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第19話 旅の始まり

「いやああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
朝、神谷道場に輝の悲鳴が上がった。
「!」
「なっ!」
「おろ!」
悲鳴を聞いて各部屋の主は目を覚ました。
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
輝は布団から身体を起こしているが、何故か汗びっしょりで息を切らしていた。
「今のは……一体……?……ううっ……。」
輝は頭を抱える。どうやら何か恐ろしい夢を見たようである。
それが神爪の里の悲劇、いわば輝の過去であることを彼女は思い出せず頭を抱えた。
そのときふすまが開きだし薫が部屋に入ってきた。
「輝さん……大丈夫?」
「…………薫さん。」
「どうしたの?悲鳴なんて上げて、それに……すっごい汗びっしょりよ!?」
「……わからない……けど、怖い夢を見たような気がするの……。」
「夢?なんの?」
「それが覚えていないの……、思い出そうとしてるけど…………いやっ!怖い!
 なんでか知らないけど、怖くて思い出せない!!」
輝は両手を顔に当てて激しく首を横に振った。
「思い出せない……の?どうして……。」
薫が輝の心配をしている最中に剣心が部屋に入ってきた。
「そういうことも、あるでござろうな。」
「剣心……どういうこと?」
薫と輝は剣心の方を向いた。
「夢の中では思い出せても、起きると忘れてしまうのは、きっと思い出が辛すぎるからでござろう。
 心を守るための手段として、無意識のうちに思い出さないようにしているのでござる。」
「そんな……。」
薫はその事に唖然としてしまい再び輝を見る。
「それにしても、薫殿?よく輝殿の悲鳴が聞こえたでござるな。
 薫殿の部屋からは、ずいぶん離れているでござるのに。」
剣心の言うとおり薫の部屋と輝の部屋はかなり離れていた。
剣心の部屋は輝の部屋の隣の為すぐに分かる。どうやら相当大きな悲鳴のようであった。
「えっ、そうね……でも私だけじゃないわよ。」
「?」
輝は疑問の顔を浮かべた。そして薫は違うふすまを開ける。
「わっわっ……どわあっ。」
ふすまに耳を当てていたのか弥彦が開けたとたんにうつ伏せに倒れ出した。
「おろ……弥彦、輝殿を心配して、来たのでござるな。」
輝は不思議な顔をして弥彦を見つめた。当の本人は輝に背中を向けていた。照れ隠しのようである。
「べっ、別にそんなつもりじゃあ……。」
「またまたあ。」
「なっ、何だよ!ホントだぞ!」
弥彦は照れ隠しの為か思い切り薫の言ってることを否定する。
一方輝は夢のことと過去のことを気にしているのか落ち込んでいた。
「それはともかく、輝殿。神爪の里の事はもういいではござらぬか。
 覚えていない過去にこだわる必要などないでござる。
 輝殿は、輝殿の思うように生きれば良いでござるよ……。拙者の言うことが、わかるかな?」
「……それは……わかるわ。……でも、すぐには馴染めない……。」
「まあ、無理に馴染ませる必要はない。ゆっくり、慣れるでござるよ。」
輝に寄り添って肩に手を置いて剣心は彼女を慰めた。
しかし、突然バーン!という大きな音が鳴り響いた。
「な……なんだっ!?」
「表よ!」
それぞれは一旦散会し部屋に戻り武器を取った。そして原因を突き止めるべく即行で着替えた後表へと出た。

表に出た途端根津達3人の姿が門の辺りに立っていた。
「てめえら!」
「根津!海野!結城!!」
「探したよ。神爪の生き残りがいるなら、放っておけない。」
「それにしても驚いたぜ、まさかこんなガキが神爪の民だったとはな。」
4人は武器を取って構えを取ったそのとき
「てめえのがまだ、生きてやがったことの方が、俺にゃ驚きだぜ。」
橋の方向から佐之助の声がしてきて現れた。
「佐之助!」
「どうしてここに!?」
「なんとなーく嫌な予感がしたんでな。そんでいつもより早く目が覚めたんでここに来てみたら
 案の定……ってわけだ。」
「ゴチャゴチャ鳴いてんじゃねえ!今日こそブッ倒してやる!」
根津は挑発的な言葉と共に刀を抜き出した。
「へんっ!やれるもんなら、やってみろ!」
「かかれぇ!」
