神田院長が屋上から転落し、12年前の医療ミスに絡む関係者は結局全員死亡した。 その後の調査の結果、院長の机の引き出しからは、筒井純一郎の古い日記が発見された。 その日記の記録から、全ては院長選挙を目前に医療ミスを犯した神田医師が、その証拠をつかんだ筒井弁護士夫妻を殺害したのだろうということになった。 しかし、容疑者が死亡し、物証も乏しいこの事件は、どうやら本当に迷宮入りらしい。 二階堂刑事は、結局この事件を解決することが出来ずに、まもなく定年を迎えるという。 院長の後任は、桑原医長が引き継ぐことになり、慈愛堂病院は、いつもの平静を取り戻そうとしていた。 そういえば…… 先日、神田元慈愛堂病院院長の精密検査の結果が出た。 細胞検査の結果は陰性で、胃角部に見えた陰はストレス性のポリープということだった。 彼の胃の中のストレスによる腫ようは、なんと十数ヶ所におよんでいたという。 神田利一という男は、結局誰にも弱さを見せることが出来ない、不幸で淋しい人だった。 あんなに立派に見えた院長が、実は誰よりもビクビクしながら毎日を過ごしていた。 二階堂刑事の目の前で神田院長を突き落としたマリアは、傷害致死罪で施設に送られ、そこで更正を目的に指導されることになった。 施設でのマリアは、以前にも増して人格交代が激しくなった。 統合されたはずの人格が、入れ代わり現れて彼女を悩ます…… 「ここから出せよ!!」 「窮屈なところだ」 「たまんねーよ!」 「ひっひっひっ、復讐してやる」 「先生、ここから出して」 僕は、毎日考えていた。 神田院長、そして……僕の父さんが、11年前に壊した「人々の過去」をつぐなうすべを…… |
太田さんが去ったあと、僕は、数日前にマリアと二人でつなぎ合わせたマリア像を出していた。 マリアにとって、このマリア像は、両親のぬくもりであり、過去そのものだった。 そして……壊れたマリア像は、二度ともとの姿に戻ることはなかった。 僕は、マリアが屋上の床に落とした、小さなマリア像をつなぎ合わせた。 レヴィ神父がフランスから持ってきた大切なマリア像の一つだ。 これは施設にいるマリアに届けてやりたい。 そしてもう一つ。結局マリアの父親を死なせることになってしまったこの像は…… せめてこのマリア像は神父さんへ帰そう。 それが一番いい。 僕は支度をして、病院をあとにした。 僕は希望の丘教会への道を一歩一歩踏みしめながら歩いていた。 こんな気持ちでこの教会へ来るのは、考えてみれば初めてだった。 |
僕はこれまでのことを、洗いざらい全て神父さんに話した。 マリアの家の床下で僕が見つけた死体。それが僕の父親であることも。それを僕が隠したことも。 マリアの父親を殺したのが、父さんであることも。 |