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第7話 レオンとセリス

(とりあえず魔族が賢者の石を作っていた目的と最終目的ははっきりしたわ。
 賢者の石を作っていた理由は冥界石の材料の為、そして最終目的は冥界石の力を使って
 人間達を滅ぼして魔族の世界を創ること。万が一冥界石の力が暴走して世界が滅んでも
 魔族にとってはどうでもいいことだわ。なにせ目的が、その後からでも良いだけのことだから……。)
セリスは屋敷の廊下で考え事をしながら廊下を歩いていた。
先日あった事件にて魔族の目的がすべて発覚したためこれからのことについて軍も考え出していたが
何故かセリスは個人的なことの様に考え出していた。
しかし、わからないことが1つだけあった。それは魔族の本拠地と出現地点であった。
それが分からないことには目的の阻止はもちろんのこと攻め込むことすらままならないのである。
話を戻して昨日のあの後ホークアイが東方司令部に帰る前にセリスは自分の事はご内密にと頼んでおいたが
本人は軍以外のものには公表しないと口にした。
セリスは不安を感じたがレオンになだめられ仕方なくホークアイのいうことを了承したのであった。
「(……どっちにしろ、魔族が滅べば私は…………)?」
考え事をしている最中に何かの気配を感じセリスは前を向いた。目線にはびっくりしているエドの後姿があった。
「!?」
しかしセリスはエドの前に立つムキムキで軍服を着たエドの2倍くらいの身長はある
中年の男が今にも泣きついてエドに抱きつこうとしていたことに驚いて思わず……
「……ファイヤーボール!!」
右手から炎の玉を発射し男に命中させた。爆発が晴れると男の顔は黒くなっていた。
「キュピーン……。」
そして男は意味不明な言葉を発して仰向けにズシーンと倒れた。
「朝から暑苦しいことしないの!!」
セリスは身体をワナワナと震わせていた。
一方エドは、助かった!と、なんてことを!が融合した複雑な表情をしてセリスに目をやった。
そしてセリスはハッとして自分の右手を慌てて顔に近づけた。
「しまった!つい反射的に……。」
「……あー、なんてことしてくれたんだよセリスぅー……。」

場所は変わってレオンの仕事部屋。そこにはレオンとへレンだけでなく、
中年の男にペコペコと謝るセリスと色々と論議するエルリック兄弟がいた。
「ごめんなさい!本っ当にごめんなさい!エドがなんかまずい状況みたいだったのでつい……。」
「セリスだって悪気はないし、こんなに謝ってるんだからさあ、許してやってよ少佐。」
中年の男は豪腕の錬金術師ことアレックス・ルイ・アームストロングであった。
当の本人はペコペコ謝るセリスに対して困った顔をし冷や汗をかいて見ている。
「うむ……。」
さっき起こったことを振り返ってレオンは思わず笑い出す。
「ハハハ、それにしても災難だったな少佐。確かにセリスのいうことに一理あるな。
 また会えたからって抱きつくことはないだろ?それにお前の怪力で抱きしめられたら死ぬだろ普通。
 そういったところ、なんとかしてくれないモンかね。
 それにしても、よく来てくれたね。大総統かなんかの差し金か?」
「はい、実は……ネムダのことを知らせにやってきた始末でございます。」
「どうして電話とかで連絡しないで直接ここに?」
電話ならここに来なくても報告ができるのにここに来た疑問をアルが問いかけた。
「ホークアイ中尉からの報告で、魔術師がいると聞きまして、視察を兼ねてここにやってきたのです。」
「目当てはセリスというわけか……。」
レオンはセリスを見る。
「はい。それにしても、こんな美しいお嬢さんがあの大昔に魔族の大群を蹴散らした魔術師の生き残りとは、
 思えませんでした。マスタング大佐とは違う形で炎を繰り出したのでありましたからね。」
「本当にごめんなさい!つい反射的にやってしまいました!」
根に持ってるのかと思いセリスは再びアームストロングに謝った。
「もうよい、そこまで謝られると我輩も困る。それに誠意が伝わってくる。
 怒ってなどおらんから顔を上げたらどうかね?セリス殿。」
アームストロングは満面の笑みでセリスに言った。
「あ……ありがとうございます!アームストロングさん!」
セリスはアームストロングに対して思い切りお辞儀をした。
「うむ……。では話を戻しましてネムダのことですが……なんでも昨日、セントラルに現れたのでございます。」
「昨日!?それで、いつ頃だ?」
レオンは机から身を乗り出した。
「およそ3時くらいですが、どうかしましたか?」
「その時間帯に、ここから西の村にガンツが現れたんだ。」
「なんと!?ガンツも!?」
アームストロングは驚いた顔をした。
「ああ、村の人間の命を狙おう魔物と呼ばれる異形達を率いていたのだが、エド達と部下の働きにより被害者はゼロに終わり
 ガンツも私が処刑した。……そちらの方は?」
「はい。中央に現れたネムダの方は、たった一人でそれも、中央司令部に現れたのです。
 処刑すべく攻撃を仕掛けましたが、見えない壁のようなものにより我輩達の攻撃を防がれてしまったのです。」
