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ちひろちゃんは、茉理が附属だったころから一緒のクラスメイトで見るからに華奢なで大人しい子だ。
そんなちひろちゃんは、恭子先生が顧問を勤める園芸部に入部することになった。
ちなみに園芸部は部員がさっき入ったちひろちゃん以外いない為学園の温室は放置状態(?)。
「それでもいい」という理由で園芸部に入ったちひろちゃんを俺は放っておくことができないので
天文部と掛け持ちでちひろちゃんを手伝うことにした。(まあ、俺の隠れ所属部でもあるしね。)
最初はなかなか打ち解けてくれなかったちひろちゃんだけど、茉理のことなどを話すと楽しそうに語ってくれる。
学園生活や部活動を通してちひろちゃんとようやく打ち解けるようになった。

しかしそんなある日ちひろちゃんの様子が変なのが気にかかった。
話しかけてもあまり話してくれないし、部活でも声をかけづらいためぎこちない。
その為温室には行けずちひろちゃんとはまともに話をしない日々が続いた。

そしてまたある日俺はとてつもないことをちひろちゃんから聞いてしまった。
それはちひろちゃんが未来から来た未来人だというのだ。
いきなり突飛のないこと言われてしまい俺はどうしたらいいか混乱した。
内容はこうだった。
ちひろちゃんは、時空転移装置で100年後の未来から来たこと。
100年後の世界では、とんでもないウィルスが大流行して、人類が滅びそうになっていること。
ほんのわずかだけ生き残った人が、時空転移装置を作り出したこと。
ウィルスには感染するとすぐ死んでしまうものと、何年かは生き延びられるものがあること。
でもまだ100年後の世界には、感染したけど生きている人が沢山残っていること。
逃げてきた人には、治療法を確立して未来に持ち帰ることがかすかに期待されていること等長い内容だ。
俺にはそれが半信半疑であった。ちなみに茉理には既にこの事は話していた。
ちひろちゃんが嘘を言ってるとは思えないけど、簡単に納得できなかった。
さらには恭子先生も未来人であることを知ってしまった。(これはちひろちゃんのうっかり)
そして、ウィルスの研究者であることも……。
もちろんこの事は他の人には内密ということでちひろちゃんと約束した。

ちひろちゃんが未来から来たのであれば証拠があるはず……
例えば……宝くじ、競馬、ロト、トト……って、そんなものちひろちゃんが持ってるはず無い!(笑)

次の日俺はちひろちゃんのことについて茉理に相談を持ちかけた。
茉理もまた、決定的な証拠は見せてもらってなかった為半信半疑……いや、ちひろちゃんを信じている。
まあ俺も、ちひろちゃんがあんな大胆な嘘をつく子じゃない思ってるから、信じてみようと思った。
しかし、「本当に信用できる人にしか話しちゃだめ」ちひろちゃんのこの言葉が入った途端
茉理はハッとしてすぐさま学園へと急いで向かい、俺も茉理の後を追った。

学園の温室で茉理はちひろちゃんに問い詰めていた。
外で待ったいた俺はこっそりと温室に近づくと茉理の声が聞こえてくる。(二重ガラスであるに関わらず)
「めだたないようにして、いつでも人に譲って……いつもいつも、譲られた方が喜ぶと思ったら
 大間違いなんだからっ!」
何のことを怒っているか当初分からなかったが、それから俺は温室に入るとさらにちひろちゃんに追い討ちをかけるように
「未来から来たからって、それが何!?あたし達と同じじゃない!
 欲しいものは欲しいってちゃんと言わないと、何も手に入らないんだよっ」
確かにちひろちゃんは大人しすぎる為か何でも人に譲ってしまう所がある。
さらに茉理は俺に向かって
「直樹も、男らしきはっきりしなさいよっ!」
と言いたいことだけまくし立てて温室を出た。
話の内容が大体見えた。俺とちひろちゃんのもどかしい関係に茉理はイラついていたのでちひろちゃんの背中を押したのだ。
そこで俺は……ちひろちゃんに、「好きだ」と告白した。
ちひろちゃんは俺のことをどう思っているか分からないけど、俺から言わないといつまでもぎこちない関係のままだからだ。
そして……ちひろちゃんの回答も、俺と同じ気持ちだった。
それから俺達はもとの親しい関係に……いや、それ以上の関係になった。(後で茉理に感謝しないとな)


