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第8話 人間の力

レオン、セリス、そしてエルリック兄弟はレオンの仕事部屋にてくつろいでいたがエドだけは退屈そうであった。
なにせスキラでの事件から3日間波風立たずに過ぎていった為今まで緊張してたのに拍子抜けしてしまったからである。
「ホントに来るのか?あのオッサン……。」
エドは頬杖をついたままため息をついてレオンに聞いた。
「……きっと来る。軍に……そして……、エドに復讐する為に必ずネムダは来る。」
「軍や俺ならともかく、なんでレオン大佐の所から攻めるんだ?それなら焔の大佐の東方司令部を先に
 攻めりゃいいのに……いくら軍人でもあのオッサンと関わっていないのに……。」
エドのぼやきに対してレオンはあっさりと答えだした。
「……いや、私もマスタング同様にネムダのことに関して調べていたからだ。」
「「!!」」
意外な真実にエドとアルは驚いた。
「どういうことなんですか!?」
「ヒースガルドがキメラにより滅ぼされたのは知ってるな?
 我々も、そのことを調査してたんだ。……極秘にね。
 そして突き止めた結果は君たちの存じてる通りだ。そして我々もネムダの鎮圧に加勢したんだ。
 だから、私たちにも恨みを持っているんだ。」
「う〜ん……。大佐のことだから恨まれて当然だろうな……。」
レオンの性格やネムダがやったことを振り返って考えるとエドは納得した。
そしてしばらくすると……電話が鳴り響き、レオンは颯爽とそれを取った。
「私だ。……!、どうした!?何があったんだ!?」
驚愕の声に反応して3人はレオンの方に注目する。彼の表情から何やら慌しい雰囲気をかもし出している。
「……化け物だと!?」
「「「!?」」」
「それで状況は……。」
そしてしばらくすると全てを聞いたのか、レオンは険しい顔をしたまま受話器を元の位置に戻した。
「大佐……?」
セリスは不安げな顔をしてレオンを見る。
「瘴気が出た鉱山跡から化け物が現れた!スキラからさらに西方面で交戦中の模様だ!」
「村人達は?」
「事が片付くまで町にある仮設住宅に避難しているから大丈夫だ。……急ごう!」
「そうだな。ネムダがいるかもしんねぇし……。」
エドは拳で手をパンと叩いた。
「現場にはヘレン少尉らが向かっている。そこで合流することになる。そして念の為中央にも連絡を入れたそうだ。」
「とにかく急ごう!奴らを町に入れさせるわけにはいかない!」

スキラの西のほうでは、激しい銃声と爆発音が響き渡っていた。
4人がそこに着いた時には既にもう激しい戦いが始まっているのである。
状況は一進一退の攻防である、レザニアに配備されている軍人達は人数は少ないもののレオンに選ばれた精鋭である為
そう簡単にやられることはないが、長期戦となれば全滅は時間の問題である。
「軍曹、状況は?」
「依然変わりません。数は減っているのですが……。」
「そう簡単にはいかないってことか……。」
エドは腕を組んで呟き出した。
「こうなったら私も本気でいかないとまずいわね。」
セリスは拳を作りグッと握り出した。
「いいの?そんなことしたら、セリスの正体が……。」
「背に腹は変えられないわよ!」
「そういうことだアルフォンス。……いくぞ!!」
アルの心配を振り切りレオンとセリスは颯爽と剣を手にとって走り出した。
「ちょっと大佐!セリス!」
呼びかけるも既に遅し、2人は既に遠くの方に行っていた。
「……セリスの奴、腹を括ったのか?」
「恐らくそうでしょう。」
エドの疑問にアスナが複雑な顔をして答えだした。
「それよりも、我々も行きましょう!ヘレン少尉達を支援しなければ……!」
「そうだな……詳しいことは後にして…………、行くぜ!!」
エド達もレオン達を追うように走り出した。

そのころ戦場では、ヘレンとマッシュが中心となって軍を指揮していた。
ヘレンはライフルを駆使し、マッシュは棒術で魔物達を蹴散らしていった。
しかし、数が多い為なかなか減らないので状況はまったく変わる気配が無い。
「クソッ!なんて数だ!」
「とにかく頑張るのよ!大佐達が来るまでなにがなんでも踏ん張るのよ!」
2人は横に並んだ状態で構えを取っていた。
「そうだな、弱気になってちゃ大佐に怒られますからね!でやぁ!!」
マッシュは駆けながら棍を振り回し次々と魔物達を倒していく。
一方ヘレンも見事なライフルから弾丸を発射し一匹ずつ倒していった。
しかし依然にアスナが言ったように次から次へと現れる為状況は変わらなかった。
「キリがねぇぜ!!」
「このっ!このっ!このぉ!!」
ヘレンもライフルを撃ち続けて倒していくのだが、途中でガキッという音が鳴った。
「!……しまった!こんなときにジャムるなんて……!」
へレンが気配を感じふと振り向くと一匹の魔物が爪を立ててヘレンに飛び掛ってきた。
「ヘレン少尉!」
マッシュがヘレンを助けようと駆け込むが、どう早く走っても間に合わない。
もうダメだ!と思ったときグサッという鈍い音が魔物の後方から聞こえた。
そして魔物は倒れこんだ。その背中には1本のナイフが刺さっていた。
さらにその方向から、レオンとセリス、そしてアスナの3人が走ってきた。
エルリック兄弟も僅かに遅れながらも合流してきた。
「大丈夫か!?ヘレン少尉。」
「はい。アスナ軍曹が投げナイフで助けてくたから……。」
ヘレンは安堵の顔をして答えた。
「よくやったな、アスナ軍曹。」
「すごいわね、走りながらでも正確に標的に向かって投げられるのね。
 私なんて走りながら標準を定めるのってできないわよ。」
レオンとヘレンはアスナを褒め称えた。しかし当の本人は冷静である。
「批評は後です。今は現状をなんとかするのが先決です。」
アスナはなりふり構わず構えを取った。それを聞いてエドとレオンは賛同した。
「そうだな。」
「ああ、蹴散らしてやるぜ!」
エド達は構えを取り魔物達に向かって飛び掛った。ヘレンの方も銃の詰まりを解消させてから構えを取った。
「はぁっ!!」
エドは両手を叩いて地面に手を置いて突起物を錬成して一気に魔物達に攻撃を仕掛ける。
魔物達は突起物により吹き飛び次々と倒れていった。
「やあ!せい!」
アルは力を使って一匹の魔物を投げ飛ばし複数の敵にダメージを与えつつ倒していく。
「おらおらぁ!!」
マッシュはなんと棍を身体と共に回転させ複数の魔物をどんどん豪快に倒していく。
「今度はジャムらせないわよ!くらえっ!!」
ヘレンも精密な射撃で数体の魔物達にを致命傷を与えて次々と倒していく。
「こう広いと、魔術の力を大いに発揮できるわね!」
セリスは両手を胸の前に供え早口で詠唱を始めた。
「エクスプロード!!」
掛け声と共に放たれた火の玉は魔物の大群の中心に落ちると大きな爆発を起こした。
半径10キロくらいに被害を及ぼすほどの恐ろしくも激しい爆発であった。その為大量の魔物達が倒された。
それを見たレオン達は思わず仰天の顔を浮かべた。
「す……すげぇ……。」
「魔術師って、こんなにすごいんだ……。」
「危険視されるのがよく分かるッス。」
エルリック兄弟とマッシュが特に驚いたようである。
「けど、大佐の方もすごいわよ。」
ヘレンは平然とした顔でエドに向かって言った。
一方レオンの方は剣を抜いて構えを取ったまま深呼吸をすると。
「ならば私も……、烈・風・剣!!」
掛け声と共に剣を横に振ると、なんともの凄い衝撃波がレオンの前方にいる魔物達が広範囲にまとめて吹き飛んだ。
数はセリスの魔法には僅かに劣るものの威力は申し分なかった。
そしてエドはそれを見て、もはや呆れててなんともいえない表情をした。
「すごいけど…………もう、なにがあっても驚かねぇ……。」

そして戦況は一方的にレオン率いる軍が優勢であったが、大半の敵はセリスが魔術で倒している。
残りがあと僅かになったところでセリスは何故か不振な顔をした。
(おかしい……総攻撃のようだけど、それにしても数が少ないわ…………………………まさか!!)
セリスはハッとしながら襲ってきた魔物を剣で切りつけて倒した。そして彼女は町の方面へと走っていく。
「何処に行くんだ!?」
エドがセリスを呼び止めるが振り向きもせず彼女は走り続ける大声でこう叫んだ。
「ここの敵はおそらく陽動よ!違うの方から邪気を感じたの、それも町のほうから!」
「「「「!!」」」」
「なんだって!?」
思わず全員驚愕の顔をする。ならば急いで戻らねばとみんな思っているのだが、残った魔物達がそうさせてくれなかった。
それでもなんとか倒していくが、このままでは町は危ない状況である。
「くそっ!このままじゃ……。」
「私ができるだけ足止めをします!みなさんはここの敵を頼みます!……フライウイング!」
「おい!セリス!!」
掛け声と共にセリスが大きく跳躍すると、彼女は地に落ちずそのまま上空へと上昇し町のほうへと飛翔していった。
空も飛べるのかよ!?っとそれをみて内心思ったエドは表情を変えず魔物達を甲剣で倒していった。
どうやら本当に何があっても驚かないようである。