「見えない壁……それってプロテクションじゃ?」
「プロテクション?」
セリスの言葉にアームストロングは首を傾げた。
「光の壁を作り弾丸や打撃などといった攻撃を防ぐ魔術なの。
 以前ホークアイさん達を火の玉から守ったのも、エドをゴーレムの攻撃から守ったのもその魔法なの。」
「ってことは……まさかネムダもガンツと同じように魔術を!?」
「でしょうね。」
セリスはキッパリと言った。そんなことに構わずレオンは話を続ける。
「それで、ネムダは?」
「『これから貴様らに対して復讐をする!手始めにレサニアだ!次はセントラルだ!待っていろ!』と告げた後
 不思議なことに、フッと消えてしまったんです。」
「消えた?しかも手始めにレザニアを襲うだと?何故中央を最初にしないんだ?」
レオンは険しい顔つきでアームストロングを見て言った。
「恐らく、魔族の力を軍に見せ付けるためでしょう。」
「だとすると……ここを最初に襲うとなれば考えられる理由はただ1つ、拠点から近いということだ。
 つまり魔族の拠点は、この町から近い所にあると仮定できる。」
レオンは椅子立ち上がって近くの本棚から丸まっている大きな紙切れを取り出した後歩き出した。
「どちらへ?」
「場所を変える。会議室で魔族の拠点について話し合うことにする。みんな来てくれ。」
そしてレオンが部屋を出ると同時に他の者達もレオンの後について部屋を出て行った。

再び場所は変わって会議室。大きなテーブルにレオンは先程の紙切れを広げ出した。
そこにはレザニアを中心に周辺の地形や地名などが大きく描かれていた。地図である。
レオンは地図に指を指しながら説明をする。
「ガンツが現れたのがこの西外れの湖からさらに西のこの村スキラだ。進行方向からして
 さらに西のほうから現れたと推測できる。しかしそこから西は山という山が沢山あり
 そこから出現地点を特定するのが難しい。」
西のスキラ村からさらに西にある山々をグルっと指で指す。
「その辺りで、何か変わった事ってないの?」
「これといってない。ちなみに昔はこの辺りも金鉱山として栄えてたが今では放置されている。
 なにせ金が出なくなっているからな。」
「へぇ〜、レザニアって昔は金鉱山で栄えてたんだな。何せ鉱山の話が出てくるからな。」
エドは腕を組んで感心した顔で言った。
「ああ。昔は金鉱町だったそうだ。」
「あっ!そういえば……。」
へレンがハッとして言い出すと全員ヘレンの方に注目した。
「なんだ少尉?」
「確かこの山の辺りの一番奥の方から変な空気が流れているという報告がおよそ一ヶ月前にありました。」
「変な空気?」
「なんでも、それに触れた草花が突然枯れだしたという信じがたい内容だそうです。」
ヘレンの言葉にセリスはハッとするがおくびにも出さずそのまま話を聞き続ける。
残った4人は疑問の顔を浮かべながらヘレンに注目する。
「その件なら知っている。それにその発生源は錬成した岩で塞いで解決したな。」
そこにエドがレオンに質問を投げかけた。
「その変な空気による影響はなにかあった?」
「植物が枯れる以外たいした影響はない。現にそれに触れた者に異常はなく
 嗅いだ者は一部といってもほんの僅かだが、あまりの臭いに気分が悪くなる程度だ。」
エドは感心する。どうでもいいことだろうと3人が思っていた中セリスの様子が変なのにへレンが気がついた。
「セリスさんどうしたんですか?さっきから様子が変ですよ?」
「あっ……いえ、なんでもないです。」
ハッとしてセリスは平然とした顔で答えるが、レオンは何かあるとすぐに感じて聞きだす。
「というのには見えないが……。」
「ホントになんでもないわよ!」
レオンを前にしてセリスは臆することはなく否定する。
「隠し事はいけませんぞ!セリス殿。」
「ホントになんでもないってば!」
「あやしい。」
強く否定するセリスに対してアームストロングは何故か上着を脱ぎ出しポージングしたままセリスに迫ってくる。
セリスは思わず冷や汗をかいた。普通の人ならばこんな暑苦しく迫られたら喋らざるを得ないのだが
彼女の場合は例外であった。前の様に身体をわなわなと震わせて右手をさし向け出した。
「もう!なんでそんなに暑苦しいんですか!?少佐は!」
右手に炎が浮かび今に放たれようとしていたその時レオンが注意する。
「セリス、魔術を使うのはやめてくれ!部外者に気付かれるだろ?」
「あっ…………ごめんなさい。」
セリスはハッとして炎を消し、差し向けていた右手をすぐさま腰元へと戻した。
「少佐、彼女はそんな風に責めても決して喋ろうとはしない。それほどまでに肝が据わっているんだ。
 だからここは私に任せてくれ、そしてさっさと上着を着たまえ、暑苦しいぞ。」
今度はいつまでも上半身裸のアームストロングに注意した。
当の本人は仕方がなく渋々と脱いでいた上着を再び着た。
「セリス、なにか知っているのであれば教えて欲しい。ホンの少しでもいい。私達に迷惑をかけるだろうと
 君は思っているようだが、私達は迷惑だなんて思っていない。それに全力ではないとはいえ私の実力を見てもらっただろ?
