戻る TOPへ

※この小説は、無事トゥルーエンドを迎えたアイドルとプロデューサーのその後の物語です。
 なおプロデューサーの名前は物語ごとに違います。またネタバレも含めておりますので気をつけてください。

After Idol(如月千早編)

ここはとある空港。そこに一台の大きな車が止まった。そしてそこからビシッとスーツを身にまとう男性と
サングラスをかけている女性が降りてきた。
「あれからもう3年も経つのか、なんだかあっという間な気がするよ。」
「そうですね。まさか私も、ここまで来るとは思ってなかったです。
 これもみんな、プロデューサーのお陰です。」
「前にも言ったけど、俺はただ千早についてきただけだよ。
 千早がいてくれたから、俺もここまで飛んでこられたんだ。」
「私は、前者はプロデューサーと逆のことを考えてます。
 でも後者は、同じことを今でも思っています。」
女性はサングラスを外した。彼女の名は如月千早。
3年前765プロの所属アイドルとして活躍し、最初は前座や店頭販売など見習が行なう
仕事をしていた。だがレッスンや練習などを繰り返していくうちに、気がつけば国民名誉賞を受賞するほどの
有数のトップアイドルになっていた。
そんな彼女をプロデュースするのは牧野幸人。自他共に厳しいが穏やかな性格の持ち主である。
千早のプロデューサーとして現在も活躍中で現在は日本でのライブのために空港に千早と共に来てるのである。


飛行機中にて、二人は隣同士で座っていた。
そして、ここまでのことを思い返すのであった。
「まさか「蒼い鳥」が全世界でヒットするなんて、思ってなかったです。」
「アメリカ大統領も賞賛してたからな。もう千早を代表とする名曲と言ってもいい。
 そして千早は、世界を代表とするトップアイドルだな。」
「今から思えば全く信じられないです。あの頃の私は、歌うことと自分の事しか頭になかったから。」
「そうだな。俺に対しても最初キツイ目で見てたし――。」
と、隣に座っている千早を見る幸人。
「そうですね。……それにあの時のプロデューサーの目も……。」
「ははは……でも、あれはあれで良い思い出だったよ。」

振り返ること3年前、幸人にプロデューサーとしての仕事が来て社長から10人の女性のプロフィールから
誰をプロデュースするのか選ぶこととなった。そして選ばれたのが千早である。社長曰く、飛び抜けた才能の持ち主だという。
早速プロデュースを開始するやいなや、千早は部屋を暗くし音楽を聴きながら集中力を高めていた。
今でもそうだが千早は生真面目でクールな性格である。
そして部屋の照明をつけて初めて幸人と千早は出会った。
「初めて見る人ですね。何か用でしょうか?今、忙しいのですが」
「そう、邪険にするなよ。俺は君の面倒を見ることになった、プロデューサーだ。」
「あなたが、私の?」
千早はキツイ目つきで幸人を見る。
「な……なんでそんなキツイ目で見るんだ?もしかして……ケンカ売ってる?」
「まさか、ただどんな人なのかと思って、気に障ったのなら謝ります。」
「イヤ、まあ……悪意がないのなら、いいよ。」
「どうやら、悪い人ではないないようですね。これから、よろしくお願いします。」
これが幸人と千早の出会いであった。

場所は戻って飛行機の中。
「『ケンカ売ってる?』――ふふっ、あの時のプロデューサーの目今思い出すと面白かったです。」
「そういう千早だって、オフなのに事務所に来て『私はただプロデューサーに……』」
「それは言わないで下さい!……恥ずかしいから。」
千早は顔を赤らめ幸人から目を逸らした。
「ごめんごめん。だけど色んな事があったよね。」
「ええ。今でもあの時のことが走馬灯の様に思い出せます。」

