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※この小説は、無事トゥルーエンドを迎えたアイドルとプロデューサーのその後の物語です。
 なおプロデューサーの名前は物語ごとに違います。またネタバレも含めておりますので気をつけてください。

After Idol(三浦あずさ編)


彼の名は石崎直人。芸能プロダクション765(ナムコ)プロに所属するプロデューサーで容姿は優れているものの
純な性格の男性である。
現在彼は何故か燕尾服を着てて、とある会場の控え室にて椅子に座っていた。
そして天井を見つめ呟き出した。
「……あれから1年3ヶ月も経つのか、月日の流れは早いものだな。」

思い返すこと1年3ヶ月前、765プロの社長から彼にプロデューサーとしての仕事が来て
そして所属している女子のプロフィールから彼は一人の女性を選び彼女のプロデュースを担当することとなった。
選んだ女性の名は三浦あずさ。所属している女性の中で一番年上の20歳でスタイル抜群でおっとりしている女性である。
初めて彼女と出会ったからずっとあの調子だが、今でも彼はあずさと出会ったことを覚えている。
その時彼女はまだ事務所に来てなくて迷子になっているという連絡があったため直人はあずさの迎えに行ったのであった。
そして、商店街にて立ち止まったいる彼女を見つけた。
「三浦あずささんですよね?迎えに来ました。」
「それはそれはご丁寧に。あの〜、ところでどちら?」
「あずささんの担当プロデューサーです。」
「ということは、私を担当してくれるプロデューサーさん……ということですね。」
「そのまんまじゃないですか!?……本当に、理解してます?」
「はい多分。えーっと、私を担当してくださる方が決まったということは…………ええっ!?
 私アイドルとしてデビュー出来るんですか?驚きましたー。」
初対面にてこんな感じで大丈夫なのだろうかと言う不安はあったが、なんとなくうまくいきそうと言う気持ちもあった。
彼女は歌の経験とかはないが、癒し系アイドルとして売り込めば人気が出る。
そう思った彼はあずさのプロデュースに全力を尽くすことにした。

最初は作詞家、作曲家への挨拶にテレビ局にての挨拶回り、そしてデビュー曲の店頭プロモなどと地味なのだが
大切な仕事ばかりであった。
時にはレッスンをし歌唱力を鍛え、ダンスを覚えるというまさに新人そのものの日々を過ごしていた。
挫けそうになったこともあったが、焦らず楽しく、なおかつ能力を鍛えるよう努力する日々を過ごした。
そのせいもあってか、音楽番組やバラエティー番組などから仕事が入るようになり
出した曲、写真集、ライブチケットが売れるに売れるようになり、気がつけば誰もが知るトップアイドルへとなった。
これは直人とあずさが楽しみながらも苦労して築き上げた地位である。
なぜ楽しくレッスンやプロモを行ったのかと言うと、あずさは性格上争うのを嫌っているのであるからだ。
その為「○○を超える」というシビアなことではなく「楽しんで行なう」という趣旨にしたがっていくのである。
その為かあずさの歌唱力やダンス、ルックスにキレが出てくるようになったのである。

アイドルとしての人気が高まった頃、事務所からあずさの恋愛についての電話が沢山かかってくるようになっていた。
彼女がTV出演にて「好きな人がいますから」とコメントしたためである。
直人ら765プロの社員達はなんとか対応するもそれはとても大変なことであった。
そして直人は彼に対するあずさの態度に疑問を抱くようになっていた。好きな人が出来たのだろうと思っていた。
最初は気にかからなかったものの彼は胸にトゲが刺さったような感覚を受けた。
この時直人は既にあずさの好意に薄々ではあるが感づき、気がついたときにはあずさのことを考えるようになっていた。
しかしあずさはアイドルで直人はプロデューサー。アイドルはファン達のものなのにそんなアイドルと恋愛とは
決してやってはいけないスキャンダルの様なものであった。
その為直人は自分気持ちを心に留めておきながらあずさと共に仕事をこなすのであった。

そしてあずさと出会ってから1年後、トップアイドルとしての貫禄が出てるもののこれ以上の成功が望めないためか
社長から冷たい言葉が出された。
「活動停止」
その一言に彼は思わず心が凍りついた。あずさにもそのことを伝えると彼女もその言葉にショックを隠しきれなかった。
もちろんアイドル活動を続けることも出来るが、その場合あずさは直人と別れ、
別のプロデューサーのもとで行なうこととなるのである。
どちらにしろこのままだとファンに申し分がたたないので彼は最後の仕掛けとして「お別れコンサート」を行なうのであった。

お別れコンサートの準備は進んでいくものの、あずさはコンサートに向けてのレッスンが身に入らず
落ち込んだままであった。直人は懸命に奮闘するもあずさの気持ちが沈んだままラストコンサート当日を迎えてしまった。
不安なままコンサート開始まであと1時間というところで彼女は会場の外で未だに悩んでいた。
「私にとっての幸せって、なんだろう」
あずさはこれまで過ごしてきたことを振り返って直人に悩みを打ち明けた。
直人はあずさの言葉に一つ一つ丁寧に対応し、最後にこう語った。
「最後のステージで全力を出してこそ、あずささんの幸せの形が見えてきます。」
その一言で勇気が沸いたのか、それまで険しい顔つきだったあずさに笑顔がこぼれた。

