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地獄少女 朱蘰あけかづらのオープニング


あけかづら


人の世は 縁と申します。

結んだ糸が絡みつき

脆く哀れな彼岸花。

怒り 悲しみ 涙に暮れて

午前零時の帳の向こう

晴らせぬ怨み

晴らします…


「……ゆるさない アイツは私の顔を奪った……! お願い…… 怨みを晴らして……」


あなたの怨み、晴らします。

下川健一|    

送信


「またか……」

男は視線を感じた。
立ち止まり、後ろを振り返る。だが、どこには誰もいなかった。

「くそっ」

もう何度目だろう。こうやって背後を確認するのは……。
視線を感じる度に振り返ってみるが、そこには誰もいない。
そのくせ、見張られているような感覚がなくなる事はなかった。

きっと気のせいだ。
そうに決まっている。
あんな事をしたあとだから……
いまは気が立っているから……
そんな風に感じるだけだ。
そう、自分に言い聞かせる。
とりあえず、少し落ち着こう。

男……下川健一はタバコを取り出して口にくわえた。

「……?」

ライターがない。
いつも通り、ズボンのポケットに入れておいたはずなのに。
ジャケットを探るが、やはりそこにもなかった。
どこかで落としたのだろうか? だが、心当たりはなかった。

「ちっ」

確実なのは、タバコだけがあっても仕方がない。火がつけられなければ意味がない。その事だけだった。

目の前を青年が通りかかる。
彼は手の中で銀色のオイルライターをもてあそんでいた。
ちょうどいい。彼に火を借りればいい。
健一は青年に近づき、声をかけた。

「ねえ。ちょっと、そこの人」
「はい?」
「それ、貸してくれない? ライターをなくしちゃってさ」
「ああ、いいよ。どうぞ」

青年はライターの火をつける。
健一はくわえたタバコをそれに近づけていった……。

「う、うわっ!?」

突然、ライターの火が大きくなり、健一の目の前で燃え上がった。
火は瞬く間に炎となり、一気に彼の腕にまとわり付く。

「ぐあああああっ……」
「ふっ……」

青年は凍りつくような笑みを浮かべていた。

「お、おま……え……! な、なにを……!?」

健一は喚く。
だが青年は表情を変えずに……。

「火が欲しかったんだろ?」

冷酷に言い放った。

「な、なにを言って……!」
「ホラ、もっとくれてやるよ」

青年はおもむろにライターを放り投げた。

「ぐああああッ!!」

火は意思を持った生き物のように、健一の全身に巻きついていく。

「あ……ぐ、ぁ……」
「なんだ。まだ足りないのかい?」

「どれ。俺も手伝ってやろう」
「ぎゃああああああッッ!!」

突然、現れた和服の老人。ライターに火をつけた。
火勢は一段と強くなった。すでに健一の身体は完全に炎に包まれていた。
火ダルマだった。肌が焼けるにおいが辺りに充満した。

「どうだ、坊主。これで満足したか?」
「や、やめ……ッ!」

「おや、まだまだ足りないみたいだよ、輪入道?」
「やれやれ。欲張りなヤツだ」
「仕方ないねぇ。アタシも手伝ってやろうかね」
「ぐわぁぁぁぁぁッッ!!」

続いて現れた和服の美女もまた、手にライターを持っていた。
燃える。燃える。燃える。
まるでガソリンをかけられたかのように、炎は激しく燃え上がり、健一を焼いた。

「ははっ。燃えたねえ」
「いやいや。まだまだ」
「そうだな。もっといけるな」
「や、め……っ! た、たす……け……っ!」

声にならない。救いを求めて振り上げた手は、虚しく空を切る。
息が出来ない。苦しい……苦しい!
誰か助けてくれ! 死ぬ……死んでしまう!

「あ……っ!? はぁっ……はぁっ……燃えて、ない?」

身体を包み込んでいた炎は、跡形もなくなっていた。

「な、なんなんだ……?」

健一は自分の身体を見る。
ヤケドひとつ、負っていない。おまけに服も焦げていない。
あれほどの炎に巻かれていたというのに……。

「どうだい? 少しは反省したかい?」

薄笑いを浮かべて火をつけてきた、あの美女だった。

「な、なんだよ! オレがなにをしたって言うんだ!?」
「坊主、おトボケはいけねぇぜ」
「……!?」

後ろを振り返ると、和服の老人がいた。さげすむような目つきで健一を見据えてくる。

「人、一人に大ヤケドを負わせただろう? 忘れたとは言わせねぇぜ」
「な、なんだよ…… アイツが悪いんだ! アイツがオレを裏切ったから……!」
「フラれた腹いせに放火かい? ひどい真似をするね」
「なに……っ!」

先程の青年がいた。

「あのコ、一生消えないヤケドを負っちまったよ。かわいそうに……顔は女の命だってのに……」
「あ、あんな女! どうなろうと知った事か!」

「だってさ、お嬢」

もうお手上げだ。そう言わんばかりの呆れた表情を浮かべ、青年は健一の背後に声をかける。

「……!」

振り返ると、そこに彼女はいた。

黒の和服に身を包んだ、美しくも可憐な少女。
黒く長い髪。
透けるような白き肌。
見る者を惹きつける紅い瞳。
まるで神が創作した人形のように整った顔立ち。
一瞬、健一は心を奪われかけていた。

やがて、少女は静かに口を開く。

「闇に惑いし哀れな影よ……人を傷つけ貶めて、罪に溺れしごうたま……」


「イッペン、死ンデミル?」


「こ、ここは……? お、お前……?」

健一は舟の上にいた。漕ぎ手はあの少女だった。

「ここはどこだ? どこへ連れて行く気なんだ?」
「……」
「おい、黙ってないで答えろ!」

少女は答えない。黙々と櫓を漕いでいる。

「こ、この……っ! ひっ……!?」

足元から手が次々と現れる。健一の手を、足を、身体を、顔を押さえつける。
亡者の手だった。

「や、やめろ! 離せ! 離せぇ……!!」

だが、少女は顔色一つ変えずに、櫓を漕ぎ続けている。

「う、うわぁぁぁぁッッ!!」

川の上に響き渡る大声。
それは健一が発した断末魔の叫びだった。


「……この怨み、地獄へ流します」


あけかづら
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