 あのような化け物が束になろうと退けてみせるさ。それにここにいるアームストロング少佐も私ほどではないが強い。
 だからそんなに気を遣わないでくれないか?」
レオンは優しくささやいた。
「でも…………。」
しかしセリスはうつむいたままうんともすんともしない。そこでレオンはセリスに近づき出し
「私の眼をよく見てくれ……。信じて欲しいから……。」
顔をセリスの顔の側へと近づけた。
セリスはチラッとレオンの目を見たが思わずすぐに顔をレオンの方に向けてしまいそのままレオンの目をジッと見てしまった。
それから沈黙がしばらく続いて
「…………わかったわ。」
観念したのかセリスの重い口が開き出した。
「おおっ!」
その事にアームストロングは驚きだした。
「北風と太陽ですよ、少佐。」
そんな少佐をヘレンが突っ込んだ。
「それでセリス、その空気は一体なんだ?」
レオンはヘレンが言ってた変な空気について語り出した。
「それは、瘴気っていうものなんです。」
「「「「ショウキ?」」」」
「魔界の空気のことです。人体などの生き物には影響はないんですが、植物は先程言ったように枯れだし
 精霊なんかにいたっては、正気を失って狂い出してしまうんです。」
「正気を失うって……。」
「言っておくけど、魔術を使う際には影響はないわよ。」
セリスは平然とした顔で答えるとエドはなぁんだという顔をした。
「瘴気が流れ出したということは、魔物達の住む世界である魔界と私達人間が住む現世をつなぐ穴がつながったということなんです。
 魔術によってその入り口が開かれます。ヘレン少尉、その穴の大きさはどれくらいだったんですか?」
「確か……直径およそ5センチくらいの大きさだと思われてます。」
ヘレンは首を傾げて答えた。すると、アームストロングが問い出した。
「それがどの様に関係あるのですかな?」
「人一人が通れるくらいの穴を開けるには多大な魔力が必要なんです。少ない魔力となれば最大でも少尉が言っていた
 大きさが限界なんです。それに、開いた側から岩などで塞げば空ける側から開いた側へ出ることができなくなるんです。
 何せ小さな魔物では岩などを破壊するのは無理ですから。…………しかし、もし人一人が通れるほどの大きさの穴が
 開いたら……魔術で塞ぐしか方法はありません。」
「何故なら、その大きさを開けられたら岩などで塞いだとしても破壊されてしまう為意味がない……ということですな?」
「はい、その通りです。」
アームストロングの回答にセリスはコクンと頷いた。
「そして、塞いだとしてもまた開けられる、また塞ぐ、また開けられる、塞ぐ、開けるといったイタチごっこになるということか。」
レオンは腕を組んで言った。
「うん。……ですが、私の魔力にも限界があります。それに向こうには膨大な魔力を所持する者がいます。
 その場合、直径10メートルくらいの穴を開けるのは容易い事でしょう。そうなればゴーレムやドラゴンなんかといった
 巨大なモンスターが通れるようになりこちらの世界で暴れまわることになります。」
「巨大なって…………あんな化け物が来るのか?」
エドはゴーレムのことを思い出しこわばった顔でセリスに聞き出した。
「ええ、それにドラゴンなんかは炎を吐くし表面の鱗は鋼鉄の様に堅く、銃なんかの並大抵の武器なんて通用しないの。」
「…………なんか、やばいのを相手にしちゃったね兄さん……。」
「ああ……昔の人はよくあんなのに勝利したモンだと思うよ……。」
エルリック兄弟はもはや呆れて開いた口が塞がらず、げっそりとした顔をした。
それを聞いてかヘレンもげっそりとした顔をしていた。
レオンとアームストロングはというと引きつった顔をしている。
「やっかいだな、そういった化け物が何匹も襲ってこられると街のひとつは滅びるな。」
「街どころか国ですら危ういですぞ。」
「何匹といっても、昔の資料によると最高で4匹、最低で1匹出てきたとなっています。
 なにせドラゴンやゴーレムなんかといった巨大なモンスターは、召喚するのに多大な魔力を要しますし
 1匹いるだけでも騎士団ひとつを全滅させるには充分な戦力ですからその点は大丈夫だと思いますが……。」
みんなを不安にさせないためにセリスは説明するが、気休めにしかならず5人の表情は変わっていない
これにはセリスはどうしたらいいのかわからず冷や汗をかいた。
長い沈黙が続くのかと思われていたセリスであったが、それはすぐにエドによって破られた。
「なぁ、一気にケリをつけるってのはどうだ?」
「短期決戦……ということか。」
レオンがエドの方を向いて言った。
「うん。ここの戦力だけじゃなくてさ、セントラル等から寄せ集めて挙句にはイシュヴァール殲滅戦で活躍した
 国家錬金術師なんかも集めて、一気にカタをつければ……なんとかなるんじゃないかなぁ……って。」
エドの提案を聞いた4人は安堵の表情を浮かべた。
「おおっ!いい案だぞエドワード・エルリック!それに報告によれば相手は策を立てずにかかってくる。
 目には目を、力には力をという訳だな。」
「イシュヴァール殲滅戦で戦った国家錬金術師達と共に世界を守るのか……、なんだか複雑な気持ちだが
 そうは言ってられないな。……あっ!別にマスタングや少佐は嫌いではないが。」
レオンはアームストロングに不快を与えぬよう冷や汗をかいて言った。
なにせ昔あったイシュヴァール殲滅戦にマスタングやアームストロングなどといった国家錬金術師が
借り出されたからである。アームストロングの存在をうっかり忘れていたのか一瞬慌てふためいた。
どうやら国家錬金術師に対して良い思い出がないようである。そんなことを置いといてレオンは話を戻す。
「しかしその戦略だが、拠点がわからない限り攻撃のしようがない。」
「拠点というより、魔界への入り口ですね。」
へレンが突っ込みだした。
「そっか……。」
「困りましたな。」
エドとアームストロングは難しい顔をして考え出した。そしてしばらく沈黙した後レオンがこれからのことについて語り出す。
「ではこれからのことだが、さっき言っていたこの山岳地帯を重点に見回りすることにする。
 特に瘴気が発生した金鉱跡には入り口辺りに交代で見張りを配置、24時間体制で随時連絡を
 行なってもらうことにする。魔界への入り口が開くらしい所かもしれないからな。」
レオンは腕を組んで言った。
「確かにな……。火のないところに煙はたたないっていうからな。」
エドも腕を組んで言い出した。
「そうですな。」
アームストロングも納得して言った。するとそこでヘレンが質問をした。
「ところで魔族って魂を集めることができるんですか?」
それにセリスはあっさりと答える。
「上級魔族なら可能よ。魂を食する悪魔だって昔は存在したの。それに、魂を砕くこともできるの。
 砕かれた者は“死”以上の苦しみを 味わうことになるの。…………永遠にね。
 これは冥界石の錬成の為に犠牲にされた魂にも当てはまるの。」
セリスの言葉にアームストロングとヘレンは凍りついた。
他の3人は少しこわばった顔をした何故なら他の3人はマッシュ達と共に村でこの事を聞いたからである。
「むごいですな……。」
「だろ?賢者の石以上にむごいだろ?俺も初めて聞いたとき身体が震えちまったよ。」
「だから少佐、現れた時には遠慮や情けは無用だ。何せ相手は心を持たぬ異形だからな。」
「……心得ました。」
レオンの忠告に対してアームストロングは首を縦に振った。一方セリスは険しい顔をして俯いていた。

会議が終わった後レオンは全員に話があるので会議室に残るよう言い渡した。
「どうしたんだよ大佐、話って?」
不満げな顔をしてエドはレオンに向かって言い放った。
「セリスのことについてだ。」
「えっ!?」
レオン以外のメンバーが全員セリスに注目した。
「会議中、彼女が俯いているのが気になってね。それでなにかあると思って全員に聞いてもらいたくて
 呼び止めたんだ。」
「私が……なにか?」
「…………セリス、君が何故俯いていたか当てようか。……まさか一人で魔族と戦うつもりだろう?」
「!!」
レオンの見事な察知にセリスは思わず動揺した。
「やはりそうか。私達にこれ以上迷惑をかけまいと思って今すぐにでも魔族を倒しておこうと思っていたのだろう。」
「…………………………。」
セリスは反論しようとせずそのまま俯いている。
「君が魔術師であり、国家錬金術師や私とは比べられないほどの力を持っているのは知っている。
 だが君一人では限界はある。たとえ立ち向かったとしても返り討ちにあうのがオチだ。
 そうだというのに、私達のことが信頼できないのか?」
「…………………………。」
「ガンツの件でエドや私なんかの実力は見てくれただろ?どんな奴が相手だろうと勝つ!