そしてエド達がヘレン達と合流してから1時間ぐらいが経過して、エド達は魔物達を全滅させた。
「ようやく終わったな。」
「ええ。」
安堵の笑みを浮かべるエド達であったが、レオンだけは険しい顔をしていた。
「だが、肝心の指揮をしている者がいない。」
確かにどこを見渡しても指揮者らしき者の姿が見当たらなかった。
そして一台の車がエド達のもとにやってきた。そして車から一人の軍人が降りてきた。その人もレオンの部下である。
「た、大佐大変です!」
「どうした?」
「ま……町の外れに……化け物が……。」
「「「「「「!!」」」」」」
6人はその言葉を聞いてセリスの言ったことが確かであることを確信した。
「それで、状況は?」
「今までは残っていた我々だけでは対処できなかったんですが、突然空から女の人が現れてたった一人で応戦してます。
 しかも不思議なことに炎の竜巻を起こしたり、手から光を放ったりして化け物達を蹴散らしているんです。」
「そうか分かった!君は町に戻って市民の安全を確保してくれ。」
レオンは部下に命令したが、その部下はポカンとした顔をしてレオンを見た。
「…………あの?」
「どうした?」
「驚かないんですか?」
「彼女のことは既に知っているからな。……それよりもみんな、早くセリスと合流するぞ!」
「ああ!」
「うん!」
「了解です!」
「了解。」
「了解ッス!」
各人が各々の返事をした後この場を後にした。取り残された部下は唖然として前を見ていた。
(知っているって……一体?)
「どうした!?」
「あっ!いえ、了解しました!」
部下はレオンに呼びかけられてハッとした後返事をして敬礼した。

一方一足先に町に向かったセリスは街路に着地した後町外れの金鉱跡へと走って向かっていた。
しかしその途中の道に大量の魔物達がいる為進めずにいた。
彼女はどうやら町外れの金鉱跡にも魔界への入り口があったことを認知した。流れ出る瘴気がその証拠である。
「さっきは瘴気がなかったのに、どうして?」
魔物達はゾロゾロとセリスに向かってくる。
「ともかく、何とかしなくては。」
そしてセリスは颯爽と呪文の詠唱を始めた。
「炎の精霊よ、紅蓮の竜巻を築きすべてを焼き払え!フレアトルネード!!」
炎の竜巻を起こしそれが魔物達を襲い焼きつくした。
「フィアフルフレア!!」
今度は空から大量の火の玉を落とし遠方にいる魔物も倒していくのだが、倒しても数は減ってるがまだ多い。
「まだまだぁ!!シャイニングブラスター!!」
両手から光線を放ち一直線上に立つ魔物達も倒していくが状況は変わらなかった。
「くっ!エクスプロードなんかが使えればこんな奴ら一気に倒せるのに……。」
確かにエクスプロードの様な強大な威力の魔法を使えば一気に魔族達を蹴散らすことが出来る。
しかし、それと引き換えに当たりに多大な損害を与えてしまうからである。
今セリスがいる所は町中の路地、広いとはいえない場所なのでしかたなくフレアトルネードなどの中級魔法を
駆使して対応しているのである。
時には近寄ってくるモノもいるがそれらに対しては剣を使って撃破していった。
「ともかく、エド達が来るまでに足止めをしなくちゃいけないのに……なんなのよこの数は!?
 せいっ!やあっ!イラプション!!」
愚痴をこぼしながらもセリスは剣と魔術を駆使して魔物達を倒していった。
ちなみに先程放った魔法はマグマを起こし地面を噴火させ、魔物達を焼き尽くした後地面は元に戻った。
しばらくしても状況は変わっていなかった。エド達もなかなか来ず魔物の数も大して減らない。
それでもセリスは疲れた様子も無く戦い続けていた。そして呪文を唱えようとしたその時突然彼女の目の前に突起物が現れ
魔物達を一掃していった。
「!?これは……。」
「さすがは魔術師ですな。しかし、我輩も負けてはおられん!」
セリスの後方から聞いた事のある渋い男の声がしたのでその方向に振り向くとなんとアームストロングがいた。
何故か彼は上着を脱いでいた。そしてポージングをする。
「セリス殿の魔術にも引けを取らぬ我がアームストロング家に代々伝わりし、格闘錬金術!とくと見よ!!
 ぬうぅぅぅぅぅん!!」
その後思い切り地面に拳を叩きつけるとグローブに描かれている錬成陣が反応し大量の突起物を錬成し
大量の魔物達を撃破していった。
「アハハ……ある意味すごいわね……ハハハ…………。!!」
セリスが呆れ笑いしてる最中に今度は大きな爆発が起こりセリスは思わず防御の姿勢をとった。
「さすがは魔術師、自然界の力を取り入れることができることはある。
 だが私も、炎の扱いに関しては負けていられん。」
今度は右後方から若い男の声がした。それはさらりとした黒髪でその髪が額にかかっているせいか童顔に見えるが
目は鋭く光っていて両手には錬成陣が描かれている手袋をはめていた。
セリスは初めて見るため誰なのかは分からないが彼こそがレオンの親友でもありライバルでもある男。
“焔の錬金術師”の異名を持つ国家錬金術師ロイ・マスタング大佐である。
マスタングは歩きながら右手をパチンと弾き魔物達を次々と大量に撃破していった。
(この人がレオンの言っていた“焔の錬金術師”か……。)
セリスは思わずボーっとした。その途端、銃声が鳴り響いた。
その後ドサッと言う鈍い音がセリスの近くで鳴り出した。
セリスは音のした方を見ると地面にはインプが倒れこんでいた。
「大佐に見惚れてる暇は無いわよ、まだ事は片付いてないから。」
今度は聞いた事のある女性の声がした。セリスがその方向を振り向くとそこにはホークアイが銃を構えていた。
「ホークアイさん!」
3人はセリスのほうに近寄ってきた。
「よく一人でここまで戦えたわね。」
「ええ……でも、まだやれます!」
ホークアイに向かってセリスは元気に返事をした。
「しかし、無理は禁物だ。ヴァルスト達が来るまで私達も助太刀するが、いいかね?」
「いいですよ。えっと……」
「おっと失礼。私は東方司令部所属のロイ・マスタングです。」
「“焔の錬金術師”……でしょ?レオン……大佐から聞いたわよ。」
セリスの喋りに何故か間が抜けていた。
「さっきの間はなんなのか気になるが、まあいいだろう。……知ってるなら話は早い。
アームストロング少佐の報告にあった瘴気と呼ばれる空気が町外れの金鉱跡から流れているのだろう?」
「ええ、もしかしたら策士を行なった者がいるんじゃないかって思うんです。」
「なるほど。確かに無策な者にしてはよくできた作戦だといえよう。
 だが私達が来たからには好きにはさせない。行くぞ、少佐、中尉、セリス。」
「了解しました!」
「了解!」
「うん!」
ホークアイとアームストロングは敬礼しセリスは相槌を打って答えた。
そしてすぐさま散開し、魔物達の撃破に当たった。
アームストロングは豪腕から放たれる拳と先程の突起物の錬成でホークアイはライフルを駆使し
マスタングは焔の錬成で次々と魔物達を倒していった。
そこでは既に銃声、突起物が飛び出す音、爆発音と魔物の断末魔が辺りに鳴り響いていた。
「フィアフルフレア!!」
またしてもセリスのフィアフルフレアが魔物達に炸裂した。
「いつみてもすごいわね、魔術って。」
戦いながらセリスの様子を見てたホークアイが呟き出した。
「まったくだ、彼女が味方で良かったよ。あんな美しい女性が敵だったらと思うとゾッとするよ。」
ホークアイの呟きを聞いてマスタングもそう呟き出した。
そして魔物が大分減っていったが、先には進めずにいた。
「くそっ!なんて数だ、キリが無い!!」
それでもマスタングは炎を錬成し次々と撃破していく。
しかしそんな最中でマスタングの頭上にてギャーという不気味な泣き声を感じた。
「!」
マスタングが頭上を見渡すと、なんとガーゴイルが奇襲をかけてきた。
急いで炎を錬成し迎撃を試みるが翼が生えている魔物には避けれられてしまう。
そして爆発はガーゴイルのいた所とは違う所で起こった。
「くっ!」
「大佐!……っ!!」
ホークアイはマスタングを助けようとライフルを構えるが魔物の爪が彼女に襲い掛かってきた
なんとかライフルで防ぐも結果として妨害されてしまった。
「いかん!…ぬぅ!?」
アームストロングもマスタングのピンチに気付くもサイクロプスの拳に妨害されてしまう。
セリスの方も大量の魔物を相手にしている為マスタングの危機に駆けつけることが出来ない。
もはや絶体絶命………………と思っていたその時
銃声が鳴り響き、一体のガーゴイルが重力に従うように地面に急降下しそのまま衝突した。
「!?」
何が起こったのか分からず一時混乱するマスタング。
残ったガーゴイルは片方がやられた為一時怯み出した後再び急降下を開始しようとしたが
1つの影がガーゴイルに飛び掛りそれと交差した。影が地面に着地するとガーゴイルは見るも無残に
バラバラに切り裂かれ、地面に肉片がボタボタと落ちていった。
「ロイ大佐!大丈夫ですか!?」
「!?」
マスタングは声がしたほうを向くとそこにはライフルを構えたヘレンがいてその隣にはエルリック兄弟がいた。
ライフルの銃口には煙が立っていた。
「いい腕してんじゃん、少尉!」
エドがにやけた顔でヘレンを褒める。
「これぐらいまだまだです。ホークアイ中尉には及びません。」
ヘレンは険しい顔のまま返事をした。
「ルーカス少尉に、鋼の……ということは。」
ヘレンの隣にいるエド達を見たマスタングはエド達がいる方の反対側を見た。
そこには先程ガーゴイルを倒した影が膝を地面につけたまま着地に1本の剣を持っていた。
影の正体は、マスタングと同じ軍服を着て、マスタングと同じ階級章を両肩につけている者もとい、レオンであった。
「相変わらず急接近されると弱いな、ロイ。」
レオンは立ち上がりマスタングの方を向いた。
「やはりレオンか、すまない助けてもらって。」
「礼には及ばん。今はこの状況を妥協するのが最優先だ。」
「そうだな。」
「いくぞ、ロイ!」
そして瞬時に2人は同じ方向を向きそれぞれ烈風剣と炎を繰り出し向かってきた魔物を撃破した。
「戦いを手早く終わらせるためにはやはり……。」
「指揮している者を潰すことだな。」
「だが、肝心の奴は向こうにはいなかった。」
「こちら側のが怪しいということだな。」
「……あのさぁ、俺達を差し置いて話を進めないでくれないか?」
エドが2人の間に割り込んだ。
「やぁ、鋼の。相変わらず君の行く所に必ずトラブルが起こるものだな。」
「いえ、今回の騒動の原因は私のご先祖達の不始末です。エドは巻き込まれただけです。」
マスタングの言い分にエドはキレそうになるがセリスがエドをなだめる様にして代弁した。
「セリス……。」
エドは思わず唖然とした。
「しかし……。」
「マスタング、今はどうこう言ってる場合ではない今はこの場をどう凌ぐかが問題だ。」
「……そうだな。早くこの始末を着けなければ犠牲者が出る。
 味方は我々だけではない、東方司令部や中央などから援軍も来ている。彼らと共に蹴散らすぞ。」
「ああ、行くぞ!!」
レオンの掛け声に全員頷いた後すぐさま駆け出した。

