★☆★ きまぐれストロベリーカフェ ★☆★
〜 町谷 一至 グッドえんでぃんぐ 〜
(一至の声…高橋 広樹)
卒業式も無事終わった校庭で…
話をしている苺と梨香。
《この部分は、『梨香 えんでぃんぐ』をご一読ください》
「いい、そーゆー数学的世界な日常の刺激はいらないっ。」
激しく首を横に振る苺。
〜・〜・〜・〜・ここまでは、全エンディング共通・〜・〜・〜・〜
そんな苺を見て、梨香は微笑んだ。
「ふふ、そうね。
きっと、こちらの刺激の方が、楽しめるのではないかしら。」
「こっちって?」
「お迎えが来ているわよ。」
「えっ?」
「それじゃあ、私は帰るわ。またね、苺ちゃん。」
「あ、うん。って、え、ちょっと、梨香!?」
「後ろ、振り返ってごらんなさい。
待たせてはだめよ。」
梨香の言葉に、苺が振り返ると…
「後ろって……あ。」
そこには、苺たちとは違う制服を着た、
そう、聖シフォン学園を今日卒業した一至が立っていた。
「やあ、なんとか間に合ったかな。
こっちの式が終わってすぐ、学校飛び出した甲斐があったね。
卒業おめでとう。
きみの制服姿もこれで見納めか。少しさみしいかな。」
「町谷くんもね、おめでと。
制服って、そんなどっかのおじさんみたいな…。」
「男の夢なんだよ。あんまり気にしないでくれるかい。」
「気にするよ。」
「まあ、まだ店の制服姿は拝めるからね。
そっちでがまんするよ。」
「がまんって…。
そういえば、大学行ってもバイト続けるんだって?
父さんに聞いてびっくりしたよ。てっきり、やめると思ってた。」
「どうして?俺はやめたりしないよ。やっと、やりたいことを見つけたんだ。
しかもマスターが帰ってきたんだよ。いろいろ教わるチャンスだね。
それに、なによりきみがいる。
こんな好条件、逃せないね。
そりゃあ、自分自身で働いて金を稼ぐことは大変だと
今でも思うよ。
今まで、そんなことも知らなかった自分が、
世間知らずだっただけだろうね。
でも、これならできる。いや、できるんじゃないな。
やりたいんだ。だからマスターにもちゃんと話をしたよ。
大学も、運よく俺の専攻は経営学なんだ。
役に立ちそうでよかったよ。
親に言われるままに選んだ学部、なんだけれどね。
少しだけ感謝しておこうかな。」
「…いつの間にか、あたしよりちゃんと将来のこと考えてるしなあ。
あたしも負けてらんないじゃない。
がんばらなきゃ。」
「そうだよ。きみががんばってくれないと、
俺ががんばる意味もないんだ。
きみのことを好きになるまで気づかなかったけれど、
俺って一点集中型らしくってね。
なにかに夢中になると、それ以外どうでもよくなるみたいだよ。
今は、きみと紅茶に夢中かな。
今まで味わったことがないくらい満たされた気分で、楽しい。
あ、今、頼りないと思ったね?
まあ、無理もないと思うよ。
俺だって、今、きみが好きだっていうこの気持ちが、
本当に恋愛感情なのか、自信がないんだからね。
正直、自信がないわけじゃなくて、わからないんだ。
今まで感じたことのない感情だから。
だから、無理にとは言わない。
きみの許容範囲内でいいから、
俺につきあってくれる……?」
それから数日後、苺の店
カウンターに座っている、一至の姉 風音(かざね)。
「ところで、苺さん。
こんなお話をご存じですかしら?」
風音が、微笑みながら尋ねた。
「え?」
「あの子のことですもの、きっと言ってないと思いますのよ。
妙なところで格好つけたがりですものね。
わたくしがばらしたというのは、内緒にしておいてくださいまし。」
「あの子ってことは…町谷くんのことですか?」
「そうですわ。驚いてくださいませね。
昨日あの子、お父様と大喧嘩しましたのよ。」
「え、ケンカ?うわ…、ウソ。」
驚く苺。
「本当ですわ。あやうく殴り合いになりそうでしたのよ。
つい妹と見学してしまいましたわ。」
「み、見てないで止めましょうよ。」
「あら、男の子は、父親を越えて初めて一人前の男になれるのですわ。
喧嘩のひとつやふたつやみっつは、温かい目で見守ってさしあげなくては。
ああ、楽しゅうございました。」
「それ、温かい目で見守るじゃなくて、
面白がって見守る、ですから。」
「うふふ、大目に見てくださいませ。
一至さんがお父様に逆らうなんて、生まれて初めて見たのですもの。」
「え、そうなんですか?意外だ…。」
「一至さん、好き勝手しているように見えますでしょう?
