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るろうに剣心
明治剣客浪漫譚

《十勇士陰謀編



遠くの空が朱に染まっている。
夜明け前の澄んだ空気を切り裂く悲鳴。
叫んでいるのは誰・・・?
せき立てられる背中越しに見たのは、
すべてを失う予感。
恐ろしくも美しく、
懐かしい最後の記憶・・・。




神谷道場の廊下を歩く、緋村 剣心と神谷 薫。
「不穏な影って・・・どういうこと、剣心?」
「それがわからぬから、調べに行くのでござるよ。
心配はいらぬでござる。」
剣心はそう言ってニッコリ笑う。
「う・・・うん。」
道場を出てゆく剣心を、薫は不安そうに見送った。
「この国に、また動乱の予感だなんて。
剣心の勘は当たるけど・・・。」
ちょうどそこへやって来た明神 弥彦。
「あれ?出かけるのか?今日のメシどうするんだよ。」
「すまぬが、薫殿に作ってもらうでござるよ。
拙者、しばらくの間、旅に出るでござる。」
「旅!?あっ、おい!!」
門を出てゆく剣心。
町で、「赤べこ」から出てきた相楽 佐之助とばったり。
「おう、剣心じゃねえか。どっか行くのか。」
「気づいてるでござろう。近ごろ、この町を
悪しき空気が覆っていることを。」
「ふーん・・・。なんだか、おもしれえことに
なってきやがったぜ。」

こうして剣心は一人、旅に出たのであった。



〈輝(ひかる)編 オープニング〉


とある町・・・
絵草子屋の店先を通りかかる少女、名は輝。
きょろきょろとあたりを見回しながら歩いていると、
正面からやって来た不良三人組が、わざと輝にぶつかってきた。
「いてぇっ。」
大声をあげる不良、しかし輝は無視して通り過ぎる。
「おっと、お嬢ちゃんよ。まさか、
このまま素通りってこたあねえよな?」
「慰謝料だよ、慰謝料。黙って払やあ痛い目には遭わせないからよ。」
凄む不良達・・・、しかし、輝は黙って首を横に振った。
「おっ、よく見りゃなかなかの上玉じゃねえか。」
「慰謝料の代わりに、俺らにつき合うってのはどうだ?
へっへっへ。」
輝は、その場から立ち去ろうとした。・・・が、
「待ちやがれ!」
輝の腕をつかむ不良。と、その時!
二人の間に割って入った一人の男・・・緋村 剣心。
「なんだ、てめーは。」
「関係ねえヤツァ、引っ込んでろいっ!」
すると、左の頬に十字の傷を持つ剣心は、
鋭い目で不良達を睨みつけ、言った。
「そうはいかぬ。でかい図体で、婦女子を追い回すなど、
男の風上にも置けぬ奴等。
おとなしく去れば、見逃してやるでござるよ。」
「なんだとォッ!」
不良の一人が、剣心に殴りかかったその瞬間!
剣心の刀が、目にもとまらぬ速さで動き、鞘に納まった・・・。
「う・・・?・・・!?」
一瞬の間の後、不良の右袖がはらりと落ちる。
「う、うわああっ!」
先ほどの勢いは何処へやら?
不良達は、一目散に逃げて行った。
「大丈夫でござるか?」
気遣う剣心だったが、輝はちょっと後ずさり・・・
「いや、拙者はただの流浪人。怪しい者ではないでござるよ。
この辺りは、あまり治安がよくないゆえ、
よければ送ってしんぜよう。そなた、名は?」
輝は、小声で自分の名を言った。
「輝・・・でござるか。で、家はどこでござる?」
剣心の問いに、輝は・・・?
何も思い出せないというように、何度も何度も首を横に振り、
やがて、頭を抱えてうずくまってしまった。
「輝殿!?、大丈夫でござるか。」
駆け寄る剣心、すると輝は、怯えたように立ち去ろうと・・・
「待つでござる!」
しかし、何かから逃れるように走り去る輝。
「なんと悲しい目をしているのだ・・・。」
その後姿を、剣心はじっと見ていた。