寄せ集めで来た軍人達の活躍によって魔物の数は次々と減っていった。
そのペースは大昔にあったたった数人の魔術師による魔物の大量撃破のようである。
魔物撃破にあたっている軍人はレオン、ヘレン、マッシュ、アスナ、マスタング、ホークアイ、アームストロングの
先程の7人だけでなく、ロス、ブロッシュ、ハボック、ブレダなどエド達が知っている人達ばかりである。
戦いの様子はまるでイシュヴァール鎮圧作戦のような激しい様子であった。
しかしそこと違うのは相手が人間ではないことだ。その為アームストロングやレオンは躊躇無く叩き潰したり
切り落としたりしている。
「ぬぅぅぅぅん!!」
「チェストォォォ!!」
豪腕が唸り、剣が鋭く炸裂、炎と銃撃の連係。そしてしばらくして町に侵入してきた魔物達はたちまち全滅した。
「よし!後は町外れの金鉱跡に待ち構えている異形だけだ!」
「皆の者町の方は頼む。我々はレオン達と共に指導者の撃破に向かう。」
マスタングの命令に軍人達は一斉に敬礼をした。
「俺達も行く!」
エドがレオンに声をかける
するとレオンは
「ああ。その代わり無茶はするな。」
レオンはすんなりとした顔で返事をした。
「よし!行くぜアル!」
「うん!」
「ちょっと、私の力も必要でしょ?だから私も。」
アルの返事の後セリスが声をかける。
「そうだな。魔術の力はこの戦いにおいて絶対に必要だ。いいな?ヴァルスト。」
「ああ。その代わりセリス。」
「?」
「無茶はするな!それだけだ。」
「……うん。」
セリスはレオンの忠告に対して静かに返事をした。