 その為には君の力も必要なんだ。だから……一人で立ち向かうなんて事を考え直して欲しい。
 君も言ってただろ?人に頼るのは恥じゃないって。違うか?」
セリスはレオンの目をジッと見ていた。いや、目を離すことができなかった。
人の話を聞くときは目を見るという基本的なことなのだがある場合は目を離したくなってしまう性があるのである。
しかしセリスはレオンに考えていることを見破られなおかつ見つめられてしまっていては考えを直さなければならないのであった。
「…………間違いないわ。でも、これ以上みんなを巻き込みたく……」
セリスの言い訳に対しレオンは人差し指で彼女の口を押さえた。
「乗りかかった船だ。沈む前に降りる気なんてないし、まして沈ませるわけにもいかない。……そうだろ、みんな?」
「ああ!」
「うん!」
「ええ。」
「言うまでもありません。」
レオンの問いに対して各々の答えが返ってきた。
「……ということだ。分かったね?」
「……うん。」
セリスは俯いて答えた。
「なあ、俺からも言わせてくれないか?」
エドが右手を上げて言った。
「なんだ?」
「村での戦いの時なんだけど……、顔には出てなかったけどさ……セリス、魔族に対して憎しみなんかを出していたような
 気がするんだ。……なあセリス、お前の探し物って魔族のことなんじゃ。」
「…………その通りよ。」
レオンの前なのかセリスはエドの質問に対して素直に答えた。
「どうして?」
「…………奴らは……父の魂を……冥界石の為に消滅させられてしまったの。」
「「「「「!!」」」」」
「五年前のあの日、私はアトリエの様子が変なことに気付いて中に入ったの。するとそこで父が母の蘇生を行なっていたの
 父が長い間家を留守にしていたのは、禁じられている魔術“死者の蘇生法”を探す為だったの
 実行の結果失敗に終わり父は死んだの……でも、それだけじゃ終わらなかった……。
 突然人とは思えない不気味な声がしたの『人間に死者の蘇生はできない。我らと契約すればできたものを』って。
 ……そして『愚か者の命、役に立たせてやろう』と、私の目の前で父の魂が消えていったの。
 その時聞こえたの『苦しい……苦しい……』って父の声がしたの。私は思わず発狂して叫び出してしまったの。
 父が苦しむ声と不気味な声によって……。それ以来あの出来事を何度も夢で見るようになってしまったの……。」
「そっか、この前宿屋でうなされていたのはその夢を見た為だったんだね。」
「ええ。……村であの本を読むまで分からなかったわ。それにお父さんが残した手記を読むまで
 どうやって死者蘇生の魔術を蘇らせたのかも、何せ禁忌の為大昔に封印されていましたからね。
 それで手記を読んでみたらそれに死者蘇生の魔術に関することが載ってあったの。
 内容は、他人の犠牲と引き換えに死んだ者を蘇生できるという非人道的な事なの。
 でも、父はそれを拒んだの。他人を犠牲にしての蘇生は魔族との契約と同じ事で、
 身も心も魔に染めてしまい二度と人として戻れなくなってしまうものだからなの。
 それで……独自に研究を行なって死者蘇生の理論を完成させたの。でも結果は前に言った通りなの。
 それから私は、仇を討つために村を出ていろんな所へと歩き回ってたの。」
「そうだったんだ……。」
「他人を犠牲にしての蘇生か……そういやクロウリーもそんなようなことやってたな。」
腕を組んでエドは昔起こった事件のことを振り返った。
「クロウリー?」
初めて聞く言葉にヘレンは首を傾げた。その疑問に対してレオンが答える。
「ジャック・クロウリー。“銀弾の錬金術師”の異名を持つ今から50年くらい前に実在した国家錬金術師だ。
 だが何かの理由で資格を剥奪されている。これは私の独断だが、おそらく禁忌を犯したのが原因だと思われる。
 それがどうかしたのか?」
「あいつはレビス王と同じように禁忌を犯してまで恋人を生き返らせようとしたんだ。……だけど失敗したんだ。
 それでそれを完璧にする為に多くの人を犠牲にして大きな賢者の石を作ったんだ。その結果クロウリーは……
 二度と人として戻れなくなっちまったんだ。(ゲーム「赤きエリクシルの悪魔」参照)」
「犠牲なしでの蘇生は不可能。犠牲を出しての蘇生は人の道を踏み外す……か。
 人体錬成及び死者の蘇生は神か無秩序な者でなければできない……ということか。」
そしてエルリック兄弟とアームストロングは3人にボードワンやシャムシッド遺跡で起こった事について語り出した。
