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白書

第1巻

― さよなら現世 の巻 ―


―― 浦飯 幽助 14歳 性格悪し このマンガの主人公らしいのだが ――

「オレが悪いんじゃねえ!子供が急に…」 「おい、もうダメなんじゃないか?」 「いいから早く救急車!」
道路のまん中、頭から血を流して倒れている幽助。そこへ救急車が来る。
―― どうやら 死んでしまったらしい ――
それを、空中に浮いて見下ろしている幽助。
「おいおいおい、どーなってんだ、こりゃ、オレがあそこに倒れてるじゃねーか?」
「ハイ、どいてください!道をあけてください!」
救急隊員が、泣いている小さな男の子を見て 「子供は無事だぞ、かすり傷だ。」
そして、 「こっちは…ダメだな…」と、幽助をタンカに乗せる。
「おい、待てよコラ!」 空中にあぐらをかいて声をかける幽助。
急いでタンカを運ぶ隊員、幽助がそれを追いかける。
「オイ、待てっつってんだよオッサン、オレはこっちにいんぞ、それじゃねーよ!」
止まらない隊員の後頭部を 「聞けよ、テメェ!!」と思いっきり殴ってみるが、スカッ!
ピーポーピーポー…走り去る救急車。
「こ…コイツは一体、どーなってんだ…冷静になって思い出せよ…
たしか今日は、10日ぶりぐれーに学校行って…」

3時間前
市立皿屋敷中学校
校内放送 ”浦飯幽助!!すぐ、指導室の竹中までこい!!”
屋上で、タバコを吸っている幽助。そこへやってくるクラスメートの瑩子。
「やっぱりココだった。あー!!またタバコなんて吸って、不良!!」
「…瑩子か、いつもいつもうるせーな、説教ブス。」
「うるさいってなによ、タバコは体に悪いのよ、カッコつけて、もォ。あー土足!
たまに学校来たかと思うと、すぐ悪さすんだから!!進級できないわよ、あんまりサボってると!!
竹中先生が呼んでるわよ、さっきから。あんたが行かないと、学級委員の私まで、しかられるんだから!」
「だアア、わ〜〜ったよ!!!行きゃいーんだろ、ったく…悪霊みてーにまとわりつきやがって。」
「好きで追っかけてんじゃないわよ!アタシだって、早く幼稚園からのくされ縁切りたいんだから。
早く、来なさいよ、全くもォ…」
行こうとする瑩子のスカートを、後ろからまくる幽助。 「うわー汚ねーパンツ、ウンコついてら」
バシィ!!瑩子は、思いっきりビンタを食らわす。
「バカ!くそ餓鬼、死んじゃえスケベ!!〜〜最低っ、昔っからちっとも進歩しないんだから!」
幽助は、ウヒョヒョヒョヒョ…と笑いながら、いつの間にかいなくなっている。
「あーー!また逃げられた!!ったく。」
それを、影から見ていた女子生徒たち…。「終わった?」
「なにやってんのよ、コソコソしちゃって?」
「だってー、浦飯君コワイんだもん。瑩子、よく平気で話せるよね〜。
先生達の中にだって、ビビって注意しない人いるのに。」
「そぉお?確かに下品で野蛮だけど、別に毒はないし…」
「でも、浦飯君のウワサってすごいのよ。町中の中学や高校のワルに命狙われてるとか、
すでに3つの暴力団からスカウトがきてるとか、一声かければ、2千人のゾクの人間が動くとか…」
「ちょっと、そんなことないわよ全然…確かにケンカは毎日してるみたいだし、
家に、変な人が、よく出入りしてるみたいだけど…」
「こわいよ、十分!!それで!」
「でも、2千人どころか、ふたりの人間も動かせないわよ、あいつ、友だち少ないんだから。
そーゆー変なウワサまに受けるから、どんどん誤解されちゃうのよ!」 「だって〜」

