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第6話 招かれざる者

エド達がレオンのもとに世話になってから3日が過ぎた。
その間に町を散歩したり、レオンが趣味で集めている古書を読んだり、錬金術や魔術に関する学習会みたいなこともやった。
今日は3人で弁当を片手にレオンにこの前行った湖へ向かっていた。
「今日は絶好のピクニック日和だね。」
「ああ、大佐も来れたらよかったのにな……。」
「仕方ないわよ。大佐も少尉も、仕事の都合でそんな暇がないからね。
 ……それに、焔の大佐と違って真面目だしね。」
「確かにあれは暇な時でも誘いに乗ってくれなさそうだしな……。」
エドは腕を組んでうなづいた。
「でも、こうしてると……アルモニのこと思い出すね。」
「アルモニ……。」
エドはその言葉を聞いた途端落ち込んでしまった。
「誰なの?そのアルモニって、その子とピクニックにこうやって行ったことあるの?」
セリスが聞き出した。
「ああ。アルモニは俺の……弟子だった奴なんだ。アルモニ・エイゼルシュタイン……。
 まさかあんなことになるなんて……。」
「…………つらそうね。話したくなかったら、話さなくてもいいわよ。」
「ああ。」
セリスはエルリック兄弟のことを気遣ってアルモニに関することを聞かないことにした。(ゲーム「翔べない天使」参照)
「それにせっかくのピクニックだから暗い顔してちゃ、台無しになっちゃうわよ。」
セリスはウインクしてエド達に言った。
「……そうだな。思いっきり楽しむか!」
「うん!」
アルは思い切り相づちを打った。

湖の畔についた3人はさっそくレジャーマットを敷いてそこに座り込んだ。
「それにしても魔術ってのは奥が深いんだな……。区別があって。」
エドが魔術に関することをセリスに聞き出してきた。
「ええ、そうよ。前にも言ったとおり魔術にはジャンルがあるの。治療など人の役に立つ術の白魔術、
 呪いなど人に災いをもたらす黒魔術、精霊などを呼び出す召喚術……。」
「……そして物質を分解し再構築する錬金術。だが、錬金術は唯一魔力のない人でも扱える魔術。なにせ等価交換が基本だからな。」
「そうだね。でも……そんなことより、この湖の景色を堪能しよう。せっかく来たんだからさ。」
「そうね。そんな難しい話はやめにして、思いっきりのんびりしましょう!ねっ?」
アルの言葉に応じてセリスは立ち上がって間延びをした。
「……そうだったな、うっかり学的なこと喋っちまったぜ。」
エドは頭を抱えて“あちゃー”な表情をした。
「まあまあ、ゆっくり過ごしましょう。」
エドをなだめつつセリスは早速荷物からスケッチブックと鉛筆を取り出した。
彼女の趣味には絵画がある。彼女は良い景色等をみると記念として
その背景画をスケッチするのだ。腕前はというと魔術ほどではないがかなりのものである。
湖をバックした風景を真剣な眼差しで見てセリスは座り込んでからデッサンを始める。
エルリック兄弟はというとエドは横になりアルはただボーっと過ごすのであった。

数分後スケッチを完成させセリスは背景と見比べる。
完成させた絵はとても鉛筆だけで書いたとは思えないほどの素晴らしい出来になっていた。
「うん!今回は気分がいいから良い出来だわ。」
セリスは絵を置いてエドの方を見るとエドは日差しがあまりにも気持ち良過ぎた為か眠っていた。しかもお腹を出して……。
「あらあら、行儀が悪いわね……。」
セリスは平然とした顔をして言った。
「ホント、いつになったらそのクセが直るのか呆れてものが言えないよ……。」
アルは呆れた顔で言った。といっても鎧なので無表情だが声からして呆れ顔をセリスは想像できるのである。
「まったくね。……所でさ、エドのことでいろいろ苦労してるんでしょ?アルは。」
「うん。いつも何処か行く度にトラブルが起きるんだ……、大抵は兄さんが起こしてるんだけどね。」
「ウフフ……そうね、もしエドが聞いてたら『俺がいけねぇのかよ!!』って怒ってるわね。
 けど、少しは慎重になって欲しいわね。猪突猛進で突っ込むから酷い目に遭ったりするのよ。
 今回の事件は違うけどね。
 それよりさ、エドが起きたら昼食にしましょう。私、厨房借りて懸命にお弁当作ってきたから。」
「セリスって料理できるの?」
「長旅で培ってきたからどうってことないわ。」
「へぇ……なんか楽しみだね……。」
エドが起きるまでの間2人の会話が弾んでいた。

一方レオンの屋敷では……。
レオンは机にて報告書の作成を行っていた。
「……ふう。セリスのことを書かずにうまくまとめるのは難しいな……。
 とりあえずエドが無理矢理解決した……みたいな感じで書けばなんとかなるかな?」
そう考えてる所で電話が鳴り出した。レオンは受話器を取り出した。
「私だ、レオン・ヴァルストだ。」
「大佐、東部のマスタング大佐からの連絡が入りました。」
受話器からヘレンの声がした。
「(あいつからか、なんだろう?)……分かった。繋げてくれ。」
「はい。」
「…………久しぶりだな、レオン。」
受話器から若い男の声がした。レオンのライバルでもある男、“焔の錬金術師”ロイ・マスタングである。
「そっちも相変わらずだなマスタング……それで、連絡とはなんだ?」
「………………………………………………………。」
相当重要な話なのか静かな空気の中でレオンは険しい顔をして受話器片手に会話をした。
……そして数分後。
「分かった。では、エド達が戻ってきたらこのことを報告するが、いいか?」
「“鋼”がこの町にいるのか?」
「ああ、列車事故の為立ち往生しているところを復旧までに保護している。」
「そうか……報告の件は構わないが。」
「ハハハ……了解した。お前に対して色々不満を持ってるからな……エドは。」
レオンは苦笑いしながら緩やかな表情で答えた。
「では、失礼する……ああ、それと?」
「?」
レオンは疑問の顔を浮かべた。
「彼女はできたのか?」
マスタングの軽率な声がした。
「……そう言うお前はどうなんだ?」
レオンは険しい顔をして返事した。
「ははは……、それからするとまだの様だな。早く作って紹介でもしてくれたまえ。」
「余計なお世話だ!モテるクセにもうすぐ三十路でまだ未婚の奴が言うものか!?
 ヒューズ中佐みたいなこと言い出して……切るぞ!」
レオンは受話器を普通に置いた後険しい顔をしたまま報告書の作成作業に戻った。
「……まったくマスタングのナンパ男が!ホークアイ中尉の爪の垢でも煎じて飲ませてやろうか!?」

