戻る TOPへ

第20話 渋川町の怪事件

長い道を乗り越えようやく5人は渋川町へとたどり着いた。
「やれやれ、やっと着いたぜ。」
「ホント、下妻町より北だから結構遠かったわ。」
「薫殿、弥彦、疲れておらぬか?なんなら宿を取って……。」
2人を気遣って宿を取ることを勧める剣心であった……が
「「大丈夫(よ)!普段から鍛えてるから気にするなよ(ないで)。」」
自信満々に薫と弥彦は答えた。しかも台詞が見事にハモったため2人は思わず顔を合わせた。
「無理しなくていいんだぞ薫!前みたいなことがあるんだからよ。」
「私は大丈夫よ。それに、前みたいに無理なんてしないわよ。弥彦こそ無理してんじゃないの?」
「まあまあ、とりあえず元気で何よりです。早速情報を集めましょう。」
輝は喧嘩にならないようにと薫と弥彦をなだめた。そして各自バラバラになって行動を開始した。

各々が情報収集する中輝は突然誰かに声をかけられた。
「おや?あんた確か、勇気ある剣客さんじゃないか。」
輝は声のするほうに振り向いた。
「あなた確かこの前東京であったおじさん。」
声の主は東京で出会った鍛冶士風の中年の男であった。
「ははは……俺のこと覚えててくれたのかい、ありがとよ。
 それと、俺は孝幸っていうモンだ名前を言い忘れちまってゴメンな。」
孝幸は笑顔で輝に丁寧に謝った。
「良いわよそんなこと。それと、私のことも“剣客”なんて呼ばないで下さい。
 神崎輝って言うれっきとした名前があるんですからね。」
「そうかそうか、すまんな。」
孝幸はすんなりと歩き出していった。
「もう行くんですか?」
「ああ。俺には行かなきゃならない理由がある。
 それじゃあな、お互い通りすがりの旅人同士、またどこかで会えるといいな。」
そして孝幸はそのまま歩き出し町から出て行った。
「……あの人、顔色が悪いようだけど……大丈夫なのかしら。」
不安な顔をして輝は去っていく孝幸を見つめた。その途端わーーっ!という大きな声が響いた。
「わっ!?なに!?なんなの一体!?」
声がした所にやってくるとそこには沢山の子供達が大人に混じって集まっていた。
原因は赤い帽子を被っている芸人が独楽の芸を披露していた。
芸人は帽子を被っているからなのかどんな目をしてるのか分からない。
輝は一番後ろにいるが彼女の背丈からは決してそれは見えなくはないのですぐに納得した。
そこで輝は近くの人に芸人ついて問い出した。
「前からこの町にいるんですか?」
「いや、最近ここに来たばかりなんだ。化け物騒ぎが起こってるってのに変わってるよね。」
「ふ〜ん……。」
相槌を打って会話を進めていくと……
「あっ!」
見たことのある頭の子供に思わず声を挙げた。その子供は芸を見ていたのかはしゃいでいた。
そして輝はなにか思いついたのか声をかけないで芸が終わるのを待っていた。

芸が終わった後輝はその子供に抜き足差し足で近づいてそして……
「わっ!!」
と後ろからいきなり肩を両手でドンと叩く
「#$%&%&@¥!!」
子供は言葉にならない声を出して驚きだした。そして咄嗟に輝の方を向く。
「なんだ輝か……脅かすなよ。」
子供は弥彦であった。弥彦はほっとして胸を撫で下ろした。
「……なにニヤニヤしてんだよ輝。」
「いやぁ……あんなにはしゃいじゃって、偉そうにしてたわりにはまだまだ子供だなぁ……って。」
「み……見てたのか?」
「ええ。」
輝はキッパリと答えた。すると弥彦は顔を赤くした。
「…………それより、何か有益な情報は手に入ったか?」
「(明らかに照れ隠しだけど……ま、いいか。)化け物が出たのは今は空き家になっている家だってことよ。
 注意書きの紙が貼ってあるからすぐに分かるわ。確か入った人から聞くと出て来た化け物は化け猫だって聞いたわ。」
輝の言葉を聞いて弥彦は突然疑問の顔を浮かべた。
「はあ?何言ってんだ化け猫のわけねえだろ。」
「じゃあ弥彦は何を聞いたの?」
「俺が聞いたのは大入道だぜ。」
「大入道か……。」
輝は腕を組んで考え出した。それを見て弥彦は何故か安心する。薫ならばすぐに批判するが
輝は考え出したので安堵の顔をしたのであった。そして輝は答えを出した。
「化け物が数匹いるとみたわ。」
「あんな家にか?普通の2階建ての家だぜ?」
「とりあえず論より証拠ね。みんなとその家の前で合流しましょう。」