校内放送 ”浦飯、浦飯、至急指導室へこい!!”
幽助は、校舎の裏を歩いている。
「〜しつけーな、竹中のヤロー、オレをぶん殴るのが、趣味みてーなヤツだからな。」
そこへ聞こえてきたヒソヒソ話… 「マジかよ、それ」 「マジ、1万5千円もうけ」
見ると、2人の男子生徒が、座り込んでタバコを吸っている。
「町で、からんできたからさぁ、『オレは浦飯のいとこだ』って言ってやったのさ。」
「そしたら、サイフごと置いてったの?ケケケ。悪いヤツだねー。もしアイツにバレたら、殺されるぜ、お前!」
「バレやしねーよ。皿屋敷中の生徒は、たいがいやってんだから。ケンカの弱い優等生の、
生活の知恵ってやつよ。バカとハサミは使いようって言うだろ?」
そこで、やっと幽助がそばにいることに気づく2人。
「あ、あひっ!浦飯……くん。」 「あ…ゴ、ゴメ…た、助けて!」
壁にバーン!と手をつく幽助。 「ひぃぃぃ〜」
そして、不気味な笑顔で…「5百円、ちょーだい!」
「え?…え、あ、はい!今すぐ…」 慌てて5百円を出し、幽助に渡す男子生徒。
「サンキュ。」 立ち去ろうとする幽助を、直立不動で、(助かった〜)と、泣きながら見送る2人。
「コラ!!そこで、なにしてる!!」 突然現れた岩本先生。見るからに嫌なヤツ…
「貴様か…クズ野郎が。」 岩本先生が、幽助を睨みつける。 「あ?」 振り返る幽助。
「もう、心配ないぞ。お前ら、何された?何かとられただろ。」
「あ…いえ、なにも…」
「かくす必要なんかないぞ。オレは、その他大勢の教師の様に、見て見ぬ振りはしない。
不必要なウミは、学校からたたき出すからな。」
「んだと――」 幽助が、睨み返す。
岩本先生は、2人の足元に、タバコが落ちているのを見つけた。 あせる2人。
「く…タバコか…とことんカスだな浦飯!ええ?おい。ルールを守れないヤツは、最低の人間だ!
貴様のようなヤツは、学校に来る必要はない!!」
「うるせエよ、こっちの勝手なんだよ…」 「出て行け!!」 「おう」
さっさと校門を出てゆく幽助、タバコをくわえて火をつけようと…
ゴン!!後から、ゲンコツを食らわす男。
「っ痛――いてーな、だれだ、コラ!…あ!竹中!!」
「先生をつけろ、先生を!!」 竹中先生…年配ではあるが、悪い人ではなさそう。
「校門を出たとたんにタバコとは、どーゆー奴だ、お前は!」 「ほっといてくれよ」
「10日ぶりに学校来たかと思えば、昼前に下校か〜?社長にでもなったつもりか、幽助!!」
ゲンコツで、幽助の頭をゴリゴリ…。「帰れって言われたから、帰るんだよ」
「どーせ、また悪さしたんだろーが」 「なにもしてねーよ」
「…よし、その話もゆっくり聞こう。指導室へ来い!!茶ぐらい出すぞ。」
幽助の耳を引っ張って、ずんずん歩いてゆく竹中先生。
「いてててて、いてーな、はなせよ、くそ竹!!」
「今日は、夜まで帰さんからな。聞いとるか!!ん?」
「おぉ!?」 いつの間にか、へのへのもへじ人形の耳をつかまされている…(変わり身の術?)
横で手を振る幽助…「さらばだ」 「忍者か、おまえは!」
「じゃーなー」 「明日もこいよ!!幽助!!」
去って行く幽助の後姿を、いつまでも見ている竹中先生―
(ち…たまに学校行く気になりゃ、どいつもこいつも、したり顔で説教たれやがって、胸クソ悪い…)

幽助の家
玄関に、『浦飯 温子 幽助』 と書かれた表札が掛かっている。
家に帰ると、温子(幽助の母、しかし若干29歳)が、黒いスリップ姿でタバコをくわえてボーっとしていた。
「なんだよ、今お目覚めか?」 「…コーヒー入れてよ」 お湯を沸かし始める幽助。
「あんた、学校は?」 「頭きたからフケた」 
「行く気ないなら、やめちまいな!!学校だってタダじゃないんだよ。
アタシが14のときにゃ、学費はてめぇで稼いでたよ、もぉ…あー頭イタイ…」
コポコポ…コーヒーを入れる幽助 「〜オフクロまで説教かよ、いいかげんにしてくれよ」
「コゴトがいやなら、さっさと自立しな、甲斐性なし!」 「ヘイヘイ…」

