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第4話 思い出の子守唄

(う〜〜〜ん……。)
(考えたってしょうがないよ兄さん。)
(そうね。……所で私達……、どうしてここにいるのかしら?)
3人は何故かとある部屋の中にいた。


さかのぼること数分前、場所はレザニア駅
「えっ!?列車が出ない!?」
「そうなんですよ。以前起こった化け物による脱線事故により列車はあと10日間動かないんです。」
エド達はレザニアを後にしようと駅に向かったのだが駅長から路線の復旧に10日間かかることを知らされた。
以前ゴーレムにより列車が横転し脱線事故を起こしてしまったのが原因であった。
「列車が横転しただけでしょ?なんで10日間もかかるの!?」
「線路に大きな足跡が見つかって、それにより線路がそれまでの間使用不能になってしまったんです。」
「大きな足跡!?」
「はい。軍の調べによりますと、何か大きな足持った生き物が線路を踏み潰してしまったんです。」
エド達はそれはゴーレムが踏んづけたものだと察知した。そしてそれを知って大事にならぬ様口を閉じた。
なにせゴーレムなんて今の人たちにとってはおとぎ話の中のみの存在だから信じようとしないからである。
「なら、仕方ないがないね……。」
「あ〜あ、ここで足止めくらうのかよ?」
「急ぐ気持ちは分かるけど、少しは余裕をもったらどう?エド?」
「………………。」
エドは難しい顔をして考えふけ込んだ。
「そんなに難しく考えなくてもいいんだけど……。」
エドの表情にセリスは呆れかえった。
「それより、復旧が終わるまでの間どうしよう?宿代だってかかるし……。」
「そこなのよそこ!いくら無差別誘拐事件が解決しても10日間野宿ってのも結構こたえるわ。」
アルの言葉にセリスは同感した。確かに普通に宿屋に10日間滞在するだけでも大変なだけでなく
なにより宿代のことが気がかりであった。旅をする上での重要なことなので無駄に使いたくないのである。


駅を後にした3人はこれから10日間どう過ごすのか路頭にくれた時
一台の車が3人の前に止まった。それはエルリック兄弟にとって見覚えのある車であった。
「失礼ですが、長髪で青い髪の女性とはあなたのことでしょうか?」
軍服を着た赤い髪の女性が3人の前に現れて聞き込み出してきた。
「長髪で青い髪……セリスのことか?」
「一体何なんですか?」
セリスは軍人の女性に質問をした。
「無差別誘拐のことをご存知ですよね?それで生還してきた行方不明者から貴女のことを聞きまして、
 大佐の命で連れて来てくれという事でやってきたのです。」
「あっ!」
なにせ誰にも許可を得ず勝手に行なった行動であるため軍が動き出すのも無理もなかった。
それに、今すぐに町を出ようにも路線の復旧に時間がかかるため避けられない状況である。
そこでセリスはエドを一瞬だけ見て軍服の女性に返答をした。
「わかりました。その大佐のもとへ行きます。……その代わり、ここにいる鋼の錬金術師とその弟さんを弁護人として一緒に
 連れて行って貰えないでしょうか?」
「鋼の……!!」
軍服の女性は驚いた。まさか国家錬金術師がこんな町にいらっしゃるとは思わなかったからだ。
「言っておきますけど、鎧の人は違います。こっちの方です。」
補足としてセリスはエドの方を示した。
「ええっ!?こんな小さい子供が!?」
「小さいって言うな!!」
「まあまあ、兄さん……。」
小さいと言われてキレるエドをアルは懸命に抑えた。
(いつも間違われるの?)
セリスはアルに聞いてきた。
(うん、なにせ僕は鎧だからね。)
(……確かに間違われるのも無理もないわね。)
セリスは納得した。“鋼の錬金術師”という肩書きから顔を知らない人はアルのことだと勘違いされるのである。(原作第1話など参照)
なおかつエドの事をいうと大抵の人は『こんな小さい子が!?』という声が出てくる。
それでもってエドが“小さい”という言葉にキレて、後はアルが抑える始末である。そして話を元に戻した。
「で、弁護人として鋼の錬金術師を同行させてくれるのであれば、大佐のものに同行いたしますけど……。」
「鋼殿とお知り合いなのですね?」
「はい。」
「…………分かりました。では、車にご搭乗願います。」
3人は軍服の女性に案内されるまま車に搭乗した。