そしてコンサート開始、ヒット曲やメドレーを披露し会場の盛り上がりは最高潮に達していった。
ラストソングは直人が選んだあずささんの代名詞ともいうべき曲「9:02pm(ナインオーツーピーエム)」を披露。
コンサートは大成功に収まり、ドームいっぱいのファン達はあずさを称えた。

コンサート終了後、話があるといって直人はあずさに呼ばれ会場の外へと向かった。
近くの喫茶店でこれからのことについて話し合うのかと思っていたのだが、誰もいない夜道で話し合うこととなった。
何故なら人のいない所でないと話す事ができないことのであるからだ。
アイドルとしての活動に関してはもうこれ以上望むものはなく思い残すこともないので引退することとなった。
直人はそれがあずさが出した結論として受け止めた。
そして彼女は決心したのか直人に想いを打ち明ける。
「こういう時でないと、きっと勇気出ないから……
 プ、プロデューサーさん!私……ずっと、プロデューサーさんのそばにいたいです。……一人の、女性として。
 私の探していた運命の人。絶対にプロデューサーさんです。
 だって隣に立っているだけでこんなに幸せ感じさせてくれる人、他にはいませんから。
 これまでトップアイドルとして歌うために使ってきた時間、これからはあなたのためだけに使ってはいけないですか?」
「あずささん……そこまで俺の事を想っていたんですか……。
 ……分かりました。これからもあずささんの側にずっといます。」
「ほ……本当ですか!?ありがとうございます!
 それで…………あの〜……これまでと、違う関係になれたっていう証に、なにか、特別な言葉、かけてもらえますか?」
この時彼には、あずさへの想いを押さえることが出来なかった。そしてしばらくして心に溜めていた言葉を発した。
「愛してるよ、あずさ。」
「え……あ……私……うぅ……」
あずさは涙目になった。
「ご、ごめん!呼び捨てにしちゃいけなかったんだよね?ホントにゴメン!
 でも、あずささんを想う気持ちは……」
以前あずさを呼び捨てにした為機嫌を損ねてしまったことがあったため直人は焦ってお詫びをする。しかし……
「いえ、そうじゃないんです。うれしくて……。
 なにより、欲しかった言葉ですから。」
返ってきたのは意外にも喜びの返答だった。
「あずささん……。」
「私、アイドルになって、本当に良かったです。多くの人と、楽しい時を過ごして、そして……
 なによりも、ずっと探していた運命の人と、めぐり会えたのですから。――ふふっ。」
こうして三浦あずさは、芸能史に不滅の金字塔を打ち立て、めでたく引退することとなった。
直人とあずさの仕事のパートナーとしての関係は終わったけれど、それからはもっと価値のある時間が始まる。
二人の甘く、永い時間が……。


そしてそれから3ヶ月後、彼はあずさにプロポーズし婚約。今は式が始まるのを待つばかりである。
(プロデューサーという仕事に就くまで、恋愛なんてまったく無縁だった。
 だけどあずささんと出会って、仕事をし、会話し、一緒に過ごしていくうちに初めて恋というものを感じた。
 あの時の胸にトゲでも刺さったような感覚を今でも覚えている。
 けど彼女はアイドルだから、スキャンダルなんかでせっかく上げてきた地位を無駄にしたくなかったし
 あずささんの気持ちをあって、そんな感情は心の奥深い所に封じてきた。
 けど今は、その気持ちを抑える必要なんてないんだ……。)
「花嫁の準備が整いました。」
直人が心でそう呟いてた時にスタッフからの知らせが入った。
直人はスタッフの方を向いて答える。
「分かりました。迎えに行きます。」
そして彼は新婦が待つ控え室へと向かった。

