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遠くの空が朱に染まっている。
夜明け前の澄んだ空気を切り裂く悲鳴。
叫んでいるのは誰……?
せき立てられる背中越しに見たのは、
すべてを失う予感。
恐ろしくも美しく懐かしい最後の記憶……。

それは、惨劇であった……
とある隠れ里が、何者かに襲撃されそこに住んでいた者すべて惨殺されたのであった


時は明治…
とある町に一人の少女が徘徊していた、歩き方はフラフラしていた。その少女は赤い袴に白の装束を羽織り
朱色の髪をしたおかっぱ頭だが何故か耳もとだけは髪を伸ばしている容姿端麗の少女である。
そんな彼女が町を彷徨っていたその時……
「いてぇっ。おっと、お嬢ちゃんよ。まさか、このまま素通りってこったあねえよな?」
「えっ?」
不良の一人とぶつかってしまいその3人に絡まれることになってしまった。
少女はどういうことなのか分からなかった。
「慰謝料だよ、慰謝料。黙って払やあ痛い目には遭わせないからよ。」
「慰謝料……」
そんなものは持っていないしあっても払えない金額を要求されるだろうと思った少女は
何されるのか分からない恐怖に怯えいる…。
「おっ、よく見りゃなかなかの上玉(じょうだま)じゃねぇか。」
ひとりの不良が少女に近寄ってきた。
「慰謝料の代わりに、俺らにつき合うってのはどうだ?へっへっへ。」
「……いや!」
少女は恐怖のあまり不良たちを振り切って逃げ出した
「待ちやがれ!」
不良は少女を追いかけ追い詰めようとしたその時、一人の男が少女と不良の間に割り込んだ
その男は朱色の着物を着ており左頬にはバツ印の傷跡があり腰には何故かこの時代では違反ともいうべき物
刀を差していた。
「なんだ、てめーは。」
「関係ねえヤツァ、引っ込んでろいっ!」
「そうはいかぬ。でかい図体で、婦女子を追い回すなど男の風上にも置けぬ奴等。
 おとなしく去れば見逃してやるでござるよ。」
(…ござる!?)
少女は男の独特な口調に戸惑った。
「なんだとォッ!」
不良は男に殴りかかったその時、男は刀を抜き、不良を切り裂いた。
「う……?」
そしてなんと不良の着物の袖が切れた、不良には切り傷一つしてないが「う、うわああっ!」
男の気迫と強さに恐れをなして逃げていった、ほかの二人も逃げていった。
(!?、この人の刀…刃と峰が逆さま…!)
少女は男の持っている刀に驚きを隠せなかった。普通の刀と違って刃と峰の位置が逆であった。
「大丈夫でござるか?」
男は刀を鞘に納めた後少女に話しかけた。
「……」
少女は男の言葉に我に戻り後ずさりをした。すると男は
「いや、拙者はただの流浪人(るろうに)。怪しい者ではないでござるよ。
 この辺りは、あまり治安がよくないゆえ、よければ送ってしんぜよう。そなた、名は?」
「……(この人、目が澄んでる…前の人は違う…。)」
少女はしばらくすると安心したかのように男に……
「輝(ひかる)……神崎輝(かんざきひかる)」
自分の名前を言った。
「そうでござるか。で、家はどこでござる?」
「私の……家……。」
輝は自分の家が何処なのか考えてたその時
「……うっ!!」
突然輝に頭痛が走り、頭を抱えた。
「輝殿!?大丈夫でござるか。」
「いやっ!来ないで!」
「待つでござる!」
輝は頭痛に襲われたせいか男の手を払い逃げていってしまった。
「なんと悲しい目をしているのだ……。」


るろうに剣心〜吉祥天の化身〜
第一話 出会い

ここは、東京、鎖国時代は江戸と呼ばれていた地であった。
ここを通る人はいつもと変わらぬ日々を送っていた……ただ一人を除いて……。
(どうしよう……あまりの怖さにあの人から逃げてしまった……悪い人じゃないのに……と言っても、私の家が何処にあるのか
 わからない……本当にどうしたらいいのかしら……?)
輝は東京の街を彷徨っていた。歩いてる最中に足元のチラシに気がつき、それを拾い、見渡した。
チラシにはこう書かれていた。『おいしい牛鍋はいかが!?みんなの牛鍋屋赤べこ』
ちなみに牛鍋とは今で言うすきやきのことで明治元年に流行った文明開化の食べ物である。
輝はその後お腹に手を当てた。
(そういえば、さっきからお腹がなりっぱなしだわ。300銭しか持ってないけど
 とりあえず何でもいいからお腹に入れないと……)
そう思いながら輝はチラシの地図を頼りに赤べこへと向かっていった。