電話の向こう側ではマスタングが呆れた顔でツー、ツーという音を出している受話器をそのまま持っていた。
「まったく、これだから真面目すぎるのは好きじゃないんだ。」
「レオン大佐はそういう人なんっスよ、大佐。」
マスタングの後ろにいるくわえタバコの男性ことジャン・ハボックが突っ込んだ。
「まったくだな。……あっ!」
「?」
ハッとした顔のマスタングにハボックは疑問の表情を浮かべた。
「無差別誘拐の件のこと聞くのを忘れてた。もう一回電話せねばならないのか……。」
マスタングは頭を抱えながら受話器を置いた。
「その件ならホークアイ中尉に頼めばいいんじゃないスか?
 ちょうどレザニアの近くに視察へ行ってるんスから。」
「……そうだな。あの朴念仁の小言を中尉は聞いてくれるからな。」
(単にレオン大佐の小言を聞きたくないからじゃないスか?)
心でそう呟きながらハボックはタバコを吸った。

その頃ピクニックの最中の3人は湖畔での昼食を堪能していた。
「これみんなセリスが作ったのか?」
「うん、チキンのサンドイッチに、ローストビーフサンド、あと卵サンドにトマトのサンド。
 そしてサイドメニューには、コールスローサラダ。デザートにはチーズケーキ。」
レジャーマットの上にあるバスケットには献立がならんでいた。
「うわ〜っ、おいしそうだね。」
「どれ?」
エドはいきなりサンドイッチに手を伸ばして口に頬張った。
「兄さん…お行儀悪いよ。」
アルの注意を無視しつつエドは口をモグモグと動かしている。
「…………うん!うまい!」
「よかった。口に合って。」
「これならいつ嫁入りしてもおかしくねえな。」
「ぶっ!!ゲホッ、ゲホッ……何言い出すのよ!?いきなり!」
エドの台詞にセリスは思わず飲んでいたお茶を吹きだした。
「それに、私なんかをお嫁さんにしてくれる人なんていると思ってるの?」
「例えば……剣聖の大佐とか……。」
「!」
セリスは顔を思い切り赤くする。
「……図星だな。」
「エドっ!!しまいにはぶつわよ!!!」
「照れた顔で怒ったって怖くねーぜ。セ・リ・ス。」
「兄さん、あんまりセリスをからかわないで……。」
顔を赤くして照れながら怒るセリス。セリスをからかうエド。エドを制止するアル。
そんなこんなの絡みがありつつも昼食は盛り上がっていった。

「ふう……気持ちいいわね……。」
「そうだね……時が止まってるみたいだね。」
「いっそのことホントに止まっちまえばいいのに……。」
エドの一言に2人はエドの方を向いた。
「どうして?」
「セリスは知らないからあえて言う。あと7日で路線が復旧するだろ。
 そうしたら俺達、ダブリスに向かうんだ……。」
「それがどうかしたの?」
エドは身体を震わせて話を続ける。
「そこには俺の師匠がいるんだ……、それで人体錬成の手がかりを得る為に向かうんだけど……
 もし禁忌を犯したことがバレたとなれば…………。」
アルはハッとしてエドと同じように震え出した。
「そ……そうだ……、そうなったら僕たち…………。」
「?」
「「……師匠に殺されてしまうんだ……。」」
エドとアルの台詞が見事にハモった。
「なら行かなきゃいいのに、どうしてそうまでして行くの?」
平然とした顔でセリスは2人をつっこむ。
「前にも行ったとおり、人体錬成の手がかりを得る為なんだ……。
 師匠なら賢者の石とかについて知ってるんじゃないかって思って……。」
「なにせ師匠は人体錬成や賢者の石について教えてくれなかったし、人体錬成を行なうことも禁止されてたから……。」
さらに2人は暗くなる。
「短くなった人生が一時的に長くなっただけだったなアル……。」
「そうだね…………せめて彼女を作りたかったね……。」
悲しむ二人。そして重苦しい空気にセリスは思わず冷や汗を掻く。
「(2人が怖がるほどその師匠って、相当怖いのね……。)
 ……ねぇ、サンドイッチとケーキ、私の分も食べても良いわよ……だから、元気出して……。」
せめてもの元気づけにとセリスは自分の分のケーキをエドに受け渡す。
「ありがと……。」

数分後。バスケットの中はすっかり空になっていた。
「いやぁ〜、ごちそうさま。うまかったうまかった。」
先程の落ち込みとは裏腹にエドはいつものテンションになっていた。
「うふふっ、さっきまで落ち込んでいたのにすっかり元気になったわね。」
「仕方ないだろ?あんなにうまいモン食ってたら落ち込んでる場合じゃねえからな。
 さすがに全部食えないけどな……。」
「ケーキはさすがに一切れだけはセリスが食べたけどね。」
「だって、自画自賛するほどの出来のケーキを全部あげるなんて勿体無くてできないわよ。」
「ハハハ……、でもホントにおいしそうだったね。今度、僕が元の身体に戻れたらまた作ってくれないかな?」
アルのその言葉にセリスは突然首を下に向ける。
「…………多分、それはもうできないかも……。」
セリスは小声でそうつぶやきだした。はっきりと聞こえなかったのでエドは聞きだす。
「えっ?今なんて……。」
「!」
セリスは突然険しい表情になり顔を上げる。
「どうした?」
「静かにして!……なにか聞こえたわ!」
セリスに言われたとおり2人は息を潜めた。すると何処からかパン!パン!という音が聞こえ出した。
「今のは……銃声!?」
3人が聞いた音は間違いなく銃声であった。
「聞こえた方向は…………町とは正反対の方からだ!」
「確かその方向には、小さな村があるって話だわ!!何かあったのかしら?」
セリスはレジャーシートに置いてあった剣を腰に提げた。
「急ごう!!」
「うん、銃声とあっちゃただ事じゃない気がするからね!」
3人はその村の方向へと走って向かっていく。


