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遊戯王@

― 遊闘(バトル)1 神のパズル ―


ゲームの歴史 ――
それは 遥か五千年もの昔
古代エジプトまで さかのぼるという ――
古代におけるゲームは
人間や王の未来を予言し 運命を決める
魔術的な儀式であった

それらは 「闇のゲーム」 と 呼ばれた


〜 童実野高校 1年B組 (主人公 武藤 遊戯 の教室) 〜
「昼休みだぜー、バスケやるぞー!」
「女子も混ぜてやるぜー!」
「おい遊戯!ひとりでゲームばっかやってないで、たまにはバスケでもやらねー?」
遊戯は、席に座って、ひとり『黒ひげ危機一髪』のようなゲームに興じている。
「……いいよぉ〜ボクの入ったチーム、負けちゃうから…」
髪型はかなり派手だが、小さくて、気が弱そうで…かわいらしい少年のような遊戯。
「たまには、みんなでゲームをやりたいな…かばんにゲームをたくさん入れて
学校にきてるんだけどな…」 かばんを、ごそごそ…。
「そーだ!今日こそアレを完成させるぞ!いつも持ち歩いてる宝物!」
遊戯は、象形文字らしき模様で飾られた、オルゴールのような箱を取り出した。
(この箱の中に、ボクの宝物が入ってるんだけど、絶対、秘密だぜ!
それではクイズです!この中の宝物は『見えるんだけど、見た事ないモノ』です。
さあ、何だと思う? その答えは ――)
遊戯が、箱のフタを開こうとした時、横から、それをサッと取り上げた同じクラスの本田。
その横には、城之内。
「へへ〜遊戯ぃ、何独り言しゃべってんだ〜!暗い指数200%だぜ!
ほー、これがコイツの宝物だそーだぜ!」
「見えるんだけど、見たことねぇだ〜?」
「返してくれよ!本田くん〜」
「ホーレ、城之内、パース!」
「あ!ちょっと、大事に扱ってくれよな!」
その箱を受け取って、城之内は、それをこれ見よがしにもてあそびながら言った。
「ったくー女じゃあるまいし、こんな箱大事にしやがって、お前見てるとよー、
なんつぅか、こう煮え切らねーつうか、イライラするぜ!
そこでだ遊戯!オレ様が、お前を男らしくするための指導をしてやるぜー!!
そーら!この箱、取り返してぇんだろ、なら、思い切りかかって来〜い!」
「ボク、ケンカとか暴力、大キライ〜〜!とにかく、その箱、返してよ…」
「いやだね。」 意地悪そうに笑う本田。
「ところで、この箱何が入ってんだぁ?のぞいて見よーぜ!」
城之内は、その箱のふたを開こうと…
「み…見てもいいけど、絶対なくさないでよ!!スゲー大切なモノなんだから!」
遊戯は、パフパフあわてて叫んだ。
パカッ!そっと中をのぞく城之内。しかし、すぐ閉じて
「なんでーつまんねーモン。ほれ、本田!」
と、箱を本田に投げた。
それを、バッと横取りしたのは…
「あんた達がつまらないんなら、返してあげなさいよ!遊戯に!」
― この子は、真崎 杏子(あんず)小学校ン時からの幼なじみなんだ!
勝気だけど、けっこーいい奴! ―
「私はね、弱い者いじめするあんたらの顔の方が、ずーっとつまんないよ!
あっち行きな!」 本田と城ノ内をにらみつける杏子。
杏子の苦手な二人は、足をうずまきマークにして、逃げて行った。
「くそーでしゃばりオンナ!」 「いつか決着つけてやるかんなー覚えてろ!」
杏子は、箱を遊戯に返してやった。
「ハイこれ、大切な物なんでしょ。」
「サンキュー杏子。しかし、さすがだなー、杏子の一言で、あいつら逃げてったぜ!」
「あーゆうのはね、こっちがおとなしくしてると、つけ上がるんだよ。
遊戯も、たまにはガツンとかましてやんなきゃ!」
たらーん…遊戯は、杏子の半分くらいの大きさに…
「このクラスの男は、あんな連中ばっか!さっきもバスケでやたら男が、女子にパス回すから
変だと思ったら…のぞいてやんの、女子がシュートするの、体勢低くしてー!最低!
すぐやめてきちゃった!スカートはいてバスケはやらない、これ教訓ね!」
ドキッ! 遊戯の頭に浮かぶ、スカートがめくれて見えるパンツ… (いい!!バスケ!)
「おい、なにソーゾーしてる…遊戯、ところでさー、なんなのこれ?」
箱を、指差す杏子。
「そっかー、これ、杏子にも見せてなかったっけー、秘密守るなら見せてあげるぜー」
遊戯が、そっと箱のふたを取ると、中には組み立て式おもちゃの部品のようなものが、
たくさん入っている。
「へーー、きれいじゃん、金色に輝いてる…これ、何かの部品?バラバラだけど…」
「パズルだよ!まだ完成させたことないから、どんな形になるかわかんないけど、
つまりーー『見えるんだけど、見たことない』モノなんだ!
ボクん家ゲーム屋だろ!いろんな国の珍しいゲーム売ってるー
これ昔、店の棚のすみっこでホコリかぶってたのをもらっちゃったんだ。
このパズルは、じいちゃんのカタミで、特に気に入ってるんだ。」
「(カタミって……)遊戯のおじいちゃん、死んじゃったのー!!
(そっかー、大切なハズだよね…)」
「このパズルは、エジプトの遺跡で見つかったんだってさ!」
「エジプトねえ……」
「ホラ!箱のまわりにヘンな文字がきざまれてるだろ。ボクが推測するに、
こんな意味のことが書いてあると思うぜーーー
このパズルを解いた人には、もれなく願いをひとつ叶えてあげよー
ってさ!へへ…ちょっと都合がよすぎるかな…
これ、杏子にしか話してないんだぞー。絶対チクんなよー秘密だからなー」
「わかってる遊戯!信じろ!」
「でも、このパズルちょー難しくてさー8年もトライしてんのに、未だに完成しないんだ。
たまに、落ち込むぜー」
「遊戯、頑張りな!願いがこもってるんでしょ!」
「うん、がんばるぜーー」
「……で、なんなの?その『願い』って」
「ダメダメーーーっ…これだけは、絶対3秘密のナイショだぜーっ!
(超完全密封真空パック状態の永久保存版さ!)」