「そういえば、この町を統治している大佐ってどんな人なんだ?」
エドは軍服の女性に大佐のことについて聞き出した。
「とても良い方ですよ。真面目で、やさしく、若く、しっかりしてて、町の人にも好かれておりますし、それでいて
 あの“焔の錬金術師”のロイ・マスタング大佐の知り合いでありながらライバルなんです。」
女性は自慢するかのように大佐のことを話した。
そのことに3人は思わず感心した。
「へぇ〜、焔の大佐の知り合いなんだ。」
「相当自慢してるみたいですね。」
「ええ、なにせ自慢したい程素晴らしいお方ですもの……。
 ただ、焔の大佐と違うのは……ものすごい“純”で女性にはオクテなんです。」
女性は苦笑いしながら話した。
「ハハハ……そうなんだ。」
エドは大きな笑みを挙げ頭を抱えて笑った。
「でも、いざとなれば焔の大佐と互角以上に戦うことができるんですよ。」
「ええっ!?あの大佐と互角以上なのか!?」
エドは自分を負かしたあの大佐と互角に戦えるという言葉に動揺した。(原作『外伝
軍部祭り』及びアニメ『鋼VS焔』参照)
「それに、例え女性であれど悪人であれば情け無用!って勢いもあるんです。」
「はあーーー……。」
セリスは思わず尊敬の意味を込めたため息をこぼした。

そして数分後、車は大きな館の前に到着した。
「こちらがこの町を統治なさっている、レオン・ヴァルスト大佐の屋敷でございます。」
「うわー、大きな屋敷だなぁ……。」
エドは屋敷を見上げた。しかし見とれている暇もなく3人は車を降り屋敷の中へと入っていった。
廊下を突き進み大きなドアの前に立つと女性は扉をノックする。
「ヘレン・ルーカス少尉です。例の女性を連れてきました。」
「分かった。入りたまえ。」
扉の向こうから若い男性の声がした。
「あの……鋼の錬金術師という方が弁護人として一緒なのですが……。」
「構わない。入ってきたまえ。」
ドアを開ける前にヘレンはドアの向こうにいるレオンに一声かけ、返事を待ってからドアを開けた。