そして一行は化け物屋敷の前に集まった。
見たところごく普通の家であったが入り口の扉に『この屋敷に入ることを禁ずる。』の張り紙が貼ってある。
「本当に化け物なんているのかしら?」
薫は不安げな顔をして言った。すると佐之助が意を決して扉に手をかけた。
「まあ、いねえってことを証明するか、もし、いたとなれば退治するだけのことよ。行くぜ。」
そして扉を開けて一行は屋敷の中へと入っていった。屋敷の中は昼だというのに丑三つ時のような暗さであった。
そして、何かいやな感覚が一行に襲い掛かった。
「な……なに?この感覚?」
「一瞬、目がゆがんだような気がしたぜ。」
「気味が悪いわ……。」
「とにかく、心して行くでござる。」
意を決した5人は、屋敷の中を突き進むことにした。しかし薫は剣心の後ろにしがみつきながら歩いていた。
「薫殿、そんなに引っ付いてたら歩きにくいのではござらんか?」
「だって、昼間なのにこんなに暗くて気味が悪い雰囲気なのよ、平気で歩けるわけないじゃない!?」
「……確かに嬢ちゃんの言う通りだな。」
佐之助からこぼれた意外な一言に薫は思わず目を点にした。
いつもなら『だらしねぇなぁ』という言葉が出てくるはずなのだがそれが出てこなかったのである。
気を遣っているにしては珍しいので薫は思わず佐之助に話しかけた。
「どうしたの?いつもなら私をけなすのに……。」
すると佐之助が薫の方を向くと何故かその表情は青ざめていた。
「さ……さすがにこの雰囲気だけは、いくらなんでも俺でも耐えられねぇぜ……。」
「ああ……、何か出てきそうだしな……。」
弥彦も佐之助と同様に顔を青ざめていた。そんな中、輝と剣心だけは平然としていた。
「それに引き換え輝と剣心はよく平気でいられるなぁ……。」
「私だって、平気じゃないわよ。……でも、この町の人達の為だったらこれぐらい……!」
輝は後ろから殺気を感じ、突如刀を抜いて振った。するとズバッと言う鈍い音と共に何かは断末魔を上げてすぅ……と消えた。
「びっくりした……何なんだよ一体?」
「消えた!?。」
「消えたって何が?」
「化け物よ。」
「でも、死体が残らず消えるなんて……。」
「でも手応えは確かにあったわ。斬る際に姿形を見たんだけど、人じゃなかったわ。
 化け猫のようなのだったわ、その証拠に猫のわりには大きくて不気味で、尻尾が二つに分かれてたわ。」
輝の意見は確かであることは全員分かっているもののここで薫は疑問の顔を浮かべた。
「……でも、変ね。情報によると、化け猫を見た人は確かこの屋敷の2階の一番広い部屋で見たって言ってたわ。
 まだここは1階だし……、出てくるには早すぎると思うんだけど……。」
すると、佐之助があっさりと答えを出す。
「多分そいつは、主の部下だからじゃねぇのか?……となると、この屋敷を化け物屋敷に変えた化け物の主が
 いるって訳だ。たとえそいつが主だとしても、影武者なんじゃねぇのか?現に将軍の影武者だって存在してたんだからな。」
「でも……すぐに先走る影武者なんて……。」
「いや、佐之の言う通りかもしれん。とにかくその部屋を探そう。
 そして、本当の主を倒してこの町に平和を取り戻すのでござるよ。」
「う……うん。」
弥彦と薫も無言で頷き改めて一行は屋敷の中を進むことにする。2階に着いた所で
「!」
今度は佐之助が殺気を感じた。
「おらぁ!」
すると右方向に拳を突き出した。バキッという鈍い音を上げてまた何かが断末魔を上げて消えた。
「まただ。……今度は化け物鳥だぜ。それにしても、なんなんだこの化け物屋敷は……。」
「輝の時といい、佐之助の時といい、実体を持っているのになんで消えちまうんだ?」
「化け物だからじゃねえのか?」
曖昧な回答が出てくるが、5人はそんなことにも目もくれず一番広い部屋にたどり着いた。
部屋に入った途端中央で小さな爆発が起こりその後には異形のものが現れた。
「あれは!?」
薫が化け物を指差した。
「どうやら、アイツがここの大将格らしいでござるな。」
「……のようね。」
「剣心、輝、まさかあれと戦う気か?」
「うん、倒せばここの化け物もいなくなるからね。」
輝と剣心は武器を取って構えを取り出した。
「まあ、そういうこった。今さら、もうビビりゃしねえよ。」
2人に合わせてか弥彦も背中の竹刀を抜き構えを取った。
「うーん……まあ、ちょっとは見慣れたかも。」
薫もあどけない顔をしながらも木刀を片手に前に出た。
「いくでござるよ!」
剣心の掛け声を合図に一行は異形に向かっていった。
「やあっ!」
「でやぁ!」
薫と弥彦が同時攻撃を仕掛ける……しかし攻撃は化け物によって塞がれて閉まった。
しかし2人は攻撃を仕掛けられないように必死に押さえ込んでいる。
「……今だ!!」
「よしっ!」
そこに残った3人が一斉に飛び掛った。
「でやぁ!!」
佐之助の突進から放つ正拳突きが炸裂した。
「龍槌閃!」
剣心の得意技が化け物の脳天に炸裂した
「吉祥の型!」
輝の得意技も炸裂し化け物は断末魔を上げて消えた。そして辺りが明るくなると同時に何故かガラスの割れる音がした。
「ふう……これで、一安心でござるよ。」
剣心達が安堵の笑みを浮かべる中輝だけはなぜか化け物がいた所で散っているガラスのような破片をしゃがんで見ていた。
「みんな、これなんだと思う?」
輝の声で全員そのもとに集まった。
「何だ、これ?なんかキラキラしたのが飛びちってるぞ。」
「先程何かが割れる音がすると思ったら……これの音だったのか。」
佐之助は納得するが何故か剣心だけは険しい顔をして破片を見ている。
輝は剣心の表情を見てこれには何かあるだろうと思っていた。もちろんそれは破片のことであった。
ガラスの窓などこの時代では東京や横浜などでしか見かけないしガラス玉にしては不自然すぎる。
一体この破片はなんだったのであろうか?……そんなこと考えているうちに
「剣心、輝さん、もう行きましょう。」
薫に屋敷を出るように声をかけられる。そして2人は薫達のいる方に振り向く。
「あ、ああ……。」
仕方なく2人は破片を拾うことなくそのまま立ち去っていった。
(恐らく輝殿も拙者と同じ事を考えていたであろう。しかし、まだわからぬことばかりだ……。
 何故この辺鄙な町に化け物が現れたのか、情報と違って、何故その化け物がすぐ現れたのか、そして……
 化け物が消えると何故あの破片が現れるのか……謎でござるな……。)
そんなこんなを剣心は考えていたが結局答えは見つからず一行は屋敷を出た。
「これで一件落着だな。……ふぅ。」
「そうだな、できればもう二度と現れて欲しくねえぜ。……はぁ。」
弥彦と佐之助は事件が片付いたというのに何故かため息をついた。
「どうしたの?弥彦、佐之助。」
「きっと疲れてるのでござろう。今日は宿を取るとしよう。」
剣心の提案を聞いて4人は考え出した。そしてなんとなく頷きすぐさま宿へと向かった。
……しかし、その様子を屋敷の物陰から怪しい影が目を光らせて見つめていた。

その夜……。
食事と風呂を済ませた一行は各々の部屋で睡眠をとっていた。
しばらくして……輝が小さな寝息を立てて寝ていた時、隣から肩をやさしく叩かれた。
「?」
「あの……輝さん……、起きてくれない?」
寝ている輝の肩を叩いたのは薫であった。しかも時刻は深夜0時である。
輝は眠けまなこを擦りながら上半身を起こした。
「ん……どうしたんですか薫さん?しかもこんな時間に……。」
「あの……。」
何故か薫はモジモジしながら喋っていた。
「?」
輝は薫がモジモジしているのを不思議に思った。そして薫は小さな声で
「……厠(かわや)に付き添いで来てくれない?」
と言った。ちなみに厠とは現代で言うトイレのことである。“せっちん”とも呼ばれていた。
それを聞いた輝は思わず冷や汗をかいた。
「薫さんもしかして、この前の化け物屋敷でのあれが原因なんじゃ……。」
「だ……だって、怖かったのよ。あれを見たからにはしばらく一人で厠なんかに行けないわよ。」
顔を赤ら締める薫に輝はため息をついて
「……仕方ないですね。」
と、了承した。