村の入り口に着いた3人が目にしたものは、一部が破壊されている民家。地面に飛び散った血痕。
そして逃げ惑う人々たちであった。
「おい!何があったんだ!?」
エドが逃げ惑う一人の村人に声を投げかけた。
「ば……バケモノが突然村を襲ってきたんだ!」
「「「バケモノ!!??」」」
「それも一匹だけじゃねえ!沢山いやがるんだ!今軍人さんが3人、それに対処してるんだけど、
 逃げ遅れた人がいてとてもじゃねえけどそれどころじゃねえんだ!あんた達も逃げた方がいいぜ!!」
「逃げろって……!」
エドが殺気を感じたのか上を見上げるとガーゴイルが一匹こちら側に向かっていた。
ガーゴイルは突然急降下し男に襲いかかろうとしていた。
「アル!」
「うん!」
エドの掛け声と共にアルは両手を組みエドはそれに足を乗せる。そしてアルはエドを高く放り投げる。
エドはそのまま右手を刃に錬成しガーゴイルを縦に真っ二つに切り裂いた。
「!」
男はガーゴイルが倒される様を見て何がなんだかわからず混乱する。
そしてエドは地面に着地した。それと同時にガーゴイルの死骸が落ちてきた。
「あ……あんた達は一体?」
男は震えた声で問い出した。
「錬金術師だ!」
「私も、こう見えても剣の達人です。軍人さんや逃げ遅れた人たちのことは私たちに任せて
 早く逃げてください!」
セリスもエドに続いてそう答えた。本当は魔術師なのだが人に嫌われぬようにとあえてそう答えたのである。
「あ……ああ、あんた達ならなんとかなりそうだ。……村長たちを助けてくれ!」
男はそう言って駆け足で逃げ出していった。
「うまい嘘つくなぁ……。」
エドがにやけた顔でセリスに言う。
「ホントのことよ、大佐ほどの腕前はないけどね。……まさか魔物が現れるなんて。」
とまたしてもエドに対してウインクする。そしてガーゴイルの死骸を見た。
「ああ……いくぜ!アル!セリス!」
「うん!」
「ええ!」
3人は村の中へと入っていった。

「なんでこんなにバケモノがいるんだ?」
「わからないわ。でもやるしかないわ!来るわよ2人とも!」
セリスは咄嗟に剣を抜き、エド、アルと同様に構えを取った。そして次々と異形の者達…いや魔物達が3人に襲い掛かってきた。
ガーゴイルのほかに翼は生えているが空は飛べない尻尾の生えた者。目が1つしかない者など多種多様であった。
セリス曰く魔物の名は“インプ”“サイクロプス”などである。
そんな異形を3人は蹴散らしながら進んでいった。もちろん逃げ遅れた人達を救いながら行なった。
そして数分後。
「これで残された村人はいないようだな。」
「でも、村長さんらしき人がまだみたいだよ。」
「そうね、ひょっとしたら軍人さんが保護してるのかも。」
「なら探さなきゃ!」
「ええ!」
3人は村の中を懸命に走り回る。途中異形に襲われながらも武器を駆使して倒していく。
セリスも魔法を一切使わず剣のみで倒していった。
そして村長の家らしき大きな建物の辺りで3人は軍服を着た人達と倒れている老人を見つけた。
その内一人は、エルリック兄弟にとってみたことのある銃を持った金髪の女性であった。
「おいアル!あれって……。」
「あとの2人は分からないけど、どうしてホークアイ中尉がここに?」
後の軍人2人の内1人は金髪でがっしりとした体格の男で両手で棍のような長い棒を持っており
もう1人は黒い髪の痩せ型の体系で両手には短剣を逆手に持っていた。3人はその人たちのもとへと駆け足でやってきた。
「中尉、どうしてこんな所に?」
「エドワード君!?あなた達こそどうしてここに?」
エドがまさかここにいるとは知らなかったのかホークアイはエド達を見て驚いた。
そんな2人の会話にセリスが割り入って来た。
「この人は?」
セリスはホークアイのことを知らない。
「東方司令部のリザ・ホークアイ中尉だよ。」
アルが説明した。
「ところでエドワード君、そちらの方は?」
今度はセリスのことをホークアイが聞き出した。
「あっ、私はセリス・ニコラウスっていいます。エド達とは4日前から知り合いました。」
「中尉、セリスは剣の達人なんです。だから僕たちの様に強いんです。」
セリスをフォローするようにアルが言い出した。そんなセリスをホークアイはジロジロ見る。
「…………見る限りではただ者ではなさそうね。」
「そうでしょ?……それよりも、そこの2人はレオン大佐の部下?」
「確かに、東方司令部なんかにはいない顔だよな……。」
セリスの質問と共にエドは疑問の声を挙げた。そこで残った軍服の2人は答えだした。
最初棍を持った男が敬礼をして答えた。
「俺は……いえ、自分はレオン大佐の部下でマッシュ・クランツといいます。階級は少尉です。」
続いて短剣の女性が一本を鞘に収めて敬礼して答えた。
「私は右に同じく大佐の部下でシン国出身、アスナ・ミナヅキです。階級は軍曹です。」
声の感じからしてマッシュは明るい性格でアスナはクールな性格である。
「2人とも、のんびり自己紹介してる場合じゃないわ!来るわよ!!」
ホークアイが何かの殺気を感じてみんなに注意を促がしながら銃に弾を込めた。
するとホークアイの向いていた方向から先程の魔物の群が現れた。
「くっ!またか!」
「まったく、きりがないわね!」
2人は構えを取った。
「そちらのご老人は村長さん?」
セリスが老人について聞き出した。
「そうよ。逃げる途中足をやられたの、だから逃げることができないの。」
確かにその老人…いや村長は足を抱えて痛そうな表情をしていた。
「そうか!中尉、少尉、軍曹、じーさんを頼む!あとは俺達がなんとかする!」
エドが3人に言い出すとそれを拒むようにマッシュとアスナが言い出した。
「いえ、俺も戦います!」
「私もマッシュも戦えるわ。中尉、村長のことお願いします。」
それにホークアイはしばらくうなづき考えだした。
「…………仕方ないわね。」
「オイ!こんな2人で大丈夫なのかよ!?」
ホークアイの了承に納得できずエドは口論する。そこに2人が言い放った。
「こんな2人ですって?」
「俺達はレオン大佐に認められた実力を持ってるんっスよ?……まず俺は……。」
マッシュは棍を思い切りモンスターに向けて突き出すと、棍は3つに別れたそれは紐でつながれていた。
仕込み棍である。そして魔物の一匹を貫き、さらには近づいていって激しい棒さばきを放ち魔物達をどんどん倒していった。
それを見てエドとアルとセリスは驚いて言葉を失った。
「俺は棒術の達人なんだ。」
そしてアスナは次から次へと短剣で魔物の首筋を斬り胸元などを突き刺して魔物達を倒していき
遠くの敵にはナイフを投げつけ魔物に刺し込んでいく。さらには激しい剣舞でどんどん倒していった。
「私はシン国出身の為、暗殺術のエキスパートなの。」
2人の強さにこれにはエルリック兄弟はもう開いた口が塞がらなかった。
「……レオン大佐の部下には、すげぇのがいるんだなアル……。」
エドは唖然としてアルを見る。
「そうだね。それに頼りがいがあるよ兄さん。」
「……そうだな、そこいらの軍人なんかより優れてるから安心するぜ。」
アルの言葉に反応してエドは改めて構えを取った。