エド、アル、セリス、レオン、マスタング、ホークアイ、アームストロングの7人は
町の外に残っている魔物達を蹴散らしながら金鉱跡に向かって駆け出していた。
そして、金鉱跡までおよそ1km先まで来た所で集結している魔物を確認した。
その時向こう側から
「何をやっている!さっさとレザニアの奴らを蹴散らさんか!!」
と聞いた事のある中年くらいの男の声がした。
「この声……となると……。」
「セリス!」
「うん。ファイヤーストーム!!」
「烈風剣!!」
それに向かってセリスは魔法、レオンは技、マスタングは炎を同時に放つと共にホークアイの銃が同時に炸裂した。
その後空いたスペースの先から囚人服を着ているが見知った小太りの男がいた。
「っ!!」
男は突然の出来事に驚いて戸惑っている。どうやらかなりの小心者のようだ。
「やはり貴様か、ネムダ!!」
レオンはネムダに向かって思い切り怒鳴った。
「ここであったが百年目!アルモニとヴィルヘルム教授が味わった苦しみ、百倍にして返してやるぜ!!」
エドは咄嗟に両手を叩いて地面に置き槍を錬成しネムダに切っ先を向ける。
「こ……小僧にレオン!貴様らだけではあの大軍は無理のはず……何故だ!?」
「おあいにく、こっちには魔術師という強力な助っ人がいるからな。」
エドは険しい目つきでネムダを睨む。
「ま……魔術師だと!?」
「ホント大したものだよ。だが、彼女の力だけでは蹴散らせないから我々も戦ったんだ。
 我々が魔物達を蹴散らしたのは魔術師がいるからではない!人間達の力が1つになったからだ!」
「そしてその力は、いかなる障害も乗り越える。」
「魔族の力を借りて私達を倒そうとしたみたいだけど、人間の力を甘く見すぎたようね。」
レオンの言葉に続いてマスタングとホークアイが追い討ちをかける。さらにホークアイは銃口をネムダに向ける。
一方ネムダは歯軋りをした。
「ウヌヌ……だが私にはこの力が残っている!くらえ!!」
ネムダは右手からファイヤーボールを放つが、あっさりとレオンの剣によって弾かれてしまった。
「くっ……これでもくらえ!!」
今度は激しい光を放つもセリスがプロテクションを発生させて防がれた。
「ぬるい魔力ね、私なんかとは比べられないわよ。」
「ぐっ……ならば……。」
再び魔術を使おうとしたがその直前にパチンという指を弾く音がした。
「うおっ!?」
マスタングが錬成した炎がネムダに炸裂したのである。
「やかましい!お前のくだらん手品は見飽きた。」
そしてマスタングは再び炎を錬成した。今度は前よりも激しい炎の為ネムダは火だるまと化した。
「ぐわあぁぁぁ!!」
「あっけないな……。」
火だるまと化したネムダをマスタングとレオンは見下す。
「すまないな鋼の、君もネムダに一発入れたかったんだろう?」
「ああ!……全く、躊躇無くやっちまうんだから……俺達の立場って何なんだよ!?」
エドは頭を抱えて不満な顔をして答えた。
「しかし、これでネムダもようやく終わりですな。」
「ああ、愚かな奴だったよ。本当にいなくなって清々したよ。」
「よし、町に戻るとしよう。」
ネムダの成れの果てを背に軍人が歩き出そうとしたその時
「待って!」
セリスが突然声をあげ制止する。
「どうしたセリス?」
レオンが振り向いて問う。
「ネムダの身体から強力な魔力を感じるわ!
 何か、嫌な予感がする。」
「嫌な予感?」
「まさか……そんなこと……!」
セリスの予感はまさに的中した。軍人達が振り向いたその時ネムダの成れの果てだったモノが突然起き出した。
「なっ!?」
「黒コゲになっているのにまだ生きているのか!?」
軍人達が驚く中ネムダは目を怪しく光らせた。
「ぐ……ぐおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ネムダは雄叫びを上げると今度は真っ黒になっていた身体が弾き出されそこからは不気味な色の皮膚が現れ
仕舞いには身体が大きくなりガーゴイルの翼のようなのが生えた。
異形と化したネムダの身長はおよそ、大人の平均身長の2倍くらいあった。
「なっ、何?何なのこれ!?」
「ガンツの時といい、何が一体どうなってるんだよこれ!?」
信じられないできごとにエルリック兄弟は驚くしかなかった。
ガンツのときの変化は両腕が異様な物になっていたが、今回の場合はネムダの全身が異形に変化した。
その為これはどういうことなのかまったく理解できないのである。
「分からないわ!でも、来るわよ!!」
異形と化したネムダは大きく拳を振り上げ、そして降ろした。
全員は散開し攻撃を避けるが地面は大きくえぐられた。
「くっ!」
ホークアイはすかさず銃を撃ち放つ、しかし弾丸は強靭な腕に防がれてしまった。
「銃が通用しない!?」
「ならば!」
今度はマスタングが炎を錬成しネムダに攻撃を仕掛ける。
放たれた炎は何故かネムダの目の前で爆発を起こした。
「!?」
煙が晴れるとその光景に驚かずにいられなかった。なんと片手から光の壁が現れていた。
炎はその壁により阻まれてしまいネムダにはダメージを与えられなかったのである。
「今までの私と思うな!」
ネムダは不適に笑う。それに対しマスタングは歯軋りをする。
「…………っ!」
「マスタング、セリスの魔術ならプロテクションを破りつつ奴に致命傷を与えることができる。」
レオンがマスタングに声をかけた。そしてマスタングはハッとした。
「そうか!……だが、強力な魔術は長い詠唱が必要になると聞いている。」
「それなら私達で時間を稼げばいい。」
「……単純な発想だが、それ以外に方法はなさそうだな。」
「ああ。少佐、中尉、エド、アル、そしてセリス……頼む。」
そう言ってレオンはエド達のほうを向いた。
「了解した。」
「そうね、そうさせてもらいます。」
「言われるまでもねえ、ここはセリスに託すしかねえからな。」
3人が返事をした後に続いてアルも無言で頷いた。
「出来る限り早口で行なうわ!」
「頼むぞセリス!みんないくぞ!」
レオンの一言と共に6人は一斉にネムダに向かって走り出し、それと同時にセリスは詠唱を始める。
ネムダは次には両手を頭上に上げ、そこから大きな火の玉を錬成し出した。
そしてすぐさま放たれた。しかしそれをレオンは烈風剣で破壊する。
破壊された火の玉は空中で凄まじい爆発を起こし消えたが、それはとてつもない威力であることを6人は悟った。
もしこれが地面に直撃していたら町に被害が及んでいたであろう。
固まって行動していてはマズイと察したあとすぐさま6人は散開した。
まず最初にホークアイがライフルで攻撃をする。しかし以前の通り全く通用しない。
次にマスタングの炎がネムダに向けて放たれる。炎は先程同様光の壁によって阻まれてしまった。
遠距離からの攻撃が通用しないと判断し残った4人は四方から攻撃を仕掛けた。
まず最初にアームストロングが前方でネムダに向かって拳を突き出し、それと同時にネムダも拳を突き出した
拳と拳がぶつかり合い、互いに一歩も譲らぬ展開と思われていたその途端
左手から放たれるファイヤーボールを間近で喰らってしまい、思わず彼は間合いから退いた。
「少佐!……のヤローーー!!」
エドは怒りに身を任せて突撃し槍で斬りかかるもネムダに受け止められそのまま槍ごと放り投げられた。
その後受身を取ったエドはすかさず地面に手を置きハンマーを錬成した。
「アル!使え!!」
「分かった!」
アルはハンマーを手にし、ネムダ向かって振り回す。しかしまたしても攻撃を受け止められてしまう。
驚くアルを尻目にネムダは空かさず攻撃を放つ。アルはハンマーを使って受け止めるが激しい衝撃がハンマーから伝わった。
最後にレオンが剣で斬りかかるものの光の壁により阻まれてしまう。
しかし彼はめげずにエド達と共に攻撃を続けるが状況は一進一退である。
一方セリスは呪文の詠唱を続けている。まだ長い詠唱の為かなり強力な威力であることが認識できる。
ネムダはそれに全く気付かずエド達に攻撃をしていく。そして……
「みんな、離れて!」
セリスの掛け声に反応して6人はネムダから距離を置く。
「シャイニングバスターーーーーー!!」
掛け声と共に両手から放たれた激しい閃光はネムダに向かって飛んでいく。
ネムダは咄嗟に両手から光の壁もといプロテクションを放ち光を懸命に防ぐ
しかしセリスの放った魔法はかなりの威力を誇っている為ずるずると押されていく。
そして、大きな爆音と共に爆発が起こった。
6人はその衝撃から身を守るために防御態勢を取った。
「やったか!?」
衝撃波がやみ6人が目を張ると……ネムダは両腕を失い、身体はもはやボロボロの状態になっていた。
「くっ……、最強の力を手に入れたこの私が……こんな小娘に…………。」
「言ったはずだ、人間の力を甘く見るからこうなるんだ。」
レオンの言葉にネムダは身体を大きく振るわせる。
「……ありえん、……こんなことなど……………絶対にありえーーーーーーーん!!!!!!!!。」
ネムダは雄叫びを上げると体中から錬成反応の光が立ち上げられた。
そしてなんと、失われた両腕が再生し、ボロボロだった体がたちまちに治ってしまった。
「なにっ!?」
「再生した!?」
「しつこい奴だぜ!」
セリスは先程はなった魔法での魔力の消費が激しかったものの余裕の顔をしている。
「大丈夫かセリス?」
「うん、まだやれるわ。」
そして再び一斉攻撃を仕掛ける。
ホークアイとマスタングの攻撃は先程と同様光の壁に塞がれる。
「普通に攻撃してちゃダメだ!こうなったら……。」
エドが5人の方に顔を向けると全員は何かを察してか無言で頷いた。
エドとアルが攻撃を仕掛けネムダの隙を作る、そして攻撃を避けながら続けた連係により
ネムダの注意は完全にエルリック兄弟に向いた。
ネムダの右腕が大きく振りかぶり、エドの向かって振り下ろされた。
攻撃は避けられるも地面には再び大きな穴が開く。
そしてネムダの目線が攻撃を避けたエドに向けられ、エドに向かって攻撃を仕掛けようとした途端
「今だ!!」
エドの掛け声と共にアームストロングとレオンが間合いを詰め、ネムダに拳、剣の順番に炸裂した。
拳はネムダの鳩尾に直撃し、剣は胴体を切り裂いた。そして、その後すかさず距離を置くと
ホークアイの銃、マスタングの炎、セリスのシャイニングバスターの順番にそれらがネムダに炸裂する。
しかしネムダは再びボロボロになった身体をまたしても再生する。
それでも挫けずエドが再び攻撃を仕掛けるが、今度は槍を掴み取られる。
「なっ!?」
「エド!」
レオンはエドを助けるべく槍を掴んでいたネムダの右腕を切断しようとするが左腕が襲い掛かる。
「ヴァルスト!」
マスタングは指を弾いて炎を錬成しネムダの攻撃を食い止めた。そしてレオンはネムダの右腕をズバッと切り裂いた。
切断された腕は地面にそのまま落下するものの切られたところからすかさず腕が生え再びレオンに襲い掛かる。
「くっ!」
レオンは剣で攻撃を受け止めるも、その衝撃は鉛を受け止めるかのごとく重く感じた。
その後至近距離から烈風剣を放って距離を置くもののネムダは動揺することもなかった。
「大丈夫か?レオン。」
「ああ。……それにしても、なんて腕力だ!アームストロングのパンチの10倍くらいはある。
 とても筋力トレーニングを怠っている者の腕力じゃない!」
「でも、なんでそんな腕力をネムダは身につけたんでしょうか?」
「来るぞ!!」
エドのセリフの後にネムダが襲い掛かってくる。
7人はすかさず散開して攻撃をかわすもまたしても地面に大きな穴が開いた。
まずエルリック兄弟が左右から攻撃を仕掛けるが、ネムダは右手で槍を平手で、左手でハンマーを受け止める。
「!!」
そしてネムダはエルリック兄弟を思い切り武器ごと放り投げた。
「うわぁ!!」
「うわっ!!」
放り投げられた二人は身体を地面に思い切り叩きつけられた。
「エド!アル!」
「なんて反射神経なんだ!?これではネムダではなく、とんでもない化け物と戦っているようだ。」
「見たまんまですけどね。」
「こうなれば私も、本領発揮といくか!」
レオンは剣を構えてネムダに向かって突っ込みだした。
当然ネムダはレオンに向かって腕を思い切り振りまわりレオンを迎撃しようとする。
「大佐、あぶねぇ!!」
エドの静止の掛け声も無視してレオンはそれでも駆け出していく。そしてネムダの攻撃がレオンに当たろうとすると……
なんとレオンはそれを紙一重でかわした。
「!?、当たっ……た!?」
「いや、良く見て!」
攻撃が当たったように見えたがレオンは次々と繰り出される攻撃を全て表情1つ変えず紙一重でかわしていく。
「みんな紙一重でかわしている……なんであんなことができるんだ?」
「鋼は知らないのだな。あれがヴァルストの強さの要である“見切り”だ。」
「見切り!?」
マスタングの回答にエドは驚愕の表情になる。
「相手との間合いを読み、あらゆる物理的な攻撃を全て数センチくらいの感覚であけてかわす
 武術において極めとなる技だ。」
「それなら師匠から聞いたことがある。僅かでも恐怖を感じると感覚が狂って攻撃が当たっちまうから
 そんな簡単には修得出来ないんだってさ。さすがに師匠はそれはできないけどな。」
「うん、さすがに師匠も『無理だ』って言うね。」
「君の師匠がどんな人かは知らんが、見切りはヴァルスト以外で使えるものは恐らくいないだろう。
 しかもあいつの見切りは普通じゃない、何故なら全てミリ単位でかわしている。
 “死”という恐怖を乗り越えたが為になせる技だ。」
マスタングの言うとおりレオンは全て攻撃をミリ単位でかわしている。距離はおよそ1ミリから2ミリ程度で
はたから見れば当たっている様に見えるが実際には全く当たっていない。
そして次の攻撃をかわした瞬間
「もらった!」
一閃が炸裂しネムダの右腕を切り落とした。
苦痛の雄叫びを挙げるネムダにレオンは躊躇無く連続で斬りつけた。
そして切り裂かれた腹部から紫色のような色をした怪しい石のようなものが露になった。
「!、あれは!!」
セリスがそれに気づくもののすぐに腹部は再生してしまい石のようなものは隠れてしまう。
「大佐、腹の中の石みたいなのを切って!それが弱点よ!」
「腹の中の石?」
レオンはそう言われたあとネムダの腹を切り裂くと、さっきと同じように紫色のような怪しい石が腹から現れた。
(これか!)
そう思った瞬間突然エドがその石に向かって槍でそれを突き刺した。すると石は真っ二つに割った。
するとネムダは断末魔を挙げて石がパリーンという音を立てると共に身体が朽ち果てた。
「エド!?」
「へっ、大佐にばかり良いカッコさせねえよ!」
エドはニヤリとほくそ笑む。
ネムダが倒れたせいか辺りは今までの騒がしさが嘘の様に静まり返っていた。
(教授……アルモニ……仇は取ったぜ……。)
「哀れな奴だったな、悪魔に魂を売ってまで復讐をなそうなど。」
「ええ。」
レオンの言葉にホークアイが頷いた。
「!」
しかしその直後にセリスが何かを感じ取ったのか表情が引きつった。
「どうした?……!」
突然エド達の近くで光の柱が起こった。
光が消えるとそこからホークアイくらいの背丈がありローブを纏いフードを被り顔全体を覆う仮面を着けた人が立っていた。
「なんだ!?コイツは?」
「見たところ人間のようだが……。」
エド達はそれに対して警戒する。
すると人らしきものはネムダの成れの果てに近づき印を結ぶ。すると……