3年前、まだ千早がアイドルとして名が知られてない頃
日々の精進が肝心だと言う幸人。千早はそれを分かっているものの一流の歌い手になりたいと焦っていた。
両親に彼女が芸能界にいると伝えなくちゃいけないのに千早はそれを嫌がる。両親のことが嫌いなのである。
それは千早の両親が毎日の様にケンカをしているからであった。といっても一方的に父が母を責めていたのであった。
千早がまだ7歳だった頃、母と弟が買い物に出かけたとき一瞬目を離した瞬間弟は母の手を振り払い、道に飛び出してしまい
交通事故で帰らぬ人となってしまった。それが原因で千早はたった一人の大事な人と幸せだった時間を失ってしまったのであった。
いつか仲直りする。そう信じていたものの、千早がメジャーアイドルとして活躍していたその時
両親は結局離婚してしまった。千早の目の前で離婚届に印鑑を押したのであった。
苦しかった日々は終わったものの、千早にとってものすごくショックな出来事が起こってしまった。
それから幸人は千早を支えつつプロデュースをした。
その甲斐あってか昔に比べて千早の表情も柔らかくなり、アイドルとしての貫禄も出た。

再び場面は飛行機の中。
「あれから両親、どうしてるのかな?」
「そうだね。海外進出するまでずっと母親の側にいたけど、それからはずっと一人暮らしだったもんな。」
「ええ。電話や手紙で元気なのは分かってますけど、なんだか寂しそうです。」
「そうだな。だったら、会いに行こう。」
「そうですね。
 ……あっ、その前に弟の墓参りに行きませんか?海外に出てからなかなか行けなくて……」
「ああ。俺も弟にお姉ちゃん海外でも素晴らしいアイドルだよって伝えないとな。」
そんな会話が終わったその時、飛行機が着陸準備に入るというアナウンスが流れた。

日本についてから来たのはマスコミからのシャッターの嵐。
何せ世界最高峰のアイドルが日本に帰国してきたからである。
そんな彼らを差し置いて二人は用意されていた車に乗り込み空港を後にした。
そして二人は車の中で再び会話を始める。
「こうして外を見てると、「帰ってきたんだな」って実感が沸きます。」
「ああ。」
「海外へ進出する前のあの出来事が、昨日の様に思い出せます。」


しばらくして、トップアイドルとして活躍はしているものの
これ以上の成功が望めないため社長から「活動停止」という冷たい言葉が出てきた。
そしてそれを千早に伝えたるとやはり千早も同様を隠せなかった。
このまま成功を望めないのなら引退と言う手もあるが、それではファン達に申し訳ないので
そこで幸人は「お別れコンサート」を開催することとなった。
しかし千早はラストコンサートの為か気持ちは冴えないでいた。
そして迎えたラストコンサート当日。
千早の気分は相変わらず沈んでいた。今日までの気持ちを込めて歌えば震えが止まるのかと思っていたが
もしそれが終わってしまったらどうなるのか分からない不安を抱えてしまい、帰って震えが酷くなっていた。
そこで直人は千早のもとへと向かい慰めるためこう言った。
「ほら、千早、笑って、そんな顔してたら気持ちは塞がる一方だぞ?」
直人の言葉を聞いてか千早は顔をあげた。
「プロデューサー…………。」
「確かに、明日からは、新しい日々が待っている。けど、何もかもが同じじゃない。
 だが、何もかもがデビューした頃に戻るわけじゃない。違うか?」
「……違いません。学んだことや教えてもらったこと、それから積み重ねた思い出は決して……
 そうですね。ちょっと考えすぎたのかもしれません……あっ、震え、止まったみたいです。」
ようやく千早に笑顔が戻った。
そして始まった日本最後のラストコンサートの会場には多くのファンが集まり熱気は最高潮に高まった。
これまで出したヒット曲やメドレーを出し会場の盛り上がりは高まったいった。
そしてラストソングには「蒼い鳥」を披露し、ラストコンサートは大成功を収め
この日のライブは心に深く残る最高のコンサートとなった。