廊下を歩く、城之内と本田。
「くそー頭くんぜーあのタコ女ー!!誰が弱いモンいじめだーつの!」
「城之内…それ、たぶんオレ達だよ、ウン!」
と、二人の真正面から歩いてきて、どん!とぶつかる大きな生徒がいた。
その男は、デビルマンのような鋭い目つきで、ギロッ!と二人をにらんだ。
「お前ら、『いじめ』がどうしたってぇ…」
「!ぁんでもねぇよ!ひっこ…」 と、くってかかろうとした城之内の口を、
慌てて本田がふさいで、押さえつけた。
「あ、いや…な…何でもないですよ〜〜(へらへら)」
「いじめは、よくねえぜ!」 もう一度にらんで通り過ぎる、大きな生徒。
「ヘイ、ごもっともで〜〜!!『城之内!誰にケンカ売ってんだ!アホ!鬼風紀の牛尾だぞ。
学校の規律は全て奴がしきってる!先公すらビビって口も出さねーほどだ。』」
本田は、牛尾が完全に見えなくなって、やっと城之内の口を離した。
「プハァー、てめ〜苦しいじゃねーか〜!牛尾〜てめーいつか勝負してやるぜ〜!!」
ビビりまくっている本田の横で、思いっきり強がる城之内。
「くそ〜おもしろくねー事ばっかだぜ!」 本田が、廊下の壁を蹴る。
「そうだ、おもしれーモンならあるぜ!」
そう言って、城之内はポケットから、目玉のような模様の付いた部品を出した。
「なんだ、そりゃ…」
「これは、さっき遊戯の箱から、こっそり持ち出したもんよ!チラッとしか中身見えなかったけど
パズルのようなモンだったことは確かよ。つまりよー、このパーツ一個でもなくなりゃ
『宝であって宝でなくなる』ってワケよー!」
「うわおっっっ、城之内くん、やるぅ〜ん!」←角刈りの本田のセリフ
「こいつをよー、こうしてやるぜー!!」
城之内は、その目玉の付いたパーツを、窓から思い切り投げた。
そのパーツは、プールにチャポーン!
(けっ、何が宝だ…男のくさったヤローみてぇに!!
そーゆーとこ、むかつくんだぜ!) ちょっとうつむき加減の城之内…
プールの底、目玉のパーツが、まるで上を見つめているように沈んでいる。
ゴ、ゴ……かすかに、音がしている。

