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季節を抱きしめてのグッドエンディング (1)


大学生の主人公は、大学構内の桜の巨木「悲恋桜」の下で、記憶喪失の少女・麻由と出会った。麻由が、かつて主人公が愛し、そしてもうこの世にいない少女・麻由と瓜二つであったことから、主人公は麻由に惹かれて彼女を自宅に泊め、一緒に記憶を探し始める。
だが、ある雨の日、主人公のガールフレンド・トモコは彼の家を訪ね、麻由と鉢合わせしてしまう。怒り心頭のトモコ。
咄嗟に家を飛び出した麻由は、突如としてすべての記憶を取り戻し、そして姿を消す……


(その晩以来、麻由の姿を見る事はなかった)
(そして、トモコも麻由を捜し出すのに力を貸してくれた……)
(明るく、ボクを励ますように……)

(……麻由は記憶が戻ってどこかへ行ってしまったんだろうか……)
(あの麻由と過ごした時間は現実のものだったんだろうか……)

(ボクは麻由と、もう一度会いたかった……)
(会ってお礼が言いたかった……)
(ボクの心に、暖かい春を運んで来てくれた妖精に……)


悲恋桜の下に佇む主人公。

(そして気がつくと、ボクは必ずこの思い出の場所にいた……)
(もう麻由には会えないかもしれない……)
(だけど、この場所にいるとボクは心がなごむんだ……)

(この日、ボクは心地よい春の陽射しについ、ウトウトしてしまった……)


「ウフッ、おはよっ!」

咲き乱れる桜の花の中に、麻由の姿が浮かび上がる。

主人公「ま、麻由? いったい今までどこに?」
麻由「この前はごめんなさい。私、取り乱しちゃって……」
主人公「そうか、やっぱりあの雨の日、記憶が戻ったんだね……麻由」

麻由が頷く。

麻由「私は……〈桜の精〉……」
主人公「え?」
麻由「桜の樹々に……そして人々に…、春の訪れを伝え歩く事が〈桜の精〉の使命……」
主人公「そんな……麻由が〈桜の精〉だなんて……ボクは信じないよ、そんな事!」
麻由「私はまだ新米の〈桜の精〉なんです。それで、この枝垂れ桜に舞い降りた時、足を滑らせて…… どうも、それで記憶をなくしちゃったみたいなんです。フフッ……私って本当にドジですよね」
主人公「ははは、確かに……」

(ボクは麻由の可愛らしさに思わず笑ってしまった)

麻由「私、あなたに出会ってからの事、全部覚えてます。私のためにあなたがしれくれた事、すべて覚えてるんです。私、なんてお礼をしていいか……」
主人公「お礼なんて……」
麻由「私……トモコさんとあなたの事、ずっと気にしてました…… 私と出会ったばかりに、お二人に迷惑をかけてしまって……」
主人公「いいんだよ……もう…… 雨降って地固まるっていうだろう?…… ……そう思うと麻由は恵みの雨って所かな?」
麻由「そう言ってもらえると、とってもうれしいです…… 春は出会いの季節…… それを私のせいで別れの季節にしちゃったら私、春を彩る桜の精として失格ですもんね」
主人公「ははは……」
麻由「ウフフフ…… そろそろお別れの時間です。私、もっと春を、出会いの季節を他の所にも知らせなくちゃいけませんから……」
主人公「……また……会えるかな?……」
麻由「……桜の咲く…、この季節に……」
主人公「さようなら……麻由……」
麻由「さようなら……」


麻由の姿が次第に消えてゆく。


(ボクはポカポカした気分の中で、ふわっと浮き上がるように身体が軽くなるのを感じた……)

(それからしばらくして、遠くでボクを呼ぶ声が聞こえた)


いつしか目の前にトモコの姿が。

主人公「トモコ……」
トモコ「どうしちゃったの? こんなところで寝ちゃって。よっぽど疲れてんのね」

(なぜか最近トモコは、ボクを励ますかのように明るく振舞い、いつの間にか僕達も、以前と同じ仲のいい友達に戻っていた)

トモコ「さ、行くわよ。眠気覚ましに駅前のジリオラでおいしいカプチーノでも飲みましょ! さぁ、早くぅ!」

トモコが主人公の手をつかんで立ち上がらせる。

トモコ「あれ? いつの間にこんなに花が咲いたの、悲恋桜?」
主人公「ああ、春がやっと来たんだ。みんなに幸福を運んで……」
トモコ「な〜に一人で気取ってんのよ? ショートケーキもつけておごらせるわよっ!」

主人公「よしっ! 今日は天気いいから駅前まで歩くぞ!」
トモコ「ウソーッ! ねぇ、一時間はかかるわよ! もうすぐ学バスが来るって! どうしちゃったの?」
主人公「ん〜っ! 気持ちいいぞぉ〜っ!」
トモコ「ねぇ! ちょっと待ってよ! ねぇっ!」


元気に歩き出す主人公を、トモコが慌てて追いかけてゆく。


(人には、それぞれ心の奥深く大切な思い出がある)
(それはもう二度と戻る事のない時間なのだ)
(それ故に、もっとも大切なかけがえのない思い出なのである)


(〈麻由〉という二人の女の子……)

(……ボクの大切な思い出……)


Good End ベリーグッド!
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