そして戦いが始まってから数分後。
アルの体術、セリスの剣術、マッシュの棒術、アスナの暗殺術により魔物達の数は減っていた。
エドも体術と錬金術を駆使して次々と魔物達を倒していった。
さらにはホークアイの射撃での援護も加わりもはや魔物達は全滅していった。
…………しかし
「!、うわぁぁ!なんだあれは!?」
マッシュが叫び声を挙げだした。エド達がそれを聞いて向きだすと驚きだした。
「!!、あれは!」
それはエルリック兄弟にとって見たことある外見であった。
それはモヒカンのような頭をしたゴツイ格好の人間であった。
いや、人間といっても腕は太く、全身が金属に覆われているように見えた。
「な……なによあれ?全身機械鎧!?」
セリスの言うとおり身体の一部にはコードのような物が見当たっていた。
「マサカコンナ所デ会ウトハ思ワナカッタゼ……鋼ノ錬金術師!!」
人間ではない声ではあるが聞き覚えがあるためセリス以外には誰なのかすぐにわかった。
「お前は、ガンツ!!」
「大佐が言っていた腐れ軍人ね!なんであんたがここにいる!?」
アスナがガンツに向かって怒鳴りだす。
「アル奴ノ命デココノ人間ヲスベテ皆殺シニスレバ、最強二シテヤルトイウワケデ
 オレハバケモノ達ト手ヲ組ンデルンダヨ!」
「なんですって!?」
「ガンツ貴様!!悪魔に魂を売ってまでそこまでして最強になりたいのか!?」
「ウルセエ!オレハ鋼ニヤラレタアノ悔シサヲ倍ニシテ返サネエト気ガ済マネエンダ!!
 覚悟シヤガレ!!」
「あれは自業自得だろ?それにお前の攻撃パターンと弱点は知ってるんだから、あきらめろ。」
「ウルセエ!以前ノ俺トハ違ウッテ事証明シテヤル!クラエ!!」
ガンツは両手から激しい火の玉を出してきた。
「「!!」」
マッシュとアスナは驚くがしエドが壁を錬成して火の玉を防ぎ事なきを得たが
火の玉は壁に当たると爆発して消えた。
「何ッ!?驚カネエノカ鋼ノ!?」
ガンツはエドが冷静に対処を行なったことに驚き慌てる。
「どうせ火の玉を放つ兵器でも内蔵してるんだろ?」
エドは余裕の表情でガンツを睨む。
「違ウ!今度ハ機械ジャ出来ネエゼ!!」
そう言ってガンツは再び両手を前に構え出し。
「ハアッ!!」
エド達の頭上に以前より大きく沢山の火の玉が落ちてきた。
「なんだこれは!?」
驚く暇もなく火の玉はエド達に襲い掛かってくる。
「コレニハ対処デキネエダロ?」
あざ笑うガンツ。
(避けたら村長さんに被害が及ぶ……こうなったら仕方がない!背に腹は変えられないわ!!)
セリスは悩んだ末早口で詠唱を始めた。そして
「プロテクション!」
両手を頭上に構えて光の壁を作り出し頭上から落ちてきた火の玉を防いだ。
「何ッ!?」
またしてもガンツは驚きだした。しかし驚いたのは軍人3人と村長も同じであった。
「なんなんだ今のは?」
「ニコラウスさん、あなたは一体?」
「詳しい話は後です!それよりも誰か村長さんを安全な所に……!」
「……分かりました!それは俺がやります!!」
マッシュがハツラツとした声で答え村長さんに寄り添った。
「さあ、ここは危険です。自分が担ぎますから手を……。」
マッシュが村長に手を差し伸べると村長が驚いた顔で小さく
「ま……魔術師……!」
とつぶやいた。
(魔術師?昔絶滅したというあの……いや、それよりも村長さんのことが大事だ!)
マッシュは何のことか気になってきたがそれどころではないのでさっさと村長を担ぎ駆け足で去っていった。
「あれでよかったのかセリス!?」
エドはセリスがさっきとった行動に対して疑問を投げかけた。
「だって、あの時村長さんを担いで逃げ出す暇がなかったのよ!?」
セリスはエドに対して討論した。そしてエドは何故かすぐに納得した。
「確かにな……なんでか知らねえが前と違うのって言えば、ガンツが魔術を使ってくるって事だけだな。」
「「魔術!?」」
ホークアイとアスナは驚きだした。魔術のことに関してはレオン以外の軍人はまったく知らないからである。
というよりもセリスのことを考えてレオンはあえておくびにも出さなかったのである。
「今のは“フィアフルフレア”といって上空から火の玉を降らせる火炎系中級魔法なの!
 魔術は私以外の人間には扱えないの!となるとあいつは悪魔と取引をして使えるようになったんだわ!」
「ソウダ!俺ハコノチカラデ鋼ヲ倒シ世界最強ニナッテヤルンダ!!ガハハハハハ!!」
ガンツは両手を腰に当て大きく馬鹿笑いをした。
「軍最強を諦めて世界最強?まったく最強最強ってうるせえなあまったく……。」
エドは呆れて両手を掲げた。
「というよりもヒースガルドの件をきっかけに軍から外されたからあえて言ったんじゃないの?」
アルも呆れたようにつぶやいた。
「ウルセエ!トニカク覚悟シヤガレクソガキ共!!」
「やれやれ、またやられなきゃ気が済まないようだな。」
「うん。」
「そうね。」
「馬鹿は死ななきゃ直らない……。」
「いくわよ!この脳みそ筋肉男!」
それぞれは武器を取って構えを取った、ちなみにエドは両手をパン!と叩いて右手の刃を錬成した後に構えた。
まずガンツは再びフィアフルフレアでエド達を攻撃する。しかし5人はバラバラに散り火の玉をかわした。
最初にホークアイが銃で仕掛けてきた。しかし全身機械鎧のガンツにまったく通用しない。
「ソンナモンガ俺ニ通用スルト思ッテンノカ?」
「くっ!」
「中尉!ここは私が!」
アスナが懐からか短剣を数本取り出しガンツに向かって投げ出した。
当然ガンツには刺さらないので無意味と思われていたが、何故か何本かガンツの腕に刺さった。
しかしガンツにはまったくダメージを与えていなかった。
「フンッ!!コレガドウシタトイウンダ!?」
ガンツは腕を伸ばし触手を錬成しアスナに攻撃を仕掛けてきた。
しかしアスナは身軽な動きで攻撃を次々とかわしていった。そして最後にバク転をする才にナイフを数本投げた。
ナイフはガンツの足や胸などに1本ずつ刺さった。しかしガンツに相変わらずダメージはない。
「無駄ダト言ウノガワカラネエノカ!?……!」
「やあ!!」
セリスが飛び込みでガンツに切りかかってきた。
ガンツはセリスの剣が光っているのに嫌な予感を感じ回避行動をとった。
そして剣が振り下ろされた後にはガンツの右手の指の先っぽが2本切り取られた。
「危ネエ!今ノ避ケナカッタラ真ッ二ツニナッテタゼ!マサカコノ鋼鉄ノ身体ヲ切リ裂クトハ……。」
「魔術はなにも相手に攻撃するだけじゃないわ!剣の切れ味だって強くさせることもできるのよ。」
「コノアマ!!」
ガンツは左腕を大きな刃に錬成しセリスに襲い掛かった。
セリスは避けまくるだけで攻撃を受け止めようとはしなかった。いや、できなかった。
何故なら腕力の差ではガンツのほうが圧倒的に優れている為受け止めたら剣を弾かれてしまうからである。
激しい攻撃に水を差すようにここでアルがガンツの腕を掴んで止めた。
「!!」
「僕を忘れちゃ困るよ!」
アルはそこからガンツに向けて激しい蹴りを放ちガンツを吹き飛ばした。
ガンツは数メートル吹き飛ぶも体制は崩さずそのまま踏ん張り通した。
「コノ野郎!!…!」
ガンツがぼやく暇もなく今度はガンツに向かって地面の突起物が襲い掛かってきた。
ガンツは難なく避ける。そこにエドが右手の刃で切りかかってきた。
「でやあ!!」
「ウオ!?」
エドの激しい攻撃をガンツは避けて避けて避けまくった。
構わず攻撃を続けるが刃はガンツの身体の表面に傷がつく程度しか損傷を与えていなかった。
「調子ニ乗ルナ!!」
ガンツは触手を錬成しエドに攻撃を仕掛けていく。無論エドは何とかかわしていった。
「はあぁぁぁ!!」
エドは隙を突いてガンツの腕の付け根に刃を突き刺した。
「ウオッ!!」
刺さった時の痛みが激しいのかガンツは後ろによろめいた。
「オノレ!マタシテモ……!!」
腕に激しい痛みを感じ始めた。どうやらエドに付け根を刺されたのが痛手であった。
「いくら全身が機械鎧であっても、連結部分を狙えばどうってことはねえよ!」
「グヌヌ……オノレ!!」
ガンツは怒ってエド達に襲い掛かろうとした。しかしそこでアスナが何か言い始めた。
「あまり動かない方がいいわよ、痛みがさらに激しくなるわよ。」
「「「「?」」」」
「ヘッ!ソンナコケ脅シガ通用スルカヨ!」
エド、アル、セリス、ホークアイが不思議に思ったときに足を前に出したガンツ。しかし彼が一歩踏み出した途端
「!!」
全身からの激しい激痛がガンツに襲い掛かってきた。
「アッ……アアーーーーーーーーーーーーーー!!」
あまりの激痛にガンツは雄たけびを挙げた。
「ナ……何故ダッ!?……!、マサカ……。」
ガンツは自分の身体に刺さっているナイフを見つめた。ナイフはいまだに腕や足などの至る所に刺さっている。
「その通りよ。何故あんたの身体にナイフが刺さったのかというと、動かす為にある僅かな隙間、そこに
 刺さったのよ。そして……激しく動いた為ナイフが食い込み、普通に刺さった時なんかとは比べられないほどの
 激しい苦痛が来るって寸法なの。シン国にある介錯剣法という全身を覆った鎧で戦う剣術を使う者もあんた同様
 身体を曲げる部分に隙間がある、そこをつけば容易いものだ!」
「ウググ……オノレ……。」
ガンツは痛みに耐えつつ踏ん張るがナイフが刺さっている所から出血してきた。
全身が機械鎧とはいえ生身と繋がっているからである。その弱点を見ただけで見抜いたアスナに4人は思わず感心した。
「すごいねミナヅキ軍曹って。」
「ああ、さすがは大佐の部下だけあるな。……!」
「ウオオォォォーーーーーー!!」
ガンツはその後痛みに構わず大量の触手を錬成し攻撃を仕掛けるがやはりエド達は簡単に避ける。
「しつこいぜ!!」
「こうなったら腕を切断するしか方法はないわ!」
「どうやって!?あの激しい攻撃の前じゃ近づけないよ?」
確かにセリスの魔力で切れ味が鋭くなった剣ならガンツの腕を切断するのは容易い。しかしアルの言うとおり
激しい攻撃の前にはさすがにお手上げ、たとえ近づけたとしても避けられるのがオチである。
「要は近づかなきゃいいんでしょ?任せて!」
とばかりにセリスは詠唱を始め出した。
「…風の精霊よ、我が力のもとに集結し刃と化せ!ウインドカッター!!」
セリスは両手から風の刃を二つ繰り出した。そしてそれはガンツに襲いかかる。
「ヘッ!ソンナモンガ効クカ!!」
どうせ効かないだろうと思いあえて避けずにあざ笑ったガンツであったがその過信が命取りとなった。
セリスの放った風の刃はいとも簡単にガンツの両腕をバッサリと切断したのであった。
そしてそれは地面にズシッという重い音をあげて落ちた。
「!!…………グワアアァァァァァァァ!!」
ガンツがそれに気がついたときには激しい激痛が彼に襲いかかった。
「何故ダ!?何故鋼鉄ノ腕ガ……!」
「初級魔法だって、魔力を調節すれば鉄をも切り裂く刃となるわ!」
ガンツに向かって理由を自慢げにセリスは言い放った。
「さっすがセリス!……さてどうするガンツさんよ、両腕のないアンタを倒すのは数秒はかからないと思うぜ。」
両腕を失ったガンツに向かって笑いながらエドはそれを見つめた。
「……フザケルナ!!オレハ、テメエラヲブッ殺サネエト気スマネエンダヨ!!
 グゥオオォォォォォォォォォォォ!!」
ガンツの怒りが頂点に達し大きな叫び声をあげるとなんと切られた部分から人間とは思えぬ面妖な腕が生えてきた。
これには5人は驚いて言葉を失った。
「な……なんなんだこりゃ!?」
「切られた部分からあんなのが生えてくるなんて……。」
「ありえないわ!」
「こいつ!人間やめちゃったみたいね!」
「そうね。」
5人は再び構えを取った。そしていざ戦闘が始まろうとした……その時。
「見苦しいぞガンツ!たとえ悪魔の力を得たとしても貴様は既に敗北している!」
「!」
後ろから聞いたことのある声がした。ガンツが後ろを向くとそこには剣を腰に提げているレオンがいた。
「大佐!どうしてここに!?」
「マッシュ達からの連絡がなかったので来たんだ。事は全てマッシュから聞いた。
 後は私に任せてくれ、ガンツには色々やっておかなければならないことがあるのでな。」
「レオン貴様!コノ俺様ヲ馬鹿ニシヤガッテ!!貴様カラブッ殺シテヤル!!」
とばかりにガンツは両手を繰り出しフィアフルフレアを発動した。
「大佐!危ない!!」
アスナが注意を促がす。レオンは冷静に剣を鞘から抜きそして……
「はあぁぁぁぁ!!でやぁ!でやぁ!でやぁ!!」
なんと振り落ちる火の玉をすべて剣で切り払いかき消していった。これにはガンツは驚くしかなかった。
「ナニッ!?」
「ぬるい!マスタングの炎のほうがまだしもマシだ!」
「オノレェ!!」
今度は腕を伸ばしてきた。レオンはすんなりと避け伸ばしてきた腕を切り落とした。
ガンツの腕が伸びたのには驚いたエド達であったが、アスナとホークアイ以外はレオンの強さに驚いた。
「ヌゥ!!」
「すげぇ……。」
「圧倒的だね……。」
「……ええ。」
そしてレオンはガンツを追い詰める。
「ガンツ!貴様に対して軍から処刑命令が下りている!要するに貴様は死刑だ!!」
「グヌヌ……ウオォォーーーーーー!!」
ガンツはやけくそになり残った腕で攻撃を仕掛けるが、先程同様避けられ切り落とされてしまった。
「最強を名乗るには百年早い!命運尽きたな……。」
レオンは目にも止まらぬ速さで距離を詰めた。そして……
「チェストォォォーーーーー!!」
掛け声と共に剣を縦一文字に振り落とした。
「ア……アアーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
ガンツは断末魔と共に真っ二つに割れた。
「お……機械鎧を切っちまった。」
「さすがは斬鉄の剣聖だね、兄さん……。」
「ああ……、間違ってもあの大佐とは戦いたくねえ……。」
エルリック兄弟はレオンの強さに言葉を失い驚き戸惑った。なにせ頑丈な機械鎧を豆腐でも切るようにいとも簡単に
切ってしまったからである。
そんなレオンを見ていても、アスナとホークアイは冷静であった。
何故なら多くの軍人はレオンの実力を知っているからである。
「お久しぶりですヴァルスト大佐。相変わらず、すごい腕ですね。」
ホークアイは敬礼する。
「そうだなホークアイ中尉。だが私の実力はこんなものではない。それより2人とも、怪我はないか?」
「はい、エドワード君達が来てくれたおかげで村人達に犠牲者を出すことなく終わらせました。」
「ええ、さすがにホークアイ中尉とマッシュ少尉と私だけでは無理でした。」
アスナも続けて敬礼をした。
「そうか。それよりも村長が私たちに話したいことがあると言っているそうだ。」
「話したいこと?」
ホークアイは首を傾げた。
「今、マッシュ少尉が戻ってくる。詳細はそれからだ。」
「というかもう来てますよ。」
声がする方向を向くとそこには村長さんを背負っているマッシュがいた。
「今まで何処にいたの?」
「物陰で様子を見てました。さすがに村長さんを担いで戦うわけにはいかなかったし、
 村長さんを置いて助太刀ってのもちょっと危ない感じがしましたから……。」
マッシュは申し訳なさそうに後頭部をかきながら言った。
「少尉、それよりも村長が我々に話したいことがあると言っているそうだが……。」
「ああ、それっスよ!なんでもセリスさんが魔術師なんじゃないかってこととそれに関することなんスよ。」
「ニコラウスさんが!?」
レオンを除く軍人すべてがセリスに注目した。
エドは心配そうにセリスを見るが当の本人はマッシュに担がれている村長のもとに近づいた。
「……確かに、私は……魔術師です。……けど、すべての魔術師が悪い人間とは限りません。
 だから……この事はご内密にして欲しいんです。……迷惑をかけたくないから。」
セリスは村長が怪我をしている足に両手を当てた。
「ヒール。」
呪文を唱え出す。するとセリスの手が光りだしみるみるうちに村長の傷が塞がっていった。
そしてセリスは足から手を離した。
「!……ちょっと、降ろしてくれんかね?」
「えっ!?でも怪我が……。」
「いいから!」
マッシュは村長に言われるがまま渋々背中から降ろした。
すると村長は前までの状態が嘘の様に自分の足で歩き出した。これには軍人達は驚いた。
「!!、嘘だろ!?全治1週間くらいの怪我だったんだぜ!」
「それが一瞬にして治るなんて……。」
「これが……魔術……。」
「噂には聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。」
「ワシも初めて見た。」
村長のその一言に今度はエド達も驚いた。
「どういうことなんだ?じいさん。」
そして村長はゆっくりと説明を始める。
「この村は今から五千年前、沢山の魔術師がいたんじゃよ。」
「五千年前に?」
「うむ、そのほとんどは戦争に借り出されたがの……。
 すべての魔術師が悪者ではないというのはそこのお嬢ちゃんの言うとおりじゃ。
 この村にいた魔術師はすべて世の為、人の為に尽くした善人ばかりなんじゃよ。
 でなくばこの村はとてつもない禁忌によって滅びていたであろう。」
「……驚いたわ。まさか魔術師と関連があるところがこんな村にあったなんて……。」
驚くセリスを尻目に村長は話を続けた。
「その禁忌というのは、ワシの家にそれに関する本がある。ついてきたまえ……。」
村長は一人つかつかと歩き出していった。7人もそれについて以降としたその時
「!、大佐!!」
マッシュが叫び出した。
「どうした?」
「ガンツの死体が、いつのまにか無くなっています!」
「!!」
他の6人がマッシュが指差した方に目を向けると、そこには地面があるだけでさっきまであったはずの
ガンツの死体が影も形もなくなっていた。
「なっ!?」
「これは一体?」
そんなことに驚く7人であったが、答えが見つからない為仕方なく村長の後をついていった。
しかしその前にセリスはガンツの遺体があった所に妖しい色をした石を見つけそれを発見し拾った。
(これは魔光石!……どうりであいつが魔術を使えたわけね。)
「セリス!行くぞ。」
止まっているセリスに向かってエドが言った。
「うん。」