「厄日だチクショ――!だんだん腹立ってきたぞ!」
幽助が町を歩くと、本屋のオバチャンがにらみつけたり、店が次々に閉まってゆく…。
(チクショー、地元じゃ有名になって、店にも入れねーや。ウチの中学の万引きは、
全部オレってことになってるらしーからな…ま、大体オレだけど)
と、突然周りを、数人の中学生に囲まれる幽助。
「浦飯〜〜」 幽助ににじり寄る桑原。背もでかいが、顔もでかい。
おまけに、キズだらけのジャガイモにちょっと似ている…それにしても、怖い。
「また、てめーか桑原、しつっこいな毎日毎日」
「うるせー勝負しろ!!皿屋敷中のナンバー1はオレだ!
今日こそてめーに、オレのクツの裏をなめさせてやっからな」
そう言って、幽助の胸倉をつかみ、自分の顔に引き寄せる桑原。
「ほぉ、今日オレ、キゲンわりーからな…とことん殴るぞ(ニッコリ…)」
幽助は、不敵に笑ったかと思うと、いきなり桑原の顔に一発!見る間につぶしジャガイモになる桑原の顔。
そして、桑原の全身がボコボコになるのに、さほど時間はかからなかった。
「鬼だ…」 「つ、強ェー」 桑原の子分は、幽助のすさまじさに、ただ、驚くばかり…
「あースッキリした」 立ち去る幽助。
「桑原さん、もー浦飯にちょっかい出すのやめましょーよ」
子分の言葉に、桑原は、ボロ雑巾のような顔で怒鳴り返した。
「うるせー!オレは勝つまでやるぞ!ヤツに会うまで、タメ年にケンカで負けたことなかったんだ。
このままじゃ、死んでも死にきれねーぜ!!」

―― そうだよ、学校と家で小言くらって、いつものよーに桑原のバカぶん殴って…そのあと…
子供にあったんだ……

大通りの歩道、転がって来たボールを拾い、追いかけてきた小さな男の子に渡してやる幽助。
「コラ、ガキ、危ねーだろっ、ここはけっこー車が通るんだぞ。」
「………」 幽助を見つめたまま、動かない男の子。
そこで、幽助は、ボールから顔を出したり引っ込めたりして、笑わせようとしたが…
そのコはぢ〜〜〜…っと見ているだけ。
(う!うけない…けっこー自信あったのに) 意地になる幽助…
学ランを頭からかぶり、割り箸を鼻と下唇につっかえ棒みたいにして、ヒョヒョヒョヒョ…と、踊りだす。
これには、ぼーやも大満足!大うけしている。
(フ…オレの芸も、まだまだ捨てたもんじゃねーな) 密かに充実感を味わっている幽助。
「いいか、危ねーから、道路に飛び出すなよ。もっと別のとこでやれ!」
きりっと言ってやったが、割り箸のお陰で、今一つ説得力がない…。
案の定、離れて見ていたが、男の子は、ボール遊びをやめる気配がない。
「…まだやってら、しょーがねーな、バカガキ!」
すると、ボールがコロコロと車道に…!追いかけようとする男の子。
「おい!!アブネーぞ、道路に出るな!!」 叫ぶ幽助。
しかし、男の子は、ボールだけを見て、車道に出てきてしまう。そこへ、一台の車が…!!
「バカ、来るなっ!!」 幽助は、猛然とダッシュして、男の子が車にぶつかる寸前、突き飛ばした!
そして…ギギギ〜…ドン!!

「……そうだ…オレがひかれたんだ…」 ――オレは、死んだのか…
空中に浮かんでいる幽助。 「じゃ、ここにいるオレは、まさか、幽霊ってやつか…?」
「ピンポンピンポーン!意外とものわかりが早いわね。」
いつの間にかやって来た、ボートのオールのような物に腰掛けて浮いている、着物を着た女。
「こーゆー突発事故だと多いのよ、自分が死んだこと信じない人。
そして、成仏できなくて、浮遊霊か地縛霊になっちゃうのよねーっ。」
「………誰だよ、オメー」
「あたしは、三途の川の水先案内人ぼたんちゃんよ。西洋でいうところの死神ってやつかな、ヨロシクね。」
そのぼたんちゃんに、ガンたれる幽助… 「ヨロシクじゃねーんだよコラ、ねーちゃん」
「あの世の使いに、ガンをくれないよーに、ガンを…」
「こー見えても、けっこうショック受けてんだからよ。なにがピンポンピンポンだ、このバカ。
もう少し、沈痛な面持ちで出てこいっつーの!」
「…なるほど、えんま帳の写し、そのまんまの性格みたいね。あたしを見て驚くどころか、毒づくなんて」
手帳を取り出すぼたん。 「浦飯幽助14歳 性格 粗野で乱暴 短気で無鉄砲 その上 手クセが悪いし
頭も悪い カツアゲ・万引き・ケンカ・喫煙・飲酒・賭博・補導の常習犯などなど…
悪の申し子みたいな子ねー。死んでよかったんじゃないのー」
「大きなお世話だよ!…よォ、ところでよ、オレが突き飛ばしたガキどうなった?」
「気になる?様子見てみる?」

