鎮守の社には何もいなかった。山にはなにがあるんでしょうか?」
「割符からすれば、ここは麻生の山ですね。」
「んじゃ、登ってみるか。」
一行は山を登る。途中でほら穴見つけたがそれを後にし山頂へとたどり着いた。そこには絵にも描けない程の
綺麗な景色があった。
「うわー!綺麗な場所ね!」
「そうね。」
山の山頂から見る雲にまみれた山々に薫は心奪われていた。
「……由利にはきっと、こんなの見ることすら出来ないほど復讐に燃えているのだろう……。」
達也が呟き出すと全員ハッとして我に帰った。
「そうだった!こんな景色見てる場合はなかったわ!」
「途中にほら穴があったな、そこへ行ってみようぜ。」
一行は山を下り、途中で見つけたほら穴へと向かいそこへ入っていった。
中には座禅をしていた由利がいた。
「!、由利!」
「おまえたち!こんな所まで追いかけてくるとはね。」
由利は鞭を持ち立ち上がった。
「でも……あたしにとっては好都合だよ。松風と千鳥のかたき、今日こそとってやる!」
「南里家に土地を取られて、亡くなられた親御さんかたきも、そうやって討つつもり?」
「えっ?ど、どうして……。」
「幸吉から聞いたわ。だけどどんな理由があっても、沙織さんには関係ないわ。」
輝の言葉に思わず一瞬驚く由利、しかし
「……うるさい!あたしは、この生き方を選んだの。邪魔する奴は殺してやる。
 ごらん、あたしの最終奥義を!!」
「最終奥義だと!?」
由利が両手を広げ強く念じる。するとなんということか、由利が5人になった。
「分身した!?」
「これも幻覚かよっ。」
「わからぬ……が、来るぞッ!」
一行はそれぞれの武器を手に構え出した。

竹刀を手に由利に立ち向かう弥彦であったが、鉄鞭相手にはリーチが違いすぎる為思うように懐に飛び込めないでいる。
「くっ!思うように近寄れねぇ。輝が苦戦するわけだぜ。」
それでもなんとか由利の攻撃をかわしていく。
佐之助も弥彦同様リーチに差があるため攻撃をかわすのが精一杯の様である。
剣心は振るわれる鞭を逆刃刀で次々と切り払っていくが懐には飛び込まないでいる。鞭を警戒しているようだ。
一方達也も刀で鉄鞭を切り払いながら鞭での縛りを意識してか懐に飛び込まないでいる。
輝は前の二人同様刀で鉄鞭を切り払って防御に専念している。
「伊香保の森で戦った時と違うわ。」
「勝手が違うのは当然だ。以前に比べて殺気が鋭くなってる。」
「どうやらこっちも本気でやらねぇとまずいようだ!」
4人は武器を佐之助は拳をグッと握り締めて再び戦い挑む。
弥彦はすばしっこい動きで鞭をかわしながら由利を翻弄していた。
「くっ、子供のクセになんて動きなの。」
「強くなってるのは何も輝だけじゃねぇ、俺だってやるときはやるんだ!」
「子供の分際で、ふざけないで!艶舞・胡蝶嵐!」
「うわっ!と、危ねぇ!!」
鉄鞭の乱れ打ちをなんとか弥彦はかわしたが一発だけ当たってしまった。
「イチチ……やっぱり近寄れないか。」
弥彦は肩を押さえて考え込む。
(近寄れねぇんだったら……ああするしかねぇ!)
するとひらめいたのか再び構え出した。
「何を考えてたのか分からないけど、子供の分際であたしを倒すことは出来ないのよ!」
由利が鞭を振るう、すると弥彦は咄嗟に下がった。すると鞭は竹刀に結びついた。
「今だ!」
鞭が竹刀に結びついた瞬間弥彦は突進し渾身の体当たりを由利にかました。
「!?」
思わぬ戦術に由利は思わず退いた。
「どうだ!」
「……子供の分際で生意気な!!」
由利は再び弥彦に向かって鞭を振るう、咄嗟にかわして竹刀を拾った弥彦は再び構え出した。