そして話は今に至るということである。
机に座って手を組んでいるレオンという男は、眉目秀麗で体格もがっしりとしている優男である。
「楽にしてて良い……。これからする質問にゆっくりと答えて貰いたい。」
「……はい。」
「申し遅れたが、私がこの町を統治するレオン大佐だ。では、最初の質問だ。行方不明だった人は、金鉱跡から戻ってきたと言っていた。
 我々が以前そこを調べたときには何もなかったハズなのだが、どうしてなのか答えて貰いたい……。」
「…………。」
セリスはうつむいてしまった。どう答えて良いのか分からなかった。
もし金鉱跡でのことを話せば、自分が魔術師であることがばれてしまうからだ。
もしそうなれば世間はパニックに陥ってしまうから答えられなかった。
エドもなんとか弁護しようと考えるが、答えを出せずにいた。
そこにレオンから意外な言葉が発せられた。
「……訳ありのようだな……。では、等価交換としてそちらが言ったことを上の者に公表しない代わりに
 そのことを話してもらいたい。それなら良いだろ?」
「えっ!?」
「良いんですか!?」
「真実を手にする為であるならば、私は地位も名誉も必要ないからな……。」
エド達は驚いた。まさかこの様な人間が軍にいるとは思わなかったからである。
普通ならば大総統などの軍の上の連中に公表するのだが、この人は例外であった。
「……分かりました。」
セリスは重い口をゆっくりと開けた。
「良いのかよ!?ひょっとしたら俺達を出し抜いて……」
「エド、あの人の目を良く見て……曇り1つない良い目をしてるわ。
 この人なら、ホントのことを話しても大丈夫よ。」
「けど……。」
エドの心配な表情を見てレオンは苦笑いをした。
「……心配しなくても良いよエドワード君。絶対に口外しないと誓うよ。」
エドの警戒を解くためかレオンは笑顔で言った。しかしエドは相変わらずレオンを警戒している。
するとアルが小声でエドにささやいてきた。
(兄さん、この人のしゃべりから腹黒さは全く感じないよ、だから話しても良いんじゃないの?)
しかしエドは全くアルの言葉に賛同しようとしない。イラついてきたのかセリスはエドの方を向いて凄い剣幕でしゃべりだした。
「何でそう疑心暗鬼になるのよ!?あのヘレンとかいう人の言う通りの人だってこと感じないの!?
 それだからあなた余計人から嫌われるのよ!!」
「けど……。」
「そこまで反抗するんなら……“アレ”かましてもいいわよ……。」
「アレ……。」
エドは“アレ”という言葉に顔を青ざめた。
アレとは以前書かなかったが、セリスと初めて出会ってから町に向かう途中に起こった兄弟喧嘩を仲裁すべく放った
魔法ファイヤーボールである。
それをくらった二人は大きなダメージを負ったらしくそれ以降二人は怒ったセリスに対して恐怖を感じるようになったのである。
『怒ったセリスは師匠と同じくらい怖い!』と2人は思った。
「……分かったよ。絶対に口外するんじゃないぞ!」
「鋼殿!大佐に向かってなんて態度を……!」
エドの態度にヘレンはエドを思わず叱咤した。
「構わないよヘレン少尉。」
「しかし……!」
「マスタングの言うとおり、威勢の良い錬金術師だからな。……少尉、下がってくれないか?これは命令だ。」
「…………分かりました。」
ヘレンは渋々部屋を出て行った。そして部屋は4人だけとなった。
「では、質問の答えを聞かせて貰うよ。」
セリスはしばらく沈黙した……そしてゆっくりと口を開けて質問に答える。
「…………あそこは、魔方陣によって先への道が封じられていたんです。」
「魔方陣!?」
