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ダブルキャストのグッドエンディング (3)


映画館の前。いつか主人公と美月が見に行った、あの映画館である。

主人公「遅いなぁ」

「わぁ!」
主人公「わっっ」

背中を押され、驚いて転ぶ主人公。

志穂「遅くなってゴメンよ!」
主人公「あ〜びっくりした」
志穂「なんだよぉ、はじめてのデートだからってそんなに緊張すんなよ。ボクの命の恩人だからって、遥さんが頼むからデートしてあげてんのに」

志穂の姿は、主人公と初めて出会った時の、帽子とオーバーオールのボーイッシュな服装。口調もあの時の男言葉。


映画館の中。志穂がポップコーンをつまんでいる。

主人公「なぁ、志穂?」
志穂「ん?」
主人公「あれからなにか思い出した?」
志穂「ん〜ん、ぜんぜんダメ」

回想。
校舎の屋上から落下する主人公と志穂。
遥と二村がとっさに用意したマットの上に、2人が落ちる。

(あの日、命を賭けたショック療法は最後の手段だった)
(美月の人格から目覚めない時は、屋上から一緒に飛び降りてショックを与えてみるっていう計画だった)

志穂「グホゴホッゴホッ……」

ポップコーンにむせる志穂の咳に、主人公が現実に引き戻される。

主人公「落ちついて食べろよ、はい、ジュース」

差し出したジュースを志穂が受け取ろうとするが、手が触れ合い、思わず志穂は手を引っ込める。

志穂「あ……」
主人公「あ、ゴメン……」
志穂「なんでだろ? ほかの男の人に触られたりしたら、その場でケリ入れちゃったりするんだけど。キミだと平気なんだよね……」

(彼女はあの日以前の記憶をすべて失っていた。姉、美月のことも自分が妹の志穂ということも)

映画が始まる。

(ふたりの辛い思い出も)
(そして、僕との思い出も……)
(そして、彼女は変わった)
(以前の、僕たちの知り合う前の本来の志穂さんにもどったワケでもなく)
(その頃の美月さんでもない……)

主人公の想いをよそに、映画を見ながらポップコーンをつまむ志穂。

(まるで姉妹がひとつになったような。森崎先生はそう言っていた)
(言ってみれば、ふたりの姉妹が同居している実際には存在しないはずの人格)
(前のようにハッキリ意識が変わることもなくなった)
(森崎先生は、またいつ記憶の混乱が始まるかわからないといっていたけど、僕はそうなると思えない)
(非科学的かもしれないが……)
(きっと美月と志穂さんはお互いを受け入れて、姉妹一緒に生きることを望んだ)
(そんな気がする……)

椅子に座っている2人の肘が触れる。
慌てて、肘が触れないよう姿勢を正す2人。


(結局、ふたりの関係はふりだしにもどっちゃったけど)
(時間はたくさんある)

(これから、ゆっくりと……)


The End


美月
Good End 03
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