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第27話 幸吉の意図

日光を後にし一行は割符に描かれている美浦の渓谷へと旅立った。
果たしてそこには何が待ち構えているのか、そして幸吉の意図は輝達に何を示すのであろうか。
そんなことを思いつつも一行は歩き続けている。
「輝殿、拙者達が美浦の渓谷へ向かう理由は分かっておるな?」
「幸吉って人の意図を見出すためよね?」
「昨日『今十勇士を追い詰めるぞ!』なんて言ってたけどな。」
「弥彦!!」
輝は怖い顔して弥彦を睨んだ。それをみて弥彦は思わず固まった。
「私だって時には勘違いくらいするわよ!いい加減にからかわないで!」
「……分かってるよ。ごめんごめん。」

一行が獣や操れられてる人を倒しながら進むと崖に当たった。隣には水が轟々と滝となって流れている。
「行き止まりか?」
「いや、下を見て下さい。」
達也が言ったように5人が崖の下を眺めるとそこには大きな足場があった。
「この足場……日光にあったのと同じね。」
一行は足場へ降りるとその隣には穴が空いていた。そこへ入ると奥には2階建ての屋敷があった。
「なんだこの屋敷は?」
屋敷に戸惑いながらも一行は中へと入っていった。
「古い屋敷だなぁ……」
佐之助がつぶやき歩き続けていたその時
「!?」
足が突然宙をかき出した。要するに
「うわぁぁぁ!!」
一行は穴へと落ちてしまったのである。
「いたたたた……」
「なんでこんな仕掛けがあるんだよ……忍者屋敷かここは!?」
「それよりも佐之助どいて、重い……。」
「あっ!すまねぇ!」
佐之助は輝を下敷きにしていたため慌てて降り出した。輝は立ち上がると装束をはたきだした。
「落とし穴なんて冗談きついぜまったく……どうすんだよこりゃ。」
佐之助が上を見上げると先程の穴が塞がっていた。
「いや、ここには何故か階段があります。」
「何処に?」
「あれです。」
達也が指差した方には確かに上へと繋がる階段があった。佐之助は思わず眼が点になった。
「…………なんで落とし穴の下に上へと繋がる階段があるんだ?」
「なんの為の落とし穴だこれは……」
弥彦も呆れてため息をついた。
「ところで、剣心と薫は?」
「そういえばそうだな……」
4人が辺りを見渡そうとすると……
「……ここでござる。」
階段とは向かい側のほうから弱々しく剣心の声がした。4人が振り向くと、なんと剣心は薫の下敷きになっていた。
「け……剣心!?」
「おろ〜〜〜〜〜〜、こんなことになるとは予想外でござった……。」
「大丈夫剣心?」
剣心の上に乗ったまま薫は謝った。
薫の下敷きになっている剣心を見て佐之助と弥彦は思わず顔がにやけ出した。それを見た輝と達也は
何のことか分からないので二人に聞き出した。
「どうしたの?」
「あれを見ろよ……予想図かもしれないぜ。」
堪える二人であったが結局堪えきれず笑い出す。
「だははははははははっは!!」
笑い転げる佐之助と弥彦、しかし数秒後。思わぬ殺気を感じて二人の笑い声が止まった。薫が二人を強く睨み出したのである。
「あっ……」
悪寒を感じた二人は慌て出した。
「な……なあ、そろそろ剣心の上から降りたほうがいいんじゃねえか薫?」
「そ……そうだぜ、剣心だって目ぇ回してるし……」
薫は二人の言葉にハッとして剣心の上から慌てて降りた。
「ご、ごめんね剣心。」
「いや、薫殿が無事で何よりでござるよ……。」
弱々しい声で剣心は言った。

再び一行は敵を倒しながら進み、途中で穴に落ちながらも屋敷の仕掛けを把握するようになった。
「ここがこうなって……このレバーが落とし穴の起動を抑えて……」
「だーーーーーーもう!分かんなくなっちまった!!とっとと用を済ませて出ようぜ!
 もううんざりだ!」
「佐之助はこういうの苦手なんだよね。」
輝の微笑に佐之助は頭を抱えた。

そして一行は屋敷2階の奥の大きな部屋にたどり着いた。
「着いたのはいいが、誰もいねぇし何にもねぇな。」
「おかしいわね……私達以外の気配は感じるんだけど。」
「もうこんなのに付き合ってられねぇからとっとと出ようぜ!」
佐之助が部屋を出ようとしたその時、バタン!という大きな音を立てて戸が通路を塞いだ。
「なっ!?」
突然の出来事に佐之助は思わず驚いた。
「チクショー、出せっ!!」
弥彦は戸を叩いたり蹴ったりしたがまったくびくともしない。佐之助も懸命に押したり引いたりするが戸はびくともしない。
「閉じ込められたってのか!?」
「ここから出たくば、私達を倒してからにしなさい!」
女性の声がすると一行は声の方向、すなわち部屋の奥のほうへを目を向けた。
そこには紫色の髪をし、その髪を束ねている麗しい女忍者と若い青年忍者がいた。
「一人は確か確か雷太とか言ってたな?あの女は一体?」
「わたくしはくノ一紫乃(しの)。この部屋はわたくしと雷太を倒すまで開きはしない。」
「もっともらしい言い方だな。ここは私が相手をする。」
達也は前に出て刀を抜いた後構えた。

