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第15話 ハスミの里

「はぁ……。」
ここは下妻町。何故か輝はため息をついて塀によりかかっていた。


事はおよそ1時間前……。
下妻町についた剣心組はそこを通り抜け、葉隠山を目指して歩いていた。
…………しかし、突然薫がつまづくように転んでしまった。
「薫さん!?」
「どうしたんだ!?」
輝達は薫達に近寄った。
「ううっ、足が痛くて……。」
「足ィ……?」
「とにかく、薫殿を休ませる場所を探すでござる。」
「わかった!」
「うん!」

数分後、重勝という老人が自宅で薫を休ませてくれるということで輝達はその重勝の家に厄介になった。
「どうもすみません。」
「いえいえ、ホンのお節介ですよ。」
「それで、薫殿は?」
「よっぽど疲れておったのであろう……よく眠っておる。」
重勝の言うとおり、薫は静かな寝息をして眠っていた。
「すまぬな、すっかり世話になってしまって……。」
「なに、気にせんでくれ。困った時は、お互い様じゃ。」
「本当に何から何まで……。」
と輝がお礼を言っている最中に弥彦が激しい足音を立てて部屋に入ってきた。
「薫の具合はどうだ?」
「ええ、足のマメがつぶれただけなんですって、心配しなくても大丈夫よ。」
「チェッ!大げさな倒れ方しやがって……。」
「……大げさで悪かったわね。」
いつの間にか薫は起き上がっていた。そして弥彦のほうを向いた。
「か、薫殿……?」
「薫さん?」
「お前、眠ってたんじゃねェのか!?」
「あんたのうるさい足音で目が覚めちゃったのよ。」
「ほっほっほ、元気な娘さんじゃ。」
「ははは……なにせ、剣術をやっていますからね……。」
輝は薫の元気な理由を説明した。
「それより薫さん、足の具合は……?」
「私なら、もう大丈夫よ。さっき輝さん言ったように普段から鍛えてるからね。」
「……………………。」
薫の顔を見て輝は何故か険しい表情をして考え込んだ。
「輝さん……?」
「薫さん、ちょっと失礼。」
すると輝は突然薫の足を軽く拳で叩きだした。
「痛っ……!!」
薫は痛みと共に苦痛の表情を出した。先程は輝が薫の足が完治してないのに無理をしているのを察知しての行動であった。
「やっぱり……薫さん、無理はいけません!もし無茶をして身体を壊したらどうするんですか!?
 あまり無茶しないで、少しは休んだらどうなんですか?」
「………………。」
薫は黙り込んでうつむいた。
「薫殿……輝殿の言うとおり、あせる気持ちは分かるが、ムリは良くないでござる。」
「……わかったわ。ごめんね、輝さん。」
「ううん……。」
輝は首を横に振った。
「しょーがねーな、葉隠山へ向かうのは薫の足が治ってからだな。」
「佐之にも知らせないと……。」
「佐之助なら家の前にいたぜ。俺が行くから、剣心は薫のそばにいてやれよ。」
「う、うむ……。」
剣心が承諾したあと弥彦は再び激しい足音と共に家を出て行った。
「さてと……それじゃあワシは、隣の部屋におるからな。」
そう言って重勝も部屋を出て隣の部屋へと向かっていった。
部屋は三人だけになった。そんな中輝は退屈そうな表情をしていた。
「………………。」
落ち着きの無い輝を見て剣心は声をかけた。
「ヒマだったら、町へ行くといいでござる。」
「いいの?」
「うむ。……だが、あまり遠くへ行かぬようにな。」
「うん、分かった。」