赤べこ店内
「やーい、このドブス!」
「なんですってぇ!」
入ってきた途端いきなり騒がしい喧嘩が店内で起こっていた。
ドブスと言われている女性はそうは見えない、というよりも輝ほどの上玉で水色の着物を着ててポニーテールであった。
それに追いかけられているのは輝よりも背の低い、年からして8歳ぐらいの男の子であった。
「このぉ!」
「おっと!」
「え!?」
「「きゃああっ!」」
男の子を捕まえようとした女性は勢い余って(?)輝とぶつかり倒れこんでしまった。
はたからこの店の従業員の二人がやりとりを見ていてそれを心配そうに見ていた。
「何やってんだよ、薫(かおる)。ったく、トロイなあ。」
「こンのォーーーー!」
と女の人は起き上がって男の子を再び追いかけようとしたが
「薫さん……」と従業員の女性が関西弁の口調で薫が倒れてた方を指差した。
「……っと、いけない。」
薫と呼ばれている女の人は苦笑いしながら輝のほうを向いて「ごめんなさい。大丈夫?」と声をかけた。
「ええ…なんとか……。」
輝はゆっくりと立ち上がった。
「あっ、怪我してんじゃねぇか。」
「ホントだ。」
男の子が輝を見てそうつぶやいた。確かに輝は冒頭では気付かなかったが何者かに襲われたみたいな怪我をしていた。
「え?……いっ!」
輝は自分の体に目をやりそれに気付くと苦痛の表情を浮かべた。
「なんだかものすごく痛そうです……。」
従業員の女の子が輝の傷を見て怯えて二十代後半のくらいの先程関西弁で話してた女性の後ろに隠れてしまった。
それを見た薫と呼ばれる女性は突然「ねえ、うちの道場に来てくれませんか?傷の手当てくらいならできるし。」
と輝に声をかけた。
「そんな……。」
輝は断わろうとしたが……
「大丈夫よ、薫さんはいい人やで、そんな怖がらなくてもええって。」と従業員の女の人に後押しされた。
輝は薫と呼ばれる女性の顔や目をよく見た、そして「……わかりました、お願いします。」と承諾した。
「よかった。じゃあ、早速行きましょう。あんたも来なさい、弥彦。」
「チッ、しょうかねえなあ。」
弥彦と呼ばれる男の子は渋々薫と呼ばれる女の人と輝の後をついて行くのであった。

薫と呼ばれる女性の道場 住居スペース(?)
「これでもう大丈夫よ。しばらくは、少し痛むかもしれないけどね。」
薫と呼ばれる女性に傷薬やら包帯やらをされて、輝の傷の処置は完了した。
「そういえば、名前聞いてなかったわね?なんていうの?」
「輝です……神崎輝。」
「そう、輝さんっていうのね。」
輝の自己紹介をやった後女性は薬箱をタンスの上に置き始めた。
「えーと……。」
「私は神谷薫(かみやかおる)。こう見えても、神谷活心流(かみやかっしんりゅう)道場の師範代を勤めているの。」
「といっても、他に門弟がいるわけじゃねぇけどな。」
「弥彦!うるさい!」
突然の漫才のような二人のやりとりに輝は苦笑いしてしまった。
「所で、神谷活心流ってなんですか?」
「私の父が開祖した活人剣の流派なの。」
「そうなんですか……。」
輝は思わず感心した。
「所で、これからどうするの?」
薫が輝に問うと輝はどうするか分からない為うつむいてしまった。
しばらく考えて薫は「そうだ。怪我が治るまでうちにいなさいよ。いつもうちにいる食客が今ちょっと出かけているし、部屋も
空いてるの。」と持ちかけてきた。
輝は迷惑になるかもしれないと思って断わろうとするが「そうしろよ。」と男の子に声をかけられ言葉をとぎられてしまった。
そして「でも、いっとくけど、薫のメシはメチャクチャまずいぜ。それだけは覚悟しとけ。」と後押しされた。
「弥彦!そんなことより、あんたも自己紹介しなさい。」
薫は男の子に向かって怒って言った。
「おう!俺は東京府士族明神弥彦(みょうじんやひこ)、よろしくな。」
「偉そうにしない!」
偉そう態度をしたが為弥彦は薫に怒鳴られてしまった。相変わらず輝は苦笑い。それを見ていた薫は気を取り直した。
「遠慮なんていらないんだから。ねっ、決まり!いいでしょ?」
「……とりあえず、お世話になります。」
輝は薫に向かっておじぎをした。
「よかった!じゃあ、ゆっくりしてってね。」
こうして輝は薫と弥彦のもとで神谷道場に居候することになった。


そして迎えた夕食時。
食卓には輝が先に座っている。それからしばらくして弥彦がやって来た。
「輝、今からでもいいから赤べこで食べた方がいいぞ。」
「何で?お金をかけないで済むのに……」
「お待たせ!」
薫が料理を運んで現れた。そしてちゃぶ台に料理が並べられた。
内容は白米、焼き魚、大根の味噌汁、漬け物である。
「それじゃあ、いただきます!」
輝は焼き魚に箸をつけそれを口に運んだ。
「!?」
「輝さん?」
輝は笑顔とは言い難い渋い顔をした。
「……(不味い!……でもお腹すいてるからここは我慢して食べないと……)」
しかし輝は顔色を悪くしながらも薫の作った夕食を食べる。痩せ我慢しながら……。
「無理すんなよ輝……顔色悪いぞ。」
「…………。」
薫は輝のことを心配しながら自分の料理のことにうつむいていた。
(次からは私が作ろうかしら?)
輝は心の中でそう思った。

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