ゴーレムを使った秘術。シャムシッドが滅んだ理由。クロウリーとその親友と恋人に起こった悲劇などすべて話した。
それを聞いた3人は悲観し人の道を外さないと心に誓った。
「人間もゴーレムを作っていたとはね……。」
「でも魔族が作ったのと違って、長くても数ヶ月で土に戻っちゃうのね。」
「……はい、そんな話は置いといてこれでお開きにしよう。セリスは我々と共に魔族と戦うということで
 いいね?何度も言うようだが、決して一人で立ち向かうなんて事をしないで欲しい。……分かったね?」
セリスに向かってレオンは手を叩いて言った。すると彼女はレオンの目を見つめたまま「うん。」と言った。
しかし会議が終わって3人が部屋を出た直後、レオンは何故か冴えない顔で俯いていた。
(セリスのあの様子は尋常じゃない。もしかしたら……何かあるのかもしれない……。)
その時レオンにチクリという棘でも刺さったような感覚を胸に感じた。
(なんだ?……この感覚は……。)

一方セリスは部屋の中でベッドにうつ伏せに倒れていた。
(どうしたんだろ私……。こんな気持ち……初めて…………まるで、大佐のことが尋常じゃないくらい気になるの……。
 この世に未練なんてないのに……あれ以外にやることはないのに……どうして私……こんなに胸が苦しいのかしら……。)
セリスもやはり胸に棘が刺さったような感覚を感じたようである。

次の日。レオンの仕事部屋に1本の電話が鳴り響いた。彼はそれを手に取った。
「私だ、レオン・ヴァルスだ。……あっ!これはキング・ブラットレイ大総統、お久しぶりです。」
レオンは改まった態度で会話を続けた。受話器の向こうからブラットレイの声がする。
「珍しいですね、大総統が直々に電話だなんて……なんの用なんですか?」
「魔術師の件だが、話はアームストロングから聞いている。まさか生き残りがいたとは驚いたよ。」
「それで……彼女のことは……その……」
「分かっておる。そなたの自由にしてよい、その代わり最後までしっかりと面倒をみるようにな。」
「無論、承知しております!」
「ははは……、それに顔も似顔絵ではあるが見せてもらったぞ。お前さんにお似合いのお嬢さんじゃないか。」
「お……お似合いって……。」
レオンは思わず顔を赤く染めた。アームストロングは外見に似合わず似顔絵が上手いのである。
昨日セントラルに帰った後セリスの似顔絵を彼はブラットレイに見せたようである。
そしてブラットレイはレオンの言葉を聞いていないのか話を続ける。
「いっその事結婚でもしたらどうかね?そうすればいつまでも面倒を見れるが。」
「結婚って……、まだ早過ぎますよ!知り合ってからまだ5日しか経ってないんですし……」
「その割には親しいということも聞いておる。そろそろあれをするのではないかね?」
「確かに私はセリスのことを気にしてますけど、そこまでする程発展してません!」
レオンはさらに顔を真っ赤にしなおかつ大きな声で周りのことを気にせず喋り出す。
「声が大きいぞ、周りに聞こえるではないか?」
「………………………。」
レオンはその一言により我に帰り俯き出した。
「本当に君は女のことになるとムキになるからからかい甲斐がある。」
「大・総・統!!!!」
「?」
「切りますよ。」
「まあまあ、それに君も今日はたまには休みたまえ。私から直々に電話をしたのは親友から『最近働き過ぎだ』と思われてるから
 私の命令でもない限り休みを棒に振るってるそうだからその為に電話したのだよ。」
「はあ?」
レオンは思わず疑問の顔を浮かべた。
「とにかく君は今日は休みたまえ、これは大総統直々の命令である。違反した場合は軍法会議にかける。では。」
「あっ!ちょっと大そ……!」
なにか言いたそうに訴えるもその前に電話は切れてしまった。受話器からはツー、ツーという音が無常に聞こえる。
レオンは力なしに受話器をもとに戻した。
「……なんてお茶目な方なんだ……。」
レオンは左手を受話器の上に置いたまま右手で机に『の』の字を書いていた。その時カチャという音が鳴った。
ドアの開く音である。
「大佐、どうかしたの?」
ドアの方にはセリスがいた。
「あっ……ああ……、セリスか。……大総統からの電話でな『今日は休め』の命令だそうだ。」
「休めって……たかが休みなのに何うろたえてたの?」
「働きすぎだ……って言われてね……。」
レオンは無表情で言った。しかしセリスはまんざらでもない顔をして言う。
「確かにそうね。……ヘレンさんから聞いたんだけど、ほぼ3ヶ月働きっぱなしの時もあったんでしょ?
