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「……………さん。」
「…………。」
「…………輝さん。」
「……んっ……。」
「輝さん。」
薫の呼び声に輝は目を覚ました。
「輝さん、おはよう。」
「あっ……うん……、おはようございます……。」
輝は眠けまなこをこすりながら薫に挨拶をした。
「輝さん相当疲れてたみたいだったようね。もう朝の9時よ。」
「えっ?もうそんな時間なんですか!?」
いつもなら誰よりも早起きの輝であったが、今回限りは違うようである。
「無理もないわよ。昨日の蒼紫との戦いでの疲れが溜まってたんでしょ?
 部屋に着いた途端いきなりお布団にバタ!って倒れちゃったから。」
「そうなんですか……。」
「それより、朝食にしましょう。弥彦も佐之助も待ってるわよ。」
「あっ……はい。」

第10話 意外な仲間

一行は先日、新座村での鬼婆騒動を解決し、村長の家で一晩を過ごした。
朝食を済ませた後、一行は村長さんの家を後にし、茂原の森へと向かうのであった。
「行くというのなら、止めはせんが…気をつけて行きなされ。」
「はい、ありがとうございました。」
「またいつの日か、ここに遊びに来てくだされ。」
村長たちは輝たちを見送りした。
「さて、行きますか。」
「その前に、道具屋で準備を調えてから茂原の森へ向かいましょう。」
「おう。そうだったな。」
一行はまず道具屋で傷薬などを買い準備を調えた。

茂原の森に着いた一行は、穴山のアジトへ向かう途中弥彦に3人は昨日のいきさつを話した。
「蒼紫が!?」
「そうなの、根津や穴山のことを調べまわっていたみたいなの。」
「詳しいことは不明だけどな。……で、その後が驚いたんだ。」
「何だ?」
「解毒薬について教えようとしねえ蒼紫に、輝が突っかかってきたんだ。」
「ええっ!?マジかよ!?」
「『腕づくで聞いてもらう』ってダイタン行動もしたんだぜ。蒼紫に挑むなんて肝が張ってるのに
 しかも、あの蒼紫を負かしちまったんだぜ。たいしたモンだぜ、輝はよう。」
「マジかよ!?あの蒼紫を負かしちまうなんて……。」
弥彦もやはり驚きを隠せなかった。そして輝は、あの時のことを話し始めた。
「勝つか負けるかはわからなかったんですけど、今思えば驚いてます。
 あの時は、無我夢中でしたから……。」
「ひょっとしたらオマエ、俺たちの中で一番強いんじゃねえのか?」
「う〜〜〜ん………………そうかもしれない……。」
輝は今までに自分が行なった戦闘を思い出して結論してみた。しかし、自信のない返答であった。
「ま、何で強いかは置いといてだな、ちっとは自分に自信をもったらどうなんだ?輝?」
「でも……。」
「『自信過剰は己を滅ぼす』ってことかしら?……確かにそうかもしれないけど、ここは佐之助の言うとおりに
 したらどう?」
「う〜ん……、薫さんがそういうなら…………そうしておこうかしら?」
「うん!その調子よ!」
薫は輝を元気付けさせた。多少輝は自分に自信がついたようだ。
「たまにはいいこと言うもんだな、佐之助も。」
「俺はいつもいいことしかいわねえよ。」
「ホントか?」
「ホントだ!おちょくっとんのか!?」
「「まあまあ、ふたりとも……。」」
いきなり喧嘩腰の弥彦と佐之を輝と薫は仲裁する。
そんなこんなで、穴山のアジトへと向かうのであった。

穴山のアジト
「いよいよだな。」
「ああ!落とし前ってヤツをつけてやるぜ!」
みんな穴山を目の前にして気合十分で部屋の中へと入っていく。
中には穴山と小糸がいたが、百鬼の姿はどこにも見当たらなかった。
「穴山!!」
「!!お前たち、どうしてここに!?」
穴山は自分達のアジトにやってきた輝たちに驚いた。自分達しか知らない場所をどうやって探り寄せたんだと
慌てるばかりである。
「それは、こいつが答えさ。」
弥彦は懐から割符を取り出し、穴山達に見せてやった。
「そ、それは俺の割符!……キサマ、いつのまに!?」
「落とし前ってモン、つけさせてもらうぜ!!」
「おのれぇ!!叩きのめしてやる!!野郎ども!!」
「おう!!」
穴山の掛け声と共に大勢の部下達が現れた。

