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(最初に)
「メモリーズオフ2nd」はPS、DC、PS2と出ていますがPS2版を準拠としたテキストにしています。

(本文)
ヒグラシが鳴いていた。
保健室の窓を開くと、むせ返るような夏の匂いが流れこんで来た。
ついさっきまで、狂ったように大地を打ちつけていた雨は、いつの間にかすっかりとあがっていた。
ぼくは開け放たれた窓の縁に両手をかけ、校舎の外に身を乗り出した。
夕立に熱を奪われた夏の風が、頬や額や首すじをなでるように流れていった。
目の前に広がった校庭は、茶色く濁った水の中に浸っていた。
風が吹くたびに、大きな水たまりに細波がたった。
ヒグラシは、夏の1日の終わりを、名残惜しそうに唄っていた。
??「ねえ、健ちゃん?見て見て?」
 白河ほたる(主人公・伊波健の彼女)が登場する。
振り向くと、ベッドに腰掛けたほたるが、ちょうど立ち上がったところだった。
白いシーツを頭巾のようにかぶり、くるりと、その場で一度まわって見せた。
ほたる「ほらっ!あれあれ!」
大きなシーツを払いのけるようにして、ほたるは懐から右手を出した。
その右手が指し示す方向を、ぼくはゆっくりと目で追った。
健「てるてる、ぼうず?」
軒先から吊るされたそれは、茶色く変色し、くたびれていた。
いつからそこに吊るされていたのだろうか?
この高校に入学してから3度目の夏を迎えたが、そこにてるてる坊主があったことなんて、今の今まで気付かなかった。
ほたる「かわいいでしょ?」
 再び窓辺のほたるに視点は移る。
白いシーツをかぶったほたるは、ちょこんと顔だけをのぞかせて、ぼくの方を見ていた。
健「かわいい、って言うよりも…かわいそう」
答えながら、ぼくはベッドサイドに腰を下ろした。
ほたる「かわいそう?」
健「うん。だってあれ…首くくってるように見えるから」
ほたる「そんなふうに見えるの、健ちゃんぐらいだと思う」
ほたるは不機嫌な表情を浮かべながら、ぼくの目の前に立った。
ほたる「てるてる坊主はぁ〜、「あしたてんきにしておくれ」って、おまじないするために吊るすんだよ?」
健「うん、そんなこと知ってるけど…」
ほたる「???」
健「ううん、なんでもない」
ほたる「えっ?ちょっとぉ、そこまで言ったら気になるでしょ?」
健「まあどっちにしろ、そんな格好をしているほたるは、やっぱりかわいそうなことに違いはないよ」
ほたる「どうして?」
健「どうしてって、理由なんか無い。服を着てない女の子は、かわいそうに見えるものなんだ」
ほたるの顔が、みるみる赤く染まっていくのが分かった。
ほたる「もぉ……――ばかっ!」
ほたるはそう言って、シーツをすっぽり頭からかぶって顔を隠した。
壁際にかけられているほたるの制服から、ぽたりぽたりと滴がしたたり落ちていた。

(OPムービー&OPテーマ「明日天気に…」)

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