ピカッ!!!!と
小さいながらも激しい光が現れた。
するとネムダの成れの果てから何か光のようなものが人らしきの者に向かっていき
頭の高さまで来ると光はパッと音を立てて消えていった。
「!!」
それを見ていたセリスは驚愕の顔を浮かべた。
「どうした?セリス。」
「……同じだわ。」
「?」
エド達は全員セリスの方を向いた。
「同じって?」
「5年前に父さんの魂が消滅した時と同じ光景なの。」
「!!」
全員思わず驚愕の顔を示した。
「それってつまり、冥界石錬成の為の禁術じゃあ!?」
「だが、それは人間には使うことができない禁断の魔術と本に載ってたはずだが!?」
「そうよ。人が決して使ってはいけない禁忌の一つよ。」
「となるとあいつは……」
「人型の魔族か魔族に味方する人間、というわけだな。」
エドとマスタングは構えに入った。
「おい!おっさんはあんたの仲間じゃなかったのかよ!」
エドは人らしきものに向かって啖呵を切った。
「仲間?なんのこと?」
人らしきものから悲痛な答えが来たが、声の感じからして若い女性のようである。
「我々はただ、コイツ(ネムダ)を目的の為に利用しただけ。
 目的の為に倒してくれて感謝するわ。」
「感謝だと?ふざけるな!!
 てめぇの為にネムダを倒したんじゃねぇ!!」
そう言っていきり立ったエドが槍を片手に女性に向かって飛び掛り槍を突き出した。
しかし、女性が左手をかざし光の壁を作り攻撃を防ぐ。
攻撃を弾かれたエドは空かさず受身を取り両手を叩いた後地面に手を置き突起物を錬成する。
突起物が女性を襲うが光の壁に遮られ全く通用しない。
「エド、魔術に錬金術は敵わないわ!!」
セリスがエドに向かって忠告するもエドは聞いちゃいないのか再び地面から突起物を錬成する。
もちろん光の壁に遮られ突起物の先端は砕け散った。
「もう!エドったら、何で聞かないのよ!!錬金術師より魔術師のが強いのに……!!」
セリスは頬を膨らませて怒り出した。自分に代わればいいのに、魔術師と錬金術師では核が違うというのに
と彼女は思っているからである。
そこでセリスが痺れを切らし両手を胸の手前にかざし呪文を詠唱し始めた。
「光の精霊よわが力の基に集約し、邪悪なる者を貫く光と化せ!!」
詠唱が終わると両手から激しい光が轟きだした。
「エド!!離れて!!!!」
セリスの怒鳴り声に反応したエドが一瞬だけ彼女に目をやり光が目線に入ると女性から距離をとった。
「シャイニングバスターーーーーーーー!!!!!!」
構えて出した両手から激しい閃光が人に向かって飛んできた。
女性が光の壁で閃光を防ぐがあまりにも強い威力なのか後ろに向かって女性を押していく。
「くっ!!」
女性は残していた右手を左手と共に並べる。すると押していた勢いがピタリと止まり出す。
「なんて魔力なの!シャイニングバスターを受け止めるなんて。」
セリスも女性も一歩も引けを取らずお互いに魔力をぶつけ合っていたその時。
「もらった!!」
エドが女性を後ろから槍で仕掛けてきた。
咄嗟に女性が左手をエドに向かってかざした瞬間眩い閃光が二人に向かって広がっていき。