「以前調べたと言ってましたよね。金鉱跡の中で錬成陣みたいなモノを見ましたでしょうか?」
「錬成陣!?まさかそれが魔方陣というモノだというのか!?」
「はい。」
「以前、それをみつけた後錬金術師に依頼してやってみたものの、何も反応がなかったので
 錬成陣に似せた、ただの悪戯書きとして処分し、何もないということにしていたのだが……
 まさか、先へ進む道があったとは……もっと詳しく教えてくれないか!?」
驚くレオンにセリスはさらに驚くべきことを話した。
魔方陣について、魔族について、そして自分が魔術師であることを話したのであった。
「……いや驚いた。魔族という化け物の生き残りがいたのもそうだが、特に君が魔術師の生き残りだということが一番驚いたよ……。
 管轄下から、すべていなくなってしまったのだと思っていたのだからな。」
「どういうことなんですか?」
「実は、私の祖先が戦争から生き残った魔術師達の保護を行なっていたんだ。」
「そうなんですか!?」
今度はセリスが驚いた。
「君もご存知の通り、魔術師達は人目を避けて祖先の管轄下のもとで生活をしていた。……しかし、流行り病などで魔術師達が
 住んでいた村は滅んでしまったのだ。まさか君がその村の最後の住人だったとは……。」
「正確には、父と母、そして私を除く人達が死んでしまった後、村を捨てて新たな場所へと家族3人で越して静かに暮らしてたんです。
 ……ですが、その両親も既にこの世を去ってしまったので、私が最後の魔術師なんです。」
「そうだったのか……。」
「でも、大佐の祖先が魔術師の保護を行なっていたなんて驚きました。」
「今日は驚くことばっかりの一日だね。」
「そうだな……。」
アルの言葉にエドは同感した。
「話を戻そう。……次は、行方不明者の中に戻ってきてない者がいるのだが……どういうことなのか教えていただきたい。」
レオンの質問にセリスはうつむいて答え出した。
「……酷なことですが、その人達は…………賢者の石の生贄にされてしまったのです。」
セリスの回答に思わずレオンは驚愕の表情を出し机に身を乗り出した。
「どういうことだ!?」
「それは、俺の口から言います。」
「エドワード君?」
「……マルコーさんが東部の内乱の後行方不明になったのはご存知ですよね?」
マルコーとは、中央の錬金術研究機関に所属し錬金術を医療に応用する研究を行なっていたのだが
内乱の後行方不明となり、その後とある村で“マウロ”と名を変え静かに暮らしているのである。(原作第2巻参照)
「ああ。それがどうかしたのか?」
「あの人は、軍の命令で賢者の石を作っていたんです。」
「なんだと!?賢者の石を作っていただと!?それも軍の命令で……。」
「しかも、その材料が驚くことに…………生きた人間なんです。」
エドは身体を震わせながら言い出した。
「生きた人間が賢者の石の材料……。」
レオンも驚愕の答えを聞いて動揺を隠せずにいた。
「そういうことだったのか……賢者の石を作るためにその魔族は誰彼構わずさらったというわけだな。
 ……賢者の石に関する事があっては、上の者には伝えづらい詳細だな。」
レオンはうつむいてしまう。
そんなレオンを見て3人はどのような言葉をかけたら良いのか思い浮かばずただうつむくだけであった。
「……魔術師殿、名を聞き忘れてたが何という名前なんだ?」
「セリス・ニコラウスです。」
「セリスさん……そしてエドワード君、真実を語ってくれて感謝する……。」
重たい空気が部屋中を包み込んだ。長い沈黙が続き、誰一人とて語る言葉を失ってしまったのである。