東京
にぎやかな町並み・・・
そこへやって来た一人の少女。
そう、輝だ。
輝は、「赤べこ」という牛鍋屋の前を通りかかった。
と、店先に落ちていた紙を拾って読む。

『おいしい牛鍋はいかが!?
みんなの牛鍋屋 赤べこ』

そのチラシを持って、「赤べこ」へ入っていく輝。

「やーい、このドブス!」
店の奥から、走り出て来る弥彦。
「なんですってぇ!」
追いかけて出てきたのは、薫。
薫は、弥彦を捕まえようとしたが、勢いあまって
輝にどすん!と激突!
「きゃああっ!」
倒れる輝と薫。
「何やってんだよ、薫。ったく、トロいなあ。」
「こンのォーーーー!・・・っと、いけない。
ごめんなさい、大丈夫?」
「怪我してんじゃねえか。」
弥彦が、輝を見て言った。
「ホントだ。ねえ、うちの道場に来てくれませんか?
傷の手当くらいならできるし。」
薫の言葉に、輝は黙って首を横に振った。
「そんなこと言わないで。
このままじゃあ、気が済まないもの。」
しかし、輝はまた首を横に・・・。
「だって、怪我してるじゃない。
お願い、手当させてください。」
輝は、それでもうんとは言わず、店から出ていこうとした。
・・・が、その時店に入ってきた男と衝突!
「いてえなこのやろう!」
輝は、今度は倒れたまま起きられない。
「あ・・・・。」
薫、ぼう然。
「ちょうどいいじゃないか、このままつれていっちまおうぜ!」
「でも・・・。」
「このままほっとくわけにもいかねえだろ!」
「それもそうね。」
結局、薫の道場へ連れて行かれることになる輝・・・。


神谷道場(薫の家)
「…そう、輝さんっていうのね。さあ、これでいいわ。
しばらくは少し痛むかもしれないけどね。」
座敷で、輝の傷の手当をする薫、その傍らに弥彦がいる。
「少し遅れたけど、私は神谷薫。こう見えても神谷活心流道場の
師範代を務めているの。」
「…と言っても、他に門弟がいるわけじゃないけどな。」
「弥彦、うるさいっ!
そうだ。怪我が治るまで、うちにいなさいよ。
いつもうちにいる食客が、今ちょっと出かけているし、
部屋も空いているの。」
薫は、やさしく微笑んでそう言ったが、
輝は相変わらず、心を閉ざしたまま・・・
うつむいて、首を横に振った。
「そうしろよ。でも、いっとくけど、
薫のメシはムチャクチャまずいぜ。
それだけは覚悟しとけ。」
弥彦が、輝の顔を覗き込む。
「弥彦!そんなことより、あんたも自己紹介しなさい。」
「おう!俺は東京府士族、明神弥彦。
困った事があったら、何でも言いな。」
親指を立ててみせる弥彦。
「遠慮なんていらないんだから。
ねっ、決まり!いいでしょ?」
薫の優しさと、弥彦の和ませようとする心遣いに、
輝の心はいくぶんほぐれたのか、
やっとはにかみながら、うなづいた。
「よかった!じゃあ、ゆっくりしてってね。」

部屋を与えられ、つかの間の休息をとってはみたものの、
やはり落ち着かない様子の輝。
少し町の様子を見ようと、道場の門を出ようとした
その時だった。
「きゃーーーーっ!」
突然、耳を劈くような女の悲鳴!
「あいつら、どうかしてるぞ!」
「助けてくれぇっ!」
必死に逃げて来る町人男女。
それを追いかけてきたのは、四人の愚連隊。
「うひゃはははっ!」
「オラオラ、逃げ回るんじゃねぇよっ!」
不気味な笑いを撒き散らしながら、剣を手に迫ってくる。
見るとその目は、何かにとり憑かれたように
鈍く光っている・・・。
「何なの、この騒ぎ!?」
それを聞きつけて、薫が、道場から飛び出してきた。
「死ねーーーー!」
逃げて来た町人に、突然襲い掛かる愚連隊!
しかし、そこに割って入った薫に突き飛ばさた。
「天下の往来で、何してるのよ!
相手は丸腰じゃないの!」
薫は、倒れたそいつを、キッとにらみ付けた。
「なんだ、てめーはっ!邪魔しやがると、
てめえからブッ殺すぞ!!」
「やれるもんなら、やってみなさいよ!」
正面切って向かい合う愚連隊と薫。
輝は、考えた。
多少剣の心得もある自分が、今、何をすべきか?
…答えは、ひとつ!!
輝は、薫を助太刀するため、薫の横へ。
そこへやって来た弥彦。
「おい、こりゃ何だ?薫のヤツ、何を始めたんだ!」
薫や輝の表情から、状況を察知した弥彦は、
輝と共に、薫の横へついた。
「いくぜ!このバカを助太刀しなきゃ!」
薫はまず、一番凄んでいた男に相対した。
しかし、弥彦や輝の出る間もなく、簡単にそいつを倒す薫。
「女子供のくせに、生意気だぜぇっ!!」
残りの愚連隊が、迫ってきた!
(逃げ出す・・・?いいえっ!)
自分自身に問いかけ、そして答える輝。
三対三の勝負が始まった。
輝は多少苦戦したものの、三人とも、
愚連隊の戦意を喪失させる程にこらしめた。
すると・・・?
「う・・・きゅ、急に頭が・・・!」
愚連隊全員、頭を抱えて気絶してしまったのだ。
「な・・・何?どういう事なの、いったい。」
驚く、薫。