放課後 ―
校門から出てくる遊戯。 「よーし、早く帰って、パズルを完成させるぞ!」
急ごうとする遊戯に、声をかける人がいる。
…それは、でかい牛尾だった。どうやら、待ち伏せしていたらしい。
「遊戯くん…だよな君…オレは風紀委員の牛尾というものだがー
君に聞きたいことがあってね。
君、クラスの特定の生徒に、いじめられてるんじゃないのかい?」
「エ〜〜〜ボク、そんなことされてないですよー」
「まあ待て!そーいう人種こそ、そー受け答えするものだ!
それに、ちゃんと調べはついているのだ!」
「!?」 まったく、ワケがわからない遊戯。
「フフ、だが安心していいぞ、遊戯くん!今日から、この牛尾が責任をもって
君のボディーガードを買って出よう!!」
牛尾は、遊戯の肩をポン!とたたき、威圧。
「え…あ…あの…ボク、本当にそんなことないですから…
それじゃあ…ありがとうございます…」 立ち去る遊戯 (なんだ?ヘンな人…)
その後姿を、牛尾は、ニヤリと笑って見ている。
(フフ…こりゃ、いいカモ見つけたぜ…!)

〜 遊戯の家(ゲーム販売店) 〜
「ただいー」と、遊戯が中へ入ろうとすると、
「遊戯!」 と、後ろから声をかける人。
「あー杏子!」
「へへー久しぶりに遊びにきちゃった。」
遊戯と杏子が、ゲーム店の中へ入ると…
「いらっしゃい。」 ドドーン!と現れたじーちゃん。
(武藤 双六…きっと、遊戯が歳をとったら、こうなるんじゃないかなぁ…と思われる風貌)
「ギャアアアア〜〜〜〜!」 思いっきり叫ぶ杏子。
「アレまぁ、杏子ちゃん!ひどいのーヒトの顔見て、悲鳴あげるとはー」
「こ…今日は…!『ちょっと遊戯どーゆーコトよ!さっき、じーちゃんのカタミって言ったじゃん!』」
「あ〜〜アレ、カタミになる予定ってコト!」
「殺すなよな〜〜」 ツッこむじーちゃん…さらに、
「それにしても、杏子ちゃん、しばらく見んうちに大きくなって…
とくに胸じゃ、いよいよ80の大台ってとこかのー!」
「はは…(なんなの、このじーさん…)」 杏子、引く…
「杏子ーオレの部屋でパズルやろーぜ!じーちゃん、麦茶ーっ!」
杏子を連れて、二階に上がってゆく遊戯。
「なんじゃ、遊戯…まだ例のパズルあきらめとらんのか〜?」
「だれが、あきらめるって…」
「あの『千年パズル』は、人智を越えたものじゃ!お前には、無理じゃよ。
それに、いろいろないわくも、つきまとってるしのー」
「いわくって…」 気味悪そうに、杏子がたずねた。
「『千年パズル』が見つかったのは、今世紀初頭――
イギリスの王墓発掘隊が、王家の谷のファラオの墓から持ち出したものじゃ。
じゃが、その後、その発掘にたち合った者は、全員謎の死をとげておる…
そして、最後の一人は、こう言い残して息絶えたそうじゃ…
『闇のゲーム』…………と。」 ちょっと怖い顔のじーちゃん。
すっかり青くなって、杏子が言った。
「遊戯…ヤバいよーそのパズル…」
しかし、遊戯は、ますますワクワクしてきた!という表情だ。
「『闇のゲーム』って何だろー?気になるぜー」
じーちゃんは、続けた。
「この箱には、こう文字が刻まれとるそうじゃ…
『闇を束ねし者 闇の知恵と力を与えられん…』」
それを聞いて、一段とワクワクし出す遊戯。
「やっぱり願いが叶うんだぜー、燃えてきたー!!絶対完成させるぞー!!」
「やっぱ、それ返して!高く売れる!!」 遊戯から、箱を取り上げようとするじーちゃん。
「結局、売りたいだけじゃん!」 遊戯、逃げる。
「返せー」 「やだねーこれ、じーちゃんのカタミだぜ!」
「このーまたワシを殺すかぁ!」 ドタ、バタ… それを、あきれて見ている杏子。