そしてある日、温室での作業の後ちひろちゃんはウィルスについて話してくれた。
ウィルスには甲種と乙種があって、甲種は感染すると短時間で、乙種に感染すると長い時間をかけて死に至るという。
ちなみに、乙種に感染すると甲種に感染しなくなるがそれでも感染=死であることには変わってなかった。
そして、ちひろちゃんの妹も彼女が未来から離れる前にウィルスに感染して亡くなったそうだ。
さらにはちひろちゃんは笑われるかもしれないと思ってこんなことを話してくれた。
それは、『青いフォステリアナ』がウィルスに効果があるということである。ちなみにフォステリアナはチューリップのことである。
ちひろちゃんがいた所では特産品でしかも品種改良がなされているのだ。ただ……育てるのが難しいそうだ。
俺はというと、ちひろちゃんを信じている。だって、球根だって未来からわざわざ持ってきてるんだし
ここまで来ているんだから引くわけにもいかない。何よりも、ちひろちゃんの力になりたいから……。

……と、暗い話はここまでにして。
ある日ちひろちゃんと海に行ったときまたしてもちひろちゃんは妹さんのことを話す。
100年前とほとんど変わらない海、ウィルスがあること以外全く変わらない海……。
未来のことを過去形で話すちひろちゃんに俺は彼女の気持ちが痛いほど感じた。
例え他の人が信じてくれなくても俺はちひろちゃんを信じている。
その思いを確かめるべく俺はちひろちゃんと…………キスをした。

恋人同士になりちひろちゃんと楽しい日々を送る俺であったがある日……突然台風が訪れた。
それによって土砂崩れが起き温室は半壊しほとんどのフォステリアナが土砂に埋まってしまった!
俺はちひろちゃんを落ち着かせ、土砂に飲み込まれなかったわずかなフォステリアナをどうにか避難させた。
あの後恭子先生が理事長に相談を持ちかけ、温室の復旧と山肌の補強を強く提案してくれたそうだ。
なにせ温室は山肌を削った所に建ててあったからな……。

何故、青いフォステリアナがマルバスに効果があるのかというと、昔ちひろちゃんと妹さんがお花畑で遊んでいた時
罰ゲームでそれの種を食べさせられた。そしてマルバスが襲ってきたとき妹は感染しちひろちゃんだけが助かった……。
それをきっかけにちひろちゃんはフォステリアナを育てるようになったのだが、他人からは非難の声をかけられたりしたそうだ。
なにせフォステリアナのお陰で感染しなかったということと世界中の学者が研究したのに
マルバスのワクチンはできなかった。ちなみにマルバスとはちひろちゃんがいた時代を襲ったウィルスのことだ。
ちひろちゃんには、不安の顔がよぎっていた……。


温室も復興し、フォステリアナを咲かせる為あれこれ試行錯誤をするが結局花は咲くことはなかった。
しかし、ある日恭子先生から知らせが来る。
それはフォステリアナの種がマルバスに効果があることであった。
ちひろちゃんの仮説が正しかったことに喜ぶ本人であったが、種が少ないため精製がしにくいことと
どの成分が効果があるのか分からない為培養が困難であるという現実にちひろちゃんは落ち込んだ。
どうすればいいのか悩みこれまで書いた観察日記を紐解くとなんと、青いフォステリアナと一緒に冷蔵していた
普通のフォステリアナが咲いていることから、『普通のフォステリアナの花粉を青いのに受粉させておけば咲くかもしれない!』
という答えに行き着きさっそく作業を開始した。
これでうまくいくかどうかは天任せであった……。