厠の前で輝は薫が用を済ませるまでジッと立っている。すると輝は考え事をする。
(一体あの化け物はなんでこの町に現れたのかしら?混乱を起こすんだったら東京の方がいいのに
 何故こんな辺境の町なんかを……。
 それに、割符に載ってる所には十勇士が絡む筈なのに……本当にこれはただの奇怪事件なのかしら?
 あと、十勇士の目的って一体……?)
などと考え事をしていた最中に
「おや?輝殿、何故このような時間にこのような所へ?」
剣心がやってきた。
「!、あの……その…………。」
薫を気遣ってか輝は慌しくなり顔を赤くした。そして、慌てたまま喋る。
「寝付けないんで用を済ませようとしたんだけど、……その…………」
慌てて言い訳をするも言葉が思いつかず輝は混乱するばかりである。
そんな輝を見た剣心は……
「ハハハ、分かってるでござるよ。あれのことでござるな。」
笑顔で答えた。輝はそれでも慌てて話す。
「決してあとの2人とか、恵さんとかには話さないでくださいね。でないと薫さん何言い出すか分かりませんし……あっ!」
多分このことが厠の中の薫に聞こえたであろうと思い輝は思わずハッとした。
「まあまあ、たとえどんな強者であっても、心の奥底で恐れているものがあるから、気にすることではないでござるよ。」
「う……うん。」
薫のフォローになっているのかと輝と当の本人は疑問に思っていたが、相手が剣心なのかとりあえず納得する。
「ところで剣心こそどうしたの?剣心も厠に?」
「いや、考え事をしてたのでござる。」
「考え事?この化け物騒動のこと?」
「うむ。」
「でもそれって、もう解決したよね?」
厠の中の薫が二人に声をかけた。
「確かに化け物騒ぎは解決した。だが、十勇士が現れぬのはおかしいと思わぬか?」
剣心が言った通り、十勇士姿を見せないのがおかしい。今までは事があるにつれ必ず姿を現していたが今回はなかった。
2人はそのことについて考え出すが、結局思いつかなかった。
「ともかく、明日この町でさらなる情報収集するでござるよ。」
「そうね。」
「うむ。……では、拙者はこれにて……。」
「おやすみ、剣心。」
剣心は厠を後にした。
それからしばらくして薫が出てきたが、今度は一緒に寝て欲しいとせがまれてしまい輝は仕方なく薫と一緒の布団で夜を過ごした。

次の日。一行は朝食を済ませ宿を出て情報収集を行なったが、十勇士に関する手がかりを得られなかった。
そして、お昼頃になると何やら宿の前で人達がざわざわと話をしていた。
なんだろうと思って一行がそこに近づくと
「化け物が出た」
という話を聞いた。思わず疑問の顔をする5人は一人の女性に話しかけた。
「化け物が出たって本当なんですか?」
「ええ、またこの町に。」
「そんな、だって確かに退治したはずじゃ……。」
「退治されたわ。でも、今度は注意書きが貼ってある屋敷のさらに西にある豊作さんの家に現れたの。」
「本当!?」
「嘘じゃないわよ。かわら版に書いてあったんだから。」
その後一行は慌ててかわら版を購入し、記事の内容を確認した。
「『空き家に巣くいし物の怪退治さる。だが、町の怪異未だ消えず。
 西の町外れの屋敷に物の怪出現す。』……!」
「なんでこんな……!」
「とにかく、はやく退治しなければ……!」

何がなんだか分からずとにかく5人はその屋敷へと足を向けた。
屋敷の前では、そこに住んでる家族らしき男が怯えてジッとしていた。
「あっ、あんた達は?」
「ここに化け物が出たって聞いたんで、退治しに来ました。」
「…………あんた達強そうだから頼む!俺の家に現れた化け物をなんとかしてくれ!」
「承知した!」
そして一行が中に入ると
「また、あの感じだぜ。」
以前入った化け物屋敷と同じ感覚を5人は感じた。
中を進むと前入った屋敷同様化け猫や化け物鳥などが襲い掛かってきたが、すかさずやっつけた。
その途中で輝は足を止めた。中に残された子供達の声を聞いたのであった。
「ふぇ〜ん、ニンジンのお化けだー…助けてよう……。」
「沙羅お姉ちゃん……いい子でいるからそんなに怒らないで……。怖いよぅ……。」
何かに怯える子供に輝は不思議に思った。
(こんな屋敷にそんな化け物なんていないはずなのに……。)
「輝、さっさと行くぞ。」
「……うん。」
弥彦に声をかけられ輝は些細な疑問を後し先に進むことにした。
そしてまたしても2階の広い部屋にて化け物の長らしき異形を発見した。
「こいつは……。」
「前の化け物と似ているでござるな。」
「似てるなんてモンじゃねぇ、ソックリじゃねえか。」
「何でも構わないぜ。とにかくブッ倒しゃあいいんだ!」
「そうね!」
「いくでござるよ!」
剣心の掛け声と共に5人は一斉に異形に飛び掛った。
「面倒だから同時攻撃でやっつけましょう!」
「「おう!」」
「うん!」
「承知!」
そして薫の木刀、弥彦の竹刀、佐之助の拳、輝の刀、そして剣心の逆刃刀が異形に炸裂しそれは瞬く間に
断末魔を上げボンッという音をあげて消えた。そしてまたしてもガラスが割れるような音がした。
「ふう……。」
事が片付いたのか剣心は安堵の顔をしてため息をついた。
「消えちゃうなんて……不思議ね。さすがに天狗に似ていることだけのことはあるかも。」
(天狗?)
輝は思わず反応して不思議な顔をする。
「何言ってんだ。あれはどう見ても、カッパだろうが。」
(河童?)
今度は弥彦の言葉に反応した。
「河童なわけないでしょ。あんたって、本当に物知らずなんだから。」
薫は弥彦に対して不満な顔をして注意する。
「何だと!やるか、コラァ!」
弥彦も怒った顔をして薫に突っかかってきた。その光景を見て剣心と輝は冷や汗をかいて2人の仲裁に入った。
「まあまあ、薫さん、弥彦……。」
「そ、そんなことより、早くここから出るでござるよ。」
「ちょっと待って。」
屋敷を出ようとした途端4人は輝に呼び止められた。
「またこれが出てきました。」
輝が指差した方向には前の屋敷にあったガラスの破片があった。
4人はそれに目をやる。
「なんだと思います?」
「何か、入れ物の破片みたいね。」
薫が言った通り、確かに破片の構造からして入れ物のようであった。
「それがどうしたんだよ?……関係なさそうだし、行こうぜ。」
佐之助の一言により破片のことを置き去りにし3人は屋敷を部屋を出た。
部屋に残った輝と剣心は破片をジッと見ていた。
「輝殿も気になるのでござるな。」
「うん、やっぱりこれって化け物と関係してると思うんだけど……。」
「まだ分からぬのだな?」
「うん。このあまり大きくない屋敷に沢山の化け物がなんでいるのかも……。」
「拙者もでござる。これと化け物には何か関係があるとしか言いようがござらんし……。」
「輝、剣心、早く来いよ!」
会話の途中で弥彦が2人を呼び出した。2人は仕方なく部屋を後にするのであった。

それから外にて、しばらくするとまた歓喜の声が響き出した。
「おろ?」
「なにかしら?」
薫と剣心が不思議に思い声がしたほうへと足を運んだ。そして気になってか輝たちもついていった。
着いた先は町の広場でそこには子供からお年寄りまで沢山の人だかりがあった。
輝達が目線をその先にやるとそこには昨日の芸人が前回より難度の高い独楽の芸を披露していた。
芸が終わるると観衆から多くの拍手が鳴り響いた。
「昨日の芸人さんだわ。」
輝が芸人を見て言った。
「?」
輝と弥彦を除くメンバーは何のことだか分からないので疑問の顔を浮かべた。
そこで輝が説明をする。
「聞いた話によると、化け物が出たその日からずっとこの町にいるそうです。」
「化け物騒動が起こってるのにこの町にずっといるのか……、怪しいな……。」
輝の話を聞いた途端佐之助の顔つきが険しくなった。
しかし薫が佐之助をなだめだした。
「でも、関係ないかもしれないわよ。」
「う〜ん確かになぁ……、そう簡単にシッポは出さねぇってことか。」
薫の一言に佐之助は難なく納得した。
それとは対照的に輝はなぜか険しい顔をしていた。
「輝殿?」
剣心に呼ばれるも輝は表情を変えずただ芸人をジッと見ていた。

