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第24話 日光のワガママお嬢様

新しい仲間である達也を加えた剣心組は改めて日光にたどり着いた。
「この日光は温泉の他にもう一つ有名なものがあるんです。
 あそこに大きな屋敷がありますよね?」
達也が指差した先には煉瓦造りの大きな屋敷があった。
「あそこがどうかしたの?」
「あそこは日光では知らない人はいないという有名な商人、南里(みなみさと)さんの屋敷です。
 もっとも、主人と婦人は普段は貿易などで屋敷にはいらっしゃらない時が多いんですがね。」
「ほとんどいないって……娘さんをほったらかしにして大丈夫なの!?」
「令嬢の沙織(さおり)さんは輝さんぐらいの年齢ですからある程度やってのけてるんですが
 やはり家事とかは殆どお手伝い任せですね。」
「そりゃあ、金持ちの嬢ちゃんなんだから仕方ねぇんじゃねーか?
 ま、庶民なのに家事が下手などっかの誰かさんの方がマシだけどな。」
「どういう意味よそれ!?」
薫は頬を膨らませて佐之助を睨んだ。
そこへ空かさず剣心が仲裁に入り、輝が佐之助に注意する。
「まあまあ薫殿。」
「佐之助、失礼なこと言っちゃ駄目でしょ?
 確かに薫さんの料理はメチャクチャ不味いけど、家事全部が駄目って訳じゃないでしょ?」
「輝殿、フォローになってはござらんよ。」
剣心が冷や汗を掻いて輝に突っ込みを入れた。
「まあ、普段は拙者や輝殿に家事全般を任せてる薫殿ではあるが、もしもの時はちゃんと出来るでござろう?」
「そうね。」
いつもの表情に戻る薫………………しかし。
「両手ボロボロにしちまうけどな。その割にひでぇし。」
「むぅ〜〜!」
佐之助の一言に薫は再び頬を膨らませて怒り出した。
「ハイ!家事に関する話はここでおしまい!妖しいことがあったかどうか情報を集めましょう!」
輝が両手を叩いてみんなに注目させ話を切り上げ出した。
(うまくはぐらかしたな)
弥彦がそうつぶやくがそれを尻目に一行は調査の為散開した。


「あら、達也さん。」
情報を行なおうとした達也に突然女性が声をかけた。それに対し達也は女性の方へと向いた
「ここに来るなんて珍しいわね、また沙織ちゃんのことで来たのかい?」
「それもありますが、何かおかしな事はないかと思いましてこの町にやって来ました。
 なにかありませんか?」
「近頃、この町にも暴漢が増えてねえ。それでいてとっ捕まえると、記憶がないなんていうんだよ。
 以前沙織ちゃんに襲い掛かってきた暴漢も、そんなことするような根拠はないって言ってたのよ。ふざけてるよね。」
「ふ〜〜む……。」
達也は腕を組んで考え出した。
これは明らかに今十勇士が人を操って事を起こしてあることは間違いない。剣心達の言う通りだと察した。
だがこんなことを言っても市民はもちろん警察や政府も信じてくれない。ということも察していた。
「とりあえず本官は、取調べをしたここの警察署に問い合わせます。情報ありがとうございました。」
達也は敬礼してその場を後にした。

しばらくして6人は広場に集まりこれまで集めた情報の交換を行なった。
「やはりこの町にも十勇士の手が伸びてるんだな。」
「流石に十勇士に関する情報はなかったけどね。」
「警察の取り調べでも、男は綺麗な女に会ってからそれ以降は全然記憶にないと言ってたし。」
「茜達ね。そう言えば今頃何処でなにやってるのかしら?」
「どうせあのガキ、ロクなことやってねえから考えるだけムダだぜ。」
「佐之助の言う通りだな。根津を見捨てたあいつらはどうせ何も出来ねえぜ。」
「とりあえず、南里家へ向かいましょう。何か情報があるかもしれまんし。」
「うん。」
そして一行は南里の屋敷へと向かった。


