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街 〜運命の交差点〜 のエンディング (市川文靖)


《深夜のコンビニ》

「いらっしゃいませェ」

私は真っすぐレジへ進んだ。

「宅配便、いいかな?」
「あ、ハイ、こちらに記入してください」

いつものバイト店員が差し出す用紙へ、テレビ太陽の住所とカバ沢の名前を書き込む。

「これで」
「ハイ、少々お待ちください」

店員はレジに何やら打ち込んで、用紙に二、三書き加えたあと、

「こちら、中味はどのような?」
「あ?」

私の顔からはきっと血の気が引いているのだろう。
バイト店員はあわてたようにつけ足した。

「いえ、壊れ物やナマものは入ってますか?」

私は思わず笑い出しそうになった。

「ああ……うん、生モノだ」
「ハイ……ええっと、ナマものは、どういったような……?」

私はにっこりと向き直って答えた。

「手首」

「は……?」

バイト学生のマヌケ面がおかしい。

「て……くび?」

私はていねいに云い直してやった。

「手くび……左のね、手首」

「ひっ……樋口ィ……!」

店員はあわてて仲間を呼んだ。
そこで私は堪え切れなくなった。

「ぷ……わははははははははははは……!」

奥からもう一人が飛んで来た。
私は金を払い、青ざめた表情の店員二人を後にして店を出た。


《視界にトラックが飛び込んでくる》

何か重くて固い物に体を弾き飛ばされた。
私はしかし倒れた体を起こすと、再び歩き出した。
突然……。


気付けば歩道に横たわっている。
ざわめきが押し寄せ、遠ざかって行く。


悔恨と呪詛に満ちた過去が脳裏に一斉に押しよせた。


「こりゃひどい! 体中血だらけ!」
「でもまだ生きてるわよ、この人!」
「救急車! 救急車!」
「絶望的だね……」

(くそ……ヤジ馬たちめ……!)

雑踏の暗い影が私の周りを囲み、好奇心に満ちた目だけが互いに何かを伝え合っている。

私は道路に倒れたままで、手首のない、麻痺した左手を高く掲げる。

「オレはもう自由だ!」

私は高らかに宣言する。

「わはははは!……聞いたか、オマエたち。オレは、もう自由なんだァ!」

腕は小刻みに震えている。
全身の震えも激しくなった。
開放感?……安堵感?……高揚?……幸福?……恍惚?……平成?


私はこのまま死ぬのだろうか……


突然、夜空に……

《渋谷の夜空に花火が上がる》


いや、私は生きていくのだ……。


シュレディンガーの手


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