夜 遊戯の部屋 ―
カチャ、カチャ…遊戯が、一生懸命パズルを組み立てている。
「うーん、ここから先が、ツマっちゃうんだよな…」
何度やっても、うまくいかない…その内、机に伏して眠ってしまう遊戯。
ゴ、ゴ…遊戯の手の近くの、半ば組み立てられたパズルが、かすかに音を…

― 翌日
教室で、大あくびしている遊戯のところへ、牛尾がやって来た。
「遊戯くん!ちょっと、いいかな…」
校舎の裏手に、牛尾に連れられて、遊戯が歩いてくる。
「牛尾さん…見せたいものって、何ですか〜??」
「フフ…まあ、ついて着たまえ。きっと喜んでもらえるハズだ…」
しばらくして、立ち止まった牛尾の横から、その先を遊戯がのぞいてみると…!!
「フフ、見たまえ!遊戯くん。」 
そこにいたのは、ボコボコにされ、血だらけになった本田と城之内だった!
二人とも、原型をとどめない顔をしてへたり込んでいる。
驚く遊戯! 「城之内くん!!本田くん!!こ…これは一体…!?!?」
牛尾は、不敵な笑みを浮かべ、遊戯を見下ろした。
「言ったハズだよ…遊戯くん…この牛尾、君のボディーガードを買って出ると…ね!
だから、制裁を加えてやったのだよ!このいじめっ子どもにね!」
二人に、駆け寄る遊戯。
「そ…そんな…!牛尾さん、こんなのヒドすぎるよ!!
だ…大丈夫かい?城之内くん!本田くん!」
城之内は、しぼり出すように、こう言った。
「遊戯…てめえ…気が済んだかよ…」
「…!?違うよ、ボクが、こんなヒドいことを頼んだとでも…!?」
そう否定しようとする遊戯を、牛尾が突き飛ばす。
「どけ!遊戯、まだ制裁は終わったわけではない!」
そして、倒れこんでいる城之内の腹を、ドカッ!と思い切り蹴り上げた!」
「やめろ!」 二人の前に、立ちはだかる遊戯。
「おやおや!?遊戯、お前、こいつらをかばうっていうのか?変なヤツだなー
今までの恨みを晴らすチャンスなんだぞ。殴れよ!蹴れよ!」
牛尾の言葉に、遊戯は怒鳴り返した。
友達に、そんなコトできる訳ないだろ!!
(……!!) ハッとする城之内。
「ハハハハ…おめでたいヤツだな、今、友達と言ったのか…
日頃、お前をいじめ、パシリをさせてきた連中だぞ!」
「イジメられてるんじゃなくて…オトコの指導なんだけど〜〜」
「まあ、いいや…ところで遊戯くん!お前には、払うモン払ってもらうぜ!
ボディーガード料…しめて二十万だ!」
「なんだってェ!二十万円!!」
「クク…二十万で、こいつらを好きなだけ殴れるんだぞ…
日頃のウサ晴らしができるんだ、安いモンだと思うがねー」
「………」 遊戯は、すっかり小さくなって黙ってしまった。
「おやおや、なら、その二人をもっと痛めつけないと、満足してもらえないワケか…」
「もうこれ以上、二人に手を出さないで!やるんならボクをやりなよ!」
勇気を出し、目をつぶって、もう一度、二人の前に立ちはだかる遊戯。
(!!) 城之内が、再びハッとする。
遊戯の胸倉をつかんで、グイと持ち上げる牛尾。
「ヘン通り越してイカれてるぜ、お前…わかったよ、望みどおりにしてやるよ…
本来オレは、イジメはキライなんだよ…これからする事は『イジメ』ではなく『警告』なのさ。
カネ払わねーとどーなるかー前もって、お前の体に覚えといてもらおうか!」
そう言ったかと思うと、ガッ!と遊戯の頬を思い切り殴った!
遊戯の小さな体が、宙に舞い、そしてその体が地面に落ちる前に、
今度は、ドゴッ!と膝蹴りをかます。
(な…なんで…なんでなんだよ…いつもみてーにおとなしくしてりゃあ…
なにも抵抗しなけりゃ、痛い目なんか合わねーのによぉ…
オレらをかばう…!?だと…!!遊戯…!)
城之内は、腫れた目を必死に開いて、ただ殴られている遊戯を見ながら思った。
遊戯は、ボコボコにされながら、(ボクはパズルに願ったんだ…親友が欲しいって…
どんな時でも裏切らない…そして、裏切られない…親友…!どんな時でも裏切らない!!)
そう思い、じっと痛みに耐えた…
「まあ、これくらいにしておくぜ、いいな!明日までに金持って来い!二十万だ!!」
牛尾は、もう一度遊戯を蹴飛ばすと、ふところからナイフを取り出し
「約束破ったら、今程度の痛みじゃ済まないぜ…もっと強烈な痛みを教えてやるぜ…
こいつのよ…」
そう言い残し、高笑いしながら去って行った。
壁にもたれて、動けないくらい痛めつけられた遊戯…
(くそ…牛尾のヤツ…アイツこそ悪党の中の悪党さ!でも…どうすることもできないよ…
アイツは体も大きいし、力もすごいし…ボクなんか百年かかっても歯がたたない…
くそ…おとなしく金を渡すしか、ないのかよ…)