そして時は今に至る。
町に行っても今は閉鎖した工場とお寺があるだけで他には何も無い為それでも輝は退屈していた。
「薫さんったら、このところ無理しすぎてるわ。一生懸命なのは認めるけど、ほどほどにして貰いたいわ。
 私に助言などをしている人が助言されてどうするんですか!?……よ……はぁ……。」
輝は大きくため息をついた。するとそこに
「おーい!!」
弥彦が大きな声を上げて佐之助をつれて輝のもとにやってきた。
「弥彦、どうしたの?」
「今さっき、スッゲーうわさ話を聞いたんだ!」
「うわさ話?」
「なんでも、この町の近くに“ハスミの里”っていう蓮の花が咲き乱れる夢のような楽園があるらしいんだ。」
「ハスミの里?……なんだか胡散臭いわね……。」
「だろ?そんな楽園が現実にあるか!って俺も思ってたんだ。」
輝が難しい顔をしたとき佐之助も同様の顔をして輝に話した。
「でも、確かめてみる気はあるわ。……“ない”ってことを証明されていないし……。」
「だろ!?だからこそ行ってみようぜ!な?」
佐之助と輝は「う〜〜ん」とうなづいてしばらくした後判断した。
「しかたねぇ、行ってみっか。」
「私も、本当かどうか確認するため行ってみたいと思うわ。」
「よっしゃ!じゃあ決まりだ!剣心にも言っておこう。」

「楽園……でござるか?」
「うん。」
「ウワサじゃ、すげーきれいな場所らしいぜ。な、行ってみよーぜ。」
「楽園探しはいーけどよ。嬢ちゃん1人を、ここに置いていくのは、不安じゃねーか?」
「う〜ん……それはありえますね……。」
薫を1人にさせておくと不安がるのではないかという心配から輝達は困った。そこで剣心が
「拙者は、ここに残って薫殿と待っているでござるよ。」
といって三人だけで楽園探しを勧めたがすると薫が止めに入った。
「だめよ、剣心。剣心も一緒に行った方がいいわ。」
「……薫殿?」
「佐之助や、弥彦達だけで、遠出させるなんて、危険すぎるわよ。それに、いくら輝さんが強くても不安があるわ。
 剣心も、ついていってあげて。」
「……それは、そうでござるが……。」
「チェッ、信用ねえな……。」
そんなに頼りないのかと弥彦はスネた。
「でも、薫さん1人にするのはちょっと……。」
「私なら、大丈夫よ。おじいさんがいてくれるし……。」
薫の言葉に剣心はしばらく考え出した。……そして数秒後答えを出した。
「……では、ちょっとだけ、出かけてくるでござるよ。」
「よっしゃ、それじゃ出かけるとするか。」
「ええ。」
「できるだけ早く戻ってくるでござる。」
「じゃ、行ってくるぜ。」
各々の返事の後家を後にする。その途中に薫が輝に声をかけた。
「輝さん……。無茶はしないでね。」
「ええ、分かってます。」


ハスミの里の前の関所についた一行であったが。
「ここから先は一歩も通さん!」
関守が輝達を門前払いする。関守がいて通してくれないのを輝達は知っていたがどうするかは考えてなかった。
「こいつが関守か……。」
「すんなり通してくれそうには、見えないでござるな。」
「こいつを倒してしまえば、簡単に通れるんじゃないか?」
「それはいけないわ。」
弥彦の答えに輝は首を振って答えた。
「そうでござるよ。必要のない戦いは、できるだけ避けるべきでござるよ。関を守っているのも、何かの理由があってのこと……。」
「それじゃあ、どーするんだ?あきらめて町に戻るっていうのか?」
「それも良くないわよ。だって楽園があるかどうか確かめてないし……。どうしよう?」
輝は困った顔をした。すると
「ここは、拙者が話しかけてみるでござる。あきらめるのは、その後でもできるでござるからな。」
剣心が関守に交渉することにした。
「おぬしは、なぜこの関を守っているのでござるか?」
剣心は交渉を試みた。……がしかし。
「ここから先は一歩も通さん!」
関守は剣心も言葉に耳を傾けない。それでも剣心は交渉を試みる。
「何か、理由があるのではござらんか?」
「ここから先は一歩も通さん!通りたかったら、ワシを倒してから行け。」
「!」
「……………………。」
言葉に耳を傾けない関守に対して剣心と輝は険しい表情をした。
「こいつ……、おとなしく話する気はねえな。」
「ええ、やっぱり戦うしかないわね……。」
「どうした?ここを通りたかったら、ワシを倒してから行くんだな!」
一行のヒソヒソ話にもかかわらず関守は変わらぬ言葉を吐き出した。
「仕方がない。ここは、拙者が引き受けた。」
剣心は逆刃刀を抜いて戦闘体制に入った。

