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ポポロクロイス物語

― おーぷにんぐ ―


むかしむかし、剣と魔法がこの世を支配していた頃…。
あるところにポポロクロイスという王国がありました。
王様はパウロ・パカプカ、王妃はサニア。
やがて二人の間に、ピエトロというかわいい王子が生まれました。
王子の誕生に、お城全体が祝福の言葉に包まれました。
ところが…。
突然ポポロクロイスを激しい寒波が襲ったのです。
吹雪にみまわれ、山も町も氷に閉ざされました。
それは北の大地を領土とする氷の魔王の仕業だったのです。
氷の魔王は、四天王と呼ばれる四人の魔術師を従え、
ポポロクロイスを襲いました。
魔王の軍は強力で、兵士たちが全滅するのは
もう時間の問題かと思われました。
そのときです。
城を守るようにして、巨大な竜が現れたのです。
竜と氷の魔王との戦いは7日7晩続き、死闘の末、
ついに氷の魔王は倒されました。
しかし、氷の魔王は自分が落ちていく暗黒の世界に、
疲れ果てた竜をも引きずり込んでしまったのです。
人々は自分たちを守ってくれた竜をたたえ、
その姿を国のシンボルにしました。
それから十年の歳月が流れ…。
ピエトロ王子もすこやかに育ち、十歳の誕生日を迎えました。
そしてその誕生日の夜、
このお話は始まるのです…。
(解説書より)



〜 第一章 奪われた王冠 〜

「がーはっはっは…お宝は俺のモンだ〜!」
真ん丸いお月様の前を、へんてこりんな空飛ぶ乗り物が、
たくさんの手下を従えて飛んで行きます。
そこに乗っているのは、ガミガミ魔王。
何だか、笑いが止まらないようです。
白いおひげを揺らしながら大笑い。
いったい、どこへ行くのでしょう?
少しして、窓の下に美しいお城が見えてきました。
「おっ?ポポロクロイス城だっ!!」
まあ、大変!ガミガミ魔王は、どうやらポポロクロイスへ
向っているようです!!

〜 今日は、ピエトロ王子の十歳の誕生日です。
お城では、お誕生日のパーティーが開かれ、
国中の人たちが、たくさんのプレゼントを持って
王子様のお祝いにやってきました。
けれども王子は、うかない顔をしています。
なぜなら、一番祝って欲しい人が、
そこにいないからです… 〜

お城の大広間には、たくさんのご馳走が並んでいます。
後から後からお祝いに駆けつける人々で、いっぱい!
でも、王様の隣に座ったピエトロ王子は、
なんだかとってもさみしそう…
パーティの後も、一人ベランダでため息をついています。
「ふぅ…、どうしてだろう?みんながあんなに、ボクの誕生日を
お祝いしてくれるっていうのに…
あー、さびしいなあ。
会いたいな、お母さんに……でも、無理だよな。だって…
お母さんはもう、ずっと昔に死んじゃったんだもんな…。」
かわいそうなピエトロ王子…
お母さんに会いたいのね…?
だからあんなに、さみしそうだったのね。
その時、ベランダの下の方から、カサコソ音が!?
王子が、ちょっと身を乗り出して見てみると、
国王であるお父さんが、近づいてはいけないと言われている
お城の奥に建っている塔の方へ行くところでした。
「……?」
王子は、ベランダから伸びているツタをつたって、
そおっと下へ降り、王様の後にこっそりついて行きました。
塔の中には、ぐるぐると壁に沿った階段があって、
王子はその階段を、思い切って昇ってみることにしました。
きっと王様も、階段を昇っていったに違いありません。
途中、壁に、女の人の大きな肖像画が掛かっていました。
とてもきれいな…どこか懐かしい気持ちになる、そんな絵です。
でも今は、その絵のことより、王様のことが気がかりでしたので、
王子はまた階段を昇リ始めました。
一番上にたどり着くと、そこには小さなお部屋があって、
やはり王様はそこにいました。
でも…、中から聞こえてきた王様の声に、
王子は思わず、お部屋に入る足を止めました。
「早いものだな、あれから、もう十年か…。
そうだ、報告をせねばな。今日、ピエトロは十歳になったよ。
なあに、ピエトロのことなら心配はいらないぞ。
まだ少し頼りないところもあるが、城の者たちに愛され、
元気にまっすぐに育っているよ。」
王子が、そっとお部屋をのぞいて見ると、中にベッドがあって、
そこに、美しい女の人が眠っているではありませんか。
王様は、その女の人に向ってお話をしていたのです。
「お、お父さん…。なに、してるの…?」
王子が声をかけると、王様はとてもビックリしたようでした。
だって、王子がついてきていることなんて、
ちっとも知らなかったのですから。
「ねえ、お父さん!」
でも、王様は黙ったままでした。
「お父さん、この人は誰?どうして寝てるの?
ねえ、お父さん…どうしたの…?
お父さん、この人は、この人は…。
なんとか言ってよ、お父さん!」
王子は、王様のお袖を引っ張りましたが、
それでも王様は、困った顔をして下を向いているだけ…
と、その時です。
ドーーーーーン!
大きな音と、すごい地震が!?
王子も王様も、飛び上がるほど驚きました。
王様は、お城が心配になったのか、慌ててお部屋を出て行きました。