芸が終わると人達は一斉にバラバラになりだした。そしてそれと同時に輝が芸人に近寄った。
剣心達もつられるように輝についていった。そして輝は芸人に話しかけた。
「あの、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう?」
芸人はひょうきんな声で返事をした。
「どうしてこの町にいるんですか?」
いきなり単刀直入に質問をしだした輝に対して芸人は渋々と首を掲げ出した。
「旅費を稼ぐ為ですよ。なにせ旅の途中で金が少なくなってきてね。」
芸人の言うことには一理あった。なにせ沢山のおひねりが芸が終わると共に投げ込まれたからである。
「それは貯まったんですか?」
「いえ、それがまだなんです。」
芸人はあどけない感じで答えだした。
「なら、野宿してまで違う所に行けばいいのにどうしてここにいるんですか?」
「輝さん!」
確かに輝の言うとおり野宿でもして宿代を節約すればそれなりの旅は出来る。
なら化け物騒ぎが起こっているこの町に長居する必要は無い筈である。理由を聞こうとするが、薫に止められる。
「すいません、この人お節介なもので……。」
薫は芸人にお詫びのおじぎをした。
「いいえ結構ですよ。」
芸人はまんざらでもない感じの顔で返事をした。
「個人的な理由かもしれないでしょ?そこまで聞く必要ないじゃない!?」
「でも……。」
険しい顔の薫に対して輝は不満げな顔をして言った。
「ともかく、俺達の目的はもう終わったんだから行こうぜ。」
佐之助が薫をフォローするように輝に向かって声をかけた。
「……………………。」
輝は反論のしようもなく不満げな顔をしたまま広場を剣心達と共に後にした。

そして5人が町を出ようとしたその時。
「ん?」
入り口の前にて家族らしき4人が荷物を抱えていた。一行は家族に近づいていく。
「引越しですか?」
「ええ、うちに化け物が出てしまって……。」
「化け物!?」
一行は思わず驚愕の顔をした。
「怖すぎるし、警察もお手上げなんだ。
 それに……退治されてもまた現れるそうなんだ。……だから、もうこの町にはいられないんだ。」
「化け物が出て来たあなた達の家ってどこなんですか?」
薫が主人らしき男に質問をした。
「町の中心部の西の一番端の家から2件目です。私達の家だったんです。
おじいちゃんが強い格闘家だって言ってたから退治してもらおうとしてたんですが、怖くてできなかったんだ。」
「……みんな!」
全員薫に目線を集中する。そして頷いた後走り出した。
「ちょ、ちょっと!?」
主人らしき男の制止を気にせず5人は走り出した。

「ここがその屋敷ね……。」
「?」
輝がなにかの気配を感じてか右方面に目線をやった。するとそこには先程の芸人が立っていた。
輝は芸人に近寄ると、芸人は親しげに話しかけてきた。
「おや、こんなところでまた会いましたな。どうですか?私の芸を見ていきませんか?」
「せっかくだけど遠慮するわ。そんな暇ないから。」
輝はキッパリと芸人の誘いを断った。
「そうですか……。」
「輝、行くぞ!」
「そういうことです、では……。」
弥彦に呼ばれた輝はそのまま剣心達と共に屋敷の中へと入っていった。
輝達が屋敷に入った途端芸人はなぜかニヤリとほくそえんだ。