「ザコは俺達が引き受けるぜ!」
「わかった!穴山は任せろ!」
「穴山様には、指一本触れさせません!」
小糸が穴山の前に立ち、輝たちの行く手をさえぎる。
「この人は私が抑えます!」
「おっし!頼むぜ輝!」
輝は小糸と、佐之助は穴山と戦うのである。
「は!、やあ!、たあ!」
「くっ!」
輝の刀さばきに小糸は持っていた懐刀で対応するも防戦一方であった。一方佐之と穴山の戦いは一進一退である。
「くぬ!」
「おっと!」
穴山の槍裁きは巨漢に似合わぬ速さであったが、佐之助にとってかわせないものではなかった。
「せい!、おりゃあ!」
「ぐわあ!」
「やあ!はあ!」
「うおっ!?」
一方穴山の部下どもを相手している薫と弥彦はなんなく蹴散らすのであった。
輝と小糸の戦いはもうすぐ終わりを見せようとしていた。
「どうあがいても勝てないわ!覚悟なさい!」
「……っ!」
小糸は輝に向けて扇を投げ出した。
(!、目隠しね!)
その後ドスッという鈍い音がした。
「!?」
しかし、小糸が刺したのは丸太の大木であった。
「これは!?」
「摩利支の…型よ!」
「ううっ!!」
輝の峰打ちが激しく小糸にさく裂し、小糸はうずきながら静かに倒れた。。
一方佐之助は
「でえい!」
「へっ!、おらあ!!」
「ぐっ!!」
穴山の攻撃をかわし、その隙で穴山に正拳を命中させた。
「大振りで攻撃すっから、スキができんだよ!」
「おのれ!これでもくらえ!!鯨逐槍(げいちくそう!)」
「……だから、甘えんだよ!!」
「!?」
穴山の槍は佐之助に受け止められてしまった。穴山は槍を抜こうとするが、佐之助の怪力によって抜くことができなかった。
「伊達に斬左(ざんざ)の名を名乗ってたわけじゃねえぜ!!」
「ぐお!!」
佐之助はすかさず蹴りを放ち、そして
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁ!!」
激しい乱打を穴山にさく裂させた。
穴山はたまらず体制を崩した。
「まだだ!今までのは輝と、嬢ちゃんと、弥彦の分!……そしてこれは、俺の分だ!受け取れ!!」
「ぐおぉ!!」
さらに佐之助はダメ押しとして強烈な正拳を穴山の顔面に命中させた。
「くっ!おのれ!百鬼さえいてくれればこんなやつなど……。」
「それは、こいつのことか?」
「!?」
部屋の入り口の方からいきなり声がし、皆が振り向くとそこには百鬼を鷲づかみでかかえた蒼紫がいた。
「四乃森蒼紫!」
「百鬼!」
佐之助は蒼紫の登場に驚き、穴山は百鬼のやられざまに驚いた。
「人の耳元で、ギャアギャアとうるさかったのでな……。」
「キサマ……許さん!我らの同志を……。」
穴山は小刻みに体を震わしたあと蒼紫に斬りかかるが、蒼紫はなんなく攻撃をかわした。
「おまえに俺は倒せん。」
そして蒼紫は穴山を斬りつけた。
「うう……そ、そんな……我ら……いま……じゅうゆう……の……。」
穴山はわけもわからぬ言葉を残し倒れた。
「穴山様!し、しっかりしなさって、穴山様!」
「…………………………。」
小糸は穴山に駆け寄った。穴山の切り傷はたった一撃とはいえひどいものであった。
その後蒼紫は何も言わず部屋を出て行った。
「あ……っ。」
薫は状況がつかめず困惑するだけであった。
「…………。」
「輝!」
輝は蒼紫のことが気がかりなため駆け足で蒼紫の後を追いだした。薫達も輝の後を追った。

