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マリア2 受胎告知の謎 (究明編) エピローグその2


第7話 魂の叫び



《ヒール財団》

緑川「国友さん!」
真里亜「あっ、緑川さん!! よかった、無事で。」
緑川「安心して! こんな時間に、建物には誰もいないようよ!」
真里亜「よかった!」
緑川「ヒール財団が崩れるのかしら……。」
真里亜「M計画が崩れていくんですね。二階堂は一体……。」
安藤「わからん。結局最悪の結果になってしまったのか……。」
真里亜「いいえ、私たちにはこのMホルモンが残っています。緑川さん! 二階堂がこのMホルモンをマリアちゃんに打って欲しいって…… 緑川さんならできるって……。」
緑川「私にMホルモンを……どうしてかしら?」
安藤「二階堂が言っていました。M計画で人工的に生まれた子どもたちは、Mホルモンを打たないと突然臓器の老化が始まると。」
緑川「このホルモンがマリアちゃんの命を救うことができるのですね。わかりました。」
安藤「そうは言っても、どうやってMホルモンを投与するんですか?」
緑川「学生の頃は、看護の勉強をしていましたの。注射を打つことくらい簡単なことですわ。」
安藤「なるほど、緑川さんにお願いできれば、Mホルモンの投与も秘密裏に行なうことができるんですね。」
緑川「でも、どこでMホルモンを打ったらいいのかしら。」
真里亜「場所なら私の家を……っていうか友達の叔父さんの家なんですけど。使ってください!!」

安藤「あれ……!」
緑川「どうかしました?」
安藤「揺れが止まっていないか?」
真里亜「そういえば、さっきまではすごい音がしていたのに……。」
緑川「そうですね。爆発が止まったのかしら……。」
真里亜「二階堂はセーフティロックを抜いたのではなかったのですか?」
緑川「わかりません。」
真里亜「でも、財団建物はまったく崩れてませんよ! 私、様子を見てきます。」
緑川「何を言ってるの? 危険だわ。もしかしたら、二階堂の最後のわなかもしれない。」
安藤「そうだな、たしかに危険だ……。」

真里亜「そうだ! これ!!」」
緑川「何ですか? これ?」」
真里亜「二階堂の日記です。地下研究所で見つけました。」
安藤「二階堂の日記か……。」
真里亜「この日記に、何かこの事件のことが書かれていないでしょうか?」
緑川「人の日記を読むなんて、ちょっと気が引けますわね。」
安藤「おっしゃりたいことはわかります。でも、この事件だけは、こうでもしないと最後まで真実は見えてこない。」
真里亜「思い切って、読んでみませんか。」
安藤「そうだな。何か重要なことが書いてあるかもしれない。」
真里亜「じゃあ、日記を開きますよ。」