次の瞬間大きな爆発音と共に煙が上がった。
「兄さん!!」
「エド!!」
「エドワード君!!」
「鋼の!!」
しばらくすると、煙の近くの地面がボコッという音を立てて盛り上がった。
6人は地面に目をむけ構えを取った。しかしその後拍子抜けしたような顔をすることとなった。
地面が盛り上がったと思ったらそこからエドが現れたのであった。
爆発が起こる直前に彼は攻撃を防がれた後わざと体制を崩し錬金術で壁を作って閃光から身を守ったのであったが
シャイニングバスターの威力が有り余っていた為壁が崩れ、そのまま埋まっていたのであった。
「はぁ〜、びっくりした……。死ぬかと思ったぜ。」
エドはおもむろに頭を掻き出した。するとそこに向かってセリスがスタスタと歩き出し
「このバカ錬金術師!!」
ボカッと鈍い音を上げてセリスがエドの頭をゲンコツで殴った。
殴られた本人は両手で頭を抱える。さすがに女性の力とはいえ痛かったようである。
「っ!!」
「死ぬかと思ったじゃないわよ!!シャイニングバスターを受け止められる相手だから良かったものの
 もしそうじゃなかったら死んでたわよ!!あの魔法を受けたら普通の人間は塵と化してしまうのよ!!
 それどころか都市一つだって吹き飛ばしてしまうほどの威力があったんだから!!」
エドに向かって罵詈雑言を言うセリスに当の本人は満更でもない顔をする。
「……錬金術師だって、魔術師に負けないくらいの活躍だってできるさ
 うまくいったから良いだろ?」
と親指を立ててエドは答えた。セリスは今にも泣きそうな顔をしている。
「まったく……無茶するんだから……バカ……。」
後の5人もエドの方に近寄った。
「まったく、マスタングの言った通りの無鉄砲だな。」
レオンが頭を抱えていった。
「ホント、エドワード君の無鉄砲ぶりには呆れるわね。」
「まったく、兄さんは無茶しすぎだよ!ちょっとはセリスの気持ちを考えてよ。」
「女を泣かせるとはけしからんぞ!鋼の。」
「もう!みんなして何でそう言うんだよ。少しは褒めたって……!!」
いいじゃねえかよ!……と言おうとした途端、エドは殺気を感じ煙の方に目をやった。
先程の煙が収まっていくとフードが外れ髪の毛が露わでボロボロの仮面の女性が生きていた。
髪の毛は青い色をしている。
「くっ……チビの錬金術師に気を取られるとは……迂闊だった!」
女性の台詞を聞いてピクッと反応したエドが突然立ち上がり女性に向かって怒り顔で突っ込んでいく。
「だぁぁぁぁれぇぇぇぇがぁぁぁぁぁぁ、豆粒ドチビかぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
女性の仮面を思い切り機械鎧を錬成で変形させた甲剣で貫くとしたが例によって女性が発生した光の壁で防がれる。
しかしエドはもっとも言ってはいけない言葉を言われて思い切り頭にきているためそんなこともお構いなしに右手を突き進める。
すると、先程のダメージが大きかったのかどんどん押し返されていき、ついには仮面の眉間に刃が刺さった。
そしてそのまま激しい蹴りを放ち女性は大きく吹き飛んだ。
女性はゆっくりと立ち上がろうとするがそれをエドが遮ろうとする。再び攻撃をする為だ。
「ファイヤーボール!」
しかし女性は右手から火の玉をエドに向かって放った。
「うわっ!あぶねっ!!」
エドはふんぞり返って火の玉をかわした。
そして上体をそらすと女性は既に立ち上がっていた。エドは空かさず再攻撃を始めようとするが
目に映った光景に思わず動きを止めてしまった。
「!!」
それはエドだけでなく他の6人も驚かざるを得ない光景であった。
女性の仮面にヒビが入りみるみるうちに広がっていくのであった。そしてバリーンという音共に仮面が割れた。
すると仮面の下から見るも美しい女性の顔が現れた。
「!!」
セリスが女性の顔を見た途端青ざめて両手を口に当てた。
「どうした!?」
「……うっ……嘘でしょ!?
 ……こんなのって……ない。」
「あれがどうかしたんですか?」
「だってあれは……7年前に死んだはずなのに……。」
「7年前だって!?……と言うことはまさか!?」
「あれは……ニーナ・ニコラウス。……私の…………母なの。」
「!!」
「なんですって!!」
「なんと!!」
「あれが、セリスの母!?」
「なんだって!!」
「あれがセリスのお母さん!?」
エド達は驚きを隠せずにいた。確かに顔をよく見ると面影がセリスと瓜二つで髪の毛の色も同じである。
「でも確か、セリスが13の時に……」
「そう、白血病で一回死んだわ。」
「!!」
エドが言おうとしたと単にニーナが続きを言い出した。
「でも、生き返ったのよ。魔族による死者の蘇生法でね。」
「魔族による死者の蘇生法だと!!」
マスタングは驚愕の顔をする。
「他人の命を犠牲に死んだ者を生き返らせる技法よ。もっとも、フェリオがやった偽りの技法の様に失敗なんかしないのよ。」
「フェリオ?偽りの技法?」
ホークアイが目を鋭くして問い出す。
「私の夫でもあり、そこにいるセリスの父でもあるの。そして彼は犠牲もなしに私を生き返らせようとしたのよ。 
 でも結果は失敗し、私は生き返ることはなく彼は死んだわ。」
ニーナはエド達に向かって不敵な笑みを浮かべる。
「フェリオもバカな男ね。犠牲もなしに死者の蘇生なんて出来っこないのに……。
 初めからあの方法で蘇生をすればよかったのに……。そうすれば、無様な死を遂げることなどなかったのに……」
「…………。」
セリスは拳を拳をグッと握り思わず歯軋りをする。
「まあ、最後まで人間として生きようとした無様な男のつまらない命を我らの世界の為に役に立たせてあげるんだから
 少しは感謝……。」
「なんで魔族に感謝しなきゃいけないのよ!!」
感謝という言葉が出た瞬間セリスがニーナに向かって怒鳴りだした。
「それにつまらない命を我らの世界の為に役に立たせるですって!?ふざけないで!!
 憎しみを食らい絶望をすすり、悲しみの涙で喉を潤す連中なんかに感謝なんてしないわよ!!!!!!
 それにお母さんは、お父さんがそんな事をするのは決して望んでなんかいない!!お父さんだってそう思っているわ!!
 でなきゃ、私にあんな遺言なんて残さないわよ!!!!」
「遺言?」
レオンがセリスの方を向いて言った。
「父さんの日記に書いてあったの。『セリス、人の道を踏み外すな!』って。」
「あらあら、そんな戯言を遺言として残すなんておめでたい人を親に持ったものね。」
「貴様!セリスの母であるならば、フォリオの妻でもあるはずだ!何故自分の夫をあざ笑う!!!」
不適に笑うニーナに対しレオンが怒鳴りだした。
しかしそれに動揺せずニーナは不適に笑い続ける。
「何故ですって?答えは単純よ。魔族の力は不可能を可能にできたのに
 あの人が取引をしないからよ。」
その後セリスに向かって右手を差し出してきた。
「……なんのつもり!?」
「おいでセリス。私と共に素晴らしき世界を作り、我らの力を否定するもの達を始末するのよ……。」
ニーナはセリスに向かって“おいでおいで”と手招きをする。
しかし当の本人は俯き、歯軋りを上げ、拳を握り、身体を震わせている。
「セリス……あんな奴の言うことなんか……」
「……じゃない。」
“聞くんじゃない”とエドが言おうとした途端思わず動揺する。
「!?」
「そんなこと言うなんて……あなたは母さんなんかじゃない!!!!!」
セリスは顔を上げ鬼のような形相をしてニーナに向かって怒鳴りだした。
「何言ってるの?私はあなたの母ニーナよ?」
「母なら決して父をあざ笑ったりなんかしない!!私の知っている母は、父を愛していた!!
 いや父だけじゃない、人間も自然もそしてこの世界もすべてを愛していたのよ!!
 確かに人間は過ちを繰り返す愚かな生き物だけど、すべてがそうとは限らないわ!!
 私がこの5年間の旅でいろんな人と出会って、共に喜び、共に悲しんだりもした!
 時には怒ったり憎んだこともあったけど、それでも失望しないわ!!
 だって、エドやアル、レオン大佐やマスタング大佐の様ないい人がいるから
 その人達がきっと世界を良い方向に導いてくれるから、その人達を守る為に私は戦うの!!
 魔術師としてではなく、1人の人間として!!
 その様なことを否定するなんて愚の骨頂よ!!!!」
セリスの怒鳴り声の様子からしてニーナの要求の答えは“いいえ”であることがよく分かる。
「…………どうやら何を言っても無駄の様ね。
 そういう悪い子はお仕置きをしないといけないわね。」
ニーナは不適に笑った。そして両手を胸元に印を構え呪文の詠唱を始める。
「深遠なる闇の精霊よ、我が魔力のもとに集約し愚かなる者に終焉を与えよ……。」
すると両手からどす黒い光が集約し大きく輝き出す。
嫌な予感を感じたセリスはすぐさま呪文を早口で詠唱を始め光を集約させた。
一方他の6人は驚愕の顔と共に冷や汗を掻いていた。
「な……何が起きるんだ!?」
「分からん!だがとてつもない事であることは確かだ、壁かなにか防ぐものを錬成するんだ!早く!!」
「あ……ああっ!!」
すぐさまレオンの指示に従いエド達錬金術師は錬金術でとにかく頑丈な壁を錬成しその後ろに隠れた。
壁の向こうから2人の魔力の凄まじさをエド達は感じた。
「そんな風にあなたを育てた覚えはないわよ。」
「私だって、あなたの様な母を持った記憶はないわよ!!!!」
「ダークネスストーム!」
「シャイニングバスターーーーーーーー!!!!」
2人が魔術を放った瞬間白と黒の光が激しくぶつかり合い辺りに激しい風が吹き荒れる。
力の差は五分と五分でお互いに引けを取らない。
しばらく経つと大きな爆発が起こった。
「!!」
爆発が晴れるとそこには2人が構えたままの姿で立っていた。
しかし爆発の衝撃は凄まじくエド達が錬成した壁はほとんど大破していた。
エド達は事なきを得たものの魔術の凄まじさを改めて知った。
「……生きて……るのか?俺達……。」
「らしいな。」
「これが魔術……、危険視される訳だわ。」
「でも、どうして僕達生きているんだろう?」
アルの言う通り先程の魔法はセリスはともかくニーナのは都市一つを吹き飛ばすには充分すぎる威力があることは察しできる。
ならばその魔力がぶつかり合ったのであればエド達は無事で済むはずがない。もちろん壁を作ったとしてもである。
「おそらくセリスはシャイニングバスターで奴の魔術の威力を干渉させたのだろう?」
レオンが先の問いに推測を挙げた。
「干渉?」
「本で見たことがある。同じ属性の魔術がぶつかり合えば相乗効果で威力が倍になるのに対し
 違う属性であれば反発作用により威力は消滅する。ただし、同じ魔力でぶつけなければ干渉はできない。
 簡単に言えば、酸性の液体に同じ度合いのアルカリ性の液体を混ぜることだ。」
「でも、そんなことって……」
「少なくとも、セリスは私達を守る為にそれを行なったのだろう。
 だが一歩でも間違えれば、恐らく想像を絶する大惨事となっていただろう」
一方セリスは先程の影響か息を切らしているのに対しニーナは平然としていた。
「へぇ……あの魔法を干渉させてるなんてなかなかやるわね。
 でも、もう限界なんじゃないの?」
「……いや……まだ……やれる……。」
「強情ね。もう初級魔法しか使うことができないというのに。」
「そんなこと……やってみないと……分からないわ……。」
強がっているもののはたから見るとセリスは限界であることがエド達に伝わってきている。
「いかん!セリス殿はもう限界だ!!このままではマズイ!!」
「じゃあ助けないと!!」
エド達はセリスに加勢すべく彼女のもとに向かってくる。
しかしあと一歩という所でニーナが突然右手を大きく振りかぶって上げた。
するとバリッという音共にエド達の動きがピタリと止まってしまった。
「!?」
「えっ!?」
「何?これ!?」
「ぬぅ!!」
「これは一体!?」
「う……動けん!!」
ニーナの魔術でエド達は動きを封じ込められてしまった。
「こんなもの…………ぐあぁぁ!!」
しかも無理に動こうとすれば激しい電撃が身体を走る仕組みである為エドは悲鳴を上げる。
「みんな!!……どういうつもりなの!?」
「何って人間どもに味方する愚かな魔術師の死に様を見届けさせる為よ。」
「!?」
「邪魔をされてはこちらが困るというものですからね……。
 せっかく生き延びるチャンスを与えてやったのにそれを棒に振るうなんて惜しいことをしたわね。」
「黙りなさい!!……シャイニング……」
「無駄よ、ダークボム!」
セリスが魔法を放とうとした途端ニーナの右手からから黒い玉が出現しセリスに命中する。
黒い玉はセリスの周りで爆発しセリスを吹き飛ばす。
「きゃあっ!!」
吹き飛ばされたセリスはゆっくりと立ち上がるも先程のダメージが大きかったのかふらついている。
「まだ……まだよ!!」
「本当に強情ね。そんな強情なところ嫌いよ、イビルカッター!」
ニーナから放たれた黒い刃はセリスの身体を容赦なく切り刻んだ。
「ううっ……。」
「イビルブラスト!」
さらにニーナは先程のより威力は低いどす黒い光を放ちセリスに追い討ちをかける。
セリスはプロテクションで防ぐも先程のダメージと魔力の消費の為防ぎきれず吹き飛ばされてしまう。
「ああっ!!」
もはやセリスは立つことができず仰向けに倒れたまま息を荒くしていた。
「これでわかったでしょ?これが人間と魔族の力の差よ。」
「セリス!!」
ニーナはゆっくりとセリスに側に歩み寄ってくる。
なんとかしなくちゃと考えるセリスであったが、ダメージが大きい為立ち上がることが困難な為
どうすることもできずとうとうニーナが側に来てしまった。
するとニーナはセリスの首を左手でつかみ出し持ち上げた。
「ぐっ……。」
セリスは苦痛の表情を浮かべニーナの左腕を両手でつかみ解こうとするも細腕に似合わぬ強力の為解くことができない。
「なんて力なんだ!?彼女を軽々と腕一本で持ち上げるなんて!」
その怪力にマスタングは驚きだした。
「これで、人間に味方した愚かな魔術師ともお別れね……。」
ニーナの左手にとてつもなく強い黒い魔力が集約していく。明らかにとどめを刺す為である。
「やめろぉぉ!!ぐあぁぁ!!」
「セリス!!ううっ!!」
「ニコラウスさん!!ああっ!!」
「セリス殿!!ぬぐぁぁぁぁぁ!!」
「セリス!!……ぐはぁ!!」
セリスを助けようと必死にもがく5人であったがもがけば電撃が走る為思う様にできず悲鳴を挙げるだけであった。
しかし、そんな中レオン1人だけがもがかずじっと俯いていた。
「レオン大佐どうしたんだよ!?このままじゃセリスが……!!」
レオンを見た途端エドは思わず驚愕の顔を浮かべる。レオンは歯軋りを起こし身体を震わせていたのだ。
「……セリスに…………」
「!?」
「セリスにそれ以上手を出すなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
するとレオンの身体に強烈な電撃が走り出した。激しくレオンがもがき出したのである。
しかし彼は怯むことなくもがき出す。
レオンの怒鳴り声に反応したニーナはレオンの方を向き彼をあざ笑う。
「無駄な努力ね。もがけばもがくほど電撃は強烈になり例えとけたとしても待っているのは死のみなのに。」
「レオ……ン……やめ……て……それ以上もがいたら……あなたは……」
セリスの声はあまりにも小さい為レオンには届かずレオンはもがく。そして……
「ぬあぁぁぁぁぁぁ!!……かぁぁぁぁぁぁつ!!!!!」
なんと気合の掛け声で魔力による拘束を破ったのである。
これにはニーナも驚きを隠せない。
「バカな!?魔光石がなければ魔術の使えぬ人間が、気合で我が魔力を振りほどくなど……
 ありえん!!そんなのありえん!!!!」
「魔光石!?」
初めて魔光石という言葉を聞いたエドは思わず困惑するが、それにわき目も振らずレオンは
素早くニーナの元に駆け込み剣でニーナの左腕を切り落とした。
解放されたセリスは今まで締められていた為首を押さえてむせかえっていた。
一方ニーナはさすがにレオンの威圧に怯み出す。
しかしレオンは追い討ちをかけるべく剣を縦一文字に振り落とす。
「チェストォォォォー!!!!」
ニーナは避けようとするが斬撃は凄まじく彼女の胴体に大きな切り傷をつけた。
「ううっ……ぐっ……!」
ニーナは怯みだした。さらにその影響でエド達にかかっていた魔術が解け出した。
「!?、動けるぞ!」
「ホントだ!」
エド達はしきりに身体を試しに動かしてみると今までのが嘘の様に軽々と動き出した。
「よーし!行くぜ!!」
エド達はレオンの元に向かい、一方レオンはセリスの元に駆け寄り彼女を抱えだす。
「大丈夫か!?セリス。」
「レオン……どうして?……それに……死ぬかもしれないのに……。」
「気をしっかり持てばこれぐらいどうってことはない。
 それに……好きな人を守るのが、恋人の役目だからな。」
「気をしっかり持てば……ねぇ。」
駆けつけたエド達が2人の側でしっかりと聞いていた。
「それならば、容易い事だわ。」
エド達はニーナの方を向き鬼の様な形相で睨みつける。レオンもセリスを安静させてから睨み付けた。
一方ニーナは右手で胴体の切り傷を押さえていた。
「ぐっ、戯言を!!もう一度縛り付けて今度こそセリスを殺してやる!!ハァ!!」
ニーナは右手を上げ再びエド達を拘束する。
「はあぁぁぁぁ!!……だあぁぁぁぁ!!」
エドが拘束を破った。
「はあぁぁぁぁ!!……はあぁぁぁぁ!!」
アルも拘束を破った。
「んーーーーっ!!……はあぁぁぁぁ!!」
ホークアイも引き続き破り。
「ぬぅぅぅぅぅ!!……ぬおぉぉぉぉ!!」
アームストロングも拘束を破る。
「うぅぅぅぅぅ!!……があぁぁぁぁ!!」
さらにはマスタングも拘束を破った。
「喝っっっ!!」
レオンも軽々と破りこれにはニーナは驚愕する。
「馬鹿な!?こ奴等も気合で拘束を破るなんて……何故そんな力があるというんだ!?」
「何かを守りたいという想い!!」
「どんなことにも屈しない勇気!!」
「倒されても立ち上がる不屈の闘志!!」
「悪に対する怒り!!」
「そして友と希望を信じる気持ち、それが人間の力だ!!!」
「魔術が使えなくったって、その力があれば人間は強えんだよ!!」
エド達の言葉に思わずニーナは後ずさりをする。
まさかそんな力に自分が追い込まれようとは思っていなかったらである。
「くっ……ここはこちらが不利か……。」
ニーナは右手を天にかざしだすと立っている所に魔法陣が現れそこからスッと消えていく。
「だが覚えておくがいい!貴様ら人間はダハーカ様の手に平伏せるのだと!!」
「あっ!待て!!」
エドが甲剣で攻撃しようとするがニーナは消え、刃は空を切りエドは地面に転がった。
「……逃げたのか?」
「見逃がしてくれたのかもしれませんね……。」
ホークアイは銃をホルダーにしまった。
そしてレオンは再びセリスを抱き寄せた。
「レオン……私…………。」
「何も喋るな。今は怪我の治療が先決だ。いいね?」
「……うん。」
セリスは静かに頷いた。