佐之助は相変わらず攻撃をかわすので精一杯で近寄れずにいる。
「艶舞・胡蝶嵐!」
「うおっ!?」
一瞬の隙をつかれ佐之助はもろに鞭の乱れ打ちをくらってしまった。
「まだまだぁ!」
「なんてしぶとさなの!?こいつ!」
由利は鉄鞭を振るい佐之助に攻撃を当てている。流石に佐之助はまいったのか攻撃をくらうだけで
反撃の糸口を見つけずにいた。だが佐之助は倒れる気配がない。
「な……なんなのこの男は……!?」
「どうした!てめぇはこれで終わりなのか!?」
「ふ……ふざけないで!」
由利が佐之助に鞭を振るう。しかしなんと佐之助は振るわれた鉄鞭を掴み取った。
「!!」
「へっ、どんなもんだ!」
「まさか……この為にわざと攻撃をくらってたの!?」
「女を殴るのは趣味じゃねぇが、こういうのは仕方ねぇんだ!」
「うっ!!」
佐之助は鞭を思い切り引っ張り由利を引き寄せた後渾身の蹴りが由利に炸裂した。由利は大きく吹き飛んだ。
「くっ!」
由利はゆっくりと立ち上がった。

達也は振るわれる鉄鞭を刀で弾きながら由利に近づいていく。
「何!?」
「悪いけど、本気で行かせて貰うよ!」
由利との間合いが狭まった瞬間
「獅子爪連撃!」
連撃である獅子爪連撃が由利に炸裂しよろめき膝をついた。
「まだよ!まだ!!」
由利が立ち上がると達也は間合いをあけた。

「はぁ!」
由利は鉄鞭を乱雑に振るが剣心にはかすりもせずかわされていく。
「憎しみに身を任せた攻撃が当たるとでも思ってるのでござるか!?」
「おのれ!」
由利の鞭が飛び掛る。しかし剣心はかわし
「飛天御剣流、龍巻閃!」
剣心の技が炸裂し由利は前のめりに倒れこんだ。
「くっ!このぉ!」
苦し紛れに鞭を振るが剣心はそれをかわし間合いをあけた。

一方輝は防戦一方であった。
「艶舞・胡蝶嵐!」
「千手の型!」
鉄鞭と刀が飛び交い激しい剣戟が響き渡っている。
「どうした?あれはどうしたの?」
「あれですって?」
「伊香保の森でみせたあれよ。どうして来ない。」
「決めたのよ!“絶対に阿修羅にならない”って!」
「へぇ〜、あれは阿修羅って言うの。ならそれを発揮できないまま死ぬがいい!」
由利は鞭を乱雑に振り輝を翻弄していく。そして一気に間合いを詰め掌底をぶつけようとする
しかし輝はそれをうまく回避し間合いをあけた。そして輝は大きく飛び上がり
「梵天の型!」
梵天の型を放つ。しかし由利は難なく回避する。しかし輝は追撃する。
「迦楼羅の型!」
攻撃は由利に命中するがよろけない。
「吉祥の型!」
技は決まっているものの由利は怯まず輝に向かって鉄鞭を振るう
(このままじゃこっちがもたない。何かいい方法は…………そうだ!アレをやってみる!)
考え込んだ瞬間輝は何かをひらめいた。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
輝は由利に向かって駆け出した。由利は鉄鞭を振るう。輝は難なくかわしていく。
「ただ突っ込むだけじゃこの前の二の舞よ!」
由利は鉄鞭を振るい輝に巻きつけようとする。しかし鉄鞭は空を切った。
「何っ!?」
輝は攻撃をかわし由利に迫っていた。そして距離が迫ると一人だった輝が3人に増えた。
「なんだこれは!?奴も分身が出来るとでも言うのか!?」
驚く由利、しかし後ろの方にも気配を感じ周囲を見渡すと、なんと8人の輝が由利を囲んでいた。
「ひ……輝さんが8人に……なんなのこれは!?」
戦いを遠くから見ていた薫も驚いていた。
輝の脳裏に、過去のことが蘇る。
(この技は兄さんでも習得が難しかったとされる神爪流体術奥義。
 目にも止まらぬ速さから繰り出すこの攻撃は防御も回避も不可能の技。
 私は、今日をもって兄さんを超える!)
そして他の4人が他の由利と決着をつけたその時
「奥義、自在の型ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
8方向からの攻撃を防ぎようがなく由利はそれをもろにくらい大きく崩れ8人だった輝は一人に戻った。
自在の型は目にも止まらぬ速さからなる8連撃であった。
(……完成した、自在の型が……。)

