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地獄少女 朱蘰あけかづらのエンディング (奈々ルート その2)


放課後の教室。高橋瑞穂に呼び出された中田先生は、瑞穂の姉・奈々の死の真相の全てを告白した。5年前に自分が地獄通信にアクセスし、高橋奈々の恋人のタカヤを地獄に流したこと、そしてそれが原因で奈々をも死なせてしまったこと。しかし……


「最後にもう一つだけ。聞いてもいいですか?」

先生は、黙ってうなずく。

「あの……先生は……なんで逃げたの?」
「えっ……!?」
「お姉ちゃんが階段から落ちた時……なんで逃げたの?」
「そ、それは……」
「すぐ病院に運べば、助かったかもしれないのに……どうしてなんですか!?」
「……」
「黙ってないで、なんとか言ってくださいっ!」
「怖かった……」
「え?」
「僕は……怖かったんだ」

あの時……ピクリとも動かなくなった高橋さんを見た瞬間。
僕は頭の中が真っ白になってしまったんだ。
もう、なにも考えられなかった。

取り返しのつかない事をしてしまった……。
そう思ったのは、逃げ出した後になってからだった。

それでも、一度、現場には戻ったんだ。
だけど、その時には大騒ぎになっていて……。
とてもじゃないけど、名乗り出られなかったんだ。

「僕は逃げ出してしまった……」
「……」
「現場からだけじゃなく、辛い現実からも……」
「……」
「だが、仕方ないだろう? パニックにもなるよ。好きだった女性が、目の前であんな事になれば誰だって……!」
「……」

言い訳をする先生。自分は悪くない……そう言ってる。
じゃあ、悪いのは誰だって言うの?

「ど、どうしたんだ、高橋? そんなに怖い顔をして……」
「……」
「な、なにをするんだ! その藁人形をどうする気だ!?」

私は藁人形に巻かれた赤い糸に手をかけた。
先生は自分の身が一番、かわいいんだ!
どんなにキレイ事を言ったって、それが本音なんだ!
だから、軽々しく言えるんだ!
「仕方ない」って!
先生が逃げたせいでお姉ちゃんは死んだのに、それが仕方ない事だって言えるんだ!

「……許せない!」

私は糸をしっかりと掴んだ。

「や、やめろ! そんな事をしたら……!」
「うるさいっ!」

糸を持った手に力を込める。
このまま、なにもしなくても先生はやがて地獄に落ちる。
だけど、そんなの待ってられない! いま、自分の手で復讐を……!
裁きを下すんだ!

だから……私は糸を──

──引いた!


風が教室を吹きぬけていった。
藁人形がふわり、風に乗って私の手から離れていく。
そして、空中に消えていった。

──怨み聞き届けたり──

次の瞬間、老人の低い声が耳に響いた。

「な、なんて事を……」

呆然と、藁人形が消えた先を見上げていた、先生はつぶやく。

「き、君は……いま、自分がなにをしたのか、わかって──」

最後まで、言葉にならなかった。

「!」

振り返った先には、黒の着物に身を包んだ、一人の少女が立っていた。

「地獄少女……」
「地獄少女……」

私達は、同時につぶやいていた。

地獄少女は近づいてくる。
一歩一歩、ゆっくりと……中田先生へと向かって歩んでくる。

「また、会ってしまったか。死ぬまで、会う事はないと思っていたのだが……」
「……」

地獄少女の瞳に、ほんの少しだけ、哀れみの色が混じったように……私には見えた。
だけど、それも一瞬の事。
すぐに無表情に戻る。
そして……。

「う、うわああ……」

突然、現れた黒い霧。
あっという間に広がっていって、先生を飲み込んだ!

「うぅ、うう……」

先生のうめき声は、どんどん小さくなっていった。
そして……。

黒い霧は消えてなくなり……そして、中田先生もいなくなった。

これで……全部、終わったの?
先生は地獄に流されたの?

振り返ってみるけど、そこには地獄少女の姿もなくて……。


中田先生がいなくなって、もう二週間。
初めは大騒ぎしてたみんなも、いまでは興味を失ってるみたいで、静かなものだった。
私の生活も相変わらずで……。

《放課後。瑞穂の親友の涼子がやって来る》

「お、瑞穂。帰り……お茶していかないか?」
「オッケー。いま、準備するから、ちょっと待ってて」
「早くしろよ。私、校門で待ってるからな」
「うん、分かった」

「うーん、まいったなぁ」

先生に急に雑用を押し付けられちゃって……遅くなっちゃったよ。

「涼子、怒ってるだろうなあ」

急がなくっちゃ……。

「……」

《瑞穂が制服の首元をはだける》

いままでの私の生活とは、劇的に変わった所があった。
この胸のアザ……地獄の刻印。
地獄少女との契約の証。
復讐を願った罪人の証。
地獄へ落ちる事を運命付けられた者の証。

それを持つ意味の重さに苦しめられる日々……。
それがいまの私の生活……。

後悔はしてない。
中田先生を地獄に流した事に、悔いは全然ない。
だけど……この心を包み込むような虚しさはなんなの?
それに、自然と流れてくるこの涙の理由は?

答えてくれる人は、誰もいない。


《真っ暗な空間に灯された無数の蝋燭。「高橋瑞穂」と書かれた蝋燭が加わる》


終劇

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