こうして私たちは、その場に立ち尽くし、二階堂の日記を夢中になって読んだ。


そして1時間後


ヒール財団地下研究所で見つけた二階堂の日記には、二階堂が命を賭けたM計画の目的と、彼の長年の苦悩が、淡々と綴られていた。


真里亜「博士の手記に残されていた内容とこの二階堂の日記の内容……あまりにも食い違ってる。」
緑川「博士の手記って……?」
真里亜「博士が殺された翌日、慈愛堂生物研究所に忍び込んだんです。6時33分の人魚の涙を探して。」
緑川「人魚の涙……。それは国友さんが持ち帰ったMホルモンではないんですか?」
真里亜「いいえ。人魚の涙は、博士が二階堂を混乱させるために作ったディスクなんです。」
緑川「ディスク……? 人魚の涙はディスクだったんですか?」
真里亜「はい、そうです。人魚の涙は、M計画の過程で作られた天才たちのリストだったんです。」
緑川「天才たちのリスト……。もしかして、その中に、真子の名前も……。」
真里亜「はい。リストの名前は必ず、二人で一組になっていました。一組の一方は、遺伝子組み換えをされた子どもで、もう一方がそのクローンの子です。」
緑川「真子が遺伝子組み換えの子で、鷲崎マリアちゃんが真子のクローンですね。」
真里亜「はい。」
安藤「で、その告白文には、何て書いてあったんだ?」
真里亜「M計画は民族優性化計画のことで、二階堂の単独行動だって。彼は狂っていて、危険な人物だって……。」
安藤「俺が博士から聞いたことと同じだ。」
真里亜「安藤さんは博士とどこで知り合ったんですか?」
安藤「希望の丘教会だよ。細かいことは覚えていないが教会でたまたまぶつかってね。挨拶をするうちに、博士の方から話しかけてくるようになったんだ。」
真里亜「博士の告白文に…… M計画は、二階堂の積もり積もった復讐劇だって……」
安藤「ああ……そのことも博士から聞いた。」
真里亜「でも、二階堂の日記には、まったく逆のことが書いてある……。」
安藤「ああ……。悲劇の始まりは亜門博士のいたずらな研究心が生んだ……って書いてあるな。」
真里亜「どっちの言ってることが本当なんでしょうか……。そう言えば、二階堂、博士の告白文のこと、信じちゃいけないって……。」
緑川「あっ……地下研究所に……。ダメね。もう遅いわ。」
真里亜「何ですか?」
緑川「地下研究所に博士と二階堂のDNAが保管してあるはずなんです。」
真里亜「これですか……?」
緑川「あなた、これをどうして……。えっ、ま、まさかマリアちゃんのDNAまで……?」
真里亜「どこかで、役に立つかもしれないと思って……持ってきたんです。」
安藤「真里亜、お前のさくらテレビ入社以来のお手柄だな!!」
真里亜「お手柄……。それってほめてもらってるんですか。」
安藤「ああ!」
真里亜「やったー! 乱さんにほめられた!」
安藤「でも、その単純なところは直した方がいいかもな。」
真里亜「はーい。」
緑川「では、さっそくこの3人のDNAを調べてみましょう。」
真里亜「この結果次第で、博士か……二階堂か……どちらがウソをついているのか、はっきりしますね。」
安藤「そうだな。とにかく分析結果を待とう。」
緑川「DNAの分析にはヒール財団の関係調査会社を使えば1週間で終わるわ。」
真里亜「緑川さん、おねがいします。あれっ……そういえば。」
安藤「どうした?」
真里亜「やっぱり財団ビル……壊れてませんね。」
緑川「本当ですね。それにゆれも完全に止んでる。」
安藤「二階堂は本当にセーフティロックをはずしたんだろうか……。」
真里亜「行ってみましょう。もう、あれから1時間も経ってる!」
安藤「行こう!」

《一同がエレベーターに乗り込む》

真里亜「このカギをここに差すと、地下への通路ボタンが見えるはずです。ちょっと待ってください。」

《エレベーターの鍵穴に真里亜が鍵を差し込むが、何も反応がない》

真里亜「あれっ……おかしいな。ボタンが……。何も出てこない。」
緑川「そんなはず、ありません。あら、おかしいわね。」
真里亜「もう一度、やってみます。ダメですね。あっ……。ごめんなさい。日記を落としちゃった……。そうか……。まだ最後のページが残ってましたね。」
安藤「そうだな。いったん、ここから出て読んでみよう。」