門にたどり着いた矢先、突然男が吹っ飛んで一行の目の前から現れた。
「この俺がいる限り、南里家には手出しさせん!帰れ!帰れ!」
そして声がしたかと思いきや、刀を差した無精ヒゲの中年が先程の男を問い詰めていた。
吹き飛ばされた男は立ち上がると何も言わずに中年に殴りかかった。しかし中年はそれを避ける。
「えーい、しつこいわ!この、コソ泥め!!」
中年は攻撃の合間を縫って男に蹴りを放った。蹴りを喰らった男は吹き飛んでバタリと倒れこんだ。
「ふん、まいったか!」
「高瀬!高瀬、終わったの!?」
中年が踏ん反り返った所で屋敷から少女の声が聞こえだした。
その後屋敷からは輝とは年端も行かない健気な少女が屋敷から出て来た。
「おお、沙織お嬢さん。ごらんの様に、怪しいヤツは倒しましたよ。」
「当たり前じゃないの。あんたはその為に雇われてるんだから。」
「まったく、仰せの通りですな。
 獅堂さんだったらこんな奴、数秒で終わらせてたんでしょうけどね……。」
「高瀬さん、私が用心棒でないのがそんなに不満なんですか!?」
いきなり達也が高瀬と呼んでいる中年の男に意気揚々と話しかけてきた。
「!?、獅堂さん!!」
「達也さん!!」
達也の声に気づいて振り向き出した中年と少女は達也の姿を見て驚きだした。
「いつからこの日光に!?」
「今日から。」
「それで、それで?今日は何しに……」
「いつも通り仕事で……。」
などと和気あいあいと話している最中に弥彦が竹刀で達也の肩をつついた。
「なぁ、俺達を忘れてねえか?」
「いや、忘れてはいないが……なかなか腰折が……。」
「?、獅堂さん、その方々は?」
「ああ、彼らは旅の途中で知り合ったんです。」
「ほほぅ……。」
「ねぇ、屋敷に入りましょうよ?」
「……そうですね。ここで話すのは難です。獅堂さんのお知り合いもどうぞ……。」
と沙織と呼ばれる少女と高瀬と呼ばれる中年に連れられ一行は屋敷へと入っていった。

