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地獄少女 朱蘰あけかづらのエンディング (涼子ルート その2)


地獄少女・閻魔あいに涼子の死の真相を知らされた瑞穂は証拠を探し続けた末、涼子の遺品の手帳に一部始終が書き記されていたことを知る。瑞穂はこれを証拠として亜美に自首を勧める。
夜の学校。亜美と会う約束をした瑞穂に、御手洗が証拠品の手帳を奪おうと襲い掛かるが、失敗。そこに亜美が現れる。彼女の手にはナイフが……。涼子を嘲る言葉を吐きつつ迫る亜美を前に、瑞穂の指が藁人形の赤い糸に伸びる。


突然、教室に突風が吹く。
藁人形が私の手を離れ、空へ飛ばされていく。

「怨み聞き届けたり」

夜の静かな教室に、老人のかすれた低い声が響き渡る。
そして満月に溶けていくように、藁人形は消えていった。

「ははっ! 引いた引いた! これで私は地獄行き? やっぱりあんたも同類なんだ!」

私の指に絡みつく赤い糸。

「そうなのかもね」

ごめんね、涼子。
私、涼子が思っていたような子じゃなかったみたい。
許せなかった。
ガマンできなかった……。

「さぁ、地獄少女! 私を地獄に連れて行きなさい!」

亜美ちゃんが、私に向かって声を張り上げる。
ハッと振り返ると、そこに……

地獄少女が……いた。
亜美ちゃんのほうへ、ゆっくりと歩いていく。

「おまえ、亜美になにをする気なんだ!?」

地獄少女を止めようと、行く手をふさぐ御手洗先輩。

「なっ……」

しかし不思議な力に妨げられて、御手洗先輩は地獄少女に触れられない。
跳ね飛ばされてしまう。

だけどまた立ち上がって、行く手をさえぎろうとする。足からは血が流れている。

「やめろっ!」

また跳ね飛ばされる。
今度は、なかなか起き上がれない。それでもよろよろと立ち上がろうとしている。
痛々しくて……見てられない。
私は、視線を地面に落とす。

「なぁ高橋。止めてくれよ!」

立ち上がろうとして、倒れてしまった御手洗先輩が私に向かって叫ぶ。
私はただ、その声を聞かないように下を向いて、耳をふさぐ。

「御手洗君いいのよ! あははっ、私は幸せよ! こんな世界から、とっとと出て行く事が出来るんだから!」

亜美ちゃんの甲高い声だけが、聞こえてくる。

「ねぇ、瑞穂、見て? 私、あなたが糸を引いたからあなたのせいで地獄へ行くの。あはははははははははははっ! この、人殺し!」

亜美ちゃんの身体が、黒い霧に包まれていく……。

「あはっ! あははははっ! 地獄で待ってるよ人殺し。早くこっちに来なっ! あははははははははっ!!」

そして、亜美ちゃんの笑い声が、だんだん遠くなっていって……。


《三途の川》

川に浮かべられた燈篭が、ゆらゆらとたゆたっている。

その船の上で、小早川亜美は無数の手に捕らえられていた。

「この先にあるのが地獄ならカゲグチばっかのあんな世界、あそこも地獄だッ! あははっ! あんな所の空気をこれから吸わなくてすむんだ。あはっ、あははっ! 勝った! 私は勝ったんだっ!」

ギィ、ギィ……。

船の上、閻魔あいは彼女の言葉を聞いているのかいないのか、無表情のまま櫓を漕ぎ続ける。
船は、霧の向こう側を目指して、ゆっくりと進んでいく。


「……この怨み、地獄へ流します」


「また地獄少女が現れたって」
「これで五人目かよ……」
「ふふっ、次はあんたかもよ」

口々に、みんなが噂をしている。
あの日から数日が過ぎた。
今朝のホームルームで、亜美ちゃんがいなくなってしまった事を中田先生が言ったんだ。
私は……逃げ出すように教室から出て行く。 冬の訪れを感じさせる、冷たい風が廊下を流れていく。
もう文化祭も終わってしまってミステリー研究部は結局、なくなってしまった。

……あんなに手伝ってくれたのに、ごめんね……。

「あっ……」

御手洗先輩だ……。

御手洗先輩は、サッカー部をやめてしまった。突然のエースの退部に、サッカー部ではもめにもめたという話を聞く。

「もう走る気になれないんだ」

だけど御手洗先輩は、それだけ言って部室を出て行ったらしい。
私から目をそらして通り過ぎる。

ふと、窓の外に広がる青空を見上げる。

私も、御手洗先輩の事を避けていたから、私に会いたくないという気持ちはよく分かる。
なかった事にしてしまいたいんだ。


この珠代市で、初めにストーカーがいなくなった。
その次にセクハラしていた塾の先生。
次に、彩ちゃんが、榊さんを地獄へと流した。
そして、涼子が殺された。だから、今度は亜美ちゃんを、地獄へと私が流した……。

「地獄……か」

私は、タイを緩めて胸に刻まれた刻印を見る。
いつか地獄へ行くんだ、私は。

これからも色んな人が地獄通信にアクセスして──いや、例え地獄少女に頼まなくても──人を怨んで、不幸な選択を繰り返してしまうんだろうか?


「涼子……ごめんね……」


青空は、なにも答えてはくれない。

涼子……私、あの空に向こう側にいるあなたには、二度と会う事ができないんだね……。


終劇

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