真里亜「二階堂の日記の最後のページです。そんな……。まさか。」
緑川「今、エレベータが使えなかったこと。カギを使っても地下への通路が開かなかったことが証拠ですね。」
安藤「まさか……ウソをついていたのは博士の方だったのか。」
真里亜「多分……。」
安藤「二階堂は博士の実験の被害者だったのか……。」
真里亜「信じられない……。」
安藤「俺は一体、何を見ていたんだ。」
緑川「建物崩壊プログラムは、M計画のデータが外部に漏れて、罪を問われるのを恐れた博士が、仕掛けたものだったなんて。」
安藤「建物が崩壊すれば証拠は完全に抹消することができるが、建物にいる罪のない人間を殺してしまう。」
真里亜「二階堂は、それを避けるため、さらにその上を作った。」
安藤「二階堂は、地下施設だけを崩壊させるプログラムを秘密裏に作ったんだな。」
真里亜「そのプログラムを作るために、二階堂は頻繁に、この地下研究所へ足を運んだ……。」
安藤「この二階堂のプログラムが起動すると、地下へ通じるエレベータは一切の作動を停止する。」
緑川「カギを使っても地下へ通じるボタンは決して現れない……。」
安藤「二階堂は命を賭けて、M計画の証拠が残らないよう、地下研究所を崩壊させたんだ。」
真里亜「地下研究所が残っていれば、いつか鷲崎マリアちゃんがクローンであることがマスコミにばれてしまうからですね。」
安藤「ああ。二階堂はそのために命を賭けたんだ……。」
緑川「M計画の唯一の生き残りになった鷲崎マリアちゃんは、私たちが必ず守りましょう!!」
真里亜「はい……。」
緑川「明日7月7日、鷲崎マリアちゃんをここに呼び、Mホルモンを投与しましょう。」
安藤「でも、どうやって?」
緑川「そのことなら私にまかせてくださる?」
真里亜「何か、妙案が?」
緑川「ええ、鷲崎と話をしてみたいんです。」
安藤「では、マリアちゃんがクローンであることを鷲崎豪に話されるおつもりですか?」
緑川「まさか、今さらそんなこと。知らない方が幸せなことだってあるはずです。鷲崎一家の幸せを私が壊すわけにはいきませんわ。」
真里亜「だったら、どうやって……。」
緑川「とにかく、私にまかせてくださる?」
真里亜「わかりました。」
緑川「私、二階堂がマリアちゃんへのMホルモン投与を私に託した意味がわかった気がするんです。」
真里亜「だから、それは……緑川さんが看護婦の勉強をされてたので、秘密裏にMホルモンを投与できるからではないんですか?」
緑川「それだけではないと思うんです。」
安藤「どういうことですか?」
緑川「私は真子を救えなかったことで、ずっと、自分を責めてきました。そして、挙句の果てに真子のクローンまで作ろうとしていました。二階堂が、この仕事を私に託したのは…… この私の手で、わが子のクローン『マリア』ちゃんを助け…… また新しい人生をやり直して欲しいという意味ではないでしょうか?」
真里亜「まさか、二階堂が……。」
緑川「うまく説明できませんが、冷たく突き放した彼の雰囲気は無理して作ったもので、本当は何か暖かいものを真に持っていた人という気がするんです。私が、二階堂にだまされていたとわかった時も、心の底から彼を憎めなかったのは、そのせいだったのかもしれません。」
安藤「緑川さんにすべておまかせしますよ。」


1週間後


《ヒール財団に一同が集合する》

緑川「お久しぶりね、景山くん。」
景山「そうですね。ちょっと逃亡者やってる間に、いろんなことがあって……」
安藤「どうだ、竜宮城に行ってた感想は?」
景山「逃亡生活が竜宮城ですか……安藤さんも冗談きついな〜。」
安藤「そうか〜? お前さん、女の子二人にかくまわれて、まんざらでもなかったんじゃないか?」
景山「はは〜、それって安藤さんのやきもちってやつですね?」
安藤「ちっ、なんで俺がお前さんにやきもちやくんだよ?」
緑川「あらあら、景山くんもこれだけ冗談が言えるようになって本当によかったね。」
景山「それもこれも、警備員の水谷君が警察庁に送ってくれた証拠のビデオのお陰です。」
真里亜「玉手箱は、開けてびっくり証拠の山だったわけね!」
比奈子「そうそう! よかったわね、玉手箱開けて白髪にならなくて!」
景山「はいはい、お陰さまで! お世話になりました。」
真里亜「これからじっくりお返ししてもらわないとね〜、比奈子!」
比奈子「そうね! 私たちさくらテレビの近くに穴場のレストラン知ってるから、そこでもいいわ!」
緑川「あーら、だったら私もご一緒させてもらおうかしら。」
比奈子「ぜひどうぞ! こうして緑川さんとお知り合いになれたわけですし、私は大歓迎ですよ!」
安藤「おっ、桜沢! よく見たらお前メガネやめたのか?」
比奈子「えっ、ええ。まあ、コンタクトにしてみたんですけど……。」
真里亜「ほーんとだ! 何か感じが違うなって気がしたんだ。」
安藤「あーあ、これだから鈍感な奴らは困るんだ、なあ、桜沢? いつになったら景山君が気づいてくれるかなって思ってたんだろ?」
比奈子「そ、そんなことありませんよ!!」
真里亜「そう言う乱さんのほうがよっぽど鈍感ですよ! ねっ、比奈子!」
比奈子「もう、お願いだから話題変えようよ! コンタクトにしたのは何の意味もないんだから!」
真里亜「はいはい、じゃ、話題変えましょう!」