屋敷に案内された剣心組はそこで高瀬と会話をしていた。
「しかしまあ、獅堂さんがまたここに来られるとは思いませんでした。」
「いやぁ、今関わっている仕事のせいですよ。」
「達也、こいつとは知り合いなのか?」
弥彦が達也のほうを向いて聞き出した。
「一ヶ月前に知り会いまして、一旦手合わせをしたことがあるんです。
 もちろん私の圧勝で好けどね。ハハハ……」
達也は苦笑いをした。
「そんなことよりも、ここには一体……」
「イヤだったら!イヤだ!!」
高瀬が何かと出だそうとしたその時沙織の喚き声が聞こえだした。
その後屋敷の二階を駆け回る沙織とそれを追いかける執事がいた。
「ワガママを言ってはなりません!!」
執事もしつこく追いかけていき、沙織が階段を駆け下りようとすると
「キャッ!?」
沙織が階段から足を踏み外してしまった。このままでは怪我は免れない。
「沙織お嬢様!?」
危ないと感じた輝が咄嗟に駆け出し落ちる寸前の沙織を無事受け止めた。
「!?」
沙織は何がなんだか分からず唖然とした顔をした。
まさかさっきまで1階にいた人間が一瞬にして2階から落ちそうになった自分を咄嗟に救ったからだ。
これには高瀬と執事も唖然とする。
「大丈夫?」
輝に声をかけられた沙織は唖然としたまま為答えられずにいる。
「おおっ、お嬢様!無事で何よりです。」
「どうしたのですか?」
「お嬢様が嫌がっているのです。」
「私は可愛い小物やリボンを買いにお出かけしたいだけなの!」
「沙織お嬢様、だから高瀬様が……」
「高瀬の様なゴツイおじさんとは行くようなお店じゃないのよ!」
沙織が怒鳴りあげたあと輝はすぐさま彼女から手を離した。
「お一人ではダメです。なにせ怪しい者がお嬢様を狙っております。
 名は確かなんとか十勇士とか、ふざけた名前の奴らに……」
(十勇士!?)
高瀬の言葉を聞いて輝は引き締まった顔をした。しかし南里家の者達はそれに気づいていない。
「いやったらいや!高瀬の顔なんて、見たくないの!」
「なら、獅堂さんと一緒ならどうですか?」
「達也さんなら?……良いわよ。カッコイイし小物屋さんに言っても違和感ないわ。
 私、達也さんと一緒に買い物に行く。」
「しかし、達也さんは仕事中では?」
「いえ、構いませんよ。」
「そうですか。では、獅堂さんお嬢様のことは……」
「待つでござる。」
高瀬の言葉を剣心が遮った。
「確かに達也は腕がたつが、一人では危険でござる。」
「確かにそうですね。相手によっては私でもやられることもある……。」
達也は思わず頷いた。
「で、どうするんだ?」
「俺達も一緒に行くってのはどうだ?」
「うむ、十勇士が絡んでくるとあらば達也だけでは不安でござるからな。」
佐之助が提案に剣心は頷いた。しかしその後南里家の者達及び高瀬が剣心達に疑いの眼をする。
「なんだよ一体?」
佐之助は思わず退いた。
「彼らが私をだまし討ちするかもしれない……そう思われるのですね。高瀬さん。」
達也は高瀬のほうを向いて言った。
「ひどい!そんなことないのに!」
と沙織が喚き出した。
「しかしお嬢様、獅堂さんの言うとおりですよ!?」
「私を助けてくれたこの子の目を良く見てよ。澄んだ綺麗な目をしているわ。
 悪い人じゃないわよ。」
沙織は輝に指を指した。彼女の言うとおり輝の目は澄んでいる。
しかし、者達は納得する気配もない。
「…………………。」
「じゃあ、誰か一人を人質に置いていけばどうかしら?仲間が人質になっていれば手を出すことが出来ないわよ。
 えーと。」
沙織は剣心組の前を良く見て回った。そして
「そこのハチマキのっぽの男の人を置いていくわ。」
沙織が指差したのは佐之助であった。
「ハチマキのっぽったあ、俺のことか!?」
「ね、いいでしょう?」
佐之助が唖然とするなか話が進んでいく。一方剣心組は……。
「佐之助だけ置いてって大丈夫なのか?」
「どうして?」
「だって佐之助の場合は人質としての価値がないと思うんだけど……。」
「何故でござるか?」
「見張りとかぶっ飛ばして脱走とか……。」
「ぷくくく……ありそう。」
ヒソヒソ話をしているのか南里家の者達には聞こえてない。
弥彦の笑いを聞いたのか佐之助は渋い顔をしている。
「なら、それのなだめ役に薫さんも置いていくのはどう?」
「そんなこと……」
「良いわよ。」
「薫さん(殿)!?」
薫の返事に4人は驚いた。
「薫さんなんでそんなことを……?」
「だって、佐之助をなだめられるのはこの中で輝さんと剣心と私しかいないのよ。」
この一言で剣心は
「仕方がないあの娘ごがキレる前にそうするしかなさそうだ。
 すまんな薫殿。」
仕方なく薫の意見を取り入れるのであった。
「チッ……勝手なヤツらだぜ。」
ちょうどヒソヒソ話が終わったところで佐之助がそっぽ向いた。
「この娘ごが、本当に十勇士に狙われているのなら……仕方がないでござろう。
 こらえてくれ、佐之。」
剣心は佐之助をなだめる。
「わかってらあ!」
「薫さん佐之助のこと頼みます。」
「分かったわ。」
「嬢ちゃんも残るのか!?」
佐之助は驚いた。
「だって、佐之助をなだめないと高瀬さんとかを殴り飛ばしてから追ってきそうだから
 その為に薫さんを置いていくことにしたの。」
「なるほど……人質が増えれば余計手出しできないって事ね。頭いい〜。」
沙織は明るい顔つきになった。
「じゃあ、行きましょう。」
そして一行は屋敷に薫と佐之助を置いて外に出たのであった。
(暴れねぇのに……)
(い〜や、もしこの人達が悪人だったらあんた絶対暴れてるって!)