(ここからはゲームの文章です)
1月8日(土)
毎日毎日、温室に通って最初にすることは、受粉の兆候が無いかを確かめる。
日常の作業をしながらも、つい、青いフォステリアナのことが気になってしまう。
同じ行動を取っているちひろちゃんと目が合ったりして、思わず二人とも笑った。
……。
そして今日、恭子先生に報告し、受粉状態の検査をお願いした。
受粉に失敗した場合のしおれ方とは少し違う気がするけど、確証は持てない。
……。
…………。
じりじりと時間が過ぎる。
検査なんてすぐ終わる、という話だったのに、いつまで経っても恭子先生は温室に現れなかった。
……。
耐えれらなくなった俺は、カフェテリアに飲み物でも買いに行こうかと立ち上がった。
その時。
がちゃ(ドアが開く音)
恭子「二人ともいるわね?」
直樹「恭子先生」
ちひろ「あ、はい」
恭子「落ち着いて聞いてね
   青フォステリアナの種を『抗マルバス免疫活性剤』として、私達の時代に
   持ち帰ることが決定したわ」
直樹「それって、効果が認められたってことですよね!?」
ちひろ「じゃあ、みんな(未来の人達)助かるんですか?」
恭子「慌てないで、順番に答えるから」
……恭子先生が教えてくれたのは、大体こんな感じだった。
効果については、完全に立証されたわけじゃないが、臨床試験が行なわれ患者は快方に向かっている。
本当はもっと試験したいんだけど、サンプルも少ないため、後は未来での使用を実施試験に代えることになった。
これで未来の人が助かるかどうか、という質問に対して、恭子先生は言葉を選びつつ、慎重に答えた。
助かる確率が上昇したのは確かだが、上昇した結果が2分の1なのか、10分の9なのか、100分の一なのか。
それは、恭子先生にもわかっていなかった。
恭子「それで、橘さん」
いつもと違い、さんづけの呼称。
びくっとちひろちゃんが緊張した。
恭子「私達に強制はできないから、これは本当に『お願い』と考えて欲しいんだけど
   ……あなたに、私達の一員として、一緒にもとに時代に帰って
   フォステリアナの栽培スタッフを指導して欲しいの」
(画面暗転)
……。
…………。
(画面元に戻る(温室))
ちひろ「……あはは、冗談が過ぎますよね、仁科先生も」
直樹「……」
ちひろ「久住先輩?」
直樹「ちひろちゃんも分かってるんだろ?
   冗談なんかじゃないさ」
ちひろ「……あ……はい……」
……。
ちひろ「私、どうすれば……」
じっと温室の床を見つめ、迷っているちひろちゃん。
……そして、俺も悩んでいる。
いって欲しくないという感情。未来の人達が助かる可能性を俺が減らして良いのか、という理性。
その二つの間で、葛藤していた。
……。
直樹「それは……ちひろちゃんが決めるしか無いんじゃないか」
ちひろ「あ……
    行くな、とは言ってくれないんですね」
直樹「そんなこと、言えるわけ無いだろっ
   どれぐらいの人がいるのか知らないけど、100年後の世界の人たちをちひろちゃんが救えるんだ
   それを……俺一人のわがままで……」
……。
ちひろ「すいませんでした……
    当たり前、ですよね」
(画面暗転)
……。
………。
それから俺達は、一言も言葉を交わさずに、温室を後にした。
校門をくぐり、蓮見坂の三叉路まで来ても、お互い何かを言い出すことができない。
(画面変更(蓮見坂))
ちひろ「あの、それじゃ……」
直樹「ちひろちゃん」
寮に向かって歩きかけたちひろちゃんの足が止まる。
直樹「俺は、ちひろちゃんがどういう選択をしても、ずっとちひろちゃんの味方だから」
ちひろ「あ……はいっ
    ……ありがとうございます」
後ろを振り向くことなく、ちひろちゃんは駆けて行った。

1月31日(月)
「とりあえず第一報を持っていく」ということで、恭子先生は一度100年後の世界へといったらしい。
恭子先生が休職に入ったことと、代わりに養護教諭が来たことが、小さいニュースとして報じられたのが……1月10日。
そして、恭子先生が帰ってくるまでに、ちひろちゃんは結論を出さなくてはいけない。
恭子先生が帰ってくるのは1月末。つまり今日だ。
……。

あれ以来、ちひろちゃんは最初にあった頃と同じくらい……いや、それに輪をかけて喋らなくなっていた。
俺も何となく声を掛け難い。
毎日放課後は、二人とも温室に来るものの、本当に最低限のことしか話さなかった。
がちゃ
恭子「お久しぶりね、お二人さん」
直樹「恭子先生……」
ちひろ「あ、お……おかえりなさい
    向こうは、どうでしたか?」
恭子「私たちが出てきたときと、そう大きな変化は無かったわ
   乙種キャンプの人は1割くらい亡くなったみたいだけど、それより流入者が多かった。
   ……もちろん、人類全体は減ってる未来だけどね」
……ちひろちゃんにプレッシャーを掛けてるように思えるのは穿ち過ぎだろうか。
恭子「で、橘さん。どうするか、決めてくれた?」
……。
………。
ちひろ「あの……
    あしたの朝、返事をさせてもらっていいですか?」
恭子「そうね。計画も立てなきゃいけないし、あまり時間は無いけど……必ずよ?」
ちひろ「は、はい」
……。
恭子「あっ、そうだ」
去り際の恭子先生が、振り返る。
恭子「乙種キャンプで、橘さんにソックリな娘を見たんだけど……ずっとこの時代にいたんだよね?」
ちひろ「ええ」
恭子「うん、それならいいんだ。橘さんが来たのかと思って、驚いたってだけの話だから」
……。