 普段は1ヵ月間働いて休みはたった1日だけでそのあとまた1ヵ月働くなんて尋常じゃないって言ってたわよ。」
「……まあ、昔やった修行のせいで疲れを感じにくくなってしまったし、仕事することで落ち着くから……ね。」
レオンは頭を抱えて恥ずかしげに言い出した。話を聞いたセリスは呆れかえってしまう。
「完璧なワーカーホリックね……。部下が呆れるのも仕方ないわね。エドが聞いたら恐らく『働きすぎだ!焔の大佐とは
 極端じゃねえか!』ってツッコミ入れてくるわよ。」
「ハハハ……確かにそうだな……。」
思わず苦笑いをしてレオンは答えた。するとセリスはひらめいた顔をした。
「なら、いっそのこと何処かに行きませんか?せっかくの休みなんですから有効利用しないといけないし。」
「だが、遠くにはいけないぞ?」
「レザニアの周辺で充分よ。極端に言えば町中でも大丈夫!」
とセリスはさりげなくVサインする。
「エドは?」
「あの2人はダメよ。エドは散歩をしなさそうだし、アルはエドをなだめなきゃいけないからね。」
「……確かに。」
腕を組んでレオンは頷いた。するとレオンは何か思いついたのか考えだした。
(よく考えてみれば、セリスとはよく話したりするけど、長い時間話してたりするのってあまりないな……。
 よし!セリスと一緒に町の散歩といくか。)
「どうしたの大佐?」
考え込むレオンの顔をセリスは覗き込んだ。
「いや、たまには休むのも良いものだなって考えてたんだ。……けど本当に町の辺りしか行けないがいいのか?」
「別に構わないって言ったでしょ?……あっ、でも仕事の方大丈夫なの?大佐が休んじゃったりして。」
「それならヘレン少尉に任せればいい。いつものことだから大丈夫だ。」
「いつも?」
「私がここを遠征などで留守にしてるときなどで代わりにやってくれるんだ。
 こっちは心配してるけど、本人は『これぐらいどうってことありません』って言ってる程心配無用なほど
 私の代理を務めてくれるんだ。」
「へぇ……そうなんだ。なら安心ね。」
そして2人は町へと向かっていった。

そして2人が町中に入り歩き続けていたが途端にセリスが
「あっ、あのお店面白そう。」
と言った具合で
町中をジグザグに歩いていく。一方レオンはそんなことを気にしておらず、
それどころか久々の休みなのかリラックスをして町中を見渡す。そしてしばらくすると
「あら、これは大佐、珍しいですね。」
町のおばさんに声をかけられる。
「ああ、大総統からの直々の命令でね。」
レオンは町の人たちと全て顔見知りなので戸惑うことなく返事をした。
「あらあら、大総統が命令するほどねぇ……。確かに大佐は働きすぎですからねぇ……。
 私達の為に尽くしてくれるのはありがたいんですが……たまには休まないといけなせんよ。」
いつも通りのことなのか、見回りと思われていないようである。
「まあ……身体のつくりが常人じゃないから……仕方ないんだ。」
「ホントねぇ……。子供が大佐の真似でもしたら大変なことになりますもの……。」
そんな世間話をしてるレオンをセリスは店の前で見ていたが、どうってことない顔をしている。
そして話が終わった後再び2人はいつものように歩いていく。すると
「あっ!ヴァルスト大佐!!」
「ホントだ〜!!」
「キャー(ハート)久しぶりに見たけど、カッコい〜〜〜〜!!」
今度は若い女の子達の声がした。ミーハーな声にレオンは思わずビクッと驚き冷や汗をかく。
「今度は若い女の子か……。」
セリスは呆れた顔して言った。
「ハハハ……。」
レオンは呆れ笑いをするも相手にはせず歩き出した。
この後ももちろん、老若男女問わずいろんな人にレオンは声をかけられた。
仕事でもないのに町中を歩き回るのが相当珍しかったようである。
そしてある人が
「ところで大佐、そちらの女性は?」
と、セリスのことを聞いてきた。何せセリスは軍人ではないのでレオンが軍人以外の女性を連れて町中を歩くのも珍しかったのだ。
レオンは冷静に
「散歩に付き合ってるだけ。」
と答えた。その答えにセリスは何故か険しい表情をした。

そしてしばらくして、時間がちょうどお昼時になった。
「もうこんな時間か……。」
レオンは胸ポケットに入れてあった懐中時計を見て時間を確認した。
「なら、そろそろお昼ご飯にする?」
「そうだな……何が食べたい?」
「大佐に任せるわ。だって、この町のことあまり知らないから。」
「そうか。それじゃあ……」
レオンは腕を組んで考え出す。…………しばらくすると、ひらめきだした。
「あそこに行こう。」
「あそこ?」
「私がまだ階級が低かった頃によく行ってたお店なんだ。」
と、レオンに案内されるままセリスは歩き出した。
着いたお店は一見、どこにでもありそうな外見で酒場に近い感じであった。
そしてレオンはセリスに向かって申し訳なさそうに話した。
「…………本当は、レストランとかのちょっと贅沢な所にした方がいいかもしれないんだけど……、
 どうもこのお店に愛着がわいちゃってね。ハハハ……、やっぱり軍人ってこういう庶民的な所は似合わないかな?」
レオンは思わず苦笑いをして言った。しかしセリスはまんざらでもない顔をした。
「そんなことないわよ。だって、大佐のお気に入りなんでしょ?それに私、高価なのってあまり好きじゃないし。」
「……そうか、それなら……安心した。それじゃあ、入る?」
「うん。」
2人は店の中へと入っていった。
「いらっしゃい。あら、レオンじゃない?どうしたの今日は?」
店に入ってすぐにカウンターの女性に声をかけられた。感じからしてこの店の店主らしい。
「大総統の命令でね……ハハハ……。」
レオンはまた苦笑いする。その後セリスが問い出した。
「大佐、この人は?」
「ああ、彼女はディアナ。この店の看板娘で私の幼少の頃の親友。いわば幼なじみなんだ。」
「ところでレオン、そちらは?」
「ああ、セリスっていうんだ。一緒に色んな所を歩き回っているんだ。」
「へぇ〜……。」
と、いきなりディアナはセリスを頭の先からつま先をジロジロ見る。
「結構可愛いじゃない。スタイルもいいし。」
「そ、そうかしら?」
「そうよ。レオン、こんな可愛い子を野放しにするのは勿体無いわよ。
 取れるうちに取っちゃった方がいいんじゃない?」
「な……!」
レオンは顔を赤く染めた。
「あっ、赤くなった。」
「取るって……ディアナ……。」
レオンの言葉を聞かずディアナはセリスに耳打ちをする。
「ねぇあんた、レオンのことどう思ってるの?」
「えっ!?…………まあ、やさしいし、今までの軍人さんと違ってアットホームな感じ……かな?」
突然の質問にセリスは躊躇いながら答えた。
「それだけ?」
ディアナはセリスを問い詰める。一方セリスは冷や汗をかいてうろたえていた。
