戻る TOPへ

地獄少女 朱蘰あけかづらのエンディング (奈々ルート その3)


「最後にもう一つだけ。聞いてもいいですか?」

先生は、黙ってうなずく。

「あの……先生は……お姉ちゃんが好きだったの?」
「えっ……」
「先生、答えて。お姉ちゃんの事、好きだったの?」

「ああ、僕は高橋さんが好きだった。愛していた」

久しぶりに見る、先生の穏やかな顔だった。

「誰よりも想っていた。彼女の姿を見ているだけで、僕の心は満たされた」
「……」
「彼女のためだったら、僕はなんだって出来た……それなのに、僕は……!」

先生の苦しみが……先生の心の叫びが聞こえてきた。

気が付くと、私は涙を流していた。
涙が頬を伝って、川を作り始める。
暖かな流れが、先生へのわだかまりの心を、一気に溶かしていった。

いつの間にか、手元から藁人形がなくなっていた。
自分の出番が終わった事を知って、自ら立ち去った……そんな風に私には思えた。


次の日曜日。
私は、お姉ちゃんのお墓を訪れた。

「お姉ちゃん、報告に来たよ」

手を合わせて語りかける。

「中田先生がね、全部、話してくれたんだ」

お姉ちゃんが亡くなった、あの事件の事を……。

「今でもお姉ちゃんは怨んでるの? 中田先生の事」

多分、最初から怨んでなんかいないよね? そんな気がする。

「だからね。私も先生の事、許そうと思うんだ。それでいいよね? お姉ちゃん」

さわさわと、穏やかな風が頬をなでていく。
まるで、それはお姉ちゃんの返事みたいだった。

「ありがとう。お姉ちゃん」

正直、先生に対するわだかまりはまだ残ってるけど、これでいいんだ。
誰かが許さないと、復讐の連鎖はいつまでも続くから。
そうだよね? お姉ちゃん。

「高橋……」
「えっ?」

背後から声がした。

「君も来ていたんだな」

中田先生が立っていた。手に水桶と花束を持っている。

「お姉ちゃんの墓参りに来てくれたんですか?」
「ああ。構わないかな。僕が来ても……」
「ええ。きっと、お姉ちゃんも喜ぶと思います」
「だと、いいんだけどね」

中田先生は、お墓に手を合わせてる。
目をつむって、お姉ちゃんになにか話し掛けてるみたい。
真剣な表情。

お姉ちゃんが亡くなって5年。
私は一日も忘れた事はなかった。
そして、これからもきっと……。
それは多分、中田先生もそうなんだと思う。

「先生……」

私はいつまでも、その横顔を見つめていた。


それが、私が見た中田先生の最後の姿になった。


翌日、朝のホームルーム。
中田先生はやって来なかった。
イヤな予感。胸騒ぎがした。

「突然の事だが、中田先生が退職される事になった」
「……!」

「中田先生、どうしちゃったんですか〜?」
「いきなりすぎるよ〜。なにがあったんですか〜?」

女子達から質問が飛んでる。
答えを聞くまでもなかった。私には分かってる。
きっと、最初からそのつもりだったんだと思う。
中田先生は……もし、全てを知られたら、私の目の前から姿を消すつもりだったんだ。
昨日の墓参り……あれはきっとお別れのつもりだったんだ。

「……」

自然と、ひとしずくの涙が頬を流れていた。


季節はめぐり、また秋がやって来る。
今年もお姉ちゃんの命日がやって来た。

「あ……」

今年もまた、先客がいたみたいだった。
花が供えられてる。去年と同じように……。
でも、それが誰だが、いまなら分かる。
きっと、あの人だ。

辺りを見回してみるけど、姿は見えない。
でも、きっとあの人は私を……私達を見守ってくれている。

ずっと……。


今日も良い天気。空が高い。

心地よい風に身を任せて、私はそっと目を閉じた。


終劇

inserted by FC2 system