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 犬夜叉 ―分けられた命―



今は真夜中。
外は静かに寒い。
冷たく吹く風に乗って、血の匂いが混じる。
嫌な匂いが立ち込めていた。

その夜。
犬夜叉一行は奈落の城の前に立っていた。
何故か不安は無かった。
迷いも無かった。
今となっては何も分からない。
どうせそれは、限られた運命だった。
それに向かっていくしかなかった。
彼らには、限られた道が一つしかなかったのだ。

"奈落を倒す"

たった一つの道。
絶対避けては通れない。
避けたくても、避ける事など出来ない。
これは運命だったのだ。

―――そんな中、少しの不安を抱える少女が居た。
(もし…死んだらどうするんだろう。
 倒す事が出来なかったら…皆はどうするの…?)
色々な思いが、彼女の頭をよぎる。
だが、かごめは前向きな少女であったのだ。
(…違う。絶対倒せる。
 皆、死んだりしない。倒すまでは、皆死なない…!!)
彼女は知らなかった。
運命の意味を。
運命とは変える事が出来ない。
変える事が出来ないから運命なのだ。


そして今、血の匂いが吹く。
風に乗って。
血の匂いのする方向には、無残な死体が横たわっている。
皆、息絶えていた。
そう。
少女の不安は的中したのだった。
"死んでしまうかもしれない"
その不安は本当の出来事となってしまった。
暗い闇が、その地を包み込もうとしていた。

―――その時。
誰かが、風の匂いに誘われて、この地へやってきた。
風俗からして、巫女のようである。
なんとなく不安を持った瞳。
遠くを見つめるような瞳。
二つが入り混じったような目だった。
それは、あの少女と似ていた。
この巫女も、少女と同じく、知らない事があった。
運命は変える事が出来ない、という事。
そして、この者にも運命はあったのだ。

死体の手には、眩いほどの光が見える。
良く見ると、それは玉のようだった。
四魂の玉。
この巫女は、全てを察した。
そして、色々な考えを廻らせた。
巫女が出した答えは、とても複雑なものだった。
巫女も、自分の出した答えに、辛い感情を抱いた。
一滴の涙が頬をつたる。
だが、ゆっくりと口を開いた。

「我遣える四魂の玉よ。
 この者達を、邪な心を持たぬ者達を、蘇らせよ。
 我の命をも捧ぐ。我の願い、聞き取りたまえ…。」

その時。眩い光が巫女を包んだ。
それと同時に、光の粉のような物が、この地に降り注ぐ。
四魂の玉は、巫女の命と引き替えに、他の者を蘇生させたのだった。
もう、巫女の姿は無かった。
その代わり、辺りにさっきの風は吹かず、人の生気が立ちこめた。


全ては運命だったのだ。
巫女が他の者を助けたのも。
偶然でも何でもない。
あれは運命だったのだ。

人はずっと、運命の輪の上を歩いているのだ。
偶然も交え、最初から決まっていた"運命の輪"の上を――――――

END

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