いったい何が起こったというのでしょう?

そう…
ガミガミ魔王です!
ガミガミ魔王の一団がやってきて、空から爆弾を落とし始めたのです!
王子が、王様の後に続いてお城に戻ると、
お城やその周りから火の手が上がり、
傷ついた兵士たちが、あちこちに倒れていました。
なんてひどいことをするのでしょう!
王子は、怖いのも忘れて、ただ王様の後に続いて走りました。
玉座のある部屋に戻った王様は、周りの様子に驚くばかり。
「こ、これはどうしたことじゃ?
いったい、誰のしわざじゃ!」
すると、王様の後ろの方から、こんな声が聞こえてきました。
「へへへ、宝物、見ーつけたっ!」
王様が、その声に振り向くと…?
やってきたのは、青いマスクにピンクのズボン、
背中にはランドセルみたいなカバンを背負った…
何とも気妙な格好の、白いおひげの男でした。
「きさま、何者だ!?」
「オレか?オレ様はな……
悪の大天才、ガミガミ魔王サマだっ!」
ガミガミ魔王は、ちょっと威張って自己紹介をしました。
「なに、ガミガミだと…、きさま、なんの目的で…」
王様は、後ずさりして行くうち、とうとう背中が壁にくっついてしまいました。
「へへへ、それはな……、おまえの頭の上にのっかってる、
そのお宝…『知恵の王冠』をいただきに来たのさっ!」
ガミガミ魔王はそう言うと、おそろしいガスを王様に吹きかけました。
ガスを浴びた王様はその場に倒れ、転げ落ちた王冠は、
ガミガミ魔王の手に、あっけなく渡ってしまったのでした。
「ガ・ハッ・ハッ!」
王冠を頭に載せ、ガミガミ魔王は大笑い。
そこへ、ピエトロ王子が夢中で走って来ました。
「お父さーん!」
王様にかけ寄ろうとした王子でしたが、ガミガミ魔王がそれをじゃまし、
蹴られた王子は、ころころずでーん!
「お父さん…。」
しかし、勇敢な王子はすぐに起き上がりました。
「おまえがやったんだな!ゆるさないぞ!」
王子は、ガミガミ魔王めがけて体当たり!
…でも、そんな王子の攻撃などではビクともしません。
何度ぶつかっても、跳ね返されるばかり…
かわいそうに、ついに王子も気を失って倒れてしまったのです。
「いったい、なんなんだ、このガキはっ!
まっ、いいか。目的のお宝も手に入れたし。
ふん、生意気なガキめ!この天才の大悪人、ガミガミ魔王様にはむかうとは…
100000000年早ーい!」
ガミガミ魔王は、そう言い残すと、さっさとお城を出て行ってしまいました。