アジト入り口付近にてもうすぐ出る所で
「蒼紫さん!」
輝の声が後ろからした。
それに気付いてか蒼紫は足を止め輝の方を振り向いた。
しかし、蒼紫は何故か黙っている。しばらくして薫たちもやってきた。
「あの……どうして、百鬼を?」
「関係ないと思うのにどうして……。」
「……ヤツらには、最強の名はふさわしくない……。」
「えっ?」
「……ひとりごとだ。それより、ヤツらにはまだ、仲間がいるのか。」
「あ……、ええ。割符の地図に、アジトらしい場所がいくつか……。」
「んなこと知って、どうしよってんだよ。」
蒼紫の言葉に佐之助は疑問の顔を浮かべた。すると蒼紫は意外な言葉を発した。
「……しばらく同行させてもらう。」
「「ええっ!?」」
「マジかよ!?」
「どーいうこってえ!?」
同行するという言葉に4人は驚いた。まさかかつて敵対(?)していた蒼紫がついてくるのだというからだ。
特に輝は、前に戦ったことがあるので複雑な心境であった。
「ふん……好きで同行するわけではない。穴山とやらの仲間を、これ以上のさばらせておく気がせんだけだ。」
「あーん?よくわんねえな。」
弥彦は蒼紫の言葉を全く理解できなかった。
「……でも、いいじゃない。元御庭番衆がいてくれれば、心強いわ。輝さんもそう思わない?」
「……思いますけど…………、複雑な気持ちです……。」
「……そう思っても構わんが、あまり深入りしすぎないことだな。
 お前たちとは奇縁だが、これも縁のうちだ。よろしく頼む……。」
「……ホントに妙な縁だぜ……。」
こうして4人に、蒼紫という意外な者を仲間に加えた。
「ところで、他にアジトらしきものとはどこにあるのだ?」
「……割符によりますと、霊山って所です。」
「多分、由利って人が関係していると思うのですが……。」
「由利……。」
「どうしたんですか?」
「……他にもいるのか?」
「……あと根津って人が、町の人たちを操って騒動を起こしたことがあったんです。
 事件の方は、蒼紫さんにとっては関係ないものですけど……強いてあげられるのはその人です。」
「根津……、穴山……、由利……。」
蒼紫はこれまで輝たちがかかわってきたことに関係する人物について考え始めた。
しかし、しばらくしても蒼紫から答えは出なかった。
「……まだわからんな。」
「何がですか?」
「……それより、今霊山に行けるか?」
「はい。道具等は整ってますので、今すぐにでも行けますが……。」
「……ならばその霊山とやらに向かおう。なにか分かるかもしれん。」
「なにかって、なんなんだよ!」
佐之助は蒼紫に突っかかってきたが、蒼紫は当然相手にしない。
「佐之助!今は蒼紫さんの言うとおりに霊山に向かいましょう!怒っても答えは出ませんよ!?」
「うっ……。」
輝の怒り声に佐之助はおとなしく黙り込んだ。
「早く行きましょう。蒼紫さんが考えてたことがわかるかも知れませんから。」
そう言って輝はアジトを出て行った。残る4人も出て行ったが、佐之助だけは冴えない表情をしていた。
「まったく、あいつはヤツらの名前を挙げて何考えてやがんだ?」
「佐之助、いつまでも気にしてたらキリがないわよ。」
「けどよ。」
「じゃあ、なんで輝に反論されたとき黙り込んだんだよ?」
「……なんか説得力あったからな……、女狐(恵さんのこと)のときよりなんかこう……抵抗しちゃいけねえって感じがしたんだ。
 それに剣心と同じくれえ剣幕してたから……討論のしようがねえんだ。」
「そういえば輝さんって、剣心に似てる所があるわね……。」
「だよな……違うトコっといやあ、しっかりしてて世話好きみてえなトコだな。」
「ああ……。それにしても、なんであいつは輝と話してやがんだ?」
一方輝は何故か蒼紫と対等に(?)会話をしていた。
内容はやはり輝のことであった。どうやら蒼紫は輝に興味があるようだ。
「なにも思い出せないのか……?」
「……はい……。」
「いずれにしろ、俺と互角以上に戦うことができるとは……。」
「自分でも驚いてます。……なんでこんなに強いのかわからないんです。」
「そうか……。」
「でも、臆するわけにはいかないんです。私が今できることをやるのが、私の使命みたいなものなんです。」
「…………………………。」
蒼紫は黙り込んだ。輝は、もうこれ以上蒼紫と話すことはないだろうと察知してか口を止めた。
「それにしても、よく蒼紫にあわせて会話できるなあ。」
「そうね、剣心でもなければ不可能なのに……。」
そして一行は、霊山へと向かう。果たして、輝たちを待っているのは……なに?

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