外に出た4人は沙織と会話しながら小間物屋へと向かって行く。
特に沙織は、輝に声をかけていた。
「ねぇ、さっきのはどうやって来たの?」
「さっきのって?」
「落ちそうになった私を瞬時に助けたことよ。どうやっての?」
沙織は興味津々な顔をして輝に聞いてきた。しかし当の本人は困っている。
鍛えていると答えても、どのぐらいでそうなるのかという問いが返り、その答えはとても普通の人にはわかりづらく
厳しいもので普通の人には理解しづらいものである。
「沙織さん、輝さんにも答えられないことがありますから、あまり輝さんを困らせるんじゃありません。
 それに難しい質問なんかされますと、せっかくの買い物が楽しくなくなります。」
輝をフォローするかのように達也が沙織に声をかけた。すると
「はーい。分かりました。」
理解したのか達也の言う通りに笑顔で黙り込んだ。
(ありがとう達也さん。)
輝が小声で達也に言った。当の本人は頷いて返事をした。
(あの高瀬って言う用心棒や執事に対しては反感してるのに、なんで達也の言うことは聞くんだ?)
(きっと達也が言い聞かせたのでござろう。といっても、家の者などにはワガママなのは彼女の心境でござろう。)
(ま、金持ち商人の娘だからしょうがねぇな……。)
「あっ、見えてきましたよ。小間物屋さんが」
弥彦と剣心が小声で話した後達也が指を前に出して言った。指差した方向には小間物屋があった。
それを見た沙織がそこへ駆け込もうとしたその時
「!、待って!!」
輝が大声を上げると沙織は驚き思わず立ち止まる。
「どうしたんだ輝!?」
「気配を感じるわ!あそこの屋根からよ!」
輝が指差した先は小間物屋の屋根である。
「隠れても無駄よ!どんな理由があるのか知らないけど、出て来なさい!」
屋根にいる影に向かって輝が怒鳴ると影は屋根から飛び降りてきた。
その正体は女と見間違うほどの容姿を持った男二人で、一人は緑の髪の長髪で髪を後ろにまとめており
もう一人は朱色でポニーテールの男である。持っている武器がそれぞれカタールと扇の様な剣からして
読んでた方はご存知であるが松風と千鳥である。
そしてただならぬ雰囲気に周りの人たちは逃げ出した。
「お前たち今十勇士だな!何が目的だ!?」
「……答える必要はない。」
松風は輝達に武器を差し向けた。
「話す気なしね、弥彦と達也さんは沙織さんの護衛を!」
「おう!」
「二人とも気をつけて!」
達也と弥彦は沙織の前後に立ち、輝と剣心は武器を取って構えた。

松風はまず剣心に襲い掛かってきた。カタールを振り回し攻撃してくるが剣心はそれをかわしている。
一方千鳥は輝に向かって剣を降り回している。剣心同様輝もかわしていく。
そして二人の反撃に合わせ剣を受け止める。激しい鍔迫り合いが行なわれている。
「なんなのあれ?」
「前に出ないで下さい。奴らは恐らく沙織さんの命を狙うものです。」
沙織は戦いの様子を見て達也たちの後ろで怯えている。
(しかし、こんなかよわいお嬢さんの命を狙うような酔狂な集団じゃないと思うぜ。)
弥彦が小声で達也に言った。
(考えてみればそうだな。動機は分からないが奴らを逮捕すれば全て分かる。今は二人を信じよう。)
二人は剣心と輝の戦いを再び見つめる。
「旋輪斬!」
松風が横に回転しながらカタールで切りつける技を剣心に向けて放たれた。
剣心は後退していくが松風は構わず迫ってくる。横に避けても松風は剣心に向かって迫ってきた。
「逃げるのがダメなら……」
剣心は逆刃刀を地面に突きたて思い切り振り上げた。
「土龍閃!」
「うわっ!!」
振り上げからくる衝撃波に松風は思い切り吹き飛んだ。