しばらく時間が経ってそんな沈黙を破ったのは、セリスであった。
「ところで、大佐の祖先が魔術師の保護を行なっていたと言ってましたけど、どうしてですか?」
「ああ……それは、大昔の戦争が終結した後、魔術師達が多くの人から敬遠されたのは存じてるよね?
 “ひょっとしたら魔族と手を組んでいた魔術師の様にまた襲い掛かってくるかもしれない”って。
 だが祖先はすべての魔術師がそうならないと思って軍に、自分が魔術師達の保護を責任もって行なうと言って
 案を提案したんだ。そして……人々には、魔術師達はすべて始末した……と表向きにはそう公表したんだ。
 だが実際は、私の祖先から父の代までに魔術師の保護を行なっていたのだ。
 だがそれも、今から16年前までに行なわれていた……。16年前、父が魔術師達が暮らしていた村を訪ねたとき
 村に魔術師は1人も住んでいなかった……。恐らく墓標や放置されてる遺体の数からして
 流行り病で全滅したと思われていたのだが……。まさか生き残りがいたとは驚いたよ……。」
「はい、私がまだ3歳の頃、病から逃げるために村を捨てて生きてきたんです。
 勝手に村を出て行ってしまって……本当に申し訳ありません。」
セリスはレオンに向かってお辞儀をして謝った。
「いや、生きる為の最善の決断を行なっていたのだろ?それに村を出るなとは注意していないからな。気にすることはない。」
レオンの言葉にセリスは安心したかのように見えたがやはり落ち込んでしまった。
「そんな顔をしないでくれ……な?」
「「「………………。」」」
3人は相変わらず落ち込んでいた。重苦しい空気は相変わらず晴れてこない。
このままではラチがあかないと思ったレオンは館内用の電話取り出して通話を始めた。
「私だ、部屋に4人分の紅茶を用意して欲しい、もちろんロイヤルで、あとお茶菓子も頼む。」
しばらくした後レオンは電話の受話器を置いた。
「もうすぐお茶が来るから、それでも飲んで気分をスッキリさせたらどうだ?」
「いえ、そんな……僕は結構です。」
アルは両手を振ってことわる仕草をした。
「そんなに遠慮することはない……それに、兜を取ったらどうだ?暑苦しくないのか?」
「あっ……それは……。」
「大佐!それはですねその……趣味……みたいなモノで……。」
「趣味でもどうでもいいから、兜を取って、鎧も脱いで、席についてリラックスでもしたらどうだ?」
エドとアルの静止を無視してレオンは笑顔でアルに近づいてアルの兜を取ろうとする。
「大佐、兜取ったら……あっ……。」
セリスが忠告するも時既に遅し、レオンはアルの兜を取ってしまった。
「!!!!!!!!!!」
アルの兜の中の頭がないのを見てレオンは驚いたが、さらに驚いたのが、中身もないことであった。
「どわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
レオンは叫び声を挙げながら慌てながらアルの兜を元の位置に戻し腰を抜かした。
「な……な……。」
「どうなさったのですか!?大佐!?」
レオンの声を聞きつけてか屋敷のメイドがお茶一式をトレイと一緒に持ってきたまま部屋に入ってきた。
「いや……なんでもない。……それよりも、1人はお茶はいらないので……カップは三つでいい。
 残った1つは元の位置に戻してきてくれないか?」
我に返って立ち上がったレオンはそのままメイドに命令をした。
「はぁ……分かりました。」
「あっ、これはチップだ。下がってもいいよ。」
「はい……では、失礼します。」
レオンからチップ(硬貨)を受け取った後メイドはそのまま部屋から去っていった。
「気前が良いんですね。」
「これぐらいは常識だよ。ともかく、えっと確かアルフォンス……だっけ?」
「はい。」
「どういうことで中身がないんだ?さっき中にあった血印は物質に魂を留ませる為のもの……
 一体どういうことでそうなったんだ?勿論、上のものなどに口外しない。」
「……僕達は…………。」
アルはレオンに人体錬成という禁忌を犯してしまったことをすべて話した。勿論母を生き返らせるという理由も話した。
そしてそこからレオンは、エドが“鋼の錬金術師”たる名の由来を知ったのである。
「そうか……君達も大事な人のためにそんなことを……。」
「君達も?」
「実は私の父もそうなんだ。父は国家錬金術師だった。けどその父も、私の母を蘇らせるために人体錬成を行なってしまったんだ。」
「そうなんですか!?」
「ああ。……結果、錬成は失敗し……父は影も形もなくなってしまったんだ。」
再び落ち込むレオン。そんな2人の話を聞いてかセリスも似たようなことを話し始めた。
