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英雄伝説V―白き魔女―のオープニング

これは、ガガーブの向こうに世界はなく、
大蛇の背骨の果てにもまた世界はないと信じられていた時代の、
最後の物語である。


そのころ、この世界はティラスイールと呼ばれ、
チャノム、メナート、アンビッシュ、ウドル、オルドス、
フュエンテ、ギドナ、フォルティアの8つの国があった。


いくつかの国は問題の種を抱えていたが、
人々は各々の地で、ささやかな繁栄を築き、
日々の生活に勤しんでいた。


神話、英雄伝、寓話・・・・・
人々の暮らしがあれば、
時代の裏に霞みそうな伝承も、いくつもある。


20年ほど前に、ティラスイールの各地を
巡礼したという白き魔女の物語も、
そういった伝承のひとつだった。


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わずかに紫がかかった銀色の髪は、
月夜でも朝日に映えるススキのように美しく輝き、
青みを帯びた瞳は泉よりも澄んでいたという。


雪の夜、月の夜、風の夜、昼夜を問わずして、
ともしびをつむぐような巡礼の旅は人知れず続いた。


気がつくと、町には彼女がいた。


見た目には、
ただの娘にしか見えなかった………。


もの静かで、
いつも淋しげな表情をした娘は町から町へと旅を続け、
通り過ぎた町にさまざまな言葉を残した。


彼女は人々に明日への警鐘を説いた。


進むべき道。
心掛けるべき、いくつかの事柄。


災いの波が、さざ波のうちに………。


危惧が脅威へと変わる前に………。


それが自分の使命であるかのように
彼女は巡礼の旅を続けた。


娘は未来を知る力を持っていた。


彼女は生まれついての魔女だった。


良い予言が当たれば人々は彼女を賛美し、
悪い予言が当たれば、魔女の呪いとののしった。


白き魔女。


いつの頃からか、人々は彼女のことをそう呼んだ。


それは今から20年ほど昔………。


まだ世界にはカンドもチャッペルもなく、
魔法があまり知られていない時代のことだった。


魔女が畏怖と恐怖の存在であった頃のことである。


やがて、白き魔女は人々の前から姿を消した。


今では消息を知る者もなく、
ただ言い伝えのひとつとして、語られるに過ぎない。


昔、白き魔女と呼ばれる娘がティラスイールを旅した。


さまざまな言葉を残し、白き魔女は姿を消した



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古来よりフォルティア国ラグピック村では若者が成人の儀式として、
巡礼の旅に出ることが慣例となっていた。
14歳の少年ジュリオと、その幼なじみで一つ年上の少女クリスも
慣例に従い、共に旅立つ。
だが、“シャリネ”と呼ばれる魔法の鏡を巡る彼らの旅には
予期せぬ出来事が待ち受けていたのであった…。


二人は、この旅がやがて世界の運命を変えるものになることを
まだ知らない。

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