戦いが終わりレザニア支部にてエド達はヘレンから被害の報告を聞いた。
この戦いでの重軽傷者は軍人457名、民間人117名で何より死者が出なかったのが幸いであった。
しかし、居住及び街の被害は被害総額からしておよそ1370万センズを誇っていた。
ここの支部では払えない金額ではないが何よりも復旧の進行がレオンにとっての心配であった。
レオンは「このことは我らだけで内密にして欲しい」との指示のもとセリスのことを全て話した。
彼女が魔術師であること知った軍人達は最初信じられなかったが今までの経緯を考えて納得した。
そしてそれをすべて心の中へとしまっていった。
そしてセリスの部屋にて、頭と身体に包帯に巻かれベッドに横たわっている彼女を中心にエド達6人が話し合っていた。
「魔光石ってなんだ?」
「簡単に言うとそれを身体に埋め込むことにより、誰でも魔術が使えるようになる鉱物なの。」
「リバウンドが起こればネムダの様になるのか?」
「精神修行を怠っている者がリバウンドによって暴走状態になり、あのような異形に変わり果てるわ。
 そして、放っておいたとしても待っているのは死あるのみ。」
「だがあのまま放っておいたら世界は壊滅的だったな。」
マスタングが呟き出しそれに6人は頷いた。
「魔光石は作れるのか?」
「火、水、土、空気など自然から作られたものから錬成できるんだけど
 莫大な量とリバウンドの危険性のため500年前から製造が廃止されたの。
 その為賢者の石に次ぐ禁断の鉱物でもあるの。」
セリスの解答に各々は関心を示した。
「これがその魔光石なの。」
セリスはゆっくりと起き上がり、カバンから妖しい色の石を取り出しそれをエド達に差し出した。
石は未だに妖しく輝いている。
「これが……。」
「誰でも魔術が使えるようになる禁断の鉱物……。」
「でも、どうしてそれを持ってるんだ?」
「ガンツの死体の周辺に落ちてたの。この場合暴走状態になってなかったから
 身体と完全に一体化せずそのまま残っていたの。」
「なるほど。だからガンツやネムダはあのようなことができたのか。」
「リバウンドの危険性があるというのに奴らはこれを持っているって訳か。」
「ええ。魔族にとって犠牲なんか全く気にしていないの。
 増やす時に増やす為、人間と違って数も多いし寿命も数千倍と永いの。」
「なるほど、奴らが人間をクズと思っているのはその為だからか……。」
「そんなもん、さっさとぶっ壊しちまおうぜ!」
エドが腕を組んで言い出した。
「そうだな。魔術なんて今の我々には必要ないし、リバウンドの危険性も高い。少佐。」
「うむ。」
マスタングが指示を出すとセリスはアームストロングに魔光石を手渡した。
そしてアームストロングはそれを両手で思い切り握り
「ぬんっ!!」
グッシャっという音を立てて魔光石は粉々に砕け散った。
「それとニコラウスさん。」
「セリスでいいです。」
「ではセリスさん。ダハーカとは何者なの?」
「分からないわ。ただ分かっているのは、奴らの首領でこの事件の黒幕だということだけなの。」
ホークアイの質問にセリスは首を横に振って答えた。

