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最終電車のエンディング (冥界封印編 鎮魂の章)


【解説】
主人公・石岡哲也の乗った最終電車で次々に起こる奇怪な超常現象。
彼が乗ってしまったのは、死者を冥界へ運ぶ幽霊列車だった。
いつも乗り合わせる女性・美由紀の、石岡に想いを打ち明けたいという一心が、彼を列車に招いてしまったのだ。
美由紀が告白を遂げたとき、石岡は列車から解放された……。


「おう! びっくりしたぁ!」
言って飛びのいたのは、革ジャン姿の大きな男だった。
身長は180センチを越えるだろうか。
よほど驚いたのだろう、ごつい胸板を手で押さえている。
「気づかなかったぜ。お前さん、ずっと。そこにいたのか?」
言いながら、仰向けに倒れている僕に、分厚い手を差し伸べる。

巨漢に助けられて立ち上がった僕は、周囲を見回し、そして、理解した。
列車事故だ。
おそらく駅に進入する寸前に、何らかの理由で脱線したのだろう。
停車の為に減速していたはずだが、それでも、レールを外れた列車は止まらなかったようだ。

一直線であるべき列車は、向かい合った二つのホームの間で、まるで稲妻のように列を乱していた。
斜めに傾いた車両や、完全に横倒しのものもある。
僕が立っているのは、そのすぐそば。
最後尾の車両の、さらに後ろ。
見ると、ホームの上も大混雑だった。
大勢の警官と保線区員、医者と看護婦と救急隊員。

そして報道記者と野次馬とでごったがえしている。
案内板に、四つのひらがなが見える。
か ば た に
……椛谷……。
それは、僕が最終電車に飛び乗った、その一つ前の駅の名だ。
今夜、最終電車は、僕の乗る駅に着く前に、事故を起こしていたのだ。
けれど僕は、この列車に乗った。

来なかったはずの、この列車に乗ったのだ。
「おおい! こっちにも生存者だ!」
男が大声でホームの上の警官を呼ぶ。
彼が手を挙げた時、ずり上がった上着の下に、手錠の入った革ケースが見えた。
「この人、頼む」
若い警官は、はい、と敬礼してから、僕に手を貸してホームへと引っ張り上げる。

ホームの床の上には、毛布ほどのサイズのシートが、いくつも並べられていた。
遺体だ。
近づく僕の前を、頭に包帯を巻いた車掌が担架に乗せられて横切っていった。
つまりそれが、あの列車に車掌がいなかった、その理由なのだろう。
僕は遺体の列の前に立ち、ぼんやりと彼らを見下ろした。
それは、奇妙な再会だった。

僕は、彼らを知っている。
この毛布をめくれば、きっと彼らがいる。
今夜、乗れるはずのなかった列車に乗り合わせた人々。
眼鏡の男。
女子高生。
少年。
そして……。
「誰か探してらっしゃるんですか?」

僕をホームへ上げてくれた警官が、声をかけてくる。
ええまあ、と答えて、けれどその時、僕はその人を既に見つけていた。

シートの下から、桜色のスーツの裾がのぞいている。
僕を、あの列車に乗せてくれた人。
僕を助けてくれた人。
僕を好きだといってくれた人……。
「お知り合いですか」
脱帽してそう言う警官に、僕はうなずいた。
「ええ……」
そうさ。知り合いさ。

(選択肢)
もう一度、逢いたい
もう逢えないんだな


■ 「もう一度、逢いたい」を選択

「僕の好きな人ですよ」
言いながら僕の行動を、警官は全く予期していなかったようだ。
僕が彼の腰に手を伸ばした時も避けようとはしなかったし腰のホルスターのカバーを開いたときにも、抵抗しなかった。
拳銃のグリップに突いた安全紐に肩を引っ張られて、ようやく、あっ、と声をあげただけだ。

おそらく彼は、僕のしている事が理解できなかったのだろう。
ただ、きょとん、とした表情で、自分の拳銃の銃口を、自らのこめかみに押し当てる僕を見ていた。
僕は、彼に言った。
「失礼。ちょっと、お借りしますね」

そう。
本当に、ちょっと。
たった一回、引き金を引くだけ。
それだけで、また、逢えるんだ。

《銃声が響く》


■ 「もう逢えないんだな」を選択

「僕の……好きな人です」
そう言って、僕は背後に横たわる列車を見た。

僕が乗るはずだった、最終電車。
僕が乗っていた、最終電車。
「すみません……、こちらへ」
警官に促され僕は歩き始めた。
これから、質問責めにされるのだろう。
終わる頃には夜が明けるかもしれない。
それから、家へ帰る。
会社の留守番電話に、欠勤の報告をしておいた方がいいだろう。
それが済んだら、眠ろう。

目が覚めたら……何時になるかは、わからないけど目が覚めたら、そしたらビールを飲んで、メシを喰って、煙草を一本だけ吹かして……それから……。
それから後のことは、今は、いい。
やがてまた、いつもの日常が戻ってくるだけだ。
それはしかし、確実にこの日の、この夜の、その続きではあるけれど。


冥界封印編 鎮魂の章
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