それからちひろちゃんは、明らかに、雰囲気がおかしかった。
そわそわしていたかと思うと、急にぼんやりと空を見上げていたり。
直樹「ちひろちゃん?」
俺が声を掛けると、ちひろちゃんの瞳から大粒の涙がぼろぼろとこぼれだした。
直樹「だっ、大丈夫?」
ちひろ「久住先輩……
    わ、私……」
……。
ちひろ「一度、未来へ帰ろうと思います……」
直樹「!」
ちひろの考えた事にあれこれ言える立場じゃないかもしれないけど。
俺は、少なからず動揺した。
直樹「……そっか」
ちひろ「仁科先生が見たっていう、私に似た子が……
    妹なんじゃないかって、ずっと思ってたん……です……」
そうか。ちひろちゃんに妹がいるって話は聞いていた。もう死んでいるものだと思っているようだったけど……。
ちひろ「もしかしたら、私をこっちの世界に逃がすために……」
死んだ事にして、ちひろちゃんを騙したんじゃないか……ってことか。
ちひろ「そう、思うと、私……私……」
……。
泣きじゃくるちひろちゃん。俺は、そっと抱きしめて、頭を撫でてあげることしかできなかった。
こっちの時代に来て、心細かったちひろちゃん。それを支えていた俺。
なのに、こんなに泣いているちひろちゃんを、どうすればいいのか……分からない。
ちひろ「久住先輩」
泣き腫らした目で、俺を見上げるちひろちゃん。
ちひろ「お願いがあるんです……
    私が、またここに戻ってこれるように……
    最後にもう一度、約束を頂きたいんです」
直樹「……分かった
   じゃあ、帰り支度しようか」
……。
ちひろちゃんは黙ったまま頷くと、温室内の私物をまとめた。

教室にも私物があるということで、校舎に向かう。
(場面変更(教室))
直樹「これで、最後かな?」
こらえていた想いが堰(えん?)を切ったように、
ちひろちゃんが駆け寄って来る。
……。
俺は、ちひろちゃんを抱き締めた。
ちひろちゃんが決めたことの、後押しをしなくちゃいけない。
その為に、ちひろちゃんがして欲しいことなら、何でもしてあげたい。
……。
…………。
(場面暗転)
……。

ちひろ「未来人の私が、久住先輩に愛されて……ここで生きています
    私がここにいていい……そう思えるのは、久住先輩がいるからなんです……」
直樹「ちひろちゃん……」
ちひろ「だから……
    ううっ……ぐすっ……」
ちひろちゃんの両目からあふれる涙を、俺はそっと唇で拭う。
ちひろ「久住……先輩……」
ちひろちゃんは濡れた瞳で俺を見つめ、そしてゆっくりと目を閉じた。
俺はちひろちゃんを強く抱きしめ、より深く唇を重ねる。ちひろちゃんの唇は、涙の味がした……。
……。
その後もしばらく、そのままそっとちひろちゃんを抱きしめていた。
俺は、いつまでもこのままいたいと思ったけど。
そして多分、ちひろちゃんもそう思っていたはずだけど。
日は落ちて、教室は暗くなって……俺とちひろちゃんは、お互いの気持ちにけじめをつけた。
……。

2月2日(水)
今日は、ちひろちゃんたちが100年後の未来へ、戻る日だ。
青いフォステリアナの種を持って。
……。
今日は、本格的に未来から避難してきた人達が戻るわけではない。
マルバスの脅威から逃れる為に、青いフォステリアナを育成する人たちが向かうのだ。
ウィルスに対する、人類の反撃の第一陣。それに、ちひろちゃんも加わる。
……。

