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第2話 宿屋にて

レザニアに着いたエドたちであったが、辺りはすっかり暗くなっていた。そこで宿を取ることにしたのだが……。
「相部屋しか空いてない!?」
「申しわけありません。他の部屋もいっぱいですので……。」
「……どうする?野宿にでもする?」
「野宿って、お客様!それは大変危険でございます!!」
「どうしてですか?」
「最近このあたりで、無差別誘拐事件が発生してまして、夜の外はとても危険なんです。」
「無差別誘拐事件?」
「なんだそりゃ?」
「その名の通りだれかれ構わずさらわれてしまう事件なんです。……以前野宿をなさった客も、
 次の日には何故か行方不明になられてしまったのです。」
「……仕方ないわね……宿泊するわ。」
ということで3人は相部屋で一夜を過ごすことになった。
部屋に入った3人は、ベッドに座り込み話し合いをすることにした。
「無差別誘拐ねぇ……無差別殺人ならわかるけど……。」
アルは事件の内容を不思議に思った。殺人ならともかく、誘拐ということが不思議でしょうがなかった。
「ホンットにわかんねえなあ……。何のために誘拐するのか……。」
エドは溜め息をつき頬杖をついた。
「でも本当に、だれかれ構わずさらわれたのかしら?」
セリスも疑問に思っていた。
「それは、明日ここにある図書館にある新聞から見りゃわかるんじゃねえか?」
「確かにそうね。さらわれた人達の特徴をつかめば犯人像や目的がわかるもんね。」
「よし!このことのつづきは明日図書館で……っと。……そんで、これからどうする?」
「疲れてるから早く寝ることにしましょ。あっ、その前にお風呂ね、順番は私が先でいい?」
「「えっ!?」」
2人は思わず動揺した。
「どうしたの?」
「「う……ううん……お先にどうぞ……(汗)」」
エドとアルは首を横に振って何事もなかったかのように答えた。
「あっ、そっか!動揺してるんだ2人とも、わかるわその気持ち。
 ……でも、あらかじめ言っておくけど、のぞいちゃダメよ。」
「あ…………ああ………………。」
セリスはお風呂場へと移動した。エドとアルはなぜか固まったままである。
そして、顔を赤くしながら何故か小声で会話をする。
(なあアル、セリスってすっげえ美人だよな。)
(そ、そうだね……。ああ言う人って見たことあるけど、さすがに色気まである人なんて初めてだよ。)
(確かにそうだよな…………胸も大きいし…………、風呂って言葉に思わずドギマギしちまったよ……。)
(僕も……。……だけど、あんまりいやらしいこと考えない方がいいよ兄さん、……あとが怖いから。)
(それはアルだって言える事だろ!?)
(……それもそうだね。……だけど同じ部屋ってのはちょっと落ち着かないよ、あんな人と過ごすんだし……。)
(この際はしょうがないだろ?セリスだって、分かってると思うんだしよ。)
(……そうだね。)

一方入浴中のセリスは、浴槽の中でリラックス中……であるが何やら考え事をしていた。
(あのゴーレムは恐らく魔族の仕業ね。……一体何が目的なのかしら? ……それに、無差別誘拐事件って…………
 う〜ん…………さっぱり分からないわ…………。
 ……ま、いいか。明日になれば分かるかもしれないし、今日はゆっくり休もう!)
「♪〜♪♪〜〜……」
楽しげに歌を歌いながらくつろぐセリスである。