道場内、座敷
布団に、愚連隊の中の一人が寝ている。
その横に、薫と輝。
「連れてきたぜ。」
弥彦が、町の診療所で助手をしている高荷 恵を
伴って入って来た。
この時代には珍しい、女医の卵の恵。
「まったく、わけも言わず引っぱり出すんだから・・・
あら?そちら、お客様?」
輝を見る恵。
「あ・・・うん。そういえば、まだ、名前しか聞いてなかったわね。
あなたのこと、もっとくわしく教えてくれない?」
薫の言葉に、一瞬、顔を曇らせる輝・・・
自分の事について考えようとすると、
頭の中に白い霧が立ち込め、何も思い出せないのだ。
ただ、激しい頭痛だけが輝を襲うのだった。
頭を抑え、うずくまる輝。
「輝さん!」
驚く薫・・・、恵はサッと輝を支えた。
「ちょっと、あなた!」
「どうしたってんだよ、いきなり!?」
弥彦もびっくり。
すると、女医の卵である恵が言った。
「・・・何も思い出せないのね。
無理に考えようとすると、頭が痛くなるんだわ。」
「どういう事?」
「このコは、おそらく記憶喪失・・・。
名前以外の記憶を、すべてなくしているのよ。
何か、よほどの体験をしたんでしょうね。」
「そんな・・・治す方法はないの?」
「わからないわ。何かの拍子に、ふっと記憶が戻る事もあれば、
一生そのままという事も・・・。」
恵の言葉を聞き、薫は決心したように輝に言った。
「輝さん!記憶が戻るまで、うちにいていいからね!
いっしょに頑張ろう。」
その時、布団で寝ていた愚連隊の一人が目を覚ました。
「う・・・ん。ここは・・・どこだ?
俺、何でこんな所にいるんだ。」
上半身を起こして、周りを見渡す男。
目の鈍い光は・・・、消えているようだった。
「何で、じゃねえ!大暴れして、
ブッ飛ばされたのを忘れたか。」
弥彦が、もの凄い勢いで怒鳴った。
「大暴れだと。いったい、何のこった?」
男は、まるでキツネにつままれたような表情だ。
「今さら、しらばっくれる気かよ!」
思わずつかみかかろうとする弥彦を、恵が止めた。
「待ちなさい!・・・あなた、ちょっと目を見せて。」
「えっ?な、なんで・・・。」
不思議がる男の目を見る恵。
「いいから!それから口を開けて、
舌も見せてちょうだい・・・。」
今度は、舌を丹念に見る。
「うーん、特に薬物を使ってたわけでもなさそうね。」
首をかしげる恵・・・。
「じゃあ、そいつも記憶ソーシツってヤツかよ?」
弥彦の問いに、
「違う・・・と思うわ。もっと何か、作為的な感じ。」
恵は、そう答えた。
「だけど、嘘をついているようには見えないわよ。
本当に、自分のやった事を覚えてないみたい。」
男の顔をじっと見る薫。
「催眠術かもしれないわね。
でも、誰が何のために、そんな事。」
考え込む恵・・・、その様子にしびれを切らして男が言った。
「おい、なんなんだよ。俺が何したっていうんだよ?」
「おめえは誰かに操られて、町中で武器を振り回してたんだよ。
誰にやられたか、覚えてないのか?」
「な・・・なんだって!?お、俺が、そんな・・・。」
男は、本当に何も覚えていないようだ。
しばらく考え込む男・・・
「・・・何も覚えてねえや。クソ、
この俺がアッサリ操られちまうなんて・・・
・・・・・・・・・・
・・・そうだ!何となく、思い出してきたぜ。
同じ顔した子供が三人、楽しそうにケタケタ笑ってやがんだ。」
「同じ顔した子供?男の子、それとも女の子?」
「女だったぜ。けど、俺の意識のないうちに、
操って動かすなんて真似できる奴等にゃ見えなかったけどな。」
「そもそも、そんなヤツがホントにいたかも、
わかんねえじゃねえか。幻覚かもしれないし。」
弥彦は、男をどうも信用できない様子。
「うーん、それを言われると、確かにね・・・。」
薫も、どう確かめればよいか考えあぐねている。
「・・・何にしても、迷惑かけちまったんなら謝るぜ。
俺は桧ノ山隼人。東の橋の側の長屋にいるから、
何かあったら訪ねてくれよ。」
「ああ・・・もう大丈夫?」
「おう。俺にこんな恥をかかせた奴等を探して、
落とし前をつけさせるつもりだ。そんじゃあな。」
部屋を出てゆく桧ノ山。
「・・・桧ノ山さんの言う事が本当なら、
どこかで悪巧みをしている奴等がいるのね。
催眠術で他人を暴れさせるなんて、ろくな人間じゃないわ。
とっつかまえてやる!」
薫の表情が、厳しくなった。
「本気かよ、薫!?剣心もいないのに!?」
ちょっと慌てる弥彦。
「私だって、神谷活心流師範代よ。剣心が戻ってくるまで、
知らなかったふりで待ってるなんてできない。
弥彦、あんたはついてこなくてもいいのよ。」
「冗談いうない!薫一人じゃ、危なっかしくて見てらんねえ。
・・・あんたはどうすんだ、輝?ここで待ってるか。」
弥彦の問いに、首を横に振る輝。
「とにかく、同じ顔をした三人の女の子か、
正気をなくして暴れている人を、探してみましょう。」
薫の言葉に、うなずく弥彦と輝。

