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オープニング

Kanon(PS2)

雪が降っていた。

重く曇った空から、真っ白な雪がゆらゆらと舞い降りていた。
冷たく澄んだ空気に、湿った木のベンチ。

祐一「・・・・・・」
俺はベンチに深く沈めた体をを起こして、もう一度居住まいを正した。
屋根の上が雪で覆われた駅の出入り口は、今もまばらに人を吐き出している。
白いため息をつきながら、駅前の広場に設置された街頭の時計を見ると、時刻は3
時。
まだまだ昼間だが、分厚い雲に覆われてその向こうの太陽は見えない。

祐一「・・・遅い」

再び椅子にもたれかかるように空を見上げて、一言だけ言葉を吐き出す。
視界が一瞬白いもやに覆われて、そしてすぐに北風に流されていく。

体を突き刺すような冬の風。
そして、絶えることなく降り続ける雪。
心なしか、雲を覆う白い粒の密度が濃くなったような気がする。

もう一度ため息混じりに見上げた空。
その視界を、ゆっくりと何かが遮る。

女の子「・・・・・・」
雪雲を覆うように、女の子が俺の顔を覗き込んでいた。

女の子「雪、積もってるよ」
ぽつり、と呟くように白い息を吐き出す。
祐一「そりゃ、2時間も待ってるからな・・・」
雪だって積もる。
女の子「・・・あれ?」
俺の言葉に、女の子が不思議そうに小首を傾げる。
女の子「今、何時?」
祐一「3時」
女の子「わ・・・びっくり」
台詞とは裏腹に、全然驚いた様子もなかった。
どこか間延びした女の子の口調と、とろんとした仕草。
女の子「まだ、2時くらいだと思ってたよ」
ちなみに、2時でも1時間の遅刻だ。

女の子「ひとつだけ、訊いていい?」
祐一「・・・ああ」
女の子「寒くない?」
祐一「寒い」
最初は物珍しかった雪も、今はただ鬱陶しかった。

女の子「これ、あげる」
そう言って、缶コーヒーを1本差し出す。
女の子「遅れたお詫びだよ」
女の子「それと・・・」
女の子「再会のお祝い」
祐一「7年ぶりの再会が、缶コーヒー1本か?」
差し出された缶を受け取りながら、改めて女の子の顔を見上げる。
素手で持つには熱すぎるくらいに温まったコーヒーの缶。
痺れたような感覚の指先に、その温かさが心地よかった。

女の子「7年・・・そっか、そんなに経つんだね」
祐一「ああ、そうだ」
温かな缶を手の中で転がしながら・・・。
もう忘れたとばかり思っていた、子供の頃に見た雪の景色を重ね合わせながら・・
・。

女の子「わたしの名前、まだ覚えてる?」
祐一「そういうお前だって、俺の名前覚えてるか?」
女の子「うん」
雪の中で・・・。
雪に彩られた街の中で・・・。
7年間の歳月、一息で埋めるように・・・。


女の子「祐一」


祐一「花子」
女の子「違うよ〜」
祐一「次郎」
女の子「わたし、女の子・・・」
困ったように眉を寄せる。
一言一言が、地面を覆う雪のように、記憶の空白を埋めていく。
女の子の肩越しに降る雪は、さらに密度を増していた。

祐一「いい加減、ここに居るのも限界かもしれない」
女の子「わたしの名前・・・」
祐一「そろそろ行こうか」
女の子「名前・・・」

7年ぶりの街で、
7年ぶりの雪に囲まれて、


祐一「行くぞ、名雪」


新しい生活が、冬の風にさらされて、ゆっくりと流れていく。

名雪「あ・・・」
名雪「うんっ」

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