海野の合図と共に銃を持った男と小柄な男が最初に襲い掛かってきた。
「雑魚なんかに用はねえ!!」
銃を持った男は弥彦の素早さといまだ健在のスリ能力(?)で銃を奪った後投げ捨て素早く面を思い切り叩き込んだ。
小柄な男の方は薫の木刀さばきによって攻撃を受け流し見事に面を決めてやっつけた。
「くっ!」
結城が拳銃を構えて発砲しようとするが突然輝が近づき拳銃を持っていた手を蹴り上げられ銃を弾かれた。
そして一旦輝が離れだした。結城が輝の不思議な行動に疑問の顔を浮かべた時輝は不審に笑った。
すると突然結城の足元で爆発が起こった。
「うおっ!?」
結城は対処が出来ずに火傷を負った。
「蒼紫さんと左近児の痛みを思い知りなさい!火薬の量は加減してあるから感謝することね!」
どうやら輝は炸裂弾を結城の近くに落としたのである。離れたのは爆発に巻き込まれない為である。
重態ではないものの結城は倒れたまま動くのがやっとの状態であった。
「眠ってろ!この野郎!」
そこに弥彦が駄目押しとばかりに思い切り竹刀を結城に叩きつけて気絶させた。
一方根津は佐之助と対峙していた。
「この前の借りを倍にして返してやるぜ!トリ頭!!」
「やれるもんならやってみやがれイレズミ男!!」
「でやあ!!」
激しく刀を振り回す根津。しかし佐之助は攻撃をなんなくかわす。
「遅えんだよ!!」
佐之助の蹴りが根津の脇腹に命中し根津は後ずさりをした後うずくまった。
「へっ!もうおしまいか?」
「うるせえ!これならどうだ!?」
佐之助の挑発に乗ってか根津は包帯を投げつけ佐之助の右腕に巻きつけた。
しかし佐之助は慌てる様子もなく冷静に根津のほうを見る。
「力比べで俺に勝とうなんて、百年早ぇぜ!」
佐之助は右手を思い切り引きだした。すると根津は佐之助の怪力により身体が宙に舞い佐之助の方に引き寄せられてしまう。
佐之助を引くつもりが逆に引かれてしまったのである。
「おらぁ!」
そして近くに来たところで根津の腹に膝蹴りを決めた
「ぐおっ!!」
「おら!おら!おら!おら!おらぁ!!」
そしてさらに鉄拳の乱打を容赦なく叩きつけた。根津はおよそ3メートルくらい吹き飛んで倒れこんだ。
「くっ……。」
「残りはあなただけよ!海野!」
「うるさい!これでもくらえ!秘密兵器だ!」
海野は爆弾を投げつけた。しかし爆弾は爆発する前に剣心に真っ二つに切られ無意味に終わってしまった。
「なっ……!?」
海野はどうしようもなくただ驚くだけであった。
「この逆刃刀は、人以外のものは容赦なく切り捨てる……。」
そして剣心は海野を激しい目つきで睨みつけ
「飛天御剣流、土龍閃!」
「うおおおっ!!」
刀を地面に滑らせ振り上げて発生させたつぶてと衝撃波で海野にダメージを与え吹き飛ばした。
「そして駄目押しの、炎魔の型!」
海野が吹き飛んだ後に輝は炸裂弾を海野に向けて投げ出した。そしてそれは海野の目の前で爆発を起こした。
「ううっ…………。」
「蒼紫さんと左近児の痛み、思い知った!?」
輝は倒れている海野を見下した。
「まったく、エラソーなわりにはたいしたことない奴だな海野って……頭だけの能なしか。
 まるでどっかの誰かさんみたいだな。」
「ううっ……わ、我らは負けられない。十勇士の名に賭けて……。」
「チクショウ……こんなところで……。」
「さ……真田様ーーーーっ!!」
海野が真田の名を挙げた後突然怪しい音が辺りに響き出した。
輝達は辺りを見渡すとその正体を薫が突き止めた。
「あそこ!」
輝達は薫が指差した方に目をやるとそこには緑の黒装束を身にまとい黒い覆面をした男が宙に浮いていた。
男は煙玉を地面に向けて投げ出すと忽然と姿を消した。そして煙が晴れると根津と海野の姿も消えていた。
「きっ……消えた!?」
突然起こった不思議なことに弥彦は戸惑った。
「落ち着けよ!単なる目くらましに決まってらあ。」
佐之助は弥彦を和ませる。
すると剣心が険しい顔をして語り出した。
「それにしても……うかつだったでござるな。海野は“真田”という名を呼んでいた。
 十勇士である以上、奴らを統じる者がいて当然……。」
「真田って、真田十勇士の!?それじゃ、さっきの黒装束男が、真田だったの?」
「わからんでござるよ。」
「それは違うと思うわ。だって、真田って戦国時代の侍、真田幸村のことでしょ?