その夜 遊戯の部屋 ―
「あいたた…」
腫れあがって、絆創膏だらけの顔をさすりながら、遊戯が、貯金箱の金を数えている。
「千六百五十六円…あ〜どうしよう…二十万円だってぇ〜〜〜そんな大金あるワケないじゃないか…
どうする…払わなけりゃ、また痛い目に合うんだぞ…」
遊戯は、無意識に、例のパズルをカチャカチャいじっていた。
「あ!なんでパズルなんかやってるんだ、そんな場合じゃないのに…」
(でも、考えたところで解決策が見つかるワケでもないし…
こうしてパズルを解いていれば、少しは気が晴れるよ…)
カチャ カチャ カチャ カチャ……カチ!
「あ、うまく、はまった…そうか、こいつは、いったんはめ込んだら半回転させればよかったのか…
そうすればコイツも…はまるハズ…ホラ!
不思議だ…今日はスラスラ、パズルが解けていく…気分転換なのに…」
カチャ カチャ カチャ カチャ……カチッ!!
「………!! で、で…出来た…!?」
一箇所を残して、黄金のピラミッド型に組み立てられたパズル…
「最後のパーツを、はめ込んだら完成だ!!」
遊戯は、箱に手を伸ばした…しかし!
「え…!?ない…最後のパーツが、ない…!!ない!」
箱は、もう空っぽ…!あわてて部屋のあちこちを探し回る遊戯。
しかし…パーツは見つからない…。
(パズルは…パズルは…永遠に完成することはない…!
どんな願いも、届かないんだ!!)
遊戯、泣き出す…
そこへ、そっと後ろから、じーちゃんがやってきた。
完成しかかったパズルを見て、驚くじーちゃん。
「ホホーこりゃたまげた!パズルを完成させおったー!」
「ううん…結局パズルはできなかったんだ…じーちゃん…」
遊戯の言葉を聞いて、じーちゃんは、パズルを手に取った。
「どれ、ホホ〜〜。遊戯、お前は、この千年パズルに8年も、ずーっと願いを込めてきたんじゃろ…
なぜ、もっと信じてやらんのじゃ!」
「え…!?」 振り向く遊戯。
「願いは、きっと叶うハズじゃ!」
じーちゃんが、握った手を遊戯の前に出し、その手を開いて見せると、
そこには、目玉のようなもののついた、パズルの最後のパーツが!!
「あ!!!じ…じいちゃん…(うるうる…)サンキュー!!よく見つけてくれたぜ!」
遊戯は、じーちゃんに、飛びついた。
「オイオイ…遊戯、それは、ワシが見つけたんじゃないゾ…さっき、店にお前の友達が
やって来ての…それを渡して欲しいと、頼まれたのじゃ。
雨も降っとらんのに、なぜか服を濡らしてのぉ…」
パーツを見つめて、遊戯は、(一体誰だろ?とにかく、ありがとー!)
まるで、嬉しさを隠せない幼い子供のように、飛んで跳ねて、喜んでいる。
その様子を、じーちゃんは何も言わずに、見ていた。
(彼から事情は聞いたぞ…たしか、城之内とかいう…お前に、名は明かすなと頼まれたが…
遊戯の顔の傷、気にはなっておったが…彼から、お前が牛尾とかいう不良の、嫌がらせを
受けておる事も聞いたよ。)
そして、じーちゃんは、遊戯に気付かれないよう、そっと封筒を取り出し…
(遊戯…カバンの中にお金を入れておくよ…つまらんトラブルを、
これで避けられるのならの…) 封筒を、カバンにしのばせる。
「おやすみ、遊戯!」
「ありがとー!じーちゃん、おやすみ。」
部屋を出て行くじーちゃん (ホホホ…よくぞ千年パズルを完成させたのぉ…
さすがワシの孫よ…そのパズルを解いた者は『闇のゲーム』を受け継ぎ
正義の番人となりて、悪を裁く――古の「死人の書」の一説じゃ…)
部屋では、遊戯が、まさに今、最後のパーツをはめ込もうとしていた。
(いよいよ、千年パズルが、完成するーー!!)
高鳴る胸の鼓動…遊戯は、目玉の付いたパーツを、ピラミッド型のパズルに!!!
 カチッ!
最後のパーツをはめ込んだとたん、その目玉がカッ!と光り輝き、
パズルが、ドキューン!と、音を立てた!!
驚いて、パズルを見つめる遊戯の額に、パズルの目玉からパワーが浴びせられ…
ズキューン!!
そのパワーが、遊戯の額に、新しき眼を浮かび上がらせたのだった。

