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(最初に)
「メモリーズオフ」はPS、DC、PS2と出ていますがPS2版を準拠としたテキストにしています。

(本文)
ずっと昔から変わらなかった。春のうららかな日々を経て、移りゆく季節を共に過ごす事。
何の疑いも無く、ありきたりな日常を経て…
それは自分でも分かるほど、実に穏やかなものだった…
…ふと…気付けば、夏はすでに無く…
秋をひしひしと感じる季節になっていた。

 場面、一軒の家の前に。
いつもと何ら変わりない生活。隣の幼なじみに起こされ、けだるい体で家を出る。
智也「……お待たせ」
オレの言葉に笑顔で応える彼女。こうして、また「今日」という一日が始まるのだ。
 場面、通学路へ。
駆け出して行くこともない時間帯。朝のひんやりとした空気を指先に受けながら、いつもの道を歩む。
 桧月彩花(主人公・三上智也の幼なじみで元彼女。現在は…)が現れる。
彩花「ねえ、智也。今度の日曜日ヒマ…かな?」
智也「ヒマだけど…それがどうかした?」
彩花「うふふ…私ね…」
かぶりを振って、ちょっとイタズラっぽい笑顔を浮かべる。
彩花「実はね…招待券貰ったんだ。遊園地の」
智也「招待券?遊園地の?」
オレの言葉に彩花がうなずく。
彩花「だからね、一緒に行かない?」
智也「…それ「タダ」って事だよな?」
彩花「うん、そうだよ。ね…だめかな?」
少々期待に満ちた眼差しで、オレの顔を覗き込む。
いきなりにしろ、彩花の方から遊びに誘ってくるなんて珍しい事だ。
滅多に無い事だし、別に断る理由も見つからない。
智也「別にいいけど」
そんな返答に、彩花の顔がぱぁっと明るくなる。
彩花「よかったぁ。タダだから思いっきり遊べちゃうよね」
そんな彩花の喜ぶ言葉に、軽く笑って応えてやる。
智也「はは…実はおこづかい残り少なかったんだよ。ほんと助かった」
その言葉に彩花の喜びがピタリと止む。
…しまった。このパターンは…
彩花「もぅ、この間お小遣い貰ったって言ってたばかりじゃない。いっつも何に使ってるのよ?」
智也「…それは…聞かないでくれ」
力無くうなだれ、反省の面立ちで答える。
小遣いの使い道など自分でも良く分からない。いっつも使った後で後悔するタチだから、深く考えないようにしていたのだ。
そんなオレに諦めがついているのだろうか。彩花はこれ以上深くは問わなかった。
彩花「じゃあ、待ち合わせなんだけど…今度の日曜に駅前で10時。いい?」
とりあえず話を戻し、手頃な日時を聞いてくる。
別に何か用事があるわけでもないし、その言葉に考えもなくうなずくが…
智也「で…唯笑(ゆえ)も来るんだろ?」
唯笑…それはもう一人の幼なじみ。昔からオレたちと一緒に遊んでいた女の子だ。
オレと彩花と唯笑。三人はいつも一緒でいることが多かったから、つい唯笑の事も気に掛けてしまう。
彩花「え、あ、う、うん…唯笑ちゃんはね…来れないって。ちょっと用事があるんだってよ」
智也「なんだ、勿体無いな。せっかくタダで遊び倒せるチャンスだってのに」
彩花「しょうがないよ…唯笑ちゃんにだって都合ってものがあるんだしね」
智也「ま、それじゃ仕方ないか…」
こういう時に限って都合が悪いんだから、つくづく運の悪い奴だと思えてしまう。
突如、オレたちの耳に学校の鐘の音が聞こえてくる。
話しながら歩いていたせいか、時間も芳しくない事になっていた。
智也「ほら、彩花。早く行かないと遅刻になるぞ」
彩花「あ、分かったからそんなにひっぱらないでよぉ」
彩花の手を取ると、学校に向かって駆け出す。
時折慌ただしくも、充実している日々…
今日も…変わらぬ日常が始まるのだ…

 回想シーン終了。
唯笑「ねぇ、智ちゃんったらぁ。ねえったらねぇ!」
 通学途中の電車の中、今坂唯笑(智也の幼なじみ)が傍にいる。
智也「うわっ!?」
振り向けば、一人の女の子がオレの事を覗き込むようにうかがっていた。
智也「おい、唯笑。いきなり耳元で呼び付けるんじゃない」
唯笑「いきなりじゃないよ。さっきからずっと智ちゃんの事呼んでたのにぃ。ずぅっと無視するなんて、ちょっとひどいんじゃないかな?」
智也「そうだったか?ちょっと考え事してたからな。悪かったよ。」
別に意図して無視していた訳ではない。オレ自身まったく気づかなかっただけの事なのだ。
唯笑「そう?だったらいいんだけど?」
素直に謝ると、唯笑は機嫌を損ねた事も忘れて表情をほころばせた。
…どうやら、学校へ行く電車の中で「あの事」を思い出してしまっていたらしい。
唯笑「それよりさ、智ちゃん今日からまた一人なんだって?」
智也「ああ、まぁな」
確かに、母さんが単身赴任している親父の所へ世話を焼きに行ったため、今日から当分気ままな一人暮らし状態だ。
智也「ん?何でお前がそんな事知ってるんだ?」
唯笑「えへへっ。実は昨日の夜ね、おばさんから電話があったんだぁ。「智ちゃんのことよろしくね」って」
…母さん、こいつにそんな事頼むなよ…
智也「よろしくねって…そんな事言っても、唯笑に何を期待してんだか」
唯笑「ほら、例えば…「起こしてあげてね」とか」
智也「今日は起こしてくれなかったな」
唯笑「「朝ご飯作ってあげてね」とか」
智也「お前、料理ヘタだったよな?」
唯笑「…………」
智也「…………」
唯笑「いぢわる……」
智也「…ったく、わかったよ。何か困るような事があったら連絡してやるから」
智也(よっぽどのことがない限り、連絡するようなことなんてないだろうけどな…)
唯笑「うん、じゃあ待ってるからね」
まるで先ほどの事などすっかり忘れたようなこの態度…一転笑顔…という表現が実に良く似合う奴だ。
智也(ワザとそれっぽく見せていたのか…?)
まったく…相変わらずなやつだと呆れてしまう。
そんな他愛も無い話をよそに、電車はオレ達の降りる「澄空駅」へ向かう。
家の近所にある「藍ヶ丘駅」からの所要時間は、約10分程度。
さらに歩きもあわせたら、だいたい20分程度の通学時間だ。
智也「ほら、降りるぞ。これ乗り過ごしたら遅刻確実だからな」
唯笑を促しつつ、オレは降りる人ごみに流されるよう器用に進んで行く。
唯笑「うん。解ってるよそのくらい」
 駅のホームに降り立つ智也。
智也「ふぅ…」
何とかホームに出る事はできた…けど、唯笑が降りる前に発車を知らせるベルがホーム内に鳴り響いていた。
このままではが降りられない、という事は、唯笑を待っていたら…オレまで遅刻する!?
この状況を回避する最善の策…
まぁ…唯笑を置いていっても、どうせ後から追いついてくるだろう。
だとしたら、待っていようと残していこうと、結局は何も変わらないだろう。
この現状においては…唯笑を残して先に行くのがBestか。
いや、これしかない。そう思っておこう。
唯笑「智ちゃん、待ってよぉ」
…そんな声が微かに聞こえた気もしたが、
オレは振り返る事も無く、改札へと進んで行った。

(OPムービー&OPテーマ「勇気の翼」)

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