緑川「さて、今日、みなさんにお集まりいただいたのは……。」
真里亜「覚悟はできてます。この封筒の中ですね。」
緑川「ええ。こればかりは玉手箱というわけにはいきませんけど……。開けますよ。」

安藤「ああ……。」
真里亜「見せて。あ……。」
安藤「そういうことか……。」
真里亜「『DNA鑑定の結果、亜門京介殿、二階堂巌殿は99%の確率で親子と分析されました』って書いてありますね。それに……」
安藤「『『DNA鑑定の結果、亜門京介殿、鷲崎マリア殿は99%の確率で親子と分析されました』……とあるな。」
真里亜「あの3人……親子だったんですね。」
緑川「やっぱり、二階堂の言ってたことがすべて真実だったんですね。」
真里亜「博士の手記は、二階堂を陥れることを意図的に狙ったものだったんですね。」
比奈子「博士が手記に書いていた『二階堂の積もり積もった復讐劇』っていうくだりもウソってこと……。」
真里亜「Mホルモンを用いた第一号の遺伝子組み換えベビーが二階堂だったなんて。博士、驚いたでしょうね。自分の研究に協力し、政府の特別研究員だと思っていた青年が、実は何十年も前に自分が作り出した天才だと知った時は。」
安藤「遺伝子組み換えやクローニング人体実験をしたのは、全部博士の意志だったんだな……。」
真里亜「それがバレるのを恐れた博士が、乱さんに話を持ちかけたんですね。」
安藤「博士とは、偶然希望の丘教会で知り合いになったと思っていたが、あの頃から博士はすべて計算していたのだろうか……。」
緑川「すべてが偶然発生したように見えて、このM計画に偶然なんてなかったんじゃないかしら……。」
真里亜「そういうことになりますね。」
安藤「俺は一体、何を見てきたんだ。」
比奈子「私も、初めから二階堂が悪いんだって決めつけてた気がします。」

安藤「Mホルモンの威力を発見した博士は、たまたま、その時慈愛堂病院に外来として来ていた二階堂の母親と博士自身の人工授精をしてしまった。」
真里亜「そして、Mホルモンを使って遺伝子操作を行った……。」
比奈子「純粋なMホルモンを用いて作られた遺伝子操作ベビーは、二階堂雅子さんのお腹の中ですくすく育っていった。」
真里亜「どうして、神田医師は『流産した』なんて、ウソを博士についたんでしょうか。」
安藤「二階堂の日記には、神田医師の嫉妬、ねたみ、あせり、そういったものだったって書いてあった。博士の実験が成功すれば、脚光を浴びるのは、亜門博士であって、神田じゃない。」
緑川「Mホルモンの威力を発見したのは博士だし、それを抽出したのも博士ですからね。」
安藤「となると神田医師は、たんに技術者としての栄誉をもらうにすぎないだろう。長年、学会で注目されてきた神田医師には、それが耐えられなかったんだろうな。」