一方千鳥と鍔迫り合いをしている輝は一進一退のまま交戦している。
(!?、なんだこの感覚は……何かに似ている……)
千鳥は輝との鍔迫り合いにて妙な感覚を覚えた。しかし輝はそんなこと千鳥を尻目に刀を振り回した。
千鳥は攻撃をかわし事なきを得る。
「何躊躇してたの?」
「躊躇などしていない!転輪斬!」
千鳥が剣に結ばれている紐を使い遠心力を生かした振り回しで輝に襲い掛かってきた。輝は後退してかわすも
千鳥は迫ってくる。
「間合いを開けての攻撃なら私だって出来るわ!梵天の型!」
「!?」
千鳥も輝の技によって大きく吹き飛んだ。
「さっすが!相変わらずつえぇな、あの2人。」
「聞いた話以上の強さだな。さてと、2人にはおとなしくお縄についてもらおうか。」
2人の強さに感心する達也は松風と千鳥を捕らえるため手錠を手にしようとしたその時
「ウキッ。」
猿の鳴き声が後方から聞こえてきた。3人は鳴き声に反応して振り向いた。
そこには普通の猿の倍くらいの大きさはある大猿がいた。猿は宙返りをしている。
「お猿さん?」
「なんでこんなところに?猿山から降りてきたのか?」
唖然とする3人、しかし達也は何かを感じて表情を引き締めた。
「!、危ない!!」
「えっ?……!」
なんと猿が3人に襲い掛かってきた!達也は沙織を抱え、弥彦はそのまま咄嗟に回避した。
すると猿は今度は戦っている最中の剣心と輝にも襲い掛かってきた。
「!!」
2人は咄嗟にかわし事なきを得る。そして猿は松風と千鳥の前に立ち止まった。
「何なのこの猿は?」
「驚いたか神爪の民!」
「!?」
輝が大猿を注目していたその時聞いた事のある声がした。そして松風と千鳥の後ろから風魔が現れた。
「あなたは渋川町での……!」
「確か風魔とか言う輩でござるな。」
「その通り!渋川町の時は負けたが今回はそうはいかねぇ!」
風魔は刀を抜いて構えてきた。
「今回あなたに構ってる暇なんてない!!」
輝が風魔に切りかかろうとしたその時
「キィ!!」
「!?」
大猿が輝に襲い掛かってきた。輝は刀でなんとか攻撃をかわしたが思わぬ出来事に驚いた。
「ハッハッハ、この猿も今十勇士の一員なんでな。甘く見るんじゃねぇぞ!
 松風さんと千鳥さんよ、こいつらはオレ達が相手するからあとは任せろ!」
風魔が自慢げに言い出すと松風と千鳥は黙って頷いた。
「風魔だけならなんとかなるのに、猿を相手にするなんて聞いてないわよ!」
「まったくでござるな。だがそんな生き物にやられる拙者達ではないことを知らしめるでござるよ。」
剣心と輝は再び構えを取った。
「エテ公、あの優男の相手を頼む!俺は神爪の民をやる!!」
「ウキッ!」
大猿と風魔が襲い掛かってきた。
風魔は刀をブンブン振り回し輝に襲い掛かってくるが当然の如く攻撃はかわされている。
「このっ!このっ!このっ!」
「学習能力ないのかしら?もしかして大馬鹿なの?あなた。」
「うるせぇ!この野郎!」
「私は野郎じゃなくて、女よ!」
輝は刀を振った。すると刃は風魔の刀を受け止めた。
「どうだ!今回は動きを読めたぜ!」
「だからどうしたの?」
「!?」
しかし鍔迫り合いにも発展せず風魔は輝の蹴りを喰らって大きく吹き飛んだ。
「相手の攻撃を受け止めた後のことも考えなきゃいけないのに、
 ホントにあなた私に重傷を負わせた忍者の弟?」
結果は輝の圧勝であった。
剣心は次々と来る大猿の引っ掻き攻撃を軽々とかわしていく。猿は攻撃が当たらないからかイラついてきた。
そして剣心に噛み付こうとしたその時
「!?」
鳩尾に逆刃刀を喰らい大きく吹き飛んだ。