そして花嫁=あずさの待つ控え室の前についた後扉を軽く2回ノックする。
「どうぞ。」
おっとりとした返事が扉の奥から聞こえてきた。
「失礼します。……!!」
扉を開けた途端直人は言葉を失った。彼の目先には純白のウエディングドレスに身を包んだあずさがいた。
その隣にはあずさの短大時代の親友の友美とその旦那さんがいた。
「?、直人さん?」
「あっ、ごめん!」
そう言って直人は慌てて控え室へと入り扉を閉めた。
「どうしたんですか?急に驚いたりして」
「イヤ……その……あずささんに見惚れてしまって……」
「ふふっ。直人さん、私達もうすぐ夫婦なんですから、私のこと呼び捨てにしても良いんですよ。」
「ごめん、まだプロデューサーとしてのクセが残ってて……」
直人は顔を赤らめながら答えた。
「顔に似合わず純なのね。太郎さんって。」
「俺は太郎じゃなくて直人です!あの時はあずささんに合わせて……」
慌てて直人は語るも友美の旦那はくすりと笑い出した。
「分かってるよ。あずささんから聞いたから。」
にっこりと微笑んで答えた。
「ごめんねあずさ。抜け駆けはしないって約束したのに……その時あなたまだ彼氏も出来てなかったなんて。」
「いいのよ友美。私が直人さんに無茶を言ったから……。」
「でも、あの時ホントにキスするなんて今からすれば思えないことね。」
まだあずさがアイドルだった頃、友美はあずさより先に結婚していたのである。
短大時代、一緒に素敵な人と結婚する。抜け駆けはしないと約束したものの
その約束が破られてしまった為泣きそうになったあずさは直人に婚約者のフリを求めた。
その時は彼はあずさに「太郎」として紹介され、そして婚約者ように振舞った。
まさかキスするハメになるとは直人もあずさも思ってなかったのであった。
「あの後なんどか忘れようと思って何とか記憶の片隅に飛ばしたのは良かったものの
 今になって全部思い出しちゃった……。」
「わ……私も……」
直人とあずさは顔を赤くして俯いた。
「でも、アイドルをやめて結婚するなんて思ってなかったわ。
 それに、その相手があずさのプロデューサーだった人であの時の太郎さんだなんてね……。」
友美は俯く二人をジッと見る。もう何も言えないのか直人は顔をあげて話し出す。
「あの後大変だったよ。週刊誌やら新聞記者やらが会社に押し寄せてきて
 しかも電話もガンガン鳴ってきて、ノイローゼになるかと思ったよ。
 社長は俺達の関係について深く追求しなかったから良かったものの
 ここまで来るのに3ヶ月もかかったもんなぁ……何せマスコミやファンが納得するそれまで
 ずーっと、手紙とか電話とかが続いたからなぁ……」
「それだけあずささんのアイドルとしての人気が高かったんですよ。」
「そうだけど、なんだかファンからあずささんを奪ってしまったみたいで
 申し訳ないと思うんだ。……でも、後悔はしてない。
 何故ならこれからもずっと、あずささん……いや、あずさと一緒にいられるから。
 これから先どうなるか分からないけど、あずさと一緒ならどんな困難も乗り越えられそうな気がするんだ。
 だって、あずさをトップアイドルに上り詰めるまで今までずっと頑張ってきたから。」
「言うようになったじゃないの。太郎……じゃなかった直人さん。」
友美はニヤリとほくそ笑んだ。
「私の大切な親友なんだから、幸せにしてくれなきゃ許さないわよ。」
「友美、大丈夫よ。だって直人さんは、私がずっと探していた運命の人なんだから。――ふふっ。」
あずさは顔をあげてニッコリと微笑んだ。そして直人は時計に目をやる。時刻は式が始まる10分前を指している。
「もうこんな時間か……。」
「そろそろ、式が始まりますね。それじゃあ、私達はこれにて……」
「幸せにね、お二人さん。」
友美と旦那は控え室から去り、直人とあずさが残った。
「さっき、「ファンからあずさを奪ってしまった」って言ってましたよね?」
あずさが先に喋り出した。
「ああ。」
「私はもうアイドルじゃないんですから、そんなこと気にしなくて良いんですよ。
 今の私は、直人さんの奥さんなんですから。」
「そうだけど、俺はまだプロデューサーなんだよ?
 あずさの他にもいろんなアイドルをプロデュースする仕事をしてるんだよ?」
「分かってます。私の旦那としてのプロデューサーさんでもあるんですよ。
 だからそんなに謙遜しなくて良いんです。でないと……せっかくの幸せが台無しですよ?」
あずさは直人のほうを向いてニッコリと微笑んだ。
直人はあずさの顔を見ると謙遜な顔が緩んでいつもの笑顔に戻っていく。
(……まさか、癒し系アイドルとして育てた彼女に自分が癒されるなんて思ってなかった。)
「?、どうかしました?」
「……なんでもない。」
直人は笑顔になったあと手をあずさの方へ差し伸べる。
「行こうあずさ。みんなの所へ。」
「はい、直人さん。」
あずさは直人の手をとり、二人で式場へと向かった。

カラーン、カラーン……カラーン…………
チャペルの鐘が二人を祝福するかの様に鳴り響く。
誓い、指輪の交換、式はもうすぐ終わりを告げる。
「開けるよ。」
「はい。」
チャペルの扉を開け外に出る。
再び鐘が鳴り、歓声や拍手、カメラのシャッターの音が辺り一面に響く。
「おめでとうございます!」
「おめでとう!」
「あずささん、直人さん、お幸せに!」
会場には友人や家族だけでなく雑誌や新聞、果てはテレビの取材班まで会場に来ていた。
「マスコミには教えていないのにまったく……ハイエナ並みの嗅覚だな。」
「そんなこと言わないの。ほら、行きましょう。」
「ああ。」
あずさの笑顔に答えるように直人も笑顔で答えた。そして、キスをした。
そして二人は歩いていく。

アイドルとプロデューサーとして歩いてきた二人。
そしてこれからは、生涯においてかけがえのないパートナーとして歩いていく。
それは決して平坦な道ではないが、二人で力を合わせれば乗り越えられる。そんな気がした。
彼らの幸せは、きっと永遠に続くのであろう。今も、そしてこれからも……。


Fin

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