湖の中ほどに建っている、それはそれは美しいポポロクロイス城が、
真っ赤に燃えています。
夜空に、悲しみの火の粉を舞い上げて…

〜 ピエトロ王子の十歳の誕生日に、
突然、お城を襲った大事件!
ガミガミ魔王とその一団により、
お城の宝 『知恵の王冠』が
盗まれてしまいました…。
兵士ばかりか国王までもが倒れ、
お城では一晩中
大混乱が続いたのです。
お城の火事が消し止められ、
傷ついた兵士たちの手当ても
ようやく終わった頃…
もう東の空は
明るくなっていました…。 〜


王様のお部屋では、ピエトロ王子と大臣のモームが、
ベッドに寝ている王様を、心配そうに見つめています。
「ふーむ。困ったものじゃ、困ったものじゃ。
あのガミガミ魔王に、よりによって『知恵の王冠』を
盗まれてしまうとは…。」
大臣のモームは、王様のベッドの横で、あっちにうろうろ、こっちにうろうろ。
「あの王冠は知恵の象徴。かぶった者に、大いなる英知を授ける王家の宝。
その王冠が、あの悪党の手に渡ってしまった…。
ううむ、このままでは、どのような悪事に使われるか、見当もつかんぞ…。
ボヤボヤしてはおられんぞ。
早く、あの王冠をとり戻さねばならん。
だが………うーむ………。
兵士の多くは倒れ、城を守るのも、やっとだというのに、
どこにそんな人間がいるものか。」
モーム大臣は、すっかり困り果てているようでした。
「ふー、ガミガミ魔王を倒し、王冠をとり戻してくれる者は、
どこかにいないものか…。」
そう大臣がつぶやいた時、ピエトロ王子がさっと顔を上げ、
そして、大臣の前に立ちました。
「えっ…ま、まさか、王子さまが…?」
大臣の驚いたような言葉に、王子は大きくうなずいてみせました。
「うっ…うっ…、ついこの間まで、本当に子供だと思っていたのに…。
そ、それが、王様を助けるため、みずから旅立ちの決意を…。
わかりました、ピエトロ王子!
すべての責任は、この大臣モームがとりましょうぞ!
すぐに旅立ちの用意をされて…。
おっと、そうじゃそうじゃ!
おーい、おまえたち!おーい、おらんのかー!」
大臣は、嬉し涙をぬぐいながら、誰かに声をかけました。
すると、廊下に待っていた二人の若い兵士が、
王様のお部屋に入ってきました。
「このふたりは、ゴンにドン。今、動ける兵士の中では、
剣の腕前はいちばん…
という、ほどではないのですが、
とりあえず、いちばん若くて元気のいい兵士たちです。
どうか、このふたりを連れていってください。
きっと役に立ってくれるでしょう。」
大臣に紹介された二人の兵士は、王子に丁寧にお辞儀をしました。
「私が兵士のゴンです。がんばります!」
「ボ、ボク、あ、じゃなかった、私がドンです。がんばります!」
ドンの方は、ちょっとおっちょこちょいのようですね。
王子もまた、そんな二人にお辞儀を返しました。
ピエトロ王子は、王子とはいっても、ちゃんと礼儀をわきまえた、
賢くてやさしい、決して偉ぶらない王子様なのです。
「それでは、私たちは一足先に城下町に行き、いろいろと準備を
しておきます。王子さまも用意ができたら町まで来てください。」
ゴンの方は、なかなかしっかり者みたいで、頼りになりそう。
ゴンとドンは、もう一度王子にお辞儀をすると、
王様のお部屋を後にしました。
「それでは王子さま、頼みましたぞ!
『知恵の王冠』、なにとぞ、とり返してくだされ!」
大臣がそう言ったとき…
「待て…待つのだ!」
その話を聞いていた王様が、突然ベッドから起き上がろうかという勢いで、
王子が出て行こうとするのを止めたのです。
「お、王様!安静にしていただきませんと…」
大臣は大あわて!
「わしなら平気じゃ!それより、ピエトロを戦いに行かせるとは何ごとだ!」
王様は、すごいケンマクで大臣を叱りました。
「はっ、しかし…」
「ピエトロのような子供をひとりで行かせて、それがなんになる…?
ガミガミ魔王はあなどれんぞ。あの軍勢を前にすれば、
無用に傷つくのがオチだ…。
モームよ!とにかくいかんぞ!
ピエトロを戦いに行かせることは、このわしがゆるさん!
いい………な………」
王様はそこまで言うと、またベッドに倒れるようにして眠ってしまいました。
子供を想う親の気持ちは、王様でも普通の人でも同じなのです。
大臣は、しばらく黙ったままでした。
王様の気持ちが、とてもよくわかったからです。
少しして、大臣は王子にこう言いました。
「申し訳ございません。しかし、王様がああ言われた以上、
このモームといたしましても…。
本当に申し訳ございません。『知恵の王冠』をとり戻す方法は、
このモームがなんとか考えます。
ですから、王子さまは心配なさらず、国王のお言いつけを守り、
お部屋におもどりください。
それでは……、失礼いたします。」
大臣は王様と王子に一礼すると、王様のお部屋を出て行きました。
王子はしばらく、眠っている王様の顔をじっと見ていました。
「…行ってはいかん、ピエトロよ……」
王様は、寝言でも王子のことを心配しているようでした。