7人は村長の家へと入り各人は椅子に座った。
そして村長は本棚から一冊の古びた本をテーブルの上に置いた。
それは見たこともない文字で題名が書かれているためセリス以外の人には読めなかった。
「この本じゃが、題名や中身が何の文字で書かれているのかわからんが、絵からして
 とてつもなく危険な内容であることがわかる。」
「こんな本が……。私もここの本はよく見せてもらっているが、訳もわからぬ文字のが多くて
 私はおろか村の者ですら読むことが出来ないんだ。この文字が前に言ってた魔術文字というものなのか?」
レオンはセリスの方を向いて問い出した。
「ええ、間違いなく魔術文字だわ。中身もそれで書かれているわ。」
セリスは本を開いて読みながら答えだした。そしてセリスは本を読みふける。
「でも大佐、なんでガンツって人に処刑命令が下りたの?」
本を読みながらセリスはレオンの方を向いて問い出した。
「ノイエヒースガルドの事件のことは聞いたことあるよな。その件で多くの不祥事を生んだが為にそうなったんだ。
現に彼は、憲兵の一人を殺したからな。」
「まっ!要するに自業自得って訳だ。」
エドが頬杖をついて言った。さらにレオンは両手を組んで話を続ける。
「処刑命令が下りているのは彼だけではない、ネムダもそうだ。」
「「「!!」」」
ネムダという一言にエルリック兄弟とホークアイは驚いた。
「ネムダだって!?」
「でも彼は確か、中央(セントラル)の刑務所で服役中のはず……。」
「中尉は知らないんだな。前にマスタングから連絡が入ったんだ。
 『服役中のネムダが脱獄した、見つけ次第処刑せよ!』と中央からの指令が来たんだ。」
「……あのおっさんが脱獄できる程の奴とは思えねえなぁ……。」
「そこなんだ。警備体制は完全で脱獄は不可能のはずなのだが、不思議なことに破壊された所はなく、
 侵入した後も見当たらない、仕舞いには独房の鍵は開けられていなかったんだ。
 『なんの拍子もなくいつの間にかいなくなっていた』と警備員が言っていたそうだ。信じられるか?」
レオンの言葉にセリスは突然ピクッと反応し大きな声をあげる。
「魔族の仕業だわ!!」
突然のことにみんな驚き戸惑った。
「ど……どういうことだよ?」
「いや、その可能性はある。だが、何の痕跡も残さず脱獄させた理由がわからん。」
驚くエドに対しレオンは納得するが、もうひとつの疑問には納得できない為その訳をセリスに問う。
「それなら物質転移魔法なら正当化できるわ。」
「物質転移魔法?」
「簡単に言えば物を遠くへ一瞬にして運ぶことが出来るものなの。
 つまり魔族は物質転移魔法でネムダって人を自分たちのもとへ呼び寄せたってことよ。」
「なるほどね。呼び寄せた理由は恐らく、今まで築き上げた地位や名誉を剥奪した軍と……そのきっかけをつくらせた
 鋼の錬金術師……つまり、エドワードに対しての復讐の手助け……という訳だな。」
「そうかもしれないわ。……でも、他に理由があるかも知れない……それさえ分かれば……。」
セリスは頬杖を突き出した。考えるに考えるが思いつかない為仕方なく本を読む。
「まったく、魔術って錬金術では不可能なことを可能にしてしまうのね……。
 もうこれからは何があっても驚かないわ……。」
ホークアイはため息をついて呆れかえった。
無理もない、信じられないことが沢山起こっていたからマッシュとアスナ同様疲れた表情をしている。
「ホントッスよ!仕舞いには死者の蘇生なんかできるんじゃないっスか?」
「いや、さすがにそれは神でもなければ不可能だ。現にセリスの父はそれに失敗している。」
マッシュの軽率な発言にレオンは言い返した。その発言に軍人3人はさらに複雑な顔をした。