まず始めに雷太が達也に向かって突っ込んでいき刀を振り回す。
しかし彼は苦もなくひょいひょいとかわしていく。そして
「獅子猛襲撃!」
技が炸裂し雷太は大きく吹き飛び倒れこんだ。
「雷太!……結構やるのね。」
「そこいらの警官と一緒にしないで欲しいね。」
柴乃も刀を抜き構え出した。ジリジリと狭めお互いに出方を待っている。
まず始めに達也が飛び出し刀を振った。柴乃はそれを受け止め再度の攻撃も防いだ。
激しい鍔迫り合いとなるが力の差で柴乃は達也から距離を置いた。
「桜花散撃!」
柴乃の乱撃が達也に襲い掛かる。
「獅子爪連撃!」
達也も乱撃で対抗する。最初は斬激の音が響き出したが、しばらくするとドッという鈍い音が響いた。
達也の刀が柴乃の左肩に直撃したのである。乱撃の早さは達也のほうが上であった。
「くっ!」
「どうした、貴様の実力はそんな程度なのか!?」
達也は柴乃を挑発する。柴乃は立ち上がると再び構え出した。
「まだよ!これぐらい!!」
柴乃はくないを投げた。達也はそれを切り払た。そして柴乃は今度は沢山のくないを投げた。
達也はそれらを切り払う。切り払ったものの柴乃との距離は縮んでいた。くないに注意を引かせ距離を詰めるためであった。
達也は刀を受け止め鍔迫り合いに入った。そして互いに距離を置いた。すると達也は構えたまま動かなくなった。
(微動だにしない?何かあるんでしょうけどそうはいかないわ。)
柴乃が構えて達也に向かって突っ込みだした。
「梓后蜂(しごうばち)!」
柴乃は技を放ち達也に襲い掛かる。しかし達也はそれをかわし
「何!?」
柴乃がそう思った瞬間
「獅子反襲撃(ししはんしゅうげき)!」
達也の刀が命中し柴乃は大きく吹き飛んだ。そして達也は隙を与えずそのまま飛び込む。……しかし
「そこまで!」
突然達也の前に若い青年忍者とその後ろに大猿が現れた。青年は達也に向けて刀を振る。
達也は攻撃を受け止めた後二人から距離を置いた。
「なんだ、てめえ。」
「それ以上の手出しは許さぬ!」
といっていきなり青年の忍者が襲い掛かってきた。達也は咄嗟に刀を受け止め流した。
青年忍者は間合いをとるため一旦後ろへと跳んだ。
「達也、大丈夫?」
達也の身を案じて輝がよってきた。
「大丈夫だ、まだやれる。」
「よかった。でもこいつらは私に任せてくれない?達也が強いのは知ってるけど
 あいつに対しては何故か私がやらなくちゃいけない、そんな気がしたの。」
「………………分かった。その代わり……」
「決して阿修羅になるな!でしょ?分かってるわ。阿修羅じゃなくても、私だって強いんだから!」
輝の真剣な目つきに達也は了解した。そして輝は刀を抜いて構えた。
そして飛び出して刀を振るう攻撃は青年忍者の刀に受け止められるが輝はまたしても攻撃する。
そして鍔迫り合いへと発展した。力の差は互角である。
「なかなかやるな。だが阿修羅になったほうが強いかもな。」
「私は阿修羅にならずとも強いって、言ってるでしょ!」
「!?」
鍔迫り合いの最中に輝はわざと刀を引いて青年忍者の体制が崩れた隙に蹴りを放った。青年忍者は蹴りを受け止め
距離を置くと技の構えに入った。
「鬼斬り刃!」
しかし技は輝が大きく跳躍しかわした。
「迦楼羅の型!」
輝の技が炸裂し青年忍者は体制を崩した。しかし倒れる気配はない。
青年忍者は輝に向けて刀を振るいだし彼女を追い詰めようとするが当の本人は余裕の表情であった。
(私は阿修羅にはもうならない!みんながいるからここまで来れた。そしてこれから先にも進んでみせる!)
決意を露にし輝は一瞬の隙を突いて技を放つ
「吉祥の型!」
「ぬおっ!?」
技が命中し青年忍者は大きく吹き飛んだ。続いて大猿が襲ってくるが難なく攻撃をかわし峰で思い切りお腹を打った。
大猿も同様に吹き飛び戦闘は輝の勝利であった。
「なんか輝……さっきより強くなってねえか?」
「輝殿の気持ちにけじめがついたからでござろう。達也と何を話してたかは知らぬがな。」
佐之助の問いに剣心はすんなりと答えた。
「勝負あったわね。」