輝の新技である自在の型が炸裂したのか4つの分身は消え由利は一人になった。
「こ……これでも勝てないなんて……。
 ごめん……松風、千鳥…………。父さん……。」
かなわぬ思いを口に由利は倒れこんだ。
輝は刀を鞘に納めた後由利の側により、彼女に手を差し伸べた。
「あんた……?」
「もう終わりにしましょう。憎しみからは何も生まれない、無情が残るだけよ。
 私だってあなたが憎いと最初思った。だけど、それで戦って勝ったとしても死んだ者は戻ってこない。
 私の家族もきっと、そう思っているわ。だから……もう争うのはやめましょう、由利。」
「…………。」
由利は唖然としているのか輝の手をとり立ち上がった。
「そなたの無念も分かる。しかし輝殿の言う通り、かたき討ちを終えても、何も残らぬよ。」
「だ、だけど……。」
二人の言葉に動揺し由利は気持ちが収まらないのか躊躇している。
「親御さんだって、あなたが幸せに暮らすことを望んでいると思うわ。」
「沙織さんの誘拐の件、水に流してやるから、そんな顔しないで下さい……。」
「…………………………。」
「ウジウジしてんなよ。俺たちゃ、元十勇士だろうが気にしねえ。
 やり直す気なら、手伝ってやるぜ。」
「ケッ、ガキがえらそうに。」
「ンだとォ!やるか、コラァ!」
佐之助の一言に頭きたのか弥彦が佐之助に突っかかってきた。
「ちょっと二人とも……」
「やめるでござるよ。」
輝と剣心が佐之助と弥彦の喧嘩の仲裁に入る。すると……
「クス……おかしなヤツら。」
由利は思わずその光景に思わず微笑した。その様子を感じた剣心は由利のほうを見る。
「……やっと笑ったでござるな。」
「えっ。」
「私達と、いっしょに行きましょうよ。しばらくはうちの道場に泊まればいいわ。」
薫の言葉に温かみを感じた由利は
「……ありがとう。あたしの割符を渡すよ。そして、自由になる。
 ……あんた、名前は?」
輝のほうを向いて由利は言った。
「神崎輝よ。分かってくれてありがとう、由利。」
「…………輝か……覚えておくわ。」
由利は歩き出しほら穴を出ようとした……その時。