そしてセリスが本を読み始めてからどれだけの時間がたったのであろうか。彼女が集中する中
6人は魔術師に関しての事を村長から聞き出した。
そしてレオンの話を加えておおよその詳細が明らかになった。
話によると今からおよそ五千年前、この村には世の為、人の為に尽くす多くの魔術師達がいた。
錬金術に比べ当時は魔術が主流であり生活を支えることもあった。しかし中には悪さをする魔術師もいたそうだ。
やっていたことは、悪魔復活や呪いなんかといった黒魔術であった。
しかしそれらはすべて善人の活躍により滅びたのであった。
そして時は流れ、錬金術なら普通の人でも扱えることから
人は魔術の修行をやめ、錬金術の勉強(構築式や等価交換について等)を始めた。
しかし一部の人は魔術の修行をやめなかった。だが時代は長い年月をかけて習得する魔術より
短い時間で覚えられる錬金術を選び出した。その為魔術を批判する者達に対して
一部の魔術師が悪魔のささやきを聞き入れてしまい、悪事の限りを尽くしてしまったそうである。
そして今からおよそ500年前、一人の魔術師が魔族と契約をし、とてつもない禁忌を行なった。
それを知った人類はその脅威を取り除くべく戦争を始めた。多くの犠牲者を出したが辛うじて人類は勝利を収めた。
しかし人々の不安までは取り除けなかった。またあの様なことが再び起こるかもしれない
そう感じた人々は『魔術師はすべて殺せ!』と非難の声をあげた。
それを聞いた軍は直ちに魔術師の排除を実行する、しかしその前に一人の軍人の提案により
生き残った魔術師達は表向きにはすべて排除された。しかし実際は人目を避けて静かに暮らすこととなったのであった。
そしてその軍人は魔術師達の様子を時折り見にいったそうである。その軍人こそがレオンのご先祖様で
レオニスという名の者であった。……そして事はセリスが言ったことを含めて今に至る。
今ではこの村にて魔術師の歴史が語られているだけである。たった1つの資料を除いて……。
「なんでも、この村を訪れたものが『それを人に渡してはいけない』と言い残して渡したそうじゃが。
 内容が読めんので読めるものを探しおったが、錬金術師には読むことはできんかった。
 魔術師なら読めると思っていたが、ほとんどが死に絶えておるし、たとえ生き残りがいたとしても
 悪者じゃったらどうしよと思っていたが、あのお嬢ちゃんはそうではない、良い目をしている。
 彼女になら読ませても平気じゃろうと思ったからこそワシは本を渡したんじゃ。」
村長はセリスを見て語った。
「当ったり前さ!セリスはそんな人間なんかじゃねえ、じいさんだけじゃねえ、俺も、アルも、大佐も、
 中尉達だってそう思ってる。そしてすべての人だってそう思ってくれるさ!」
自身ありげにエドが言い出すとホークアイが突っ込みだした。
「そうかしら?もし知ったとしても恐らく国家錬金術師並みに嫌われるかもしれな……。」
言葉の途中で突然セリスが立ち上がりテーブルを両手でバン!と叩きだした。
これには全員驚いた。そしてエドはセリスをなだめる。
「いやセリス!だから悪い人間じゃないってことを証明できればすべての人に嫌われなくなるから……
 だから落ち着いて……。」
「そうじゃないのよ!」
「?」
「分かってしまったのよ…………この本の内容と奴らの目的が……。」
全員がセリスに注目する。そんな彼女は右手で頭を抱えだした。
心配そうにアルが聞き出した。
「それからするとものすごく大変なものなんだね。」
「大変なんて問題じゃないわよ……、もし実行されたら非道なだけでなく大惨事だわ!」
セリスの身体を大きく震え出した。
「本の内容は……、冥界石(めいかいせき)に関する資料なの。」
「冥界石?」
「賢者の石を大きく凌駕する力を持った鉱物よ。使い方によっては、世界が崩壊するわ。」
「なんだと!?」
「でも、魔族の目的とどう関係があるの?」
セリスは身体を震わして語り出す。
「奴らは冥界石を作る為に賢者の石を作ってたの。そしてさっきのガンツの発言を思い出せばおのずと見えてくるわ。
 何故ならそれの材料が驚くことにとてつもない物がふたつ必要なの……。
 ひとつは賢者の石、もうひとつは…………………………人間の……魂なの。」
「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」
とてつもない衝撃的なことに6人は驚いて言葉を失った。
「しかも酷な事に1つ作り出すのに沢山の魂が必要なの……これは、賢者の石以上にむごいものだわ……。」
辺りは重苦しい空気包まれた。
そして、セリスが見つけた魔光石という石は一体……何なのか?