場所は変わって寝室
声の大きさを戻して二人は列車事故について話をする。
「しっかし、列車事故がゴーレムってのに起こされたってのは驚いたな……。」
「そうだね。」
「普通、ああいうのに命を宿らせるなんて、決して錬金術じゃできないもんだしな。」
「合成獣(キメラ)の技術を応用したのかな?」
「合成獣は普通、生き物と生き物だ。石像なんかに生き物の魂を宿らせ動かすことなんて不可能だ。」
「う〜〜〜〜ん。………………!、ひょっとしたら兄さん!!」
「アルもそう思ったのか!?」
「うん!それができるとしたらあれしか思い浮かばないよ!」
「ああ……。」
「「賢者の石!」」
エドとアルが出したゴーレムの正体、それは賢者の石によって作られたものだというのだ。
何故なら賢者の石なら法則を無視していろんなものを錬成できるからだ。(原作第1話参照)
それに賢者の石は生きた人間が材料の為無差別誘拐のわけにも納得できる。(原作第10話と第11話参照)
「でも、誰がなんのために……?」
「ひょっとしたら、あの連中かもしれねぞ。」
エドが言うあの連中とは、ウロボロスの入れ墨をしたヤツらのことである。
以前賢者の石について調べてみたものの、その連中に邪魔をされ結局手がかりは得られなかったのである。
目的は何にしろ賢者の石を錬成してたのは確かではあるが、行方は不明である。
「ええ!?まさか!?」
アルはエドの思わぬ回答に驚いた。
「それ以外に何が思いつくんだ?」
「う〜〜ん……。」
ますます分からなくなっていく謎解きにアルは考えるに考えるが、やはり答えは出ない。
「やっぱり、あいつらの仕業じゃねえのか?アル?」
「……でも、『それ!』とすぐに決め付けるのはどうかと思うよ兄さん。」
「だってさ、それ以外思いつかねえじゃねえか!」
「じゃあ、根拠はあるの?」
「…………………………。」
エドは突然黙り込んでしまった。根拠は思いつかなかったようだ。
「…………ともかく!それである可能性は高い!ってわけだ!」
(…………全然理由になってないよ。)
アルはいい加減なエドの言葉に呆れかえってしまう。
「あら?騒がしいと思ったら2人して兄弟喧嘩?」
2人の所にバスルームから頭にバスタオルを巻いたバスローブ姿のセリスが現れた。
声に反応し2人はセリスの方を向き先程の列車事故でのゴーレムのことを話し始めた。
「いや、さっきあんたが言ってたゴーレムについて討論してたんだ。」
「ああ、あれね。」
「僕たちは、賢者の石での錬成で作られたんじゃないかって思ってたんです。」
「賢者の石か……確かにそれでも可能ね。」
「「それでも!?」」
2人はセリスの発言に驚きを隠せない。そこでセリスに聞いてみた。
「他にも方法はあるのか!?」
「昔、悪さをする魔術師がいてね。『闇魔術』というのを行なってたの。それは、木や石像などに魂を吹き込み、自分の配下として
 従わせるの。その為、ゴーレムという石像だけでなくオークロットっていう木のモンスターが昔はいたわ。」
「「モンスター!?」」
「おとぎ話の中だけだと思ったでしょうけど、昔は実際にいたの。他にもゴブリンとか、ワイバーンとか、
 オーガなんていう巨人のモンスターもいたわ。」
「話は戻すけどセリスさんは、あのゴーレムが闇魔術によって作られたって言うんですか?」
「う〜〜ん……、そうとも言い切れないわね。ひょっとしたら賢者の石かもしれないし。」
「…………ますますわかんなくなっちまったな。」
「……そんなことより、エドはどうするの?」
「えっ?」
「お風呂よ……って、機械鎧だから駄目か。」
セリスは『こりゃうっかり!』と思わず笑った。
機械鎧は金属のため錆びることがあるのだ、なにより機械なので動かなくなってしまうことがあるので
入浴などの水に関することはタブーのようである。(作者推測)
「……じゃあ、入浴が駄目なら清拭ならどう?それなら大丈夫でしょ?」
「せいしき?」
「適温のお湯でぬらしたタオルで体を拭くことよ。知人の看護士から見て学んだことなの。」
「い……いや、別にいいよ。」
エドは顔を赤くして言った。
「よくない。いつまでもそうやってちゃ、不潔よ。女の子にも嫌われるわよ。ひょっとして、恥ずかしいの?」
「……え……と……その……。」
エドはさらに顔を赤くしてあわてふためいた。
「うふふっ(ハート)その気持ちも分かるけど、たまにはちょっとだけでもお姉さんに甘えてもいいのよ(ハート)」
「あ……甘える…………………………。」
エドはさらに真っ赤になり、ボンッ!という音と共に倒れこんだ。
「に……兄さん!!」
「あらら、……かなり『純』なのね。エドって。」
アルが慌てふためく中セリスは目を点にしてエドを見た。