こうして三人は、手がかりを探すべく、
東京の町へと出て行った。

いったい何が起ころうとしているのか!?
「悪しき空気が覆っている。」
そう言い残して旅に出た剣心は、今どこに!?
そして・・・
輝の運命は!?


〈輝編 スタート〉




〈聖(ひじり)編 オープニング〉
[最初の剣心と出会うところが少し違います]


とある町・・・
絵草子屋の店先を通りかかる少年、名は聖。
きょろきょろとあたりを見回しながら歩いていると、
正面からやって来た不良三人組が、わざと聖にぶつかってきた。
「いてぇっ。」
大声をあげる不良、しかし聖は無視して通り過ぎる。
「おいおい、待てよボウズ。
黙って通り過ぎようってわけじゃねえだろうな?」
「慰謝料だよ、慰謝料。黙って払やあ痛い目には遭わせないからよ。」
凄む不良達・・・、しかし、聖は黙って首を横に振った。
「ンだ、コラァ!バックレようってのかよ。」
「二つ三つブン殴ってやろうか!」
バシッ!不良に殴られ、その場へ倒れる聖。
「まだまだァ!」
その時!野次馬の中から、
「やめるでござる。」
そう言って現れた一人の男・・・緋村 剣心。
「なんだ、てめーは。」
「関係ねえヤツァ、引っ込んでろいっ!」
すると、左の頬に十字の傷を持つ剣心は、
鋭い目で不良達を睨みつけ、言った。
「そうはいかぬ。無抵抗の者に、複数でかかるなど・・・
男の風上にも置けぬでござるよ。
その子を放して、さっさと行くでござる。」
「うるせえっ!」
不良の一人が、剣心につかみかかろうとしたその瞬間!
剣心の刀が、目にも留まらぬ速さで動き、鞘に納まった・・・。
「う・・・?・・・!?」
一瞬の間の後、不良の右袖がはらりと落ちる。
「う、うわああっ!」
先ほどの勢いは何処へやら?
不良達は、一目散に逃げて行った。
「大丈夫でござるか?怪我をしているのなら送るでござるよ。
お主、名はなんという?」
聖は、小声で自分の名を言った。
「聖・・・でござるか。
で、どこへ行こうとしていたのでござる?」
剣心の問いに、聖は・・・?
何も思い出せないというように、何度も何度も首を横に振り、
やがて、頭を抱えてうずくまってしまった。
「聖!?、大丈夫でござるか。」
駆け寄る剣心、すると聖は、怯えたように立ち去ろうと・・・
「待つでござる!拙者は怪しい者ではない。
ただの流浪人・・・。」
しかし、何かから逃れるように走り去る聖。
「あの者・・・まだ年端もゆかぬのに、
あの追いつめられた目は・・・・・。」
その後姿を、剣心はじっと見ていた。


〜 後は、輝編とほぼ同じ 〜

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