「うう……や、やるな。」
「最初に言ったでしょ?阿修羅にならずとも強いって。」
「しかし……その力は何のためだ。おぬしらは、何のために戦う?」
「!?」
「え……えっ?」
青年忍者の思わぬ質問に輝と薫は戸惑った。
「なぜ、我ら十勇士と敵対するのだ。我らを悪だと、見極めてのことか?
 実際に、南里家の悪事を知り、何故ヤツの味方をする。」
「別に南里の味方をしてるわけじゃない。会ったこともないし。
 だが、お前らがやってることは正義なんかではない!」
達也が答えた。しかし青年忍者は再び話しかける。
「我らはただ、我らが元住んでいた世界を取り戻したいだけだ。」
「元住んでた世界だと?」
「我らは忍びの者。
 闇の中に潜みつつも確実にこの国のあり方に影響を及ぼしてきた。
 だが、明治の世になった途端だ。権力者達は、まるで我らを汚物の様に見下し、切り捨てようとした……。
 隠れ里は襲撃され、女や子供が大勢死んだ。雷太は、その時の生き残りよ……。我らは明治の世を憎んだ。
 我らの住みかを焼き、追い立てた者どもを憎んだ。そして、我らの築いた平和の上であぐらをかく無知な民どもを
 憎んだのだ。」
「……今十勇士とは、追い詰められた忍者の集まりなのでござるか。」
「むろん、違う。
 南里家の備忘録を見ただろう。土地を奪われ自殺したのは、由利の父親だ。」
「あの高飛車女の!?」
「……やはりそうか。」
達也は頷いた。
「達也、知ってたのか!?」
「何となくそんな気がしただけだ。あの時彼女から、そのような殺意を感じた。」
「幕末に活躍した志士もいる。
 廃仏毀釈がきっかけで、放浪をはじめた僧侶どももいる。我らは皆、この明治の世にはじき出された半端者よ。」
「それが……今十勇士。」
「それでも悪いことよ。私だってなんの躊躇もなしに里を焼き払われ、家族を失ったんだから!」
輝は青年忍者に向けて言った。
「おまえは……神爪の者か。そうか、お前たちの里は、先走った由利達に燃やされたのだったな。
 怒るのも無理はない。」
「怒ってるんじゃない。世に捨てられたあなた達に同情したのよ。」
「ほう、怒らない……というのか。
 同情までされて、恨まれて当然のお前から、そんな言葉を聞くとはな。心にこたえたぞ……。」
輝達は青年忍者らの顔を見てしばらく沈黙する。……そしてしばらく経過すると青年忍者は柴乃達の方を向き口を開けた。
「我らはただ、我らが住んでいた世界を取り戻したかった。
 我らと同じような境遇の者を、増やしたかったわけではない。
 それなのに、いつのまにか憎しみにせき立たれ、戦いに明け暮れていたのだ……。
 今こそ我らは、ここを去ろうぞ。」
「本当かよ。」
「ああ、ここまでバラバラになって、十勇士でもあるまい。恨み辛みを忘れて、静かに生きよう……。」
「わたくし達も、ついてまいります。ねえ、雷太。」
「アイ!」
柴乃の言葉に雷太は答えた。
「そうか……ありがとう。では、旅立つ前に元の姿に戻ろうか。」
「元の姿?」
達也が疑問に思ったその時、青年忍者に煙が立ちそれが晴れると、青年は年老いた老人へと変わった。
青年忍者の招待は伊香保の森で会った老人、幸吉であった。
「あっ!あんたは……。」
「バッ、化けた!?」
信じられない出来事に薫は驚いた。
「失礼な事をいうな。これも忍術じゃよ。」
「でも、気持ちわりい……。」
「まあ、いいじゃろう。それより、覚えておくのだな。残っている十勇士は、純粋な怒りと
 恨みで凝り固まっている。特に、首領の真田様を敵に回せば、鬼神を相手取るようなものじゃろう。」
「へん!んなもん、怖かねえよ。」
佐之助が胸を張って答えた。
「そうか……。それならば東に行け。鎮守の社に、地下へ通じる道がある。
 では、神爪の里の民よ。無事を祈るぞ。」
煙が立ち上がりそれが晴れると幸吉達は消えていた。
「……ありがとう。」
思わず輝は礼を言った。

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