真里亜「これは二階堂の復讐劇ではなかったんですね。」
安藤「博士は、自分の人体実験を二階堂に暴露されることを恐れていたんだ。」
真里亜「でも、二階堂の目的はそんなところには一切なかった。」
緑川「博士には、それが見えなかった。」
真里亜「二階堂は、博士の身辺を調査するうち、自分に母親ちがいの妹がいることを知ってしまったんですね。」
緑川「その妹がマリアちゃんだったなんて。真子の父親は博士だったんですね。私は鷲崎との子どもを身ごもったわけではなかったのね。」
安藤「たまたま、慈愛堂病院へ診察へ行った緑川さんは、その時、卵子を採取されてしまったんですね。」
真里亜「その卵子と博士の精子を人工授精し、遺伝子操作を行った上で、その受精卵は緑川さんの子宮に戻された。」
緑川「すくすく育つ真子を見るたび、鷲崎の面影をあの子に重ねていたのに、父親はまったく違うところにいたのね。」
真里亜「二階堂が政府の特別研究員を装い、亜門博士に研究費を与えMホルモンを作らせた本当の目的は…… クローンとして生き残った妹のマリアちゃんにMホルモンを投与する必要があったからなんですね。」
安藤「そうだな……。『日本民族優性化計画』なんて、はじめから無かったんだな。第一号の遺伝子組み換えベビーの二階堂には、純粋なMホルモンが受精卵の時に投与されていた。」
景山「だから、臓器の老化が始まったのは幸い20歳以降だった。」
真里亜「博士が、1/2やそれより純度の高い祖ジュゴンを作るたびに、その未完成Mホルモンを緑川さんに提出することを義務づけられていたのは……」
景山「二階堂が、老化が始まった自分の臓器にそれを直接投与するためと、老化を防ぐためマリアちゃんに投与していたからなんですね。」
真里亜「だから、二階堂は、マリアちゃんを定期的にヒール財団に呼び、臓器移植後の検査の名目の下、未完成Mホルモンを投与していたのね。7月7日には、鷲崎マリアちゃんに100%Mホルモンを投与しようとしてたのね。」
安藤「生き延びた妹を助けようと必死だったんだ……。」
真里亜「二階堂は、自分が生きているうちに、何とかマリアちゃんを助けようとしてたのね。」
安藤「『私には時間がない』と言った、二階堂の言葉にそんな意味が込められていたなんて。」
真里亜「私、何も知らなかった……。」

緑川「M計画のMがマーメイドなんて、間違いだわ……。」
真里亜「MがマーメイドのMでないとしたら?」
緑川「真子の……そして、マリアのMではないかしら。」
真里亜「真子ちゃん……マリアちゃんのM……」
緑川「真子もマリアちゃんもマーメイドなんかじゃないわ。M計画は、マリアちゃんがマリアちゃんであり続け、生き続けるためのMだったのよ。マリアちゃんを助けることができてよかった……。」
安藤「本当ですね……。」

真里亜「あっ……そういえば、これ。実はいつ言おうかと思ってたんですけど。」
安藤「なんだ、これ?」
真里亜「二階堂の日記の裏表紙に貼り付けて隠されていたんです。二階堂がマリアちゃんに宛てた手紙です。もしかしたら、この手紙をマリアちゃんに見せる日は、来ないかもしれません。でも、せめて二階堂が書き残したこの手紙のメッセージを遠巻きにマリアちゃんに伝えることもできるかなと思って……。」
緑川「どういうことですか?」
真里亜「聞いてください。二階堂が妹に宛てた手紙です。」


君がもし、君の出生の秘密を知ってしまう日があったとしても、何も悲しむことはない。
君の両親は、君をこれまで育て、愛した、政治家・鷲崎豪と礼子夫人に変わりはないのだから。

マリアはいつか、NASAで働くのが夢だと言っていたね。
もしその夢が叶い、君が宇宙に飛び立つことがあれば、君はきっと、地球が大宇宙の法則に従って存在し、万物はそのリズムと共に躍動し、生きていることを感じるだろう。
その鼓動を君が感じたなら、その感動を兄さんに、そしてなるべく多くの人々に、君の言葉で語り継いでくれ。

兄さんは、そんな君を遠くで応援しているよ。


(終)
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