― ほほ…どうやらトラブルに巻き込まれたのは、その牛尾とかいう
不良学生の方かも知れんのう…… ―

真夜中の学校…校庭に、牛尾がやってくる。
「まさか、遊戯のヤローから呼び出されるとは、驚いたぜ…正直!
こんな真夜中の学校によ………ン?…遊戯!!」
「よく来たね、牛尾さん…」
跳び箱の上に腰掛けて、牛尾を待っていた遊戯…
だが、さっきまでの遊戯ではない。
学生服は…そう、「闇の番人」とでもいうような、不思議な形の飾りが施され、
完成したパズルを、首からさげて、ニヤリと笑ったその顔からは、
あの、おどおどした、かわいらしい瞳のあどけなさは感じられず、
まるで人格が変わったような、鋭い目つきで、牛尾を見据えている。
「ほ〜こっちこそホメてやんぜ!聞きワケよく金を渡して、オレ様の機嫌うかかう腹は、
見え見えだがよー、そのワケのわからんコスプレは、いただけねーがな…
まあ、いいー早いとこ渡してもらおーか…金だぜ!カネ!二十万だよ!!」
すごんで、手を出した牛尾、だが、遊戯は、ひるむどころか
「ここにあるよ…しかも、倍の四十万円がね…」 と、札束を突き出した。
「!四十万!!」 牛尾は、よだれをたらさんばかりの表情を見せる。
「でも、このカネは、かけがえのないものでね…ハイと渡すのはつまらない…
そこでだ!どう、オレとゲームをしようぜ!」
「!!ゲームだと…!!」
「そう…それも、ただのゲームじゃない…『闇のゲーム』さ!どう?あんたが勝てば
二十万以上のカネが、手に入る!」
「おもしれ〜〜」 ニヤッと笑う牛尾。
「ゲームをするのに、一つだけ必要な道具があるんだ。牛尾さん、
あんたがしのばせているナイフをね!」
「フ……」 牛尾は、ふところからナイフを取り出す。
遊戯は、跳び箱の上に、カネを置き、そして、その横に牛尾のナイフを突き立てた。
「オーケー準備完了だ!」
「カネとナイフ…!?(こいつで、どんなゲームをやろうというんだ…)」
ただならぬ雰囲気に、ちょっとドキドキし始めた牛尾を尻目に、
遊戯は、跳び箱についた自分の左手の甲に札束をのせ、右手にナイフを握る。
「ゲームのルールを説明するぜ!プレイヤーは、交互に自分の手の上にお金をのせ、
その上からナイフを突き立てる!ナイフに突き刺さった金のみ、プレイヤーの取り分となる。
そして、一枚以上必ず取らなければならない!!
ゲームは、最後の一枚がなくなるまで続けられる!どれだけ多くの金を取れるかが勝負だ!
金を手でつかみ取ろうとした者――途中でゲームを放棄した者は負けになり、
金はすべて相手に渡る…どう、おもしろそーだろ?」
「へ、へへ…けっ、ただの根性だめしかよ…(こ…こいつ本当に、あの遊戯か…?)」
牛尾の顔は、引きつっている…。
「ただし…ルールを破ったら、運命の罰ゲームが待ってるぜ!」
「クク…おもしれぇ…さっそく始めよーぜ!」
じゃんけんをして、先攻は遊戯が取った。
左手の甲に札束をのせ、ナイフを構える遊戯…
そして、思い切りズブッ!と、ナイフを金に突き立てた!!
「フー10枚にも満たないや…かなり力を入れたつもりでも、意外に刺さらないものだな…」
ナイフに何枚かの札が刺さっているが、左手に怪我はないようだ。
「オーケー交代だ!」 遊戯は、ナイフを牛尾に渡す。