あとがき(※マンガだと思って読んでね。)
作者「目茶苦茶長い内容になりましたね。^^;」
エド「多分今までの中で一番長いんじゃねえのか?」
作者「そうですね……。」
ホークアイ「けど、もっと長くなるかもしれないわね……。」
作者「恐らくそうなるかもしれません……。^^;」
アル「今回では、ゲーム“翔べない天使”(以下“翔べ天”)のキャラクターが出てきたね。」
作者「はい。翔べ天のキャラの内憎まれ役であるガンツをゲスト(?)に出しました。
   これから先には、ネムダも出てくる予定です。」
エド「うへぇ、あいつも出てくるのかよ!?」
作者「うんざりするでしょうけど物語を盛り上げる為に登場させます。
   翔べ天をクリアした方は理解してくれると思っております。^^;」
セリス「今ではハガレンのゲームはアドバンスで2本、PS2で3本出てるけど、作者が持ってるのって
    PS2のだけなんでしょ?」
作者「そうなんです。ちなみに、この小説を書き終えたら「ドリームカーニバル」のオリジナル小説を
   書こうと思ってます。内容はレオンとセリスがメインでございます。^^」
レオン「セリスと共にマスタングやスカーと戦うことになるのか……。」
作者「そうとは限りませんよ〜。^^」
セリス「それにしても気が早いわね。まだ書き終えてないのに……。」
作者「仕方ないでしょう。5話を書き終える前に2作が発売されてしまったので……。^^;
   でも自己流のハガレン小説を貫こうと思ってます。」
セリス「頑張って完結させてね。」
作者「頑張ります!(この作品のキャラに励まされるなんて感動(TT))
   そしてここで新たに登場したオリジナルキャラの設定を紹介します。」

