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季節を抱きしめてのグッドエンディング (2)


(結局、その晩は麻由を探し出す事はできなかった……)
(そしてあくる日も麻由は見つからなかった……)

(……そしてボクはふと思った)
(麻由は本当にここにいたんだろうか? 本当に記憶喪失の子だったのだろうか?)
(いや、間違いなく麻由は僕の部屋にいた。その事だけは紛れもない事実だ……)

(……もう一度会いたい……)
(……麻由に会いたい……)
(……麻由……)


バイト先のタウン誌編集部で占いコーナーを書く主人公。

(牡羊座のあなた)
(あなたは独りぼっちじゃありません。)
(あなたを必要としている人がいます。)
(その人は、あなたとの再会をきっと待っています)
(その人は、本当に真剣な気持ちで待っています)
(ラッキーメニューはチェリーパイです)
(土曜日の午後、初めての出会いの場所に行ってみてはいかがでしょうか)


(ボクはこうして麻由と出会った悲恋桜の下で麻由を待った)


(あぁ、ボクはなんて事しちゃったんだろう……)
(もう二度と会えなかったら、悔やんでも悔やみきれないよ……)

主人公の脳裏に、麻由が姿を消した雨の日のことが思い浮かぶ。

(……麻由の記憶は戻ったのだろうか?)
(そして、麻由は自分が誰なのか思い出したのだろうか……)
(いったい麻由はどこの誰だったんだろうか?) ※
(そしてあの時、麻由はボクになにを言いたかったのだろうか……?) ※
(あの桜の花びらの中に、ボクは麻由の姿を見た。いや、桜そのものに麻由を感じた) ※
(でも……それはただ、ボクがそう思ったにすぎないのだ……) ※

(……麻由はもういない……)
(……いないんだ……)

主人公「くぅぅぅ……麻由……」

握り締めた拳を悲恋桜の幹に叩きつける。

主人公「もう会えないなんてあんまりだ。このままじゃ辛すぎるよぉ! もっと麻由の力になりたいんだっ! もっと麻由のコトを知りたいんだっ! もっと一緒にいたかったんだよぉっ!!」


(……麻由が消えてから一週間が経った……)

(そして、あの木枯らしがウソのように暖かい春になった……)
(この間、僕は麻由を捜したが手がかりさえ見つからなかった……)

(そして気がつくと、ボクは必ずこの思い出の場所にいた……)
(もう麻由には会えないかもしれない……)
(だけど、この場所にいるとボクは心がなごむんだ……)

(この日、ボクは心地よい春の陽射しについ、ウトウトしてしまった……)


「ウフッ、おはよっ!」

咲き乱れる桜の花の中に、麻由の姿が浮かび上がる。

主人公「ま、麻由? いったい今までどこに?」
麻由「この前はごめんなさい。私、取り乱しちゃって……」
主人公「そうか、やっぱりあの雨の日、記憶が戻ったんだね……麻由」

麻由が頷く。

麻由「私は……〈桜の精〉……」
主人公「え?」
麻由「桜の樹々に……そして人々に…、春の訪れを伝え歩く事が〈桜の精〉の使命……」
主人公「そんな……麻由が〈桜の精〉だなんて……ボクは信じないよ、そんな事!」
麻由「私はまだ新米の〈桜の精〉なんです。それで、この枝垂れ桜に舞い降りた時、足を滑らせて…… どうも、それで記憶をなくしちゃったみたいなんです。フフッ……私って本当にドジですよね」
主人公「ははは、確かに……」

(ボクは麻由の可愛らしさに思わず笑ってしまった)

麻由「私、あなたに出会ってからの事、全部覚えてます。私のためにあなたがしれくれた事、すべて覚えてるんです。私、なんてお礼をしていいか……」
主人公「お礼なんて……それより麻由、また一緒に楽しい思い出を作ろうよ!」
麻由「…… 好きです……あなたの事……」
主人公「!」
麻由「でも、どうにもならないんです。私はあなたの世界では暮らせないんです。……私は春を告げる〈桜の精〉……」
主人公「そんな……」
麻由「楽しかったです。あなたと一緒にいられて。私にとっては一生の思い出です。いえ、思い出じゃなくて、あなたは私の心の中でずっと一緒に生きていくんです」
主人公「麻由の心の中で……生きてく……」

麻由が頷く。

麻由「桜の花の咲く時、私の事を少しでも思い出して下さい。あなたと一緒に思い出作りをした〈麻由〉の事を……」
麻由の姿が次第に消えてゆく。

麻由「来年もこの〈悲恋桜〉の下で、いえ、この〈思い出桜〉の下でお会いしましょう」
主人公「ああ、来年も会おう、きっとだよ、麻由……」


(ボクはポカポカした気分の中で、ふわっと浮き上がるように身体が軽くなるのを感じた……)


主人公「んーっ! 頑張るぞー!」

元気に歩き出す主人公。


(人には、それぞれ心の奥深く大切な思い出がある)
(それはもう二度と戻る事のない時間なのだ)
(それ故に、もっとも大切なかけがえのない思い出なのである)


(〈麻由〉という二人の女の子……)

(……ボクの大切な思い出……)


Good End 麻由編



季節を抱きしめてのノーマルエンディング (3)


グッドエンディング(2)の(だけど、この場所にいるとボクは心がなごむんだ……)より続く。
但し※印の台詞は無い。


(……麻由はどうしているんだろう……)
(麻由は本当にいたんだろうか……)
(あの子はボクが見た春の夢だったのだろうか)


(……ボクに残してくれた、この暖かな記憶だけは忘れることはないだろう……)


Nomal:3 麻由はどこへ?
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