「大佐……私の父も、母を生き返らせるために……魔術における禁忌を犯してしまったんです。」
「「「魔術における禁忌!?」」」
3人は魔術にも禁忌があることに驚いた。
「一体、どんなことなんだ?」
「魔術には禁忌は数多く存在しますが…………そんな父が犯してしまったのはその1つ……
 それは、……死者の蘇生なんです。」
「「「死者の蘇生!?」」」
「それは、人体錬成とは違って成分から人体を作ることではなく、死体の怪我や病気を治療し、魂をそのまま肉体に宿して
 蘇生させるという禁断の呪法なんです。」
「ちょっと待て!死者を蘇生って……、成功してたら恐ろしい光景だぞ、それは……。」
エドとアルは死者が何事も無かったように起き上がってくるのを想像してみた。
「…………。」
言葉にならないくらい恐ろしいのか冷や汗をかいた。
「私が村で静かに暮らしていたのは、父が死ぬ前まででした……。私がまだ13歳の頃、母は白血病で亡くなったの……。
 父は、そんな母が亡くなってから人が変わってしまったの……。アトリエにこもっては何処かへ出かけてしまい
 しまいには、1ヵ月は戻って来なかったことがあったの。やさしくて、私のことを気にかけてくれる父が何かに取り付かれたかのように
 私に構わないで何かの研究を行なっていたんです。」
「それが、死者の蘇生法だってことか。」
「ええ……。あの時もっと早く気付くべきでした……。やさしくて、温かくて、素敵な母を生き返らせなくてもよかったのに……
 そして私が15歳の頃に、父は死者蘇生の呪法を行ったの。……結果は失敗に終わり、父はこの世から亡くなってしまったの。」
「それで、悲しい思い出がある住んでいた所を捨てて旅をしている、という訳だね。」
「……ええ。」
セリスは何か考え込んだようにレオンの言葉に会釈した。
「私ね、なんで自然の摂理に逆らおうとするのか理解できないの……、人が死ぬことは当然のことなのに……
 確かに大切な人を亡くしてしまったことは悲しいことだわ。……だけど、犠牲を出してまで蘇らせたくないわよ!
 だって、例え大切な人が蘇ったとしてもその人が悲しんでしまったら、元も子もないわよ!
 魔術なんて……初めから無ければいいのに……そうすれば、人は自然の摂理に逆らわないでありのままで生活をしてたのに……。」
セリスはうつむいて涙目になりながら語り出した。そんなセリスを見てレオンはセリスの肩に手を置いた。
「確かに錬金術などが無ければ、イシュヴァールの反乱なんてなかったし、禁忌を犯す者もいなかった。……だが、
 すべては既に起こってしまったことだ、ここで泣いてもすべて解決しない。だから過去を悔むより、これからのことについて
 考えるべきではないかと私は思うんだ。……だから、悲しい顔しないでくれたまえ、せっかくのお茶がまずくなってしまうよ。」
「えっ?……あっ……ああ。」
セリスははっとして自我を取り戻した後。ソファーに腰を下ろした。その後エド、アル、レオンの順番にソファーについた。
そしてまず最初にセリスが紅茶を一口飲んだ。
「あっ、これって……宿屋で飲んだ牛乳の……。」
「君達もそこの牛乳を飲んだことがあるんだ。」
「ええ。」
「どうかな?その牛乳で入れたロイヤルミルクティーの味は?」
「ええっ!?これ、牛乳で入れた紅茶なのか!?」
エドは驚いてカップを受け皿の上に慌てておいた。
「そうだよ。ロイヤルミルクティーというのは、牛乳で直接作った紅茶なのだが……それがどうかしたのか?」
「兄さんは、牛乳が嫌いなんです。」
「そうだったか、気に入らなければ頼んでストレートに変えてもらうが……。」
「いや……驚いた……。牛乳の匂いや味とか全然しねぇから……。」
「お気に召したかな?」
「ああ、これなら俺でも飲める。」
「ところで大佐は、どうして僕の中にある印が魂を留めるモノだって事を知ってるんですか?」
「それは、先程言ったように私の父が国家錬金術師だったので錬金術に関する本を幼少の頃から読んでいたんだ。」
「へぇ〜、僕達と同じなんですね。」
「それじゃあ、錬金術も使えるのか?」
「ある程度ならね。……さすがにマスタングやアームストロング少佐のように戦いに使うことはないけどね。
 だが、知識なら国家錬金術師に負けず劣らずさ。」
「だから印について知ってたんですね。」
「ああ。」
「それにしても、今回の茶飲みはなんか楽しく感じるぜ。」
「私がいるから?」
「…………。」
なぜかエドは黙り込んでしまった。照れているようである。
そんなエドを見て3人は思わず笑いこんだ。
重苦しい空気を吹き飛ばすように楽しくお茶の飲みあいが進んでいった。
1人の美女がいることが原因だからであろうか……話に花が咲いた。