剣心は得意の神速で関守の懐に潜り込み逆刃刀を脇腹に命中させた。
しかし関守の脂肪(筋肉?)により手ごたえがないのを感じてすぐに距離をとった。
関守は剣心に対し腕をブンヅカブンヅカと振り回すも剣心の素早さの前にはまったく攻撃が当たらない。
逆に隙を突かれて剣心の攻撃をくらうばかりである。ダメージは受けているものの全く参る気はない。
仕方なく剣心は一気にケリをつけるべく技を放つことにする。
「飛天御剣流、龍巣閃!」
剣心は目にも止まらぬ乱れ切りを放った。これならいくらあの関守でも耐え切れないと思っていた弥彦であったが
関守は倒れる気配はない。
「なんてタフなんだ!?」
「ならば、これなら!」
今度は関守の振り回した腕をかわしたかと思うと高く飛び上がった。
「飛天御剣流、龍槌閃!」
剣心は逆刃刀を関守の脳天に向けて思い切り叩きつけた。
さすがの関守も脳天直撃には耐え切れなかったのか後ろへと退いた。しかし倒れる気配はない。
「剣心の攻撃を受けて、まだ立っていられるのか……。」
「なんて頑丈なヤツなんだ……。」
「……仕方ない。また出直して来るでござるよ。」
剣心は逆刃刀を鞘に収めた後一行と共に町へ戻ろうとすると
「待て……。」
関守が剣心を引きとめた。
「お前、なかなかいい刀を差してるな。」
「この刀は……。」
剣心は逆刃刀について関守に説明しようとしたが云々言わさず関守は
「……ついて来な。」
そういって門を後に先にある建物へと入っていった。
「行ってみよーぜ。」
「……うん。」
訳もわからない一行であったが、佐之助の一押しもあって一行は関守の後をついていくことにした。

「ワシは、あんたとの勝負に負けた。約束だ、ここを通ってもいいぞ。」
関守はその後何も言わず輝たちに背を向けた。
輝はなにか言いたそうであったが、ここではあえて何も言わず先へと進んだ。

そして目的のハスミの里についた一行であったが……。
「ここが楽園……?」
弥彦が辺りを見渡すとそこは蓮の花どころか名も知れぬ花1つ咲いてなく、ただ雑草と廃屋があるだけであった。
「……ずいぶん寂しい所だな。」
「そうね。……ん?一軒だけ壊れてない建物があるわ。行ってみましょう。」
輝達は一軒だけ壊れていない建物へと向かった。
中を覗くと炉や鍛冶に必要な道具があるだけで他には何もなかった。
「……勝手に入っても怒られないよな。」
「誰もいないのにどうやって許可をもらうんですか?」
「……それもそうだな。」
中を見渡すとなにやら一行は箱をみつけた。中をあけると巻物みたいなものが入っていた。
輝は巻物を開けてみるがそこには訳もわからぬモノが書いてあった。
「……なんだ?いったい何が書いてるのか、さっぱりわかんないぞ。剣心は読めるか?」
弥彦は剣心に問うも剣心は首を横に振った。
「……いや。この書は、特別な暗号を使って書かれているようで、拙者にもちょっと……。
 刀について書いてあるようでござるが詳しくは……。」
確かに剣心の言うとおり書には刀の図が描かれており刀について書かれているものの詳細は分からなかった。
「私でも、ちょっとこれはわからないわ。忍文字(忍者が使う暗号)なら解けるけど……。」
「ならあの関守なら、読めるんじゃないか?とりあえず持って行こうぜ。」
一行は書を手に関守のもとへと戻っていった。