由利の後ろから突然唸り声が聞こえた。振り向くとそこにはなんと龍がいた。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
由利は龍の吐いた炎によって火だるまと化してしまった。
「由利!!」
「由利さん!!」
「あーーーー……っ」
完全に黒コゲになり由利だったものは灰と化してしまった。
「今の龍は一体……!」
達也が辺りを見回すが何もいなかった。その代わり、洞窟の入り口から
忍び装束の男と女と見間違うほどの容姿を持った美男子が現れた。
「……てめえら、誰なんでえ!」
佐之助が二人に向かって怒鳴った。
「今十勇士の才蔵(さいぞう)……こちらは望月(もちづき)。
 ああ、そちらの自己紹介は結構。
 君達とは、仲良くできそうにないのでね。」
美男子が言った。
「てやんでえ!こっちから願い下げだ!」
弥彦が二人に向かって怒鳴った。
「なんで由利さんを殺したのっ!?」
「君達のせいですよ。あの女から、闘争心をなくしたら、単なるお荷物でしかない。」
「……それがさっきの理由だと?」
「そうなりますね。」
才蔵の冷酷な言葉にいらつきだした達也は刀の柄を握り締め震えている。そして
「ふざけるな!そんなのが理由になるか!」
才蔵に向かって怒鳴った。
「今十勇士になった以上、多少の血は、由利も覚悟したはず。
 逃げ出せば、君達に倒された仲間に申し訳が立たないでしょう。
 先だって逃げ出した幸吉達も、すぐに見つけてやりますよ。」
「貴様!(てめえ!)」
達也と佐之助の怒りが爆発し才蔵に飛び掛ろうとしていた。しかしその瞬間
「!!」
二人の眼の前に龍が現れそれが二人に向かって炎を吐き出した。
「うわっ!」
「うおっ!?」
達也はなんとか回避する。佐之助も回避するものの火傷を負ってしまった。
「佐之!達也!」
「佐之助っ!達也さんっ!」
「この龍神は、筧の幻覚などとは違います。命が惜しければ、逃げ出すことですね。
 一回だけ……見逃してあげますよ。」
「ふざけるないで!誰が逃げるものですか!!」
輝は怒りを込めて梵天の型を放つ、しかしかまいたちは才蔵が出した龍によって遮られた。
それと同時に輝に向かって龍が炎を吐き出した。
「くっ!」
なんとか炎を回避したが輝もまた軽い火傷を負った。
「神爪の民は命知らずが多いんですかね?死に向かって行こうとは……」
「…………っ!」
「それでも行こうだなんて考えないことです。……死にたくなければね。」
才蔵と望月は洞窟を抜け去っていった。
「待ちやがれ!」
「や……めねえかっ。」
二人を追いかけようとする弥彦を佐之助が止めた。
「佐之助、ひどい火傷じゃない!」
「おお……あの龍のヤロウの炎をまともにくらっちまったからな。
 ただの幻覚じゃねぇ。あの優男が、でけえ口叩くだけのことはあるぜ……。」
「達也さんは?」
「なんとかかわしたが、一歩間違っていれば由利と同じ目にあっていた。」
「輝さんは?」
「たいしたことはないけど、冗談なしに熱かったわ。」
「まさか、幻覚じゃないってのか!?」
「まさかでござるよ。単なる幻覚に決まっているでござる。
 きっと、何かカラクリがあるのでござろう。」
場をなだめるように剣心が言った。
「そ、そうよね。でも、これからどうするの?」
「由利が割符のことを言ってたぜ。ここのどこかにあるんじゃねえのか?」
「いい気分じゃねえが、しかたねえな。探してみるか。」
薫、弥彦、佐之助は割符を探すため辺りを調べ出した。しかし輝と達也は剣心のほうへと向かった。
「剣心、もしかしたら……」
「輝殿、達也……、気づいていたのでござるか。
 強力な幻覚や催眠は、かけられた者に多大な影響を及ぼす。
 輝殿と佐之の火傷も、龍の炎を本物と錯覚したためであろう。火傷したと思い込んでしまったのでござるよ。
 裏を返せば、それだけ強力な幻覚だということ。あれと戦い、牙で貫かれればおそらく血さえ流れ出るでござろう……。
 しかし、みんなには、このことは秘密でござるよ。無用の心配は、かけたくないでござるからな。」
「分かったわ。私もみんなに心配かけたくないから……。」
「うん。」
輝と達也は頷いた。
「ありがとう。」
剣心は笑顔で言った。
「見つけたぜ!」
弥彦の声が響いた。そして一行は麻生の山を後にした。
その後これまでの割符とあわせると横浜の図が現れ、一行は横浜へと向かうことにしたのであった。
が、輝の目からは涙がこぼれていた。
「輝…………。」
「……せっかく分かり合えたのに……こんなことになるなんて……。
 才蔵、あなたは決して許せない!」
輝は拳をグッと握り締めた。


あとがき
前話に引き続き戦闘シーン短めでごめんなさい。久々に書いたものですからどうしていいかわからず
結局はこのような形になってしまいました。m_ _m
由利は今まで出てきた敵より手強い設定なんですけど、あっというまに倒されちゃいました。
輝達がそれ以上に強くなったと受け取って下さい。m_ _m

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