病院
「額と手を少しすりむいていますが、骨や脳波には、全く異常ないですよ。」
医者にそう言われて、男の子を抱きしめる母親。 「ああ…!!よかったマサル!」
額にガーゼが貼られているものの、元気そうな男の子。
「あの…この子を、マサルを助けてくださった学生の方は…」
「残念ですが…」 「そ、そんな…じゃ、その子は、マサルの身代わりに…」
その様子を、窓の外から見ている幽助とぼたん。
「…そっか、無事だったか…」 安心する幽助…心から(良かった)という顔をしている。
そんな幽助の顔を見て、(ほぉ…)という表情のぼたん。
「なら、いいや、もう思い残すことねェや。ぼたんとか言ったな、地獄でもどこでも連れてってくれよ。」
ぼたんは、それを聞いて、クスクス笑い出した。
「なにが、おかしいんだよ!」
「かんちがいしてるね…。あたしは、あんたを連れにきたんじゃないの!
生き返るための試練を、受けるかどうかを聞きに来たんだよ。」
「…試練…?生き…返る…?どーゆーこった?そりゃ…」
「ん〜〜なんて言ったらいいかしら…実を言うとねェ、あんたの死は予定外なんだ、霊界にとって。
まさか、あんたが身を捨てて子供を助けるなんて、お釈迦様でも思わなくってさ…
まだ、極楽にも地獄にも、あんたの行き場はないんだよ。」
「…行き場が、ないだぁ―!?なんでだよ、オレ、あの子供の身代わりに死んだんだろ?
それが、予定外だってのか?」
おもむろにエンマ帳を見るぼたん。
「ん―っ、ショック受けると思って黙ってるつもりだったんだけど…実はあの子、あそこで、
車にひかれるけど、奇跡的に、かすり傷ひとつ負わずに助かるはずだったんだよね―っ」
「え…かすり傷ひとつも…」
「そう、ボールがクッションになってね。だから、言いにくいんだけど…
あんたが死んだだけ、ムダ
だったんだよね―っ」
ゴン! 幽助の頭に、『ムダ』の大きな文字が直撃。
「ショックかい?まぁ、そりゃそうだろーねーははは―無傷で助かる子供をケガさせた上、
本人は死んじゃうなんて、バカみたいだもんね。」
ガラガラ…! 今度は、『バカみたい』の文字に、つぶされる幽助…涙目で、殴りかかろうとする。
「あーっ、落ち着いて、そのかわりチャンスはあるって言ってるだろ?生き返るための
試練を受けることが出来るのよ、あんたは…」
「……………」
「あんたみたいなケースは、百年に一度あるかないかのハプニングらしいから、あたしも、
どんな試練なのか知らないけどさ、このままだと確実に浮遊霊になっちゃって、成仏出来ないよ。
それなら、ダメでもともと、試練受けた方が得ってもんだわさ。どうだい?悪い話じゃないだろ?」
「……いや…いいや。」 「え?」
「いいや、幽霊のまんまで、生き返ったってどーせロクなことねーしさ。」 「おや…」
「オレが死んで、みんなせーせーしてるだろーしさ、生き返ったってヒンシュクかうだけさ。
オレのオフクロ、まだ29だからなー、オレがいなくなりゃ、まだそれなりの男つかまえられるだろうしな。」
「さびしい事言うねー14の身空で…まぁ、急いで結論出さなくてもいいよ…
自分の通夜でも見て、じっくり考えなよ、返事は、その時でいいからさ…」
そういい残し、ぼたんは、空の上の方へ消えて行った。
「……………」 一人、空中に残る幽助。