「くそっ!ならば!!」
風魔は懐から玉の様なものを取り出しそれを投げつけた。玉は大きく爆発し辺りは白い煙に覆われた。
「!、伏せろ!」
剣心達は咄嗟に伏せた。そして煙が晴れると剣心達の目の前には沙織を担いだ大猿がいた。
「!、しまった!!」
「今のうちに逃げるぜお二人さん!」
「ああ。」
「あばよ!」
松風達は一目散に逃げ出した。沙織は睡眠薬を嗅がされたのか抵抗する様子はない。
「沙織さんが!」
「追うぞ!!」
剣心達は松風達を追いかける。

剣心達は松風らを追いかける。そしてたどり着いたのは山奥であった。
「奴ら、沙織さんを誘拐して何をするつもりなの!?」
「分からん。だが早く助けねば!」
「ああ、でないとあの高瀬とか言う奴に大目玉喰らっちまうからな。」
剣心達は松風らの姿を見失ってしまったものの探し続けている。そんなに遠くへ逃げられないと察知したからである。
そして4人は奥へと進んで行き谷へとたどり着いた。
「くそっ、何処だいったい。」
「あそこ!」
輝が指差した。場所は谷の下のほうで、途中に足場と穴があった。
「あそこへ逃げ込んだんだな。」
剣心達は谷を降り足場へとたどり着くと穴の中へと入っていった。

穴の中には先程逃げた3人と1匹、そして気を失っている沙織がいた。
「追い詰めたぜ!この卑怯者ども!」
「卑怯者だと……」
「そうだろうが!人質をとって、金でもゆすろうとしたのかよ。
 十勇士の名が、聞いてあきれらあ!」
「黙れ、無礼者!我々が、そんな金目当ての行為をすると思うか!」
「では、何故でござる。」
「それは……。」
剣心の問いに思わず躊躇する千鳥。しかし
「よい、千鳥。我々は由利様のいいつけ通り働けばよいのだ。好きなように言わせておけ。」
「そう言われるとますます気になる。いっそのこと喋ったらどうなんだ?」
「…………………………。」
達也の問いには答えもせず千鳥は黙ったまま喋ろうとはしない。
「とにかく、我々はこの娘を連れ帰る!邪魔立て無用!」
「そういうことだ、俺は由利のアネキの魂胆は知らねぇが、神爪の女を倒せりゃそれでいいんだよ!!」
3人は武器を構え大猿も戦闘体制に入った。

風魔はいきなり輝に襲い掛かってくる。しかし達也の刀がそれを阻止した。
「!?」
「輝さんと戦いたければ、私を倒すことだ!」
「くっ、この野郎!雑魚は引っ込んでろ!!」
「雑魚かどうかは、戦えば分かる。」
達也は風魔の剣を弾くとともに斬りかかった。攻撃はかわされたが風魔の装束が少し切られた。
「へぇ、だが甘いな。」
「ああ、確かに甘いな。」
風魔が余裕をかますのと同じように達也も余裕をかました。
「この野郎!ふざけやがって!!」
達也の態度に頭にきたのか風魔はなりふり構わず刀をブンブン振る。しかし達也に当たる様子はない。
「これじゃ輝さんどころか弥彦君にすら勝てないよ。」
「な……なんだとこの野郎!!」
「実力の差を教えてやる!獅子激襲撃!!」
飛び上がると同時に逆袈裟に振り上げた達也の刀が峰打ちではあるが風魔に炸裂し風魔は大きく吹き飛んだ。