屋敷に入った5人はまたしても不思議な感覚に襲われた。これで3度目である。
それでも意を決して先に進んだ一行にはまたしても化け猫や化け物鳥などといった異形に襲われるも
難なく撃退していった。
「しかし、あのじいさんホントに強いのか?あんな化け物に恐れるなんてホントは弱いんじゃねえのか?」
佐之助が渋い顔で4人に先程であった家族から聞いたおじいさんのことを聞き出した。
「でも、町の人の話ではその人若い頃は名高い格闘家だったらしいから小さいながらも道場を開いてたのよ。
 強くなかったら道場なんて開かないわ。」
佐之助の疑問に薫がまんざらでもない顔をして答えた。
「でもよぉ、そんなじいさんが恐れをなして逃げ出したんだぜ?」
「ともかくここの化け物も退治するでござる。きっとなにかあるのでござろう。」
剣心の言葉に4人は疑問の顔を浮かべつつとにかく先へと進むのであった。
そして5人が2階の一番広い部屋にたどり着くとまたしても部屋の中央で煙が上がりそれが晴れると異形が現れた。
「また、あいつかよ。どうなってんだ!?」
「わかんねえ。だが、ブッ倒さなきゃなんねえのは確かだぜ!」
そして5人は一斉に異形に飛び掛った。
「同じパターンの攻撃なんて、俺らにとっては無駄なんだよ!」
異形の攻撃は前回、前々回とまったく同じの為か異形の攻撃を難なくかわし、一斉攻撃を決めてあっという間に倒した。
そして異形が断末魔を上げて消えるとまたしてもガラスが割れるような音がした。
「なんなんだ、あのカッパ……。」
「カッパじゃなくて、天狗だってば!」
異形をカッパという弥彦に対して薫は天狗だと主張して口論する。
「何言ってんだ、二人とも?ありゃあ、化け狐にしか見えねえよ。」
すると佐之助があどけない顔をして2人に向かって異形のことを言い出した。
「ええっ!?」
「狐なわけねーだろ!」
2人は佐之助の言ってることが信じられずあっけに取られた顔をした。
「天狗だって。」
「カッパだよ!」
2人がまたしても違う意見を言うと顔をあわせて険しい顔つきをする。
「どうしてあんたって物見がわからないの!?」
「薫だって、佐之助みたいな下手な嘘つきやがって!」
「私は嘘なんてついてないわよ!嘘つきはあんたか佐之助でしょ!?」
「!!」
嘘つきよばりされた佐之助はさすがに2人の喧嘩を見過ごすことができず割り込んできた。
「俺だって嘘はついてねえよ!狐以外になんだってんだよあれが!!」
「まあまあ、薫さん、弥彦、佐之助……。」
あまりの激しい口論の為輝が仲裁に入ろうとするが、3人は突然輝を険しい目つきで見つめ出した。
これには思わず輝は冷や汗をかいた。
「天狗だよね輝さん?」
「カッパだよな!?」
「化け狐だよな輝……。」
輝に迫る3人。
「えっと……その……私が見たのは……」
「「「見たのは!?」」」
「………………不気味な杖を持った……、骸骨の化け物です。」
もはや輝は恐怖のあまり震える声で答え冷や汗をかくしかできなかった。
その言葉に3人はさらに険しい顔をして輝を見つめた。
「あ……あの〜〜〜〜……。」
「骸骨なわけねえだろ!?」
「肉ついてるよ!」
「杖なんて持ってねえだろうが!」
「だって〜、私だって嘘はついていないんですよ〜〜……。
 ふえぇぇん、そんな目で見ないでくださ〜〜い…………。」
輝が今にも泣きそうになったその時剣心が何かひらめいたのかハッとして、仲裁に入った。
「皆の者、待つでござるよ!」
剣心は3人と輝の間に入った。
「薫殿は確かにさっきの化け物が天狗だと言うのでござるか?」
「え……そうよ。」
剣心の思わぬ質問に薫は呆気に取られた顔をして答えた。
「弥彦はカッパだというのでござるな。」
「おう!」
弥彦は自信満々に答えた。
「……佐之は、化け狐だと?」
「ああ、陰険な目をしたデッカイ奴だぜ。」
「そして輝殿は、不気味な杖を持った骸骨の化け物と言ってたでござるな?」
「うん。昔、その化け物について書かれていた古い書物を読んだから知ってるの。
 まさか明治の時代にも現れるなんて思わなかったけど…………、それがどうかしたの?」
「……やはりそうでござったか。」
「「「「?」」」」
訳も分からぬ事を聞かされた4人を尻目に剣心は1つの結論を言い渡す。
「恐らく、自分の心の中でもっとも恐ろしいと思っているものの姿が見えたのであろう……。」
「ええっ!?じゃあ、剣心にも違うものに見えたの!?」
剣心が出した結論に4人は驚いた顔をして剣心を見る。
「ああ、拙者には……!」
剣心は自分が見たものを言おうとした途端、何かの気配を察知した。
「コソコソ隠れず出てくるでござるよ。」
剣心が気配を感じた方に声をかけると、部屋の入り口から先程屋敷の前にいた芸人が現れた。
「!!、あなたはさっきの芸人!」
「あーあ、困るんですよねぇ。せっかくのお膳立てをことごとく邪魔されちゃ。」
芸人は一旦頭を掻いた後とぼける様子も無く張り詰めた声で話しかけてきた。
「あなたが化け物を連れてきたっての!?」
薫は驚愕の顔をした。
「まあ、そんなとこですかね。……申し遅れました。私は若彦(わかひこ)。
 十勇士の筧様に仕えているものですがね。」
「十勇士だとっ!?」
「そうだ、我ら十勇士の野望を阻止するものは誰一人とて許さん。」
「!」
若彦の後ろから声がしたかと思ったら今度は若彦の後ろから青い忍装束の男が現れた。
「!!」
輝は男に見覚えがあるのか顔を見た途端驚愕の顔をした。
「風魔(ふうま)、まだ出番はまだですよ。」
若彦は風魔と呼ぶ男に注意する。
「兄が殺ろしたはずの神爪の民がいるってのに、ジッとしてられるかよ!」
風魔は気性荒く若彦に怒鳴りつけた。
「兄が殺したはず!?」
輝は険しい顔で忍装束の男を見て驚愕の顔をした。
「兄の名は雷魔(らいま)!逃げた神爪の民を殺ろしたと思っていたのだが
 いつまで経っても兄が帰ってこなかったが不思議でのう。まさか生きていたとはな……、今度こそ地獄に送ってやるぜ!
 当然そこにいるお仲間も含めてな!」
「やれやれ、仕方ありませんな。あなた達にはここで死んでもらいましょうか。」
「ふざけないで!返り討ちにしてやる!」
若彦と風魔が輝達に襲い掛かってきた。まず風魔は輝に刀を向けてきた。
輝は咄嗟に刀を抜き攻撃を受け止めた。そして激しい剣劇が行なわれた。
「俺は兄のようなヘマはしねぇぜ!」
激しい剣劇の末、一旦後ろに下がった輝は再び構え取った。
風魔はそれに対して懐から手裏剣を取り出し投げつけるが、すべて刀で弾き返された。
そして今度は再び輝に向かって駆け出して連撃を仕掛けてきた。しかし輝はそれを難なくかわしていく。
「なに!?何故攻撃が当たらん?俺と兄の実力は互角のはずだ。なのに何故兄より弱いこいつに……!!」
「あんたの兄がどれぐらい強いか分からないけど、私だっていつまでも同じでいるわけが無いのよ!」
輝は刀を振り風魔の刀を大きく弾かせた。
「!!」
「これが今の私の力よ!那托の型!!」
「ぬおおぉぉぉ!!」
平八郎から教わった高速の三連撃が炸裂し風魔は入り口の方向に思い切り吹き飛んだ。
「蒼紫さんの方が手強かったわよ。」
吹き飛んだ風魔を見下すように言った。
一方若彦は剣心と戦っていた。
「私の攻撃についていけますかな?跳ね独楽!」
若彦は糸を通して独楽を投げ飛ばす。しかし剣心は難なく逆刃刀で弾いた。
「なっ!?」
「そんな曲芸で拙者を倒せると思ったか?」
険しい顔つきで剣心は若彦を睨みつける。そして一気に間合いを詰めて一撃を決めた。
若彦は風魔同様入り口の方に思い切り吹き飛んだ。
「くっ……。」
「この俺がいとも簡単にこんな女に……!!」
2人が悔しがってる間にいつの間にか佐之助が目の前に立っていた。当の本人は指をポキポキ鳴らした。
「さあ、覚悟しやがれ。十勇士の奴らがどこにいるのか、すっかり吐いてもらうからな。」
「ちっ!!」
風魔はいきなり懐から煙玉を取り出すと地面に向かって思い切り投げた。
煙は辺りを包み込み視界を封じ込めた。
「!!」
視界が晴れるとそこに風魔はいない何故か若彦だけが残されていた。
「風魔だけ消えた!?」
「風魔!私を置いて逃げるのですか!?」
若彦は辺りを見渡しあたふたする。
「化け物のことといい、こいつら本当に、蘇っておかしな力を持った真田十勇士だってのかよ!?」
「いや、それはどうかでござるかな。」
「えっ?」
4人は思わず剣心の方に注目する。
「拙者達が3回にわたって化け物を倒した時に出て来たガラスの破片は、恐らく何か薬品を入れる入れ物の破片。
 構造からして何かを入れるものだとは分かっていたが、何を入れてたのかは輝殿達が見た化け物のことを聞くまでは
 わからなかったでござるよ。」
「!、もしかしたら!!」
剣心の言葉に輝はハッとした。
「どうしたの?」
「前に子供が、ニンジンのオバケだのなんだのと言ってたけど……そんなの出てこないから変だと思ってたけど
 ようやく分かったのよ。それはその子供が心の中で恐ろしいと思っているものでこの入れ物に入っていた強力な幻覚剤によって
 見せられてたものなの。私達の場合、心の中では天狗やらカッパやらが恐ろしいと思い込んでいた為