そしてコンサート終了後夜道にてこれからの事について千早は語り出した。
アイドルをこれからも続けていくことを決意したのである。
そして同じ事を繰り返す気がないため大きな挑戦として活動の場を海外へと移すのであった。
「ええっ!それは大きく出たな……でも、千早ならうまくやれそうな気がする。」
「そう言ってもらえて心強いです。……で、でも、私一人では多分ダメで…………
 断られるの承知の上で聞きます!プロデューサー、私と来てくれませんか!?」
「何!?俺も一緒に海外へ行こうってことなのか?」
「はい。見知らぬ土地で成功するには、プロデューサーの力が必要なんです。」
「千早、そこまで俺のことを信頼しているのか。
 ……だったら、応えないわけにはいかないな。」
「え、じゃ、じゃあ……」
「俺も千早と一緒に挑戦してみるよ。未知のマーケットにね。」
「あ、ありがとうございます!OKしてもらえるなんて。
 これから始まるのですね。私達の第2章が……」
「ああ、海を渡って、そして……新しい星、つかもうな。」
「そうですね。圧倒的な歌唱力を持つライバル、沢山いると思います。
 でも……負ける気はしません。私には世界一の強い味方がいますから。」
「世界一かどうかはこれから証明して見せないとな。」
「これからもよろしくお願いしますね。私のこと……」
「ああ、全力でプロデュースするよ。」
「私、幸せです。弟のこと、両親のこと、悲しいこと、沢山ありました。けど……
 もう、何も怖くありません。私の全てを分かってくれる人が、隣にいてくれるから。」
こうして幸人と千早は日本歌謡史に、輝かしい功績を残し、国内での活動を終えた。
これまでに受けた数々の賞賛よりも幸人にとって価値があるのは、千早の幸せそうな笑顔である。
その笑顔をこれからもずっと守り通したい。そう誓ったのである。

その後学業をなんとか終わらせ、海外へ進出してから2年。
見事海外でも成功を収め、千早は世界が誇るアイドルになった。
そして日本に帰国後、二人はまず最初に765プロを訪れた。
社長も「君達は我が社の誇り」と賞賛し大満足した。

そして次に訪れたのは墓地。そう、千早の弟が眠る所である。
花と線香などを手に墓まで足を運んでいると、墓の前にやつれたような体系の女性が墓に向かって合掌していた。
「あれ?あの人は?」
「お母さん!」
千早は表情を変えて女性の下へと駆け出していった。
合掌していた女性は千早の声に気づいてか目を開けて千早の方へと向いた。
「千早!?」
女性は気配に気づいてか千早がいるほうを向いた。
「やっぱりお母さんだ。どうしてここに!?」
「千早、あなたいつここに!?」
「今日帰ってきたの。まさかお母さんがここに来るとは思ってなかった。」
「……あの〜、取り込み中失礼しますが、あなたが千早のお母様ですか?」
「あっ、ごめんなさいプロデューサー。」
幸人に言われて千早は幸人の方を向いた。千早の母も直人のほうを向いた。
「あなたは……?」
「初めまして。如月千早のプロデューサーの牧野幸人です。」
そう言って幸人は千早の母に名詞を差し出した。
「あなたが…………
 いつもいつも、千早がお世話になってます。ありがとうございます。」
千早の母は幸人に深くお辞儀をした。
「いえいえ、私はそんな大した事はしてないですよ。」
「そうだよお母さん。プロデューサーは私に対して今まで通りに接しているだけだから。」
「だってあなた、世界をまたに駆けるアイドルなんでしょ?
 千早がここまで来るのにプロデューサーさんの働きがあったから……」
「私はただ、プロデューサーについてきただけよ。
 それよりも、弟のお墓を掃除しましょう。せっかく来たから。」
「そうね。話はそれからにしましょう。」
「プロデューサーも手伝ってくれますか?」
「ああ、もちろん。」

そして3人で墓掃除を終えた後、線香と花を添え、墓の前で両手を合わせて黙祷をした。
黙祷を終えた後。話が始まった。
「話は全て千早から聞きました。息子さんが事故で亡くなられてしまい、それから元夫から暴力を受けたと。」
「はい。それから千早は、私達に対して冷たい態度を取る様になってしまって……
 あの事故から千早は、笑顔を見せなくなってしまって……」
「それは千早があなた方が仲直りするのを待っていたんです。
 ……ですが、残念な結果になってしまって、私もショックでした。」
「テレビで活躍してる千早を見て、どうしてあんなににこやか出来るのか分かりませんでした。
 最初は作ったものかと思ってました。でも、千早の話を聞いて本当の意味で心から笑ってるのを見て
 私は思わず泣きました。あなたが居てくれたから、今の千早が居る。感謝したくてもどうすることが出来なくて
 申し訳ありません。」
千早の母は深くお辞儀をした。
「いえ、その気持ちだけで十分です。」
「そうよお母さん、物なんていらない。今の私には、その気持ちだけで十分だから
 そんなに気をつかわなくていいの。」
「……千早。」
千早の母は思わず涙ぐんだ。
そして再び3人は墓に向かって手を合わせて黙祷した。
それぞれの心境を伝えるかのように。