それからどれくらいの時間が流れたのだろうか。
それぞれが談笑している間に日はとっくに暮れていた。
セリスは落ち込んでいるのかうつ伏せで寝ている。
「セリス……元気ないね。」
「無理もないさ、自分の母親が魔族に成り下がっちまったんだからな。」
「しばらくそっとしておいた方がいいだろう。」
「そうですね。」
「うむ。」
マスタングの言う通りにまずレオンが部屋から出ようとした途端。
「おっと、レオン大佐はここに残ってもらいましょうか?」
エドがニヤリとしてドアの前に立ち塞がる。
「何故だ?」
レオンが問おうした途端マスタングに肩を叩かれる。
「こういう場合は、最も親しい者による慰めが一番だぞ。レオン。」
「どういうことだ?」
「とぼけたって駄目ですよ大佐。」
ホークアイにも突っ込まれたレオンはアームストロングを睨みつける。
「少佐……!!」
「うっ……オホン!では、お先に失礼致します。」
一旦咳き込んだあとスタコラとアームストロングは部屋を出た。
「では大佐……セリスさんのこと頼みます。」
「じゃあなー!」
「馬に蹴られたくないので失礼する。」
アームストロングに続きホークアイ、エド、マスタングの順に一言言って部屋を出た。
ただ一人残ったアルはレオンを見て冷や汗を掻き引きつった顔をする。
「ご……ご、ごめんなさい大佐!!僕は決して悪くないんです!!!!
 待ってよ〜兄さ〜〜ん!!少佐〜〜!!中尉〜〜!!焔の大佐〜〜!!」
アルはドアを開け部屋を出ようとするが入り口の天辺に頭を打ちそれを落としてしまった。
「アル!!頭!頭!!」
レオンの掛け声に反応したアルは慌てて引き返し落ちてた頭を拾って再び部屋を後にした。
レオンとセリスだけになった部屋ではレオンは関係がばれたのか気を遣ってもらっているのか分からず
複雑な心境になっていた。
(もしかしたら、関係がばれたのか!?)
レオンは戸惑いを隠せずにいた。
一方セリスは相変わらず落ち込んでいるのか俯いたまま寝返りすら起こしていない。
とりあえずレオンはセリスに近寄りながら声を掛けることにした。
「あのさセリス……君の気持ちは分かるよ。だけどあれは、もう君の知っている母親なんかじゃない。
 君の親がどういう人だったか知らないけど、娘を殺そうとするなんて親のすることじゃないのさ。
 倒せとは言わないけどさ……その…………たとえ本当に殺しあうことになったとしても
 戸惑ってたらこっちが殺されるんだよ。
 だからさ…………あんな奴のことなんか忘れて……」
「そうじゃないの!」
「!?」
「母じゃないと分かっているのに……私……母を殺めるのが怖いの。」
「怖い?」
「あれは母じゃない!母の姿形に似た化け物なのに……あれを見ると身体が思うように動かなくなるの……。」
レオンはベッドの近くに椅子を置き座った。そしてセリスを伺う。
「だから私、レオンの様に強くないからあんなことはできな……」
「それは違うよ!」
「!?」
セリスは思わずレオンの方を向いた。
「誰だって強くないさ。私だって、ニーナさんを殺したくない。
 だけど、もしそのままにしてたら罪の有無に関わらずすべての人間が殺されてしまう。
 そういった壁に誰でもぶつかるさ。」
「誰でも?」
「壁にぶつからずして一人前になった奴なんて何処にもいない。
 もしどちらの選択肢もイヤだったら自分で的確な答えを見つければいい。
 それは決して叶うことが難しいかもしれないが、やらないで諦めるのはどうかと思うんだ。
 だから、この場合は『世界の人も助けてニーナさんも殺さない』……という選択肢を選べばいいさ
 口で言うのは簡単だが、実際に行なうのは難しい。
 机の上で考えて思いつかないのなら戦いの中で見出せばいい。」
「戦いの……中で?」
「ああ。それは『希望』という字の通り『希な』『望み』だけど決して諦めずに求め続ければ
 きっと見つけられるものなんだ。
 エルリック兄弟だって元の身体に戻る為に希な望みを諦めずに求め続けている。
 その気持ちを見習えば、君の母親も救う事だってできるさ……きっと。」
「…………そうね。やってみて駄目だったら諦めがつくわ。
 その時は……躊躇なく討つわ。でも、それは考えないことにする。
 “絶対にうまく行く!”そう考えるのから。」
「前向きなんだねセリスは。」
「前向きじゃなきゃ、魔術師であることを悔んで自決してたわよ。」
「そうだな。」
「ありがとうレオン。お陰で全てのことにけじめをつけられそうな気がしたわ。」
「よかった。
 それじゃあ私は仕事に戻るよ。君はここでゆっくりと療養してるんだよ。」
椅子から立ち上がり部屋を出ようとしたその時
「待ってレオン。」
セリスが彼を呼び止めた。
それに反応しレオンはセリスの方を向いた。
彼女のこの時ベッドから上半身を起こしていた。
「どうした?」
「ひとつだけお願いがあるの。」
「お願い?できることなら頼んでやっても良いよ。」
レオンの返事にセリスはあどけない顔をして
「……キスして。」
そう言ってきた。
思わずレオンは一瞬戸惑ったがすぐに冷静になりセリスに理由を尋ねる。
「どうして?」
「けじめはついたけど……あの出来事があったから、また怖い夢を見そうな気がするの。」
「知っている。父親が死に、魔族のささやきが聞こえてくる夢だね。」
「ううん!母が私に魔族と手を結べと手招きし、闇に私を引きずり込む夢を見そうな気がするの!!」
「!!」
そんな夢を見る保障はどこにもないが先程の出来事をからしてそんな気がしたためレオンは驚愕した。
「5年前からずっと、ああいった怖い夢を見ない夜は一度もなかったの。
 その為私は、精神的にずっと苦しめられていたの。
 でもレオンと接してから初めて怖い夢を見ないで済むようになったから、ようやく心が和んだの。
 だけど……あんな出来事が起こってしまったから、また見てしまいそうな気がするの……。
 もう、怖い夢を見る夜はイヤなの!!
 だから……だから…………。」
セリスの身体は振るえ瞳には涙が溢れていた。
レオンはセリスに近寄って彼女を抱き寄せた。
「!」
「何も言わなくて良いよ。分かっているから……。」
「レオン…………。」
「そしてこれは、セリスが怖い夢を見なくなるようになるおまじないだから……ね。」
「うん……。」
2人は瞳を閉じ、そっと唇を重ねた。
(レオン……ありがとう……。
 あなたのお陰で私は…………前に進める。
 レオン…………大好き!!)
セリスの瞳から大粒の涙が流れた。





あとがき(漫画だと思ってください)
セリス「久しぶりの更新が前回と同様キスシーンで締めってどういうこと!?」
作者「どうしてもキスシーンを出したかったのでこういう展開になってしまいました。」
セリス「まあいいけど、私とレオンは既にラブラブなんだから!」
レオン「ら……ラブラブって……」
ボンッ!と顔を赤くして呆然とするレオン。
セリス「うわぁぁ!レオンしっかりして!!」
作者「おほん!とにかく今回のあとがきではセリスの両親について説明いたします。
   父であるフェリオは45歳で母のニーナは38歳。ちなみに2人とも死亡時の年齢なので
   セリスはフェリオが30の時、ニーナが25の時の子供なんです。
   2人とも優秀な魔術師でありましたが、魔術師が隠居している村が滅んだ為
   セリスと共に普通の人が住む村に本性を隠しつつ薬師として過ごしていました。」
セリス「そうそう。だから私も薬草なんかには詳しいの。」
エド「おっ、第1話で紹介しなかった裏設定だ。」
作者「そして後のことは今までの話を読んで今に至るということです。」
アル「でも、どうしてニーナさんは魔族と手を組んだんだろう?」
作者「それは物語を読んでからのお楽しみということです。^^」
エド「またそれか……。」
作者「ではまた次回……(次はいつ頃になるんでしょうね?)」

マスタング「キスか……うらやましい……。」
ハボック「オレもッスよ……。」
指をくわえるマスタングとハボック。
レオン「すまない2人とも。」
俯くレオン。
ホークアイ「いつの間に復活したんですか?ヴァルスト大佐。」

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