それを化け物と信じ込んだ為、それが幻覚となって現れ、それと戦った。つまり私達も幻覚を見せられてたってことなの。」
輝は入れ物の破片を見て言った。
「その通りでござる。」
「なるほどそうだったのかい。」
「だから、私には天狗、弥彦にはカッパ、佐之助には化け狐で輝さんには骸骨の化け物に見えたのね!」
輝の説明に薫と佐之助は全てが見えてきたので納得した。
「けど、所詮は子供だましね。そんな時代遅れの策略じゃ明治政府は崩せないわよ!
 それならもっとマシな手を使いなさいよ!化け物騒ぎじゃなくて、要人暗殺といった策略をね!」
輝は芸人を思い切り睨みつける。しかし若彦は動揺しない。
「ふふっ、そんなことしなくても世を狂わすことくらいはできますよ。」
「何っ!?」
「例えば……化け物騒ぎで浮き立った所に、秘薬で操った一般人どもが、暴動を起こしたとしたら?」
「!!」
輝は表情が一転して驚愕の顔を出した。
「明治政府は、暴動を押さえつけることが出来るでしょうか。権力で叩き潰すなら、それはそれで
 こちらの思うつぼなんですよ。
 操られているだけの者に、暴力を振るうところを見れば、政府に不満を感じる人々も今よりも増えるってもんです。」
「そんな……なんて汚いの。」
「力押しだけで、政府を転覆させられると思うほど、おめでたい集団じゃありませんから。」
「なるほど。それで、ニセ十勇士を名乗っているというわけでござるか。」
剣心の言葉に4人は思わずまたしても驚愕の顔をした。
「ニセ十勇士!?」
「本物の真田十勇士じゃないっていうのか!?」
「戦国時代の人間にしては、明治の世に通じすぎているでござる。
 おおかた、名を借りて同情をひこうとしたのでござろう。」
「な……なるほど。」
輝は感心し納得した。なにせ武力で事を片付けようとする戦国時代の人間のすることではないからである。
「へえ……こりゃ驚いた。あんた、ただの剣客じゃないですね。」
「ほら見ろ!だから言ったじゃねえか。この明治の世に真田十勇士なんて笑わせらぁ。」
佐之助は薫を小馬鹿にして言った。
「なによ!信じかけてたくせに!」
いきなり佐之助と薫の喧嘩が始まるが、輝がそこに横槍を入れる。
「どっちもそうじゃないですか?威張れるモノじゃないですよ。」
「「っ!」」
輝にツッコまれ薫と佐之助は思わず意気消沈して顔を下に向けた。
「でも、ニセ十勇士なんてひどい呼び名ですね。
 正式には今十勇士(いまじゅうゆうし)。この腐りきった世を正し、本来あるべき姿に戻すのを目的とする
 すばらしい集団なんですから。」
「ふざけたこと、言うんじゃねえ!」
「そうよ素晴らしくなんか無いわよ!!外道よ!外道!!私の故郷を焼き払い、なおかつ
 神爪の里とは無関係の人々に酷いことまでして、それ以上変な事いったら……痛めつけるわよ!!」
輝と弥彦は鋭い目つきを若彦に向けると輝は怒りを込めて刀を若彦に向ける。
すると若彦は呆れて後ろを向く。
「はいはい、じゃあ黙りますよ。どうせ、あんた達に話すことはないですからね。」
「……この人、どうする?」
薫が4人に問いかけた。
「そうですね……警察に届けましょう。」
「そうね、それがいいかも。」
「じゃあ、行くでござるよ。」

場所は変わって地元の刑務所。
手錠をかけられた若彦を連れて剣心と輝は警官と共に牢屋の前に向かっていた。
そして若彦を牢屋に入れると格子扉を閉めて即鍵をかけた。
「町を騒がせた犯人を、捕まえてくださって、ありがとうございます。
 ご協力、感謝するであります。」
警官は剣心達に敬礼をした。
「いやいや、いいのでござるよ。」
剣心は首を振って笑顔で答えた。
「では、自分はこれにて。」
再び敬礼をした後警官は牢屋を後にした。そして入れ替わりに薫、弥彦、佐之助が入ってきた。
「早く行こうぜ。ニセ十勇士を見つけてぶっ飛ばしてやんなきゃよ!」
「そうね。」
「ふふっ、そんなことを言ってるようじゃ、絶対に無理ですけどね。」
輝達が牢屋を後にしようとした途端に若彦はつぶやきだした。
「何だとォ?どういう意味でえ。」
「言ったじゃないですか。ニセ十勇士ではなく、今十勇士だって。
 単なるニセモノだって思ってると、痛い目に遭いますよ。いや……もう遅いかな。」
「もう遅いって……何を企んでるの!?」
「ふふっ……、筧様が、新たな手を繰り出しているはずだ……と、言ってるんですよ。
 早く行ったほうが、いいんじゃないですか?」
「………………。」
輝達は険しい顔をしながら渋々と牢屋を後にした。
一方若彦はというと独楽の芸をのんきにやっていた。

「ねえ、化け物騒ぎを起こした犯人が捕まったって話知ってる?」
「うん。まさかあの芸人さんが犯人だなんて驚いたわ。」
「そうね。化け物騒ぎが起こったときに町にいたんだもの。考えればおかしくないわね……。」
一行が町を歩いている最中に犯人(若彦)が捕まったことがうわさ話として流れ出した。
「まったく、何考えてるんだ?あの野郎。」
「まったくそうね。今十勇士だかなんだか知らないけど、やることが普通じゃないわよ。」
剣心組はというと、先程起こった事件のことを思い返しながら愚痴をこぼした。
そして話の最中に剣心が輝に問い出した。
「そういえば輝殿。あの風魔というと男、何か関係があるのでござるか?」
「う〜ん、ある……というより、それに似た人に会ったような気がするの。」
「似てるって、雷魔とかいうヤツのことか?」
「ええ。私、そいつと戦ったことがある……ような気がするの……
 その時の状況や、自分の状態はまったく覚えていないんですけどね。」
「“覚えてない”んじゃなくて、“思い出せない”んじゃねえのか?」
輝の返答に弥彦がツッコミだした。
「うん。」
そう、輝は記憶を取り戻したとはいえまだ完全ではないのであるから詳細は思い出せないのである。
しかしそんなことお構いなく弥彦は話しかける。
「でもよぉ、そんな奴の弟に戦って勝ったんだからさぁ、そいつも大したことなかったんじゃねえのか?」
「いや、あの男見た限りではかなりの手のものであると見た。決して弱いわけではござらんよ。」
「うん。楽に倒せたんじゃなかったような気がするの。もしそうだとしたら、どうして勝てたのかしら……?」
輝は腕を組んで人指し指を顎に抱えての考えるポーズで考え出した。それに剣心がさらりと答えだした。
「きっと、今までの戦いで成長してるからでござろう。」
「成長?」
「うむ。薫殿から“蒼紫と互角以上に戦った”と聞いたのだが、その戦いにより前より強く成長したと思っていいだろう。
 蒼紫と輝殿との間に何があったか分からぬが、単に輝殿が強くなったと言っても過言でもない。」
「そういえばそうね。前の時よりも技のキレがよくなってる気がするわ。」
「そう思えるということは、自分が強くなっている証拠でござる。技量ではなく精神がな。
 強さというのは力ではなく心で決まるモノでござるからな。」
自分は強くなっている。その言葉に輝は思わず顔に笑みがこぼれる。
『この調子なら超えられなかった兄を超えられる』そう思わずにいられなかった。
そして町を出ようとした途端、後ろでバタッ!という音が鳴り出した。
輝達はその音に反応して慌てて振り向くと、そこには老人が倒れていた。一行は老人に駆けよった。
「大丈夫ですか!?」
「ぅう……誰か……わ、わしの孫を助けてくれえ……。」
「おじいさん、しっかり!」
「何があったでござるか!」
「うう……わしの孫が、河原に……。おかしな男に連れ去られて……。」
「おかしな男?十勇士の連中かもしれないわ!」
「河原でござるな!」
「うん。急ぎましょう!
 おじいさん、お孫さんは必ず助けますから待ってて下さい。」
「ぅう……頼みます……。」
一行はおじいさんの頼みを聞いた後河原に向かって駆け出した。