牛尾は、金をセットしてナイフを構えたものの、なかなかナイフを刺すことができずにいた。
「欲に目がくらんで力を入れすぎると、ズブリといくよ。このゲームのポイントは
自分の欲望を制御することさ!」
「うるせえ、だまってろ!」 牛尾は、ぐっと歯を食いしばって、ナイフを刺した!
「へ…へへー見たかよ!十万以上あんぜ〜!もっと力を入れりゃあよかったぜ〜!」
そう言ってはいるが、牛尾の顔は、もう汗びっしょりだ。
「やるね!でも、このゲームは回が増すごとに、力の加減が難しくなるんだよ、ククク…」
遊戯は、そう言いながら、平然と二回目のナイフを突き刺す。
「もう、お金も残り少なくなってきたよ…ゲームの結末もそろそろだね…」
牛尾は、「この金すべて、オレのもんだぜ〜!!」と、金をセットし、ナイフを構える。
そして、突き刺そうとしたその時、牛尾の右手が、言うことを聞かなくなった!
(オ…オレの手…右手の力を抜くことが出来ねえ…!?どうしたんだ、力が入りすぎだぜ!
オレの意志が、右手に伝わらない!!)
冷や汗を流し、あせる牛尾。まるで、全身が脈を打っているかのようだ。
(やばい…オレは無意識に、このナイフを持つ右手を思い切り振り下ろそーとしている!!
左手ごと、この金にむけて!!) 「あ…ああ…」
遊戯は、牛尾の様子を、薄笑いを浮かべてじっと見ている。
(『闇のゲーム』によって、人間の本性は暴かれ、運命が決定する!!
牛尾さんよ、自らの欲望に支配されたその右手…もう止めることは出来ない。
さあ、どうする?左手を犠牲にして金を手に入れるか、それとも…)
すると、牛尾は突然笑いながら、こう言った。
「ククククー簡単な回答があるぜー!この右手をおもいきり振り下ろしてもよー!
オレの左手を傷つけず…全ての金を手に入れる方法がなー!!」
牛尾は、ナイフを持った右手を、遊戯に向かって振り下ろした!
「このオレに、ナイフを持たせたーそれがきさまの敗因だったな〜〜!!
死ねぇぇぇぇーー!遊戯ぃ〜〜!!」
遊戯は、やっぱり…とでもいうようにニヤリと笑い、牛尾のナイフをジャンプして難なく避けた。
地面に降り立った遊戯の額に、パズルより与えられたもう一つの眼が浮かびだす…
「やはり、ルールを守る事ができなかったようだな!」
「な、なんだ…その額の…め…眼!!」
「こいつはオレの『心の領域を越えた者』にしかみえないもの!
友達を傷つけ、カネをも奪おうとした、お前にしかな!!」
遊戯は、3つの眼でにらみ付け、牛尾を指差した。
「運命の罰ゲーム!!!グリード ――欲望の幻想――」
ズキューン!!
激しい気流が、牛尾の全身を貫くようにぶち当たる!
「あ…ああ……あ…」
牛尾が、顔を覆った手の隙間からのぞき見ると、なんと、お札が、牛尾の回りに
無数に舞っているではないか!?
「あら〜〜!!カネカネ!!金だ!!金だらけだ〜〜!うれし〜楽し〜!」
へらへらと、夢中で、札をかき集める牛尾の精神は、もはや正常ではなかった…
「金に目がくらむなんて言葉があるけど…もう、あんたの眼には
『欲望の虚像』しか映らないぜ!」
冷たい微笑を浮かべ、そう吐き捨てた遊戯…
「金だ!イヤッホー!カネカネー!!」 小躍りし続ける牛尾。
「ま、強欲(グリード)な君にとっては、まさにハッピーエンド!フフフ…」
― GAME OVER ―

