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幻想のアルテミスのエンディング (泊瀬こずえ)


(後日……さらさのファッションショーは、成功裏に行なわれた。)
(幕引き直前に、さらさがこずえの内助の功をたたえて、舞台の上に引っ張り上げるというハプニングのオマケつきだ。)
(ハタ目にも慌てふためくこずえの姿は微笑ましかったが、初めて浴びるスポットライトの感触はまんざらでもなかったようだ……)
(これからつらいこともあるだろう。森里みどりのように、歪んだ世界へ踏み入れていく危険も、まったくないとは言えない……)
(しかし、こずえは自分自身の未来へ向けて、確実に一歩を踏み出した。)
(かく言うオレも……この学園で自分の未来を見つけていた。そう、オレは彼女と出会ったんだ。)
(これからの人生に、彼女の存在はなくてはならないモノになる……そう予感していた。)


恭一「こずえ……わざわざ呼び出したりしてゴメンよ」
こずえ「いいえ……恭一さんなら構わないです。それより何でしょう。私に大事な話って……」
恭一「あ、ああ。実はね、オレ……急な用事ができて、今日にもこの学園を去らなければいけなくなったんだ……」
こずえ「……えっ?」
恭一「だからその前に……こずえ、どうしても君に話しておきたいことがあるんだけど……いいかな?」
こずえ「は、はい……」
恭一「オレ……本当に短い間だったけど、こずえと知り合えてとても楽しかったよ…… もちろん、最初のうちは君がこの学園の生徒だから、特別な気持ちで見ていたのも事実だよ。だけど、君のことをもっと知っていくうちに…… アイドルなんかじゃない、普通の、一人の女の子としてのこずえがオレにとって大事な存在になってきたんだ…… だから、その……オレ……」
こずえ「恭一……さん?」
恭一「好きなんだ! こずえのことが……もうお別れなんて、そんなの耐えられないよ!! こんなオレだけど、ずっと付き合ってもらえないかな。その…… 正式な……恋人として……」
こずえ「……」


■ バッドエンド

こずえ「あの……恭一さんのお気持ちはとってもうれしいです……でも…… いまの私には歌が一番大切なんです。ほかのことを考える余裕なんてとても作れそうにありませんから…… もちろん、それって私のワガママなのもよくわかっているつもりですけど…… ……いまはやっぱりそっとしておいてほしいんです…… 本当にゴメンなさい。……さようなら……」


■ グッドエンド

こずえ「正直言うと……ついこの前までつらかったんです。歌うことが…… ただ音符に合わせて声を出すだけ……本当に心をこめて歌うってどういうことなのか、よくわかっていませんでした。ちょうどそんな時だったんです。恭一さんがこの学園にきて、私と接してくれるようになったのは…… ある時、恭一さんの事を考えながら唄っていたんです。その瞬間、歌声が変わったのが自分でもわかりました。本当に心をこめて歌うっていうのは、きっとそういうことなんですね…… だから、恭一さんさえよければ……あの……ありがとうございます……」


《レコーディングスタジオ》

恭一「やあ、こずえ……おそかったね。」
こずえ「ご、ごめんなさい恭一さん。何度もリテイク出しちゃって……それで……」
恭一「ははは、オレは全然かまわないさ。どう、デビュー曲レコーディングの感想は?」
こずえ「はい、すごく緊張したけど……とても楽しかったです!」
(みちがえるように明るくなったなあ。人間的にも大きく成長したんだろう……)
こずえ「でも、発売されても売れなかったらどうしよう……きっと、私なんかの歌じゃ……」
恭一「(ま、またすぐコレだ……) 大丈夫さ。こずえの歌声は、船乗りを惑わすローレライの妖精のそれだもの。大ヒットまちがいなしだよ。あ、でも、男どもを惑わせすぎて本当に難破させちゃったら大変だな……ははは!」
こずえ「ヤダ、恭一さんたら……ふふふ! ……ねえ、恭一さん。ローレライの妖精には、もうひとつの伝承があったんですよ。」
恭一「もうひとつの……?」
こずえ「ええ……彼女たち、本当は川の流れに惑わされた舟人を正しいほうに導いていたんですって…… 私も、そんな歌が歌えたらいいなと思うんです。私が強い心を持っていれば、きっと……」
恭一「……できるとも。こずえはもう、昔のこずえじゃない。オレがそばについててあげるから……」
こずえ「……恭一さん…… はい。私、がんばります!」


《スタッフロール》


■ 後日談

コンサート会場。
ステージ上のこずえが、大観衆から大きな歓声を浴びる。

こずえ「今日は、みなさん、本当にありがとうございます。私のファーストコンサートに、こんなに集まっていただいて……」

観客席から大歓声。

(いやはや、デビューして間もないってのに、この大人気だ……こずえの歌なら当然かもしれないけどな。)
こずえ「うふっ……どうも…… あの、それで、今日は、この場を借りてひと言、どうしてもお礼を言いたい人がいるんです…… その人は……日下部恭一さん……!」
(ええっ!?)
こずえ「恭一さんが支えてくれたおかげで私はいま、ここで歌うことができるんです。ありがとう……ほんとうに……」
(い……いや〜、こんな大観衆の前でそんなふうに言われちゃうと……)
こずえ「……えっ? あっ、はい。もちろん、恭一さんとは正式におつきあいさせていただいてます!」

観客席から大ブーイング。

(こっ……こずえっ! なんてコトを……)
こずえ「恭一さん、どうぞ! みなさんにひと言……」
(……うっ、みんなの目が一斉にこっちを……)
ファン「コイツか、恭一っていうのは! コレのこずえちゃんとつきあってるなんて、許せーん!」「そうだ! こずえちゃんを返せーっ!!」

観客席から再び大ブーイング。

恭一「こっ、こずえ! この場はひとまず逃げよう!」
こずえ「……えっ? どうしてですか……」
恭一「いいから、早くっ!」
こずえ「……はいっ!」
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