「えっ…………その……他に言うことってあるんですか?」
そんな様子を見てレオンはため息をついた。
「もういいから、席に案内してくれないか?私達は昼食をとるために来たんだが……。」
「……分かったわ。2名様ご案内〜。」
レオンの反応を面白がっているのかニヤリとした顔でディアナは2人を席に案内した。
席に着いた途端セリスは突然笑い出す。
「くすくす……面白い人ですね。」
「まあ、私が女性と一緒にここに来るとその人が絡まれるんだ。……悪気はないんだけど。」
「ヘレン少尉も絡まれたの?」
「ヘレンだけじゃない、ホークアイ中尉やアスナ軍曹なんかと一緒に来た時も最初は絡まれたよ。
 『レオンのことどう思う?』って、……もちろん2人だけじゃない。
 セリスの知らない人では、マリア・ロス少尉とかヒューズ一家なんかにも絡んでたよ。
 みんな冷静に対応してたけど、特にヒューズ一家なんかは旦那さんが『こんな朴念仁に俺の妻は似合わねぇ』って
 馬鹿笑いしながら言ってたよ。……まったく、あの家族バカには苦笑いさせられるよ。」
「まあ、他人の奥さんにまで絡むなんて……。」
「そんなに私に彼女でも出来て欲しいのかな?って思うんだ。いつも。」
「でも、いくらなんでも他人の夫人と関わらせるのはどうかと思うわね。」
「そうだな。」
「うふふっ。」
何気ない会話を交わした後2人はメニュー欄に目を向けた。
しばらくすると、テーブルの近くに伝票を持った店員が立っていた。
「……ご注文はお決まりでしょうか?」
「私は、ミートボールスパゲティランチで。」
「かしこまりました。そちらのお客様は?」
「えっと私は……クリームシチューランチをお願いします。」
「かしこまりました。」

しばらくして、注文した料理がやってきた。
レオンが頼んだのはミートボールスパゲティにガーリックトーストとサラダが付いてるランチメニューで、
一方セリスのは鶏肉のクリームシチューにパンとサラダが付いてるランチメニューである。
「……おいしい。」
料理を口に運んだセリスの顔に笑みがこぼれた。
「よかった、口に合って。」
「大佐ってこういう家庭的な味が好きなのね。」
「ああ、それに値段も安いしね。」
「確かに、2人分の合計見ても2000センズでおつりが来るわね。」
「500センズでもなにか一品頼む事だってできるさ。なにせこの店で使われてる料理の材料のほとんどが
 安い所で仕入れてるから、採算も合うし、味も確かだから大繁盛してるんだ。」
「でも、一番この店が繁盛してる原因は、ディアナさんの料理の腕にあるんじゃないの?」
「確かにそうだな。」
セリスの一言にレオンに笑顔がこぼれた。
ちょうどそんなときディアナが2人の元に顔をニヤニヤしながらやってきた。
「おんや〜?結構仲がよろしいのではございませんかぁ?2人とも。」
「うわっ。」
「きゃっ。」
突然声をかけられたためレオンとセリスは飛び退いた。
「何を言い出すんだいきなり、ただ話しているだけなのになんでそんな風に見るんだよ!?」
「だって、はたから見るとどうしてもお似合いのカップルにしか見えないんですけど……。」
「そ……そんなことより仕事はどうした!?」
顔を赤くしながらレオンが注意する。するとディアナは穏やかにハッとする。
「そうでした……。
 では、私は馬に蹴られたくないので……、お仕事に戻ります〜。」
ひょうきんな態度でディアナはカウンター先の厨房へと戻っていった。
「…………カップル……か……。」
セリスはディアナが言ってたことを気にしてかボソッと呟き出した。
レオンが不思議に思いセリスの顔を覗き込んで
「どうしたんだ?」
と、聞き出すとセリスは首を激しく横に振り
「ううん、なんでもない!」
と答えた。それから店を出るまでは何事も無く食事は進んでいった。

食事を済ませた後2人は西の湖へとやってきた。時間は午後3時ごろであるが、周りには誰もいない。
しばらく歩いているとセリスが話しかけてきた。
「ねえ大佐、私のことどうなったの?」
セリスは自分が魔術師であることを他の軍人に話してしまったことで世間が混乱するのでは不安な為
聞かずにはいられなかった。しかし返ってきた答えはセリスを安心させることであった。
「それなら大丈夫だ。大総統が私の好きなようにしろとのことだから公表はしないしされない。
 ……その代わり、しっかりと面倒を見るように……って後押しされた。」
「そうなんだ。……よかった。」
セリスはホッとして胸を撫で下ろした。しかしその後うつむいた。
「ねぇ、面倒を見るって言ってたけど……いつまで?」
「そうだな……、事件が片付くまでかな?」
「……………………。」
「どうしたの?」
「……前から思ってたんだけど…………大佐って結構……、女性にモテるのね。」
「まあ、よく部下とかに言われるんだ。マスタングに『どっちがモテると思う?』なんて言われたぐらいだからな。」
「……………………。」
「セリス?」
何故かセリスは俯いたままピクリとも動かないでいた。しばらくすると、彼女の身体が震えだしそして……。。
「……なんで私、大佐のことを…………好きになちゃったのかしら……?」
「!!」
思わぬ発言にレオンは驚いて後ろに飛び退いた。
「……私ね、さっきから大佐のことを考えると胸が苦しくて、切なくなっちゃうの……。
 ……恋をしちゃったんだな……って、大佐とこうして一緒に歩いていて分かっちゃったの。
 容姿も、性格も、頭もいいし、何よりやさしいから、一緒にいると安心するの。
 この人が生涯の伴侶ならいいかなって考えてたんだけど……。ダメなの。」
さらなる一言でレオンは顔を赤くしながら疑問の顔を浮かべた。
「ど……どうしてなんだい?」
「私ね……恋なんてしなきゃよかった……って思ってるの。」
「魔族によって世界が滅び、私も君も、そして人間全てが死ぬからか?
 ……そんなことはさせないさ!……だから、魔族から世界を救った後でも……。」
レオンは表情を元に戻して話すが
「そうじゃないのよ!!」
セリスの怒鳴り声により言葉を遮られてしまう。
「!?」
「だって私は……………………………。」
セリスの瞳に涙がこぼれ始めた。
「…………………………………………………。
 どっちの結果にしろ、この世から消えなくちゃいけないのよ!!」
「!!」
「魔族との戦いは、恐らく激しい戦いになると思うの……。だから、想像を絶する犠牲者がでると思うの。
 でも、世界の平和の為に多くの人が死んでいくのが、私には耐えられないの……。」
「だからって、君が犠牲になるっていうのか!?」
「大昔の人間と魔族の戦争では、普通の人は千人の死者出た。
 それに引き換え魔術師はおよそ1万人、何が言いたいかというと世界の平和の為に、その数の魔術師が犠牲になったのよ!?