数分後、レオンがこれからのことについてエド達に語り出した。
「さてこれからのことだが、君達が駅で聞いたとおり、10日間はこの町から出ることができない。
 よって、路線が復旧するまでの間この屋敷に泊まって頂くことを提案したのだが……
 そちらの意見を聞きたい。」
「いいんですか!?」
「そりゃあ、ありがたいけど……迷惑じゃねえのか?」
「大丈夫だ。客室は沢山あるし、生活に必要な備品も揃ってる。」
「そういう問題じゃなくて……。」
「まあいいじゃない兄さん。宿代も浮くし、大佐の好意なんだから遠慮はいらないんじゃない?
 それに、マスタング大佐とは違って人ができてるしね。」
「……んじゃ、そうさせてもらうよ。」
「ゲンキンだな……。」
こうして3人は大佐の屋敷にて路線が復旧するまでの10日間を過ごす事となったのである。


その夜……。
今回は部屋が別々であるためエド達は落ち着いて過ごすことができる。
しかし、セリスは何故か屋敷の中をうろついていた。昨夜見た夢が原因であろうからか冴えない表情をしている。
(はぁ……どうも寝付けないわ……。またあの夢を見るかもしれないと思うと、目が冴えちゃう……ん?)
屋敷の中をうろついてる最中にセリスの耳にビュン、ビュンという音が聞こえた。
(何かしら?中庭の方から聞こえるわ。)
セリスは不思議に思いながらも中庭の方へと向かっていった。
すると中庭では上半身裸で剣を両手持ちで振るレオンがいた。
(大佐……どうしたんだろ?こんな夜更けに……。)
しばらくししてレオンが剣を振るのをやめると気配を感じてかセリスの方を向いた。
「セリスさん、どうしたんですか?こんな夜更けに。」
「ええ……ちょっと寝付けなくて……。大佐こそどうしたんですか?」
「私も、寝付けないんでね……眠くなるまで素振りをしてたんだ。」
レオンは剣を鞘に収めた後タオルで身体を拭いた。そして上着を着た。
「いつもなら、疲れて眠くなるんだけど……今日はどうしてか、なかなか眠れなくて、ハハハ……。」
レオンは思わず苦笑いをした。そして静かな空気が辺りを包み込んだ。
「……ひとつ、聞いて良いかい?」
「なんですか?」
「いや、敬語は使わなくても良い、普通に喋っても構わないから。」
「でも……。」
「気にするなって、それに大佐っていっても、それらしい威厳みたいなの感じないだろ?」
「……そうね。……それじゃあ遠慮なくそうさせてもらうわ。それで、聞きたいことって何?」
「……親との思い出についてだよ。」
「親?」
「セリスさんは、親とどんな思い出があるんだ?」
「そうね……色々あるわ。一緒に散歩したり、海に行ったり、時には叱られることもあったけど、
 数え切れないほどいっぱいあったわ。母が死ぬその日まで……。」
セリスの言葉に何故かレオンはうつむいてしまった。
「…………うらやましいな。」
「えっ?」
「私には、親との思い出はないに等しいんだ。」
レオンは顔を上げるとセリスの方に身体を向けた。
「どうして?」
「私の両親は軍人なんだ。仕事で私に構う暇が無かった為、私は施設にずっと預けられてた。
 それから私が19歳になるまでずっと両親のことを知らずに育ったんだ。」
「そして、大佐が両親の事を知ったのは、19歳の頃に禁忌を犯した国家錬金術師の名が挙がったことから……ですね。」
「ああ、仰せの通りだ。その前に母は……東部の内乱で殉職した。
 ……だから、僅かながらも親とのちゃんとした思い出のあるエルリック兄弟や君がうらやましいんだ。」
「でも、エド達は父との思い出はないし、母親だってまだ幼い頃に病気で亡くしてるんですよ!?
 だったら平等じゃないですか!?」
「ぬくもりは?」
「えっ!?」
「ぬくもりは感じたことはあるだろ……。」
「え……ええ……。」
「私は……ぬくもりすら感じたことはないんだ……。」
レオンは近くの石像によっかかって座り上を向いた。するとセリスはレオンの隣にちょこんと座った。
「大佐は、自分が不幸だと思っていませんか?」
「いや……、それがどうかしたのか?」
「この世の中には、親を亡くしている子供がゴマンといますからね。大佐だってその1人だったんでしょ?」
「ああ。」
「だったら、例え今救うことができなくても、その子供達が幸せになれるように、そして大佐も、幸せになれなかった者たちの分も
 幸せになれるように祈ったらどうなんですか?」
「…………そうだな。……少しナーバスになってしまったな。」
ふとここで、セリスが夜空を見上げると
「あっ!」
「?」
「月……それも満月。」
レオンも夜空を見上げるとそこには綺麗に光る満月が夜空にあった。
するとセリスは突然歌を口ずさんだ。
「……。♪〜眠れよい子よ〜……。」
「なんだ?その歌は?」
「昔、母がよく歌ってくれた子守唄なの……こういう綺麗な夜を見ると、何故か母のことを思い出して、ついつい口ずさんじゃうの。」
「そうなんだ……。なあ、その歌……聞かせてくれないか?なにせ……、子守唄を聞いた事もないから……。」
「良いわよ。その代わり、途中で眠くなっても知りませんから。」
「ハハハ……分かった。」
レオンが笑顔で苦笑いした後セリスは再び歌を口ずさんだ。それはセリスにとって大切な思い出の子守唄である。
「♪〜眠れよい子よ〜、庭やまきばに〜、鳥も羊も〜、みんな眠れば〜、月は窓から〜、銀の光を〜、そそぐこの夜〜、
  ……眠れよい子よ〜、……ねむ〜れ〜や…………。」
セリスが歌っている途中レオンの方を向くと案の定、レオンは無邪気な寝顔をしてセリスによっかかって眠っていた。
「……まったく大佐ったら、しょうがない人ですね……。」
セリスは含み笑いしながらレオンを背負ってそのままレオンの部屋へと夜回りをしている部下の案内のもと運んでやった。
そんなレオンの無防備な寝顔を見てセリスは思った。
「なんかこの人、可愛いところがあるのね……。それにこの人の笑顔なんかを見てると、なんだか不安なんてどうにかなっちゃいそう。
 ひょっとして……惚れたのかしら?」
思わずセリスは顔を赤くした後首を思い切り横に振った。
「な……なに私ったら、顔赤くしてるのよ!?……さっさと寝ましょう……。」
そしてセリスは静かに部屋を出て自分の部屋へと戻っていった。
それから今夜は何故かセリスが見ると思った悪夢は見ることはなかったという。