温室では、ちひろちゃんが最後の私物をまとめていた。
私物以外にも、フォステリアナ育成のために、いくらかの道具もまとめなくてはいけないらしい。
俺は、その作業を手伝っていた。
直樹「これも持っていったほうが良さそうだな」
ちひろ「そうですね。お願いします」
温室にある植物の世話は、この1年近くでほとんど覚えていた。
ちひろちゃんが未来に戻った後は、俺がその世話を引き継ぐ事になる。
直樹「この温室も、またちひろちゃんが戻ってくるまで、しっかし管理しておかないとな」
ちひろ「そうですね……お願いします」
俺が責任もって世話するから是非にと頼み、また、いざという時のバックアップの為ということで。
小さなプランターに2株だけ、青フォステリアナが残された。
直樹「こいつらも、しっかり育てるよ」
ちひろ「久住先輩も、フォステリアナを育てるのはもう……」
直樹「ああ。ちひろちゃんに鍛えられたからね
   ちひろちゃんが戻ってくる頃には、この温室が真っ青になってるかも」
ちひろ「久住先輩……」
ちひろちゃんが俺に抱きついてくる。
ちひろ「きっと、きっと戻ってきますから……」
直樹「ああ。待ってるよ
   半年でも、一年でも、ずっと……」
俺もちひろちゃんを抱きしめる。
指で、瞳から溢れかけている涙をそっとすくい取って。
お互いの記憶に彫り込むように、長い、長いキスをした。
……。
…………。

恭子「橘さん、行くわよ」
ちひろ「はいっ」
詳しくは教えてもらえなかったけど、時空転移装置は時計塔の中にあるとのこと。
俺は、ここでちひろちゃんとは別れることになった。
直樹「それじゃ、また」
ちひろ「はい……」
直樹「とても大切な仕事だ。しっかり」
ちひろ「久住先輩、あのっ、これ……」
ちひろちゃんが俺に渡したのは、去年の秋からちひろちゃんがずっとつけていた観察日記だ。
ちひろ「私の分はコピーを取りました
    続きは、久住先輩に書いて欲しいんです」
直樹「分かった」
ちひろ「……」
直樹「……いってらっしゃい」
ちひろ「いってきます」
時計塔内に消えていくちひろちゃんの後ろ姿を。俺は……
ずっと、いつまでも、見送っていた。

スタッフロール(日本語表記でのスタッフロール&ちひろの名場面紹介)







































温室での作業をしていると、フォステリアナのプランターの下から、白いものがはみ出しているのが目に入った。
何だろう、と思ってみてみると、封筒だ。
表には俺の名前が書いてある。
……差出人の名前も書いてないが、温室で俺に対してこんなことをしてくるのはちひろちゃん以外にいない。
俺は、封を切って中身の手紙を読み始めた。

……。
『久住先輩へ。
 今までありがとうございました。一人だったらくじけてしまったことが何度あったか分かりません。
 それでも、久住先輩と二人だったから、乗り越えることができました。
 私がこれから戻る世界には、久住先輩はいません。
 でも、苦しいことがあったら、久住先輩のことを思い出して乗り越えていこうと思います。
 温室で出会った時のこと。
 寮で、おんぶしてもらった時のこと。
 茉理と3人で遊んだ時のこと。
 自転車に乗る練習を手伝ってくれた時のこと。
 海に行った時のこと。
 蓮美祭でフォークダンスを踊った時のこと。
 台風で壊れた温室を二人で元通りにした時のこと。
 青いフォステリアナに種ができたこと。
 ……。
 どれもが、私にとって宝物のような思い出です。
 本当にたくさんの幸せな記憶を持って、私は、私のいた時代に戻ることが出来ます。
 ありがとうございました。
 久住先輩、大好きです。
 100年離れた世界から、久住先輩のことをずっと想っています。
                              橘ちひろ』
(場面暗転)
ちひろちゃんが未来に戻って1ヶ月。
俺は3年になった。
……。


春。ちひろちゃんと出会った季節。
桜の花が学園を覆う。
温室の花々が咲き乱れる。

夏。ちひろちゃんを好きになった季節。
木々が青々と茂る。
高い日差しが温室の緑に命を与える。

秋。ちひろちゃんとの試練の季節。
色とりどりに葉が染まる。
温室には蓮美祭で人を静かにもてなす。

冬。ちひろちゃんと同じことを信じた季節。
枯葉や雪が学園を覆う。
温室は植物達の聖域になる。



そして……再び春。
……。
俺は進学が決まり、蓮美台を後にしようとしていた。
今日は卒業式。
二年前と同じに舞い散る桜の中を、卒業証書が入った筒を片手に、温室に向かう。





直樹「……
   おかえり」
ちひろ「ただいま……戻りました」
そこには、髪は伸びているものの笑顔は変わらぬちひろがいた。

fin.

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