 大佐も錬金術を学んでたなら知ってるでしょ?等価交換を……!今回の事だって、世界が平和になるくらいなら私の命なんて……」
「………………………。」
涙目で話すセリスの話を聞いてレオンは体をブルブルと震わせて……セリスの頬を引っ叩いた。
セリスは叩かれた頬を右手で押さえる。
「馬鹿野郎!!なにが『自分の命なんて』だ!私はそんなの認めん!!」
「た……大佐……。」
「世界が平和であるなら自分は死んでもいいなんて、そんなの認めたくない!!断じて認めん!!」
「…………………………。」
セリスはレオンの威圧により口論が出来ず黙ってレオンの話を聞いていた。
「私はそのようなことを言って死んでいった者達を知っている。……そんなのは、等価交換なんかとは思えない!!
 そんなのでは沢山の人が幸せでも、一部の人は不幸なままでいけないじゃないか!?
 …………私はね、等価交換というのは全ての人を幸せにする為に行なわれるものなんじゃないかと思うんだ。」
全ての人を幸せにする為に行なう……その言葉にセリスは思わず胸を撃ち抜かれたような感覚を感じた。
「言うには簡単だが、行なうには難しいことだ。……しかし、いつかきっとそれができる。
 私はそう信じてる。だから…………君の命も、世界の平和も守ってみせる。」
「どうして……?」
レオンはセリスに近づいて肩に手を置いた。
「…………私も、……セリスのことが好きだから……。」
顔を赤くし、視線をそらしながら告白をした。
そんなレオンを見てセリスは思わず笑い出した。
「うふふっ……目をそらしたら説得力がないわよ。顔も赤いし……。」
「ムムム……。」
レオンは照れたままムスッとした顔をした。
「なら、証明して。」
「?」
「私のこと、本当に好きだっていう証よ。例えば…………キス……とか……。」
「うっ……。」
レオンの顔はさらに真っ赤になっていく。彼は生まれてからずっとこの様な事をしたことがなかったからである。
幼少の頃から親元から離され、勉学や戦闘技術を学んでいた為、人としてあるべき生活を過ごしたことが無かったからであった。
しかし、セリスと出会って彼は初めて暖かさを感じ、彼女の優しさに触れ、そして悲しみを知った。
彼女を守ってあげたい。そんな思いがレオンの中で育まれていたのである。そして……彼は意を決して息を呑み、目を閉じた。
それを見たセリスは対応するかのように目を閉じた。
そしてレオンは、セリスの可憐な唇にそっと…………キスをした。
およそ30秒経ったのであろうか、レオンは再びそっと唇を離した。
「レオン大佐…………。」
「……本当は、自分からすることはないからね。」
レオンは顔を赤くして視線を逸らした。
「うふふっ……。」
今度セリスはレオンに近づいた。そして両手をレオンの顔に添え向きを変えた。
「ちゃんと見てなくちゃ……ダメよ。」
「…………………………あ、…………ああ。」
そして今度はレオンに抱きついた。その時彼女の顔は寂しげな感じになっていた。
今まで明るく振舞っていたのは他人に心配させないようであったが、それがもう限界だったのである。
「私ね、魔術師であることがばれて、人に嫌われるか利用されるのが時間の問題だったから……そこに住んでた人たちには黙って
 村を出て行ったの。私が死んでも、魔術師だから誰も悲しまないから、もう私の生涯はこれでいいと思ったの……。
 でも、大佐のことを好きになってしまって……もし告白したら、私が死んだ時もの凄く悲しませてしまうから……。」
「それで、あんなことを言ったのか……。」
「うん、非人道的なことを言えば……嫌われるんじゃないかって思ってた。
 でも……、大佐は優しいから私……もうどうしていいか分からなかったの。さっき……
 自棄になっていた私をぶってくれた……私のことを思ってやったんでしょ?……それが嬉しかったの。でも……どうして?」
「……だって君は、私の傷を癒すべく抱いてくれた。それが嬉しかったんだ。
 ……本当に感謝している。……ありがとうセリス。」
レオンは抱きかかえるようにそっとセリスの背中に両手をまわした。
「……私のことを……魔術師なんかじゃなくて、人として見てくれるのね……?」
「もちろんだ。セリスは人でもあるし……女性でもある。」
その一言によりセリスには言葉では表せない喜びが膨れ上がった。
「…………ありがとう……大佐。」
「レオンで……いいよ。」
「ありがとう……レオン……大好き。」
そして今度はお互いに目をつぶり唇にそっと……キスをした。


あとがき
またしてもオリジナルキャラ(ディアナ)が登場しました。
ディアナが経営する店は、どちらかというと大衆食堂に近い感じのお店ですね。
言わば『味はA級、値段はB級』という感じです。となるとレオンはB級グルメということなります。
なにせ彼は高級なモノより家庭的な味がお好みという設定です。なにせ家族愛に飢えてますから(笑)
あと、2人が名前で呼び合うようになる(恋人になる)展開になってしまいましたが、
周りに人がいるときはセリスは『大佐』レオンは『セリス』とまだ呼びあっていて
その事に関しては内密にしています。(2人の間で)
ハガレン2と関わりが無いとか言ってたわりに、関することだしてしまいました。^^;
この話を書き終える前にハガレン2をクリアしてしまい、面白かったので結局書いてしまいました(汗)
さて、次回ではネムダが出てくる予定でおります。
ヘレンやマスタングらの活躍も書く予定でおりますのでどうかこれからもこの駄文(?)小説を
大きな目と心で読んでくださいませ。それでは……。

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