河原に着いた一行は、辺りを見渡すが何も無い。
しかし、しばらくすると草陰から沢山の子供達が現れ、輝達は思わず驚く。
「これが、連れ去られた子供達?こんなに、たくさんいるの?」
「おい!おまえらを連れてきたヤツは、どこにいるんだ!?」
弥彦は子供達に声をかけるが、子供達はしんとしていてうんともすんとも言わない。
その時は輝はなにか嫌な予感を感じる。
「なんなの?この感覚は?」
「どうした輝?」
「なんか、この感じ……いやな雰囲気がするの。」
「どうやら輝殿の予感は当たっているでござる。
 あの目を見るでござる。どうやら正気を失っているようでござるよ。」
剣心に言われて5人が子供達の目を見ると、まるで東京などで見たことがあるどす黒い目をしていた。
これが筧の策だと言うのか?と思っている最中に子供達は懐から小刀を取り出し輝達に迫ってくる。
「なっ、いつのまにあんな物を!?」
「ど、どうすればいいの!?この子達に、刀なんて向けられないわ!」
躊躇している剣心達にお構いも無く子供達は小刀を向けたままどんどん剣心達に詰め寄っていく。
逃げようにも沢山の子供達がいてはとてもではないが逃げられようが無い。
このままでは操れられてるとはいえ子供達に命をとられる始末、どうしようもなくなったその時輝は
思わずハッとして、道具袋に手を突っ込んだ。
「こんな時になにしてんだよ!?」
佐之助が輝に注意を向けるも、輝はお構いなしに道具袋をゴソゴソとあさり
「あった!これなら!」
道具袋から水晶玉を取り出した輝は咄嗟にそれを頭上に掲げた。
すると水晶玉は激しい光を放った。すると子供達は力なしに倒れていった。
「ふぅ……なんとかなったみたい。」
輝はホッとして胸を撫で下ろした。そこで薫が水晶玉を見てハッとした。
「それって、根津たちに操れられてた人達を助けた水晶玉ね!?」
「そうか!その手があったんだ!やったじゃん、輝!」
弥彦もそれ見て、安堵の顔を浮かべた。
剣心は倒れた子供達に近寄りその様子を見る。
「うむ……気を失っているだけでござるな。」
「いや、なかなか冴えてますね。」
突然声がしたので輝達はその方向に顔を向けると木陰から下妻町で出会った片目の色が違う高下駄の芸人風の男が現れた。
「……お、お前は……っ!!」
「確か、下妻町の工場で……。」
「覚えててくれましたか。私は筧と申します。
 あなた達は、どうやら相手にとって不足はないようです。もっとも、あの時水晶玉がなければ、
 どうなっていたか分かりませんけどね。」
「……筧っ!!小細工なしで、私と一対一で勝負しなさい!!」
筧の喋りに苛立ちを感じてか輝が痺れを切らして前に出て怒鳴りだした。
「いいでしょう。こっちにも、可愛い弟子をやられた恨みがありますからね。」
筧は何事も無く受諾する。