次の日の朝 ―
「ねぇ、見なよ!」 「ヘン!」 「なんなの〜あの人…」
学校の校庭の木のところに、登校して来た生徒達が集まっている。
遊戯は、そんな騒ぎ、気にも留めず、大あくびしながら通り過ぎていく。
もちろん、いつもの、小さくてあどけない遊戯だ。
木の下には、落ち葉に囲まれ、至福の表情で木の葉と戯れる牛尾の姿があった。
「ウヒョー金だぁ〜この金ぜ〜んぶオレのモンだぁ!誰にも渡さねーぞ…」
回りを取り囲む生徒達は、不気味そうに牛尾を見ている…
「ひょっとしてさ、葉っぱとか、お金だと思ってるワケ?」
「葉っぱだけじゃないよ〜ゲエ〜ゴミとかまで…!」
「でも、幸せそーな顔…!」

教室に向かって、廊下を歩いてくる遊戯。
「ンーなんか昨日、パズル作ったあとの事、よく覚えてないんだよな…
ン!パズル!!そうだーパズルがとうとう完成したんだもんなー!うれしいな〜」
遊戯は、首からさげたパズルを、改めて両手で握りしめた。
「エヘヘ…(ボクの宝物…)」
「よっ、遊戯…」
どうやら、遊戯を待っていたらしい城之内、顔中に貼られた絆創膏が痛々しい。
「あ、城之内くん!」
「オメー傷、大丈夫かよ…?」
「うん、城之内くんは?」
「ぜんぜん平気だぜ、こんなモン………遊戯よぉ!オレもよ、お前にならって
宝物、持つことにしたぜ!見てえかよ?」
「うん!」
「ははは…残念…オレの宝もよ、『見えるんだけど、見えねーモン』だから、
見せられねえのさ!」
(見えるんだけど、見えないもの…?…??…なんだろ…!?)
「それは、『友情』さ!オレとお前は、お互い見えっけどよー
友情ってやつは、見えねーだろ!」
城之内の、思いがけない言葉に、目を丸くする遊戯。
そして、目に涙を浮かべて、「うん!」と、にっこり笑った。
「それじゃあな、授業始まんぜ!」 城之内は、照れて、顔を真っ赤にして走り出した。
(う…なんで今日のオレは、ハズかしいセリフが、こうポンポンと…)
片方、吹っ飛んだ城ノ内の上履きを、拾って追いかける遊戯。
「あ!城之内くんーくつ!くつ落としてったよー」


― 遊闘(バトル)1 END ―

 

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