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第2話


ここから少し南に行ったところに、ある医者がいるらしい。
その医者は人間でありながら悪魔について非常に詳しく、「渇き」についての研究も
行っているらしい。
彼女に会いに行けば、あたしの「渇き」もなんとかなるかも知れない・・・


ザイオンはそう言った。
「渇き」ってのは、昔の悪魔が持っていた、破壊行動を抑えられなくなる現象、確か
そんな感じだった。
今の悪魔にはないはずだったんだけど・・・あたしにはあるんだよ。
「血」に飢えることがね。

ザイオン「あくまで出所不明の噂だ。探しに行くか行かないかはお前次第だな」
ルカ「・・・・・・
   まったく、どこでそんなもん聞きつけたんだい?」
ザイオン「酒場で悪魔たちが話していたのさ。
     少し前からこの辺には広まっていたんだと」

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ザイオンとはひとまず別れて、宿で一晩過ごすことにした。
ずっと考え事をしていたね。
その医者とやらを探しに行くか、否か・・・

カイン「あれ、ルカ・・・?」
食堂でひとり座っていたあたしに声をかけてくるカイン。
ルカ「・・・何か用?」
カイン「おいおい、再会の第一声にそれはないだろ」
ルカ「フフ・・・
   何?さっき濡れながら歩いてたのを見たけど・・・?」
カイン「あぁ、見てたんだ。
    あれはね、マティアと海で遊んでた時のこと。
    マティアが何かにつまづいて倒れそうだったから、僕が支えようとしたけど
・・・」
ルカ「二人仲良くドボン、かい?」
カイン「ヘヘ、マティアの髪メチャクチャになってたから、今部屋で一生懸命セット
してるよ」

ルカ「で、こっちには何のために来たの?」
カイン「うん、珍しい果物がこの島にあるって、ヨハネが残していった本に書いて
あったんだ。
    で、観光を兼ねて、ね」

ヨハネ。
昔からカインとマティアの世話を見ていたらしい。
でも、最後の戦いが終わった時・・・正確にはふたりが故郷に帰るとき、あの男は姿
を消した。
まるで自分の役目が終わったかのように。

カインはいつかこう言ってた。
「今もどこかで、ヨハネは僕たちを見守ってくれてるんじゃないかな。
 僕はそう信じてる。僕も、ヨハネの無事を祈ってるよ」


カイン「あ、マティア」
マティアが元気よく走ってきた。
マティア「あぁ、やっと元通り・・・あ、ルカさん」
ルカ「ルカでいいよ。堅苦しい」
マティア「・・・・・・うん、じゃあそう呼ぶね、ルカ」
カイン「そういえば、ルカこそ何のために来たんだい?」
ルカ「・・・・・・
   別にやることはなかったよ」
マティア「じゃあ、私たちと一緒に行きましょうよ」
ルカ「?」
マティア「私たちはこの島の珍しい果物を集めに来たの。
     良かったら一緒にどうかな?」
ルカ「・・・・・・
   遠慮するわ。ちょっと行きたい所が出てきたからね」

ついついそう言ってしまった。
まだ行くと決めたわけじゃないのに・・・
マティア「そっか・・・残念」
なぜか、突然もうちょっとからかってやりたい気持ちになった。
ルカ「それに、二人で仲良く行ったほうがいいんじゃない?第三者の邪魔はいらない
でしょ」
マティア「そんな・・・邪魔だなんて・・・」
カイン「まぁ、嫌っていうんなら強制することはないけどね」

微妙に、あたしをかばっているようにも聞こえた。
あたしのお腹には子供がいる。
それを知っているのは、あたしとザイオンと、このカインだけだった。

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結局、あたしはひとりで部屋に戻り、一晩考えることにした。


ルカ(「渇き」なんてなくなっていしまえばいい。
   でも、そんな方法がある・・・?)

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翌朝。

すでにカイン達の姿はなかった。

あたしは決めた。

南へ行こうと。

そして、その医者とやらに会いに行こう、とね。

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