 あの男は決して違うと思うわ。」
輝は真田に対しての仮説を説いた。しかしそれを佐之助は否定する。
「どうかな……忍装束を着て戦った侍が昔いたんだからそれはどうかと思うぜ。」
佐之助の一言に輝は難しい顔をして考え込んだ。そこに弥彦が根津達のことを剣心に聞き出した。
「あいつら、どこに消えちまったんだ?死んだのかなあ?」
「さあ、それも……。」
「おお、いたいた!捜してたんだぜ。」
“わからん”と言おうとした途端隼人の声が響いた。走っていたのか輝たちを見つけた途端
速度を落とすが勢い余って止まりきれず結局剣心にぶつかってようやく止まった。
「……っと。」
「おろ〜〜〜〜〜〜っ。」
ぶつかられた剣心は何故か輝達の一歩後ろでグルグルとコマの様に回っていた。
しかも険しい表情が崩れて目をグルグル回した間抜けな顔になっていた。
「剣心!」
「大丈夫?」
いつまでもグルグル回っている剣心をようやく輝と薫がピタリと止めた。
「桧ノ山さん、どうしたの?」
薫は隼人の方を向いて言った。
「知らせたいことがあるんだ。東京から北東の渋川町(しぶかわちょう)で、騒ぎが持ち上がっててさ。」
「渋川町?また、十勇士に操られた、お前みたいな奴らが暴れてんのか?」
「違うっつーの、チビ。何でも、化け物が出るとかっていうんだ。
 それで、調べに行った役人とかもみんな化け物にとっつかまったとか……。」
化け物という言葉にみんな疑問の顔をして隼人を見た。
「化け物ぉ?こっちは、何百年の幽霊らしい、十勇士だけで手一杯だってのによお。」
「しかし……それは、放ってはおけんでござるな。」
「そうね。でも、桧ノ山さん?どうして、わざわざ教えに来てくれたの?」
すると桧ノ山は照れ隠しの為かうつむいて語り出した。
「えっ……そ、そりゃあ……輝のこと……あ、いや。輝には……その、借りがあるからよ。
 えーと……」
何故か隼人はもじもじしていた。
「知りたかったろ、こういう情報!」
輝のことが気になるならそう言えばいいのにっていう言葉を飲み込んで4人は隼人をジッと見た。
そして輝はなにかあるとなと思いつつあえて相槌をうつ。
「うん。」
隼人は安心した顔をして再び話し始めた。
「なら、いいじゃんかよ。北東の渋川町だぜ。」
「そうね。でも渋川町って結構遠いわ。道場を留守にして大丈夫かしら?」
「どちらにせよ、ここを知られたからには、もう長居はできんでござる。」
疑問の顔を浮かべる輝を剣心はフォローした。
「……そうね。万が一十勇士が絡むことになるとしても、長い旅になりそうね。」
「ああ。」
とこれからのいきさつを語る中輝は海野が倒れていた所から割符を見つけ出した。
「どうやら十勇士が絡むみたいね。」
「どうして?」
「これよ。」
輝はみんなに割符を見せた。それには下妻町からさらに北の地形らしく今まで持っている割符とつなげると
ピッタリと一致した。
「割符か……。」
「うむ。では渋川町へと行こう、何かわかるかもしれん。」
「ああ!…………飯食ってからな。」
「おろ!?」
佐之助の一言に思わず全員ずっこけた。
(さっきまでシリアスだったのに佐之助の旦那は……。)
隼人は冷や汗をかいて呆れながらボーっと立っていた。

とりあえず朝食を食べ終えた後輝はなにやら部屋で何かやっているようである。
「えっと……血止めのチンキに熊の油、人丹などの薬品はこれで良し。
 財布等の備品と……これで忘れ物はないわね。」
輝はこれからの旅に必要な最低限量の持ち物を確認した後懐に入れた。
「お待たせ。」
門の前にて薫と共に剣心達男性陣と合流した。
「遅えぞ2人とも。」
「女の身支度は時間がかかるの!」
弥彦に向かって薫がスネた顔で言い放った。そこに喧嘩にさせまいと剣心がフォローする。
「まあまあ、とりあえず準備は万端にして行く方が良いでござるから
 あまり急がない方が良いでござるよ。」
「そうね。剣心達の方も大丈夫なの?」
「ああ、それから恵殿からも薬を授かったでござるよ。チンキなどでは補えない怪我や病気の時も
 これで大丈夫でござる。」
満面の笑みで剣心は答えた。
「そんじゃ行くぜ。」
こうして剣心組は隼人が言っていた化け物騒ぎが起こっているという渋川町へと向かうのであった。

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