一方松風、千鳥と戦っている剣心と輝は以前戦ったことがある為有利に戦っている。
「くっ!」
「そんな動きでは拙者を捕らえることはできん。」
「千輪斬!」
「同じ技はもう通用せぬ!龍翔閃!」
松風の技を剣心は龍翔閃で軽々と打ち破り、カタールも吹き飛ばした。
一方輝は千鳥と激しい鍔迫り合いをやっていた。
(この太刀筋、やはりあの男と似ている!)
輝との距離を離すと千鳥は再び輝に切りかかってきた。輝は攻撃を刀で受け止めた。
(なんなのこの太刀筋は、とてもじゃないけど兄さんを殺した奴とは思えない。)
そして2人は距離をおく。
「転輪……」
「その技は既に見切ってるわ!迦楼羅の型!」
技を繰り出す前に輝の技が千鳥に炸裂し吹き飛ばした。

弥彦は大猿と戦っていた。大猿のすばしっこい動きに翻弄されつつあった。
竹刀を振るも当たる気配はない。
「この!この!この!」
弥彦の攻撃は空を切るばかりであった。
「弥彦、焦っては相手の思うつぼよ!冷静になって!」
輝が弥彦に声をかけた。
「……そうだったな。こういう場合は……」
弥彦は竹刀を下ろし動きを止めた。大猿は諦めたのかと思い笑を浮かべた後攻撃を仕掛けてきた。
弥彦はとっさに攻撃をかわし
「もらったぜ!千輪斬!」
身体を回しての連激が大猿に命中し大猿を吹き飛ばした。しかもその技は松風が使っていたのと同じものであった。
(相手が使った技をそのまま真似して自分のものにするなんて、もしかしたら大物になれるかも弥彦って)
輝は思わずくすりと笑った。

戦いには勝利した。しかし大猿と風魔は起き上がり、松風と千鳥がはいづくばっている。
「!、こいつら……!」
「はぁ……はぁ……アネキが課したことは絶対に果たす!!エテ公!!」
「ウキッ!」
風魔の声に反応して大猿が起き上がり、沙織を担いだ。
「!、まずい、あの猿を止めないと……!!」
大猿を止めようと動き出す4人であったが、松風が剣心と達也の足を、千鳥が輝の足を掴んでいた。
「こいつ、離せ!!」
達也は切っ先を松風の手に向けて刺そうと思ったが剣心がいる為か突き刺せずにいる。
輝もまた切っ先を千鳥の手に向けているものの刀を動かせないでいる。
残った弥彦が大猿を止めようと竹刀を振るが
「クキャアァ!!」
「うわっ!!」
攻撃をかわされ顔を引っ掻かれてしまった。
「これを……由利様に……」
そして弥彦がうずくまっている隙に松風が投げ出した髪留めを受け取り穴から逃げ出した。
「あばよ!」
風魔も大猿に便乗するかのように穴から逃げ出した。
「……これで……良い。」
「だが、このまま生き恥をさらすくらいなら……。」
松風と千鳥は薬の様な丸くて小さな物体を懐から取り出すと速攻で飲み込んだ。
「やめろ!!」
剣心が叫ぶが時既に遅し、2人はバタリと倒れこんだ。
輝が千鳥の目を調べ出すが
「ダメだわ瞳孔が開いちゃってる。」
「こっちもだ。」
同様に調べていた達也も絶望的な答えを言った。そう、松風と千鳥は自決したのであった。
「チクショーー!逃げられた。」
「……どうしましょう?」
「…………一旦屋敷へ戻りましょう。今はそうするしかありません。…………くっ!!」
達也は歯を強くかみ締めた。
(それにしても風魔って、弱いくせに口と逃げ足だけは達者なのね。)


