まりあは、最後に僕の耳元でつぶやいた。 「オルゴールを開けて……」と。 僕はまだその約束を果たしていない。 現場検証、葬儀、病院への報告書と追われる中、中途半端な気持ちで、彼女が大切にしていたオルゴールを開けたくなかったからだ。 僕はオルゴールを手にして、今日も考えていた。 どうして、もう少し早く屋上へ…… どうして、早くまりあの危険に…… どうして、僕は最後までウソを…… どうして、人は後悔することをやってしまうのだろう…… どうして!! どうして?? どうして……まりあは死んでしまったんだろう…… そして…… 屋上の事件から、そのまま逃亡した神田院長はいまだに行方が知れない。 まりあの死は数々の疑問を僕に残した…… あっ! これ…… オルゴールの中には、まりあからの手紙が入っていた。
まりあは、自分の死を予期していた。 壊れたマリア像のことが、どうしても気がかりだったのだろう。 それを、最後に僕に託していた。 僕は、大きなバラの花束を買って希望の丘墓地へ向かっていた。 僕はまりあの墓前にバラの花を敷き詰めた。 さようなら、まりあ そのあと、僕はまりあとの約束を果たすために、希望の丘教会へ向かった。 歩きながら、僕はふっと足を止めた。 教会の鐘が、いつの間にか新しくなっていた…… 希望の丘の風にのって、鐘の音色が待ちの人々に届くのもそう遠くはないのだろう…… |
僕とレヴィ神父は、しばらく黙ったまま、たたずんでいた。 それから神父は静かに語り始めた。 |
まりあの遺言通り、つなぎ合わせて教会に置かれた壊れたマリア像は、その形態のためかよけいに人の目についた。 ある日、いつものように、この教会のミサにやって来た女性が、このマリア像に気づくと、ひざまずき、その足下に優しくキスをした。 以来、彼女は、この教会へやって来るたび、このマリア像にキスをするのが習慣になった。 その女性は、長い間子宝に恵まれず悩んでいたが、その後妊娠し元気な女の子を産んだ。 彼女は生まれてきた子を、聖母からさずかった子として「まりあ」と名づけた。 以来、希望の丘教会の「壊れたマリア像」は奇跡を呼ぶ像として有名になった。 今日も、また「壊れたマリア像」の周りには、花束や感謝の手紙がたくさん積まれているという。 |