「いざ、勝負!」
そして二人は構えを取る。4人は思わず固唾を飲み、剣心は平然とした顔をしている。
まず最初に筧が小柄を4本投げ出す、しかし輝は難なく全て弾いた。
その隙に筧は輝に近寄り攻撃を仕掛ける。輝はすべて紙一重で楽々かわしていく。
「くっ!」
筧の攻撃が全く当たらない為彼に焦りの色が見えてきた。
そして一瞬の隙を突いて輝は筧の脇腹に蹴りを決める。
筧は距離を置き脇腹を押さえつつ再び小柄を投げる。勿論これらも輝は弾いていく。
「そんな小柄で私を倒せると思わないで。」
輝は切っ先を筧に向けて挑発する。
「ならば、これならどうですか!?」
筧は飛び上がり輝に向かって下りてくる。
「昧夢舞!」
下駄から繰り出す連続蹴りが輝に襲い掛かる。しかし、またしても軽々とかわしていく。
「剣心の龍巣閃より遅いわよ。
 私を倒すなら、これぐらいの速さの連撃を繰り出したらどう!?」
「!!」
「吉祥の型!!」
輝の得意技であるにも止まらぬ速さで回転して切り裂く吉祥の型が見事に筧に炸裂した。
筧はたまらず5メートル吹き飛んだ。
「強ぇな、輝……。」
佐之助は改めて輝の強さに唖然とした。
「ううっ……や、やはり勝てません……か。」
筧は膝をついてゆっくりと立ち上がる
「観念なさい!」
輝は筧に切っ先を向ける。
「そうはいきませんよ。」
筧は立ち上がった後ゆっくりと歩き出す。
そして倒れている男の子の側によると、なんといきなり素早く男の子を担ぎ出しその子に小柄の切っ先を向けた。
「!!、何をする気なの!?」
「おっと!……動いては困ります。こんな可愛い子供を、死なせたくはないでしょう……?」
「…………!」
輝は眉間にしわを寄せ歯を食いしばる。勿論他の4人も思わず歯を食いしばる。
「その子に何をする気!?」
「私が無事、逃げるまでの間……楯代わりになってもらいます。
 人質がいれば、あなたたちは手出しできないはずですから。」
「くっ……!!」
輝はさらに歯を強く食いしばった。
「てめえ……汚ねえ手使いやがって!」
佐之助が筧に向かって怒鳴りだすも、筧はゆっくりと輝たちから距離を開ける。
「私は、こんなところで倒れるわけにはいかないのですよ。私達の目的の為に。」
「どんな目的だか知らねえが、子供を利用するなんて、許されることじゃねえ!
 正々堂々勝負しろ!」
弥彦が筧に向けて思い切り怒鳴りだした。しかし筧は見向きもしない。
「正々堂々と……ねぇ。ふん。
 つまらないことでギャアギャアと。」
「つまらないですって!?」
「大切なのは手段ではありません。目的こそが重要なのです。
 どんな経路をたどるにしろ、最終的には勝ったほうが正義となる!
 ……それがあなた達の、明治政府のやり方でしょう?」
「そんなの正義なんかじゃない!!思い切り悪よ!!それに私達は明治政府の為に戦ってるんじゃない!
 人の幸せの為、人が安心して暮らせるようにする為に戦っているのよ!神爪の民や剣心達を、政府の狗と一緒にしないで!!」
「そんな青臭い理想論など、何の役に立たないんですよ。」
「なんですってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
筧のこの言葉に輝はとうとうキレだし、飛び掛ろうとするが直前で薫と剣心に押さえられる。
「ダメよ輝さん!」
「待つでござる、今飛び掛ったら、あの子の命が……!」
「放して!私の超神速をもってすればそれぐらい……!!」
剣心と薫が必死に抑えるが輝は一向にきかず暴れ出す。
「そうは、いきませんよ。」
筧が突然男の子を置くと妙な印を描きだす。すると、筧の近くの男の子以外の子供が突然起きだした。
「!!」
これには輝も驚いて暴れるのをやめる。
「なんだぁ?正気に戻ったのか!?」
「……ち、違うわ!この表情はまだ……。」
薫の言うとおり、起き出した子供達はまだどす黒い目のままであった。
「これくらい、水晶玉で……。」
輝は早速水晶玉を取り出し、頭上に掲げようとしたその時
「無駄ですよ。」
筧の言葉に行動を遮られた。
「この子達はまだ、私の呪縛から逃れていない。だから、水晶玉を使おうとしても、また私が起こせば良いだけですからね。
 それとも、あなたの理想論でこの子達を救えますかね?」
「…………!」
「バカヤロウ!何する気だ!?」
「アッハッハッハッハ!」
筧は高笑いをすると再び印を結び出す。すると子供達が一斉に並び出し小刀を輝達に向け出した。
「そ、そんな……やめて!目を覚ますのよ、みんな。」
薫の呼び声も空しく、子供達には全く届かない。
(これじゃあ、私の超神速でも筧を押さえる事が出来ない……)
「チクショウ!これじゃあ、手が出せねえ!」
「水晶玉を使ってもいいのですよ?もっとも、術を破るには、私自身が術を解くか、私が死ぬ……しかありませんがね。」
「チィッ!」
佐之助と弥彦が痺れを切らし飛び掛ろうとしてきた。
「二人とも待って!!子供達の命はどうでもいいの!?」
輝が二人に向かって怒鳴りだした。これに二人は驚きだしハッとして動きを止める。
「輝…………。」
佐之助と弥彦は輝に目をやった。輝の顔は苛立ちとくやしさで苦渋の顔になっていた。
「佐之、弥彦、くやしいの分かるが子供達の命は奴の手の中にある。
 うかつに動いては取戻しがきかなくなってしまうでござるよ。」
剣心は二人をなだめる。
「さすが、分かってらっしゃる。
 子供達の命は確かに私の手の中にあることを忘れないように。おとなしくしてくださいよ。」
「チ……ックショウ!」
佐之助は地団駄を思い切り踏んづけた。
「小さな命の為に、何も出来ない。そんな力が、役に立ちますか?
 結局あなた達には、この子供達すら、救えはしないじゃないですか。」
筧の言葉に苛立ちと怒りを感じつつも輝達は歯を食いしばることしか出来ない。
もしうかつに飛び掛ろうものなら、この子達を見殺しにしてしまうからである。
勿論そんな非人道的なことなど輝達は決して出来ない。
筧は先程の男の子を担ぎ出し再び歩き出す。
「では、この辺で失礼しますよ。そうそう、この子を助けたかったら、北の“皇海山”(すかいさん)へ来ることです。
 甘っちょろい理想が通用するか……、まだ試したいというのならね。」
そして筧は颯爽と輝達の前から姿を消した。
「待てっ!!」
弥彦は筧を追いかけようとするが、先程の操られている子供達に阻止されてしまう。
「うっ!」
「弥彦!」
輝は咄嗟に水晶玉を頭上に掲げ再び子供達を気絶させる。
「ど……どうしたらいいの……。」
薫は倒れている子供達を見てオロオロする。
剣心は何を考えているのか険しい顔つきのまま倒れている子供達を見る。
「剣心……。」
薫は険しいの顔つきの剣心を見て不安な顔をする。
「とにかく、この子達を親の所へ連れて行ってやるでござるよ。」
薫の表情に剣心はいつもの顔つきで答えだした。
「おう!ヤツを追うのは、それからだな。」
佐之助は意気揚々と答えた。


そして輝達は先程の子供達を親元に帰した。……たったひとりを除いて。
「……そうですか、あの男は、わしの孫を人質に……。」
そう、あの助けを求めたおじいさんの孫が、筧の手により人質にされてしまい取り残されてしまったのである。
「ご老人……すまね。拙者たちの力が、及ばなかったばかりに……。」
剣心は申し訳ない顔で頭を下げておじいさんに謝った。
「……いいえ、あなた達を恨みますまい。
 見ず知らずの者の為に、ありがたいと思っていますじゃ……。ううっ……。」
おじいさんの瞳から涙がこぼれ出した。
「おじいさん……。」
「あなた達のおかげで、多くの子供が助かった。
 た、ただ……さらわれた孫が、ふびんでならぬのですわい。
 無事でいるのか…………。今頃、恐ろしい目にあっているのではないかと……。」
泣き崩れているおじいさんを見て輝は彼に近寄って涙を拭い取った。
「大丈夫、あなたの孫は必ず、絶対に助け出します!」
「お願いします……うっうっ。」
涙を拭い取った途端に再びおじいさんは涙を流した。

おじいさんの頼みを聞いて皇海山へと向かおうとした輝達。
しかし、その途中で
「子供達を利用して、何が目的よ!何が勝った方が正義よ!!筧め!!!!」
輝は突然地面に思い切り怒りをこめて拳を叩きつけた。どうやら今までの怒りが募りに募っていたようである。
「輝……。」
そんな輝の様子を4人は同情して見た。
(この怒り……何倍にしてでも返してやる……絶対に!!)
輝はその拳を胸元に上げグッと握り締めた。




あとがき
ゲームをやった事のある方はご存知の通り、“フーディニ”という謎の外国人が出てきてません。
というよりも、フーディニは登場しません(!)
何故ならば作者がそれの嫌いな理由として彼の目的が“謎”ということです。
『なんで今十勇士と一緒にいるんだ!!』っていうツッコミが見るたびに出てきます。
そういことがあるからこそ面白いんでしょうが、作者は好きではありませんので
変わりに風魔という18話で輝に大怪我を負わせた忍びもとい雷魔の弟を起用しました。
名前の由来はフーディニからです。(!)
あと、雷魔の弟ということで強さはほぼそれと同じです。
設定では、今十勇士の一員になろうと真田の命で色々と駆け回っているというのです。(最初は筧ですが次は……?)
次は誰と共に出てくるかは、小説を読んでからのお楽しみです。(笑)
しかし、圧倒的に輝に倒されてしまいましたね。それもそのはず、輝は剣心が言うように成長してるからです。
今の輝であれば、剣心とほぼ互角ではないかと思いますが……強さの順番は剣心が一番であることに変わりません。
やはり、超神速を持ってしても剣心より弱いのは器量の差ではないでしょうか?(剣心より強いのはどうかということもありますし)
……以上であとがきを終わらせます。
いつものように、大きな心と目でこの小説を読んでくださいませ……。m_ _m
あと、輝が見た幻影のモデルは某戦国サバイバルゲームのボスから起用しました。

inserted by FC2 system