あとがき小説(漫画だと思ってみてね)※またしてもネタバレあり
作者「今回は長めの内容になってしまいましたね。」
エド「ああ、今回はなげーよ。」
作者「んで、今回は新たに登場したオリジナルキャラ2人の主な所を紹介いたします。」

オリジナルキャラ その1
名前 レオン・ヴァルスト
年齢・性別 25歳 男性 
身長 175cm
体重 80kg(といってもほとんど筋肉の)
階級 大佐
性格 真面目でほぼ朴念仁だが、恋愛に対してはオクテ
好きな物 牛乳(1日1リットルくらいは飲むらしい)
嫌いな物 悪
趣味 古書集め(絵本から錬金術の研究書までの)
特技 剣術
戦い方の特徴 剣術メイン!近距離から遠距離までに対応する技を持っている

オリジナルキャラ その2
名前 ヘレン・ルーカス
年齢・性別 22歳 女性
身長 164cm
階級 少尉
性格 冷静な性格だがまだまだ甘いところがある(リザ・ホークアイ中尉に憧れてるらしい)
戦い方の特徴 射撃のみ(ホークアイ中尉ほどの腕はないが)

作者「ヘレンはですね。サブキャラなので紹介はこの程度しか思いつかないです。」
エド「しっかしすげーなレオン大佐は、1日1リットルも牛乳飲むのか!?」
作者「それほど牛乳が好きだってことですよ。」
レオン「なにせ水代わりに飲むこともあるからな……かといって、健○牛乳みたいなことやらないでくれたまえ。
    いくら牛乳好きでも限界はあるのだからな。」
作者「それはやりませんけど、今時の人はそのネタ知ってるんでしょうか?」
アル「なんですか?その健○牛乳って。」
作者「昔あったバラエティー番組にあったコントだよ。詳しくは○時だヨ!のDVDでも買って見てください。
   レンタルはされておりません。(レンタル禁止の為)m_ _m」
セリス「この時点でバレバレの気がするんだけど……。」
作者「……そうですね。^^;
   皆さんどうか話の内容とかで細かいことはあまり聞かないことにしてもらえないでしょうか?
   なにせ私……人間の心理とかはド素人ですから……。こんな作品を書く私ですけどどうかよろしくお願い致します。」
セリス「今回のあとがきは短いわね……。」






ここでトリビア
♪〜眠れよい子よ〜で始まる歌のタイトルはモーツァルトの子守歌というそうです。(何へぇいきました?ちなみに私は3へぇ)

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