王子は一人、自分はどうしたらいいのか考えながら、
お城の中を歩き回っていました。
王様のことは心配…王冠もとり戻したい…
でも、黙って出て行ったとしても、ガミガミ魔王に勝てる自信もない…。
ふと気がつくと、王子はあのお城の奥に建つ塔の前に来ていました。
その時です…!
『ピエトロ…』
どこからか、不思議な声が聞こえてきました。
まわりをキョロキョロ見回しても、王子の他に誰もいません。
『ピエトロ…』
どうやらその不思議な声は、塔の上の方から聞こえてくるようです。
『ピエトロ王子、国王を助けたいという、あなたの心、
私は知っています。けれど、あなたはまだ弱い。
力を貸してあげましょう。』
王子が見上げると、まばゆい光に包まれた剣が、
ゆっくりと王子のもとへ落ちてくるではありませんか!!
王子が、剣をしっかりと受け止めたその瞬間、
イナビカリが王子の体を貫くように降り注ぎ、
やがて、まるで竜の頭のような形に、
王子の体が輝きました。
なんて不思議な出来事でしょう!
しかも、その剣を手にしたとたん、なぜか王子は、
自分の体に力がみなぎってくるのを感じたのです。
『その剣は竜の剣。正しい心で使えば、
きっとあなたを守ってくれるでしょう。
さあ、行きなさい、ピエトロ王子。
気をつけて………』
不思議な声は、それきり聞こえなくなりました…
王子は、もしかすると今の声は、
塔の一番上のお部屋に眠っていた女の人の声ではないか?
と、思いました。
それを確かめようと、塔の中へ入ろうとしましたが、
「いけません、王子様!」
塔の下で仕事をしていたお世話係の女の人に止められ、
中へ入ることはできません。
王子は、今はこの竜の剣に力を借りて、
ガミガミ魔王から『知恵の王冠』をとり戻すことが先…!
そう思い直して、大臣の所へ向いました。
大臣モームは、王子のその剣を見ると、とても驚いた様子でした。
「ピ、ピエトロ王子…、そ、その剣は…!
なんと!あの塔の上から、降ってきたと言われるのですか!
そうですか…、ううむ…。
ならば…ならば、よいでしょう。
そのような立派な武器が、王子の手に渡ったのなら、
それはきっと…竜の神のお導きにちがいありません!
どうか、ガミガミ魔王退治に行ってくだされ。
後のことは、すべてこのモームにおまかせください。
王子にその剣…竜の剣が渡るとは…うーむ。
これも、運命なのでしょうな。
しかとお願いしましたぞ。」
大臣は、何か隠しているようでもありましたが、
それでも王子は、そんな事を気にしている時ではありません。
一刻も早く、『知恵の王冠』をとり戻して、
王様を安心させてあげたかったのです。
それに、あのガミガミ魔王が、二度と悪い事が出来ないように、
懲らしめてやらなければなりません。
王子は、竜の剣をしっかりと握りしめて、ゴンとドンの待つ、
城下町へと向いました。

でも、この時、ピエトロ王子はまだ知りませんでした。
これから、どんな恐ろしく長い戦いが、
幼いピエトロ王子を待っているかということを…


― ポポロクロイス物語 すたーと ―

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