そして墓地を後にして再び車に乗り込んだ二人は話し合う。
「千早、お父さんの方なんだけど……」
「?」
「実は車に乗る前に親戚から連絡があったんだ。」
「えっ!?……それで?」
「肝硬変の手術を今日行なうことになったんだ。」
「そうなんですか!?…………あの、病院へ行ってくれませんか?私、心配で……。」
「分かった。」
幸人は運転手に病院へ行くよう指示した。
千早の両親は離婚後、母親は千早に支えながらも普通に生活をしていたが
父親は酒に明け暮れる毎日を送り、最終的には肝硬変で入院することとなってしまった。
それから合間を縫って見舞いには来てるものの、二人に対する態度は冷たかった。
縁を切ったとはいえもとは家族だった人、その為心配にならずにはいられなかった。

病院に到着後二人早速父親がいる病室へ向かった。
病室では手術のためのリアカーが運び込まれていた。もうすぐ手術が開始されるからである。
「お父さん!」
「……千早か、どうしてここに来た。」
父親はそっぽを向く。
「病院から連絡があったんです。本日あなたが手術を受けると聞いて……」
「そうか……お前さんが千早の……」
「はい、千早のプロデューサーを勤めている牧野幸人です。」
「ありがとう。」
「……どうしたんですか?いつもの態度と違いますが……」
以前は二人に対して冷たい態度を取っていた父親、しかし今回の訪問ではいつもと違い
弱弱しくなっている。そして語り出した。
「……あの日から俺は、確かに前の女房を責めるようになった。離婚後、酒に明け暮れ……今の形になっちまった。
 そして病院に入院してからは、自分はどうなってもいいと思った。何せ人として、最低なことをやっちまったからな。
 ……だが、偶然映ったテレビに千早が出て、見た瞬間驚いた。あんな風に笑っている千早を俺は見た。
 なんで千早があんな風に笑っているのか最初分からなかった。……だけど、千早が送った手紙を見て
 内容に俺を責める様なことは書いてなかった。11年前に消えた千早の笑顔……離婚した後千早は
 俺を責めてるんじゃないかと思っていた。
 なのに千早は、俺を責めるどころか慰めてくれた……それが、嬉しくて……」
父親は涙ぐみながら語った。
「確かに最初は両親を責めていました。けれど、アイドルとしての貫禄が出てきてから
 ようやく千早は、ゆとりを持つようになったんです。」
「お父さん、私はもう大丈夫だから…………手術、頑張って。」
「ああ。牧野さん、お前さんに何も出来なくて……すみません……。」
父親は俯いて二人に返事をした。幸人はそれを見て
「いえ、『如月千早』というアイドルを生んでくれたことに私は感謝してます。
 だから、他には何も言えません。どうか自分の事、元奥さんのこと責めないで下さい。」
慰めるように笑顔で答えた。
「…………ありがとうございます。これで心置きなく手術に挑めます。」
父親の瞳から、涙がこぼれ落ちた。
そして二人は病院を後にした。





翌日、千早は最良の状態でライブを迎えることが出来た。それも全世界中継生放送という大規模なライブである。
ライブ中幸人は、最高の笑顔で歌っている千早を見つつ両親の姿を陰で探していた。
そして二人は見つかった。席はかなり離れているものの満足そうに千早を見つめる両親の姿がそこにあった。
千早が居場所を見つけるために飛び込んだ芸能界と言う世界。
そしてそんな千早に翼を与えた幸人。千早から与えられた翼によって二人は飛び続けるであろう。
今も、そしてこれからも…………。
「みなさん、本日はご来場していただき、ありがとうございました。
 私がこうしていられるのは、ファンの皆さんと私を支えてくれる大切な人がいたからです。
 そんな人達の為にこの曲を歌います。……『蒼い鳥』」


Fin

inserted by FC2 system