いえ、実際なさっているのですけど。
ですけれども、お父様の言いつけに逆らったことはありませんでしたの。
けっこう理不尽なものもありますのよ。
わたくしはもちろん、言いつけ破りの常習犯ですわ。
よく一至さんは我慢なさっていたと思いますけれど、
逆らうのも面倒だったのですわね、きっと。
その一至さんが、昨日初めてお父様に言い返しましたの。
なんて言ったと思われます?」
「え……わ、わかんないです。」
「お父様の会社も継がない、親が決めた婚約者もいらない、と。
自分で決めた道を歩く、だそうですわ。
お父様には二重の衝撃でしたのね。
それで、あやうく殴り合いになりそうでしたのよ。」
「うわー。思い切ったことするなあ……。」
「お父様も頑固でいらっしゃるから、しばらくは続きそうですわ。
わたくしは、一至さんの味方ですけれど。
苺さんも、応援してやってくださいませね。
ですけれども、わたくしがこのことをお教えしたのは内緒ですわよ?」
「わ、わかりました。バレないように、こっそりひっそり応援しときます。
町谷くんやる気あるから、父さんも喜んでるし…。
でも、風音さんも勇者ですねえ。」
「あら、当然ですわ。弟の恋路を邪魔して馬に蹴られるなんて、
ばかばかしいじゃありませんの。
それくらいでしたら、お父様の邪魔をしますわね。
もし、他人の恋路を邪魔しなければならないのでしたら、
もっとやりがいのあるところを探しますわ。」
「なんか、めちゃめちゃな理屈なんですけど、
つい納得しました。」
「うふふ、納得していただけて嬉しゅうございますわ。
あとは、苺さんがわたくしの義妹になられる日を、
心待ちにするだけですわね。」
「それは、かーなーり、飛躍しすぎです…。」
「ドレス選びの際は、わたくしにも声をかけてくださいませね?
楽しみにしておりますわ。」
「…聞いてないし。…ま、いっか。」
それから5年後……
店にいる苺と一至。
「まったく。家の両親ときたら、また旅行行っちゃうしなあ。
いーかげんにして欲しいよね、あれ。そう思わない?」
髪を短く切り、すっかり大人びた苺があきれたようにそう言った。
「うん?べつにいいじゃない。これも親孝行でしょ。
それに、今回は半年で帰ってくるって言ってたよ。
短い方だよね、きっと。」
あの頃、ただプレイボーイ風だった一至も、
ビジュアル的にも、そして内面も、
落ち着いたイイ大人の男に成長していた。
「半年で短い…まあ、そーだけど、
なんか、ものすごく歪んだ価値観が植えつけられてるよーな気がする。
あたしだけ?なんか違うと思う常識人はあたしだけなの?」
「俺は、きみと2人きりで店番できて、
少し嬉しいんだけどな。」
「また歯の浮くようなコトを…。」
「きみも慣れないね。」
「慣れたらつまんないくせに。」
「まあ、そうなんだけれど。
じゃあ、歯が浮くついでに、
勢いでこれも受け取ってくれるかな。」
一至は、小さな箱を差し出した。
「勢いって…なにこれ?」
「開けてみてよ。」
「いや、なんとなくサイズ的に予想がつくようなつかないような、
当たってもはずれても微妙なような。
当たってるなら嬉しいんだけど、
でも、はずれてたらぬか喜びで……」
「いいから、さっさと開ける!」
「は、はい。」
そっとふたを開ける苺。
中には、ブルーグリーンの石の付いた指輪…
「…これ、ターコイズ、だよね?」
「大当たり。12月の誕生石でしょ?
それはかなり小さいサイズだけどね。
俺だけの力だと、それが精一杯だけど、気持ちは本物だよ。
ずっとこの店で働いて、けっこうな時間が経って、
それでもやっぱり変わらなかった。
だからもう、そろそろこの気持ちに自信を持ってもいいかなって。
ねえ、俺と、結婚してくれる?」
「一緒に、お店やってくれるの?」
「もちろん。」
「お父さんは説得できたの?」
「風音さんが、一緒に言いくるめてくれたよ。」
「なら、なんも問題ないじゃない。
これ、もらっていいんだよね?」
「きみのためだけに買った指輪さ。
きみがもらってくれなかったら、なんの意味も価値もないよ。
だから……
ずっと、一緒にいて欲しいな。
どんな苦労も努力も、
きみと一緒なら乗り越えられるから。」
一至が注いだコーヒーのカップを、笑顔で受け取る苺…
〜 町谷 一至 グッドえんでぃんぐ おわり 〜