数分後……ようやくエドを説得(?)しセリスはエドに清拭を施すのであった。
今エドはパンツ一丁の状態である。ちなみにセリスはアンダーウェアとズボンの寝間着姿である。
セリスが清拭を進めてる中3人の会話が弾む。
「ところで、エドたちは私みたいな人に会うのって、初めてなの?」
「…………そうですね。」
「今まであったヤツっていやあ、ある人を除いて野郎とかムサイオヤヂとかだったからな……。」
「そう……。」
「それにしてもうまいなあ、……気持ち良すぎるぜ。」
「やりかたも教わったの。やさしく、丁寧に、なおかつ不快を与えないようにやるの。」
「あっ!そういえば……。」
アルは思い出したのかハッとする。
「どうしたの?」
セリスも手を一旦止める。
「以前、ラッシュバレーで出産に立ち会ったことがあるんです。(原作第5巻参照)」
「それがどうかしたの?」
「そのとき、嵐があって医者を呼ぶために町へ向かう途中橋が壊れて、遠回りでももう医者は間に合わないって時に
 幼なじみの子が、医者に代わって出産を行なってくれたんです。」
「それで……どうしたの?」
「無事に出産できたんです。」
「ホントすごかったぜ。うろ覚えなのに処置も適切だって後から来た医師も言ってたしな。」
「へぇ〜、その子って医学を学んでたの?」
「まあな。ホントは機械鎧整備士だけどな。」
「たいしたものじゃない。私なんて、これぐらいのことしかできないわよ。」
セリスは清拭を再開する。
「俺たちだって、ただ神に祈るしかできなかったんだぜ。」
「誰だってそうよ。もっとも、神なんているのかどうかわからないけどね。ハイ、次は背中ね。」
続いてセリスは背中の清掃に入る。その前にタオルを洗面器ですすいでから作業に入った。
「ところでセリスはなんで旅をしてるんだ?」
「そうね……探し物をしているの。あなたたちとは少し違うかもしれないけど。」
「そうなんだ……。」
「?……、なんで深く追求しないの?」
「誰にだって言いたくねえ過去がひとつくらいあるから、追求したって意味ねえからな。」
「そうね……、いずれ話すことにするわ。」
「……ところでセリスは、賢者の石についてどこまで知ってるんだ?」
「う〜ん……、万物の鉱物で昔戦争にもつかわれたとんでもない石で、あと沢山の生きた人間が材料って
 とこくらいね。」
「なんでそんなことまで知ってるんだ?」
「大昔に魔族が、賢者の石を作るために多くの人間を生贄にしたっていうものを古文書で知ったの。」
「「魔族?」」
「悪魔みたいな姿をしている者達のことよ。人間と戦いを繰りひろげていたの。」
「へぇ〜……。」
「結果は人間が辛くも勝利を収めたけどね。……次は耳いくわよ。」
「あ、ああ……。」
今度は耳の清拭を行なう。タオルをすすいだ後耳の中をセリスが丹念にみがくと、耳垢などが面白いように取れた。
「面白いくらいすごく取れたわね……。見てみる?」
「結構。」
エドはきっぱりとことわった。
「ホントはこういうことって、タブーなんだけどね。」
セリスは今度は反対側の耳の清拭に入った。先程同様耳垢などが面白いように綺麗に取れた。
そして乾いたタオルでエドの全身の水気を拭き取るのであった。
「これでもうおしまいか?」
「う〜ん……できれば洗髪もしたいんだけどなあ……。」
「いや、もういいって!」
「だって、機械鎧じゃできないでしょ?それにフケとかたまってるかもしれないじゃない?」
「僕もそうした方が良いと思うよ兄さん。」
「アルまで………………わかったよ!まったくしょうがねえなあ。」
清拭の後エドはセリスに洗髪もされることになったのであった。
エドは何故かおとなしくしている。気持ち良いのか照れてるのか、暴れる気配はない。
しばらくして、洗髪は終了し機械鎧にぬれないようにセリスはエドの頭を適温のお湯で流した。
そしてバスタオルで水気をしっかりと拭き取るのであった。
「なんだかんだ言って、最後までおとなしくしてたね。」
「うん、兄さんにしては珍しいと思うよ。」
「アルだって、生身だったらやらされてみろよ。気持ちよくて寝ちまいそうになっちまったぜ。」
「僕はちょっと……遠慮しとこうかな?」
アルは鎧なのでわからないと思うが顔を真っ赤にして答えた。
「うふふっ(ハート)でも、さっぱりしたでしょ?」
「ま……まあな。」
エドも顔を赤くした。
やってる最中はリラックスモードなのに対し終了後は動揺(?)モードである。
「それじゃあ、私はもう寝るね。エドも早く寝た方がいいわよ。
 …………アルは寝たくても寝れないのね……可哀そうに……。」
セリスはアルを哀れんだ目で見た。
「気にしないで下さい。なにせ、僕たちに科せられた罪なんですから……。」
「……ごめん……。」
「謝らなくていいですよ。……おやすみなさい、セリス。」
「うん……。」
セリスは自分が寝るベッドの横断幕(カーテン)を閉じて眠りについた。
「そんじゃ、俺も寝るか。」
「おやすみ……兄さん、それと……」
「『お腹出して寝るな』……だろ?わかってるよ!」
「はいはい……。」
エドもベッドに入った。