そして――
夕刻、幽助の家、棺おけの前に簡単な祭壇。幽助の情けない顔の遺影がかざってある。
すぐ横に、まるで魂がぬけてしまったような温子が、膝を立てて座っている。
次々訪れる弔問客…その様子を、空中に浮いて見下ろしている幽助。
そこへやってくる制服姿の一団体…。
(お…学校の奴等だ…ヤローども、人が死んだってのにヘラヘラ笑いやがって…)
その中に、一人、泣きじゃくる女子生徒がいる… (瑩子……)
その時、「まずいですよ、帰りましょうよ!」 「うるせェ放せ!!」
子分たちの抑えるのも聞かず、ものすごい顔でやってくる桑原。
「ゼーゼー…キタネェぞ、勝ちっぱなしでくたばりやがって!!」 「桑原さん、霊前ですよ!」
「テメェを殺すのはオレだ!聞いてんのかコラァ!!」 「聞こえるはずないでしょ!!」
「生き返れチクショオ!!戻って勝負しろコノヤロウ!!」 絶叫ー!!
しかし、家に入る前に、子分たちに押し戻される桑原…「浦飯〜っ!」と叫びながら去る。
(…はは…バカな奴…) 幽助、苦笑い。
「…なんだ、あいつらは。」 帰っていく桑原たちを、冷ややかな目つきで見ている岩本先生。
「浦飯のつきあっていた連中らしいですね。騒がしいこと、この上ない…」 と、もう一人の先生。
「全く非常識な奴等だ。まぁ、最後にいいことをやって死んでくれたお陰で、我が校の株は上がったがな…」
相変わらず、嫌な奴…。
「今回だって、子供蹴っ飛ばしたとこに、たまたま車が来たんじゃないですかね(ニヤッ)」
「フ…十分、あり得る…ククク…」
その2人を、にらむ幽助。 (ヤロ〜言いたい放題ぬかしやがって!!)
すると、2人の襟首を、後ろからグイ!と引っぱり、後ろを向かせる男がいた……竹中先生だ!
「彼らの行動と、今のあんたらのセリフ、一体どっちが非常識だというのかね!」
ちょっとアセる2人の先生と、それだけ言って、幽助の家に入ってゆく竹中先生。
(竹中……) 幽助は、竹中先生の後に付いて、家に入る。
竹中先生は、いまだ抜け殻のような温子の前で、丁寧にお辞儀をし、幽助の祭壇の前に座る。
しばらく幽助の遺影をじっと見ていた先生、そして、静かに幽助の遺影に向かって話し始めた。
「…ビックリしたぞ、幽助…お前が、子供を助けたって聞いたときは……おまえがなぁ……
しかし、…しかしなぜかな……ちっとも、ほめる気がしないのは……」 肩をふるわせる…
「幽助…ひっ…ひぐ…え…ひ……ひぃーーーーん…」 幼子のように泣き出す温子…。
(…………) 幽助は、そんな2人をじっと見ている。
少しして、幽助が助けた男の子が、母親に手を引かれてやって来た。
祭壇の前に座る2人。 「さ、お兄ちゃんにあいさつして…」 「うん。」
男の子は、包帯をした小さな手を合わせて 「おにいちゃん、ありがとうございました!!」
と、元気に言った…しかし、返事がないのが不思議なようだ。
母親は、温子に向かって深々と頭を下げたが、ついに、温子が、膝の間にうずめた顔を上げることはなかった。
夜道を帰ってゆく男の子と母親を、上から見ている幽助…
(バーカ…お礼なんか、いいんだよ…オレが…オレが助けたわけじゃねーんだぞ…)
ふと、街灯の下で、立ち止まる男の子。
「ねェママ、おにいちゃん、箱の中でなにしてたの?…ねてたのー?」 「そ、そうね…」
「ママ!おにいちゃんが起きたら、また来ようね!起きてるときに、ちゃんと『ありがとう』いいたいな!!」
母親は、男の子の前にしゃがみ、目にいっぱい涙をためて言った。
「…それは、できないの…」 「どうして―?」
思い切り男の子を抱きしめる母親…「だめなのよ…」 「なんで―?」 「だめなの……」

あぐらをかいて、浮かんでいる幽助…それを、じーっと見ている。
「なぁ…ぼたん」
いつの間にか、幽助の後ろにいるぼたん 「なんだい?」

「………生き返るための試練てやつ……受けてーんだ」


― さよなら現世の巻 終わり ―


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