オリジナルキャラ紹介 その1
名前 マッシュ・クランツ
年齢・性別 23歳 男性
身長 180cm
体重 89kg
階級 少尉
性格 明るく正義感の強い熱血漢だが気が短い(デスクワークが苦手な性格でもある)
戦い方の特徴 仕込み棍を使った棒術

その2
名前 アスナ・ミナヅキ
年齢・性別 21歳 女性
身長 164cm
階級 軍曹
性格 ホークアイに似た冷静な性格だが根は優しい。
戦い方の特徴 2本の短剣や投げナイフを使った暗殺術(忍者と思ってください)

作者「ちなみにアスナは、不老不死の法を壊す為の旅をしていたが、それが見つからなかった為
   路頭にくれていた時にレオンに会い、彼の人柄に惹かれて軍に入隊したという裏設定もあります。」
エド「原作第8巻に登場したシン国のキャラをモチーフにしたな。」
レオン「悪くはないが、前に紹介したヘレン少尉の活躍はあるのか?」
作者「モチロン活躍いたします。すべては私の構想の中ですのでご期待ください。」
エド&セリス「期待しなくてもいいよ〜。」
作者は冷や汗をかいてエドとセリスを後ろから見つめた。^^;
作者「ハガレン2とは関連付けはないと思いますのでご了承ください。m_ _m」

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