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YAWARA!

vol.国民栄誉賞をとる少女

街の中、けたたましい叫び声が聞こえる。

女性「きゃああーーーー!! ひ・・ひ・・ひったくりよーーーーー!!

一方、こちらは電話ボックス。ひとりの青年が電話をかけている。

青年「・・・ですからね、そこんとこなんとか・・・・一言コメントだけでも・・・・
東京メッツの4番バッターだからこそですね、このスキャンダルにそれなりの弁明をしていただきたく・・・
マンションから出てきた女性と、あなたの関係は・・・・」

ガチャ! 電話が切れたようだ・・・・・・・・

青年「・・・・・・・・・てやんでえー!! こっちだってそんなこと聞きたかねえや!!
だいたいスポーツ記者っていったって、ここんとこスキャンダルの取材ばっかりだ!!」

乱暴に受話器を戻し、隣の相棒に声をかける。

青年「真のスポーツ取材ってのをやりたかねエか!?オイ!!」
相棒「え・・ええ・・・・」
青年「聞いてんのかよ!?」
相棒「いや・・・なんか騒がしいんですよ!」

女性「誰かつかまえてー!!」

女性の声が響く中、ひったくり犯が逃げていく。

ひったくり「どけっ!! どかねーとケガすんぞ!!」

ひったくりが走る先に一人の少女が立っている・・・・。と、その時!!

ひったくり「!!」

次の瞬間には、ひったくりは投げ飛ばされていた! 少女の巴投げで・・・・

周囲が唖然とする中、少女は何事も無かったように走っていく・・・・

青年「と・・・撮ったか?」
相棒「と・・・とと・・・・撮りました。」

場面変わって、こちらは日刊エヴリースポーツ社。あの青年が記事を書いている。その内容は・・・・

「そのひったくり犯を投げ飛ばした巴投げの技のキレから、必ずや日本柔道界の次代をしょって立つ逸材
であると、本紙記者は見た!! その謎の少女の正体究明に、本紙は全力を尽くし・・・・・」

と、横から記事をさらった者がいる。編集長だ。

編集長「なにこれ、松田? 政見放送の原稿か?」
松田「編集長!!」
編集長「だめだだめだ! こんなカタイこと言ってちゃあ。パンチラを前面に出して行こうぜ!! 
パンチラを!! これで顔も写ってりゃなァ! どんな子だった?」
松田「それが・・・僕らの位置からはパンツしか見えなくて・・・・」

でへへへーと笑う松田だが・・・

松田「だーーーー!そーいう問題じゃないでしょ!! サッカーのワールドカップもウインブルドンも、
日本人は関係ないじゃないですか!! でもこの子は世界を制します!!
スポーツ選手のスキャンダルなんか、追っかけまわしている場合じゃないですよ!!」

情熱を持って語る松田だが、あっさりあしらわれる。

編集長「そんな長ゼリフ、読者は読んでくれないよ! とにかく、この記事はパンチラで行けよ!」
松田「・・・・・・・・・・・・・・」

例の写真を見る松田。確かに見事なパンチラだ・・・・

松田「パンチラなんて、この写真に対する冒とくだ!!パンチラなんて・・・・・・・・・・・
焼き増ししとこ・・・・・」

なかなか正直である・・・・・・

さらに場面変わって、古めかしい屋敷。その中で、背負い投げをかけられているのは・・・・
例の少女だ。

老人「よろしい!! 今朝の早朝練習はここまでぢゃ!!」

老人、なにやら新聞を取り出して少女に見せる。

老人「柔!!ちょっとそこにすわってこれを見なさい。」
柔「ハァ、ハァ、もうすわってます!」
老人「これはなんぢゃ、これは!?」

その新聞は日刊エヴリーらしい。記事の題名は”パンチラ少女、ひったくり犯を巴投げ”

柔「は・・・・」
老人「あれほど対外試合を禁じておいたのに、おまえというやつは!!」
柔「おじいちゃん、これは対外試合なんかじゃないわ! ひったくり犯を退治しただけ・・・・」
老人「ひったくりもへったくれもないわ!!」

老人の剣幕に驚く柔。

老人「よッく聞け、柔!! おまえは、柔道界の次代をしょって立つ人間じゃ!! しかし、それはまだ
秘密の秘密!! 1992年のオリンピックには女子柔道が正式種目になるであろう。それにあわせて
センセーショナルなデビューを飾る、それがわしのもくろみぢゃ!」

指を天に掲げ、老人が語る。

老人「よいか、柔!!オリンピックで金メダルをとれ!! そして、めざすは国民栄誉賞ぢゃ!!
ぢゃからして、このような婦女子の読むようなチャラチャラした雑誌にうつつをぬかしているヒマ
があれば・・・・・」

そう言いながら老人が取り出したのは、いかにも女の子が読みそうな女性誌やファッション雑誌。

柔「あーー!! おじいちゃん、またあたしの部屋に入ったのね!!」
老人「こーいう雑誌を読め!!こーいうのを!!」

そういって老人が取り出したのは”柔道スピリッツ”。あまり女の子は読みそうに無い・・・・・

柔「いいかげんにしてよ!!なにが国民栄誉賞よ!! なにがオリンピックの金メダルよ!!
1992年ていったら、あたしは22歳よ!! それまでのあたしの青春はどうなるのよ!!」

興奮して叫ぶ柔だが、老人は意に介さない。

老人「有意義な青春ぢゃ!」

道場から出て行こうとする柔。

柔「子供の頃から、ずっと習慣で毎日おじいちゃんの言うとおりに柔道の稽古し続けていたけど、もう
だまされないわ!!」
「普通の女の子になりたいの、あたし!!」
老人「待ちなさい、柔!! まさかおまえ・・・・・・・・ あの日じゃなかろうな?」

テンポのずれた質問に、おもわずズッコケる柔。

柔「あと、あたしの部屋にこんりんざい入らないで!! 冗談じゃないわ!!」

ぼやきながら制服に着替える柔。彼女の部屋には”少年隊”や”CHECKERS”