関守のいる建物
「用は済んだのか?」
「ひどく荒れ果てた里であった……。」
「とてもじゃねえが、あれが楽園とは、思えねえな。」
佐之助の楽園という言葉に関守は言葉を発した。
「……あんた達、近くの町でどんなウワサを聞いたのか知らんが、ハスミの里は楽園なんかじゃないぞ。
 刃(やいば)が澄む里と書いてハスミの里(刃澄の里)……あんた達が見たのは、滅びた刀鍛冶の里さ。」
「刀鍛冶の里……。」
輝は関守が剣心の逆刃刀を見て関所を通してくれた理由を納得した。
「そういえば、さっき見つけた古文書にも、刀のことが書いてあったよな。こいつなら読めるんじゃないのか?」
「……そうね。」
そうすると輝は古文書を関守に見せた。
「それは、火焔(かえん)の書だな。その書には素晴らしい名刀の打ち方が書かれているというぞ。
 もっとも、その書を読むことができるのは、行方も知れぬこの里の鍛冶師だけ。ワシにも読むことはできん。」
「里に住んでいた奴等は、どこに行ったんだ?」
「知らぬ……。幕末の動乱で皆、散り散りになってしまったからな。ワシは、里の者達が戻って来る日まで
 この関を守り続けているだけだ。」
関守は首を振って答えた。
「そうだったのかい……。」
一行は関を守っていた理由を聞いて納得した。
「あんた達、火焔の書を持って行くつもりか?」
「いや……この書は、いつの日か、ここに戻ってくる鍛冶師の物。この関で大切に守っているのが一番でござろう。」
「ええ。それに、私たちにも解読できませんしね……。」
「読めないんじゃ、持っててもしょうがねえもんな。」
「お返しいたします。」
輝は関守に火焔の書を渡した。
「……おっと、そろそろ戻らねえと、嬢ちゃんが待ちくたびれちまうぜ。」
「そうでござるな。」
「……帰るんだな。」
「ええ。」

「里の者達が早く戻ってくるといいでござるな。」
「……ああ、ありがとうよ。」
「じゃあな。」
一行は関守に別れを告げた後下妻町へと戻っていった。
関守が里を守っていた理由、それは火焔の書を解読され屠るために刀を作られることを防ぐ為だったことと理解してもいいだろう。
しかし、関守は輝たちを通してくれた。それは心の澄んでいる人だからであると理解してのことである。

こうして一行は下妻町の重勝の家に戻ってきた。
「お帰りなさい。遅かったのね。」
薫は布団から起き上がった。
「薫殿、足の様子は……?」
「もうすっかり平気よ。前より身体が軽くなったみたい。」
「よかったですね。きっと今までの疲れも取れてるからですよ。」
「そうだったの!?……私ってばそんなに疲れてたのね……。」
輝の言葉に薫は驚きの表情をみせた。
「これからも、あまり無茶をしないでね、薫さん。」
「わかったわ。輝さんが言うならそうするわ。」
「それじゃ出発するか。」
「ええ、でもその前におじいさんにお礼を言わないと……。」
「そうでござるな。」
一行は家を出る前に隣の部屋にいる重勝にお礼を言うことにする。
「どうもお世話になりました。」
「いえいえ、どうってことは……うっ!」
重勝が起き上がろうとした途端苦痛の表情を出した。
「どうしたんですか!?」
「こ……腰が痛い。」
「腰?」
「これから倉庫にある荷物の整理をしようと思ったんじゃが……この通り腰が痛くて荷物を整理することができないんじゃ。
 そこで……。」
「分かってます。代わりに荷物の整理をやってくれないか?ですね。引き受けました。」
「おい!輝!」
佐之助が輝をつっこむが輝はお構いなしに話を続ける。
「いいじゃないですか、薫さんの世話してくれた恩返しを兼ねてということで。」
「しかし、輝殿1人ではきついでござろうから、拙者も手伝うでござるよ。」
「剣心まで……ったくしゃーねーなあ、俺も手伝うぜ、でねーと嬢ちゃんに何言われるかわかんねーからな。」
「じゃ、私はおじいさんの看病をするわ。弥彦、あんたも輝さんたちを手伝いなさい!」
「へいへい……。」
弥彦は不満そうな顔をして言った。

それから輝達は2時間くらいで整理を終え、重勝から駄賃として600銭ももらったそうだ。
そしてようやく一行は葉隠山へと足を運んでいくのである。
果たして神爪の里はあるのか?そして輝との関係は明らかになるのか?全ては葉隠山にあるだけである。

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