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マリア 君たちが生まれた理由(わけ)のエンディング (4)


エピローグ
君とメリークリスマス



まりあは、最後に僕の耳元でつぶやいた。

「オルゴールを開けて……」と。

僕はまだその約束を果たしていない。
現場検証、葬儀、病院への報告書と追われる中、中途半端な気持ちで、彼女が大切にしていたオルゴールを開けたくなかったからだ。

僕はオルゴールを手にして、今日も考えていた。

どうして、もう少し早く屋上へ……
どうして、早くまりあの危険に……
どうして、僕は最後までウソを……

どうして、人は後悔することをやってしまうのだろう……

どうして!! どうして??

どうして……まりあは死んでしまったんだろう……

そして……
屋上の事件から、そのまま逃亡した神田院長はいまだに行方が知れない。
まりあの死は数々の疑問を僕に残した……

あっ! これ……

オルゴールの中には、まりあからの手紙が入っていた。


高野先生へ

フランスからはるばる海を越えてやってきたマリアさまを、日本で一人ぼっちにしないで下さい。
もしかしたら、あの壊れたマリア像は希望の丘教会へ帰りたがってるのかもしれません。どうか神父さんのところに帰してあげて下さい。

もしもの時のためにこれをしたためます。
先生がこれを読むことがありませんように!
筒井まりあ


まりあは、自分の死を予期していた。

壊れたマリア像のことが、どうしても気がかりだったのだろう。
それを、最後に僕に託していた。


僕は、大きなバラの花束を買って希望の丘墓地へ向かっていた。

僕はまりあの墓前にバラの花を敷き詰めた。

さようなら、まりあ

そのあと、僕はまりあとの約束を果たすために、希望の丘教会へ向かった。


歩きながら、僕はふっと足を止めた。

教会の鐘が、いつの間にか新しくなっていた……
希望の丘の風にのって、鐘の音色が待ちの人々に届くのもそう遠くはないのだろう……


神父「おやおや、どなたかと思えば高野先生ですか?」
高野「すいません、突然お邪魔しちゃって」
神父「どうしました?」
高野「筒井一家のお墓参りに来たものですから……」
神父「そうでしたか」

高野「教会の鐘、新しくしたんですか」
神父「そうなんですよ。気がついて頂けましたか?」
高野「えぇ、もちろん」
神父「実は、今年からこの教会の鐘を使って大晦日のカウントダウンをやろうと思っているんですよ」
高野「カウントダウンですか……」
神父「えぇ。98年の始まりの音をまりあに聞かせてやりたいと思いまして。今年は彼女のために17回、鐘を打とうと思っています。先生もよろしければ……」
高野「いえ、僕は……」
神父「そうですか。もし気がかわったらぜひいらして下さい」
高野「ありがとうございます」
神父「1997年も、もうすぐ終わりですねぇ」
高野「そうですね」


僕とレヴィ神父は、しばらく黙ったまま、たたずんでいた。

それから神父は静かに語り始めた。


神父「よぉく憶えていますよ。まりあが両親に手を引かれて、ここへ初めてやって来た日のことは。恥ずかしがり屋さんでね、お母さんの後ろにちょこんと隠れて私を見ていました」
高野「なんだか目に浮かびます……ところで神父さん、これなんですが」

壊れたマリア像を差し出す。

神父「これは……」
高野「まりあの遺言なんです。どうかマリア様を、神父さんの近くにおいてほしい……と」
神父「そうですか……まりあがそんなことを」

十字を切る神父。

神父「わかりました。私がお預かりします」

礼拝堂の中にクリスマスツリーが飾られている。


高野「クリスマスツリーですか。きれいですね。まりあに……見せたかったな」


まりあの遺言通り、つなぎ合わせて教会に置かれた壊れたマリア像は、その形態のためかよけいに人の目についた。

ある日、いつものように、この教会のミサにやって来た女性が、このマリア像に気づくと、ひざまずき、その足下に優しくキスをした。
以来、彼女は、この教会へやって来るたび、このマリア像にキスをするのが習慣になった。
その女性は、長い間子宝に恵まれず悩んでいたが、その後妊娠し元気な女の子を産んだ。
彼女は生まれてきた子を、聖母からさずかった子として「まりあ」と名づけた。

以来、希望の丘教会の「壊れたマリア像」は奇跡を呼ぶ像として有名になった。

今日も、また「壊れたマリア像」の周りには、花束や感謝の手紙がたくさん積まれているという。


(終)
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