一方事件の首謀者である由利は、アジトにて松風と千鳥の帰りを待っていた。
しかし帰ってきたのは大猿と風魔であった。
「アネキ、命令通り南里の娘を連れてきたぜ。」
「……松風と千鳥はどうした?」
「それが…………」
話の途中で大猿が倒れ出した。先程の戦闘のダメージが残っていたようだ。
そして大猿が持っている髪留めを見て由利の態度が一変した。
「!!、それはあの子が身につけていた髪留め。
 ……風魔、あんたがついていながらなんでこうなったの!!」
「あ……アネキ……あいつらなかなか強くて……その……」
風魔は由利の憤りを感じて引き込むが由利の怒りはさらに上がっていく。
「この役立たず!!神爪の民であるあいつにまた負けたというのか!!」
「あ……アネキ……次は必ず勝つ、だから……」
「問答無用!!」
由利は鬼の様な形相で風魔を見下した。そして…………
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
風魔の断末魔がアジト一帯に大きく響いた。
「この役立たずが!!松風と千鳥の仇は、私が必ず取る!!絶対に!!」
由利は鉄鞭の柄を強く握り締めた。


「なんだって!?さらわれてしまった!!」
4人が屋敷に戻り事情を話した途端高瀬の怒鳴り声が屋敷一帯に響いた。
「すまない、自分がついていながら情けない失態だ。」
俯く達也に高瀬は達也の服の襟元を乱暴につかみ出した。
「あんたは俺より強いから護衛は任せたのに、つれさらわれてオメオメと帰ってくるとは、どういうことだ!!」
高瀬は力任せに拳を作り達也を殴ろうとした。しかし……咄嗟に輝が高瀬の拳を押さえた。
「どういうつもりだ!?」
「あなたなら守りぬける自信があったんですか!?達也さんの実力を知らないくせに……」
「いいんだよ輝さん、これは自分の責任なんだ。
 高瀬さん、思いっきり殴ってください。輝さん、高瀬さんの手を離してやってくれ。」
「…………………………くっ。」
悔みながら輝は高瀬の手を離した。その途端鈍い音が響き出した。
「!!」
「達也さん!」
「……大丈夫だ。これは、けじめだ!」
達也は殴られた頬に手を当て撫でた。
「どうするんだよ一体!?」
「もちろん助けに行くさ!なあ、みんな!」
「助けるって、当てはあるのか!?」
「そ、それは……」
沙織がさらわれたところに当てが思いつかず困りこんだその時、一羽の鳥が飛び出してきた。
「おろっ?」
鳥は剣心の頭の上に降りてきた。
「足に何かついてるわ。」
達也は鳥の足についている紙を取ると鳥は飛び立っていった。
「手紙だ、しかもこれは脅迫状!」
「なんて書いてあるの?」
「……『南里沙織は預かった。悪らつな父親の業により、何の罪科なき娘、処刑される。
 娘を助くる値するは、悪漢南里の命のみ。
 娘がため命を捨つる決心ならば、伊香保の森に建つ廃屋に来るべし』……どういうことだ!?」
「要は沙織さんの代わりに死ねってこと?」
「それは分かっている。だが、身代金ではなく南里さんの命が目的だなんて、どういうことなのか分からないんだ!」
「今十勇士は変な集団じゃないのは分かっていたけど、政府とは関係ない個人を狙うなんてどういうことなのかしら?」
「それよりもお嬢様です!旦那様は旅行の為留守なのです。どうすれば良いのか……」
執事はおろおろしている。
「場所が分かれば行くまでです。私達はこれから伊香保の森へ行きます!」
「旦那様がいない今あなた達が頼りです。どうかお願いします。」
執事は輝達に深くお辞儀をした。
「俺も行く!いいよな?」
「分かった。」
こうして剣心組は佐之助と薫とそして高瀬を加えて伊香保の森へ向かうことにした。

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