数時間後……案の定エドはお腹丸出しで寝ていた。すごい寝相のようだ。
「……まったく兄さんったら、相変わらずだらしないんだから……。」
アルはそっとエドの布団をそっと直してやった。
「…………………………さん……」
「ん?」
アルはセリスのベッドの方から微かな声を聞いた。耳を傾けるとそれははっきりと聞こえた。
「…………お父さん……」
どうやら寝言であった。
「なんだ。……お父さんの夢でも見てるのか。」
アルは『父』という言葉に思わず反応した。エルリック兄弟の父は、彼らがまだ小さい頃母と自分たちを置いて何処かへ
旅立ってしまい。いずれも連絡もよこさずあげくは帰ってこなかった。
例え母が死んてしまった時でも、風の便りで帰ってくるはずなのに帰ってこなかった。
アルは、セリスのお父さんってどんな人なのか、僕たちのようにひどくないのか等とセリスの方を見ながら思い込んだ。
しかし、しばらくするとそれはアルを驚かす衝撃的なことになった。
「……お父さん、……お父さん、……お父さん、……」
寝言は段々激しくなり、しまいには完全に唸り声となっていた。
「!!」
アルはセリスのうなされように心配する。カーテン越しでもはっきりと震えているのが分かる。

セリスの夢の中
そこはまるで、エドとアルが禁忌を犯してしまったが為に起こった現象のようであった。
そこでは後姿ではあるが、セリスの父が何かの術を行なっていた。
「お父さん!!!」
「…………わああああああぁ!!!!」
セリスの叫びもむなしく、セリスの父らしき人は影も形もなくなってしまった。
「!!」
あまりにも残酷な光景にセリスは言葉を失ってしまった。
「…………いやああああああぁ!!お父さーーーーーーーん!!!!」
悲しみのあまり叫ぶセリスにさらに追い討ちをかけるべく辺りから不気味な声が響いてきた。
『やはり、失敗したか……。』
「!!」
『人間にこの術は扱えんというのに……、愚かなヤツだ。』
『我らと契約をすればよかったものを……』
辺りに不気味な声の余韻が響き渡った。
「……うっ……うっ………………うわああああああ!!!!!!!!!!」

「!!」
セリスははっと目を覚ましベッドからガバッと起き上がった。
「……はあ……はあ……はあ……」
セリスの体は寝汗でびっしょりになっていた。
「セリス……、セリス!」
アルは尋常じゃないセリスの様子を心配してかベッドの近くに駆け寄った。
「…………。」
「大丈夫!?」
「…………。」
セリスは夢で見た恐怖のあまりかアルに対して返事ができなかった。
「セリス!?」
「あっ……、アルか…………。」
セリスはベッドを覆うカーテンを開けてベッドを降りた。そして汗だくのセリスを見たアルは驚いた。
「!、セリス……すごい汗だよ、どうしたの!?」
「う……うん、大丈夫……怖い夢を見たから……。」
「夢?」
「うん……ごめん、汗かいちゃったからシャワーを浴びてくる。」
そうしてセリスはバスルームへと向かっていった。
そんなセリスを見てアルは思った。
(なんの夢だったんだろ?少なくとも、セリスのお父さんが関係してるみたいだ……。
 でも今は、とてもじゃないけど話してくれなさそうだ…………。セリス、あなたは一体……?)
そして、しばらくするとセリスが戻ってきて再びベッドへと入っていった。
「心配かけてごめんね。今度こそおやすみ、アル。」
「う……うん。」
そういうとセリスはベッドのカーテンを閉めて再び眠りについた。
アルは何回か長い夜を過ごしてきたが、今回はセリスに関する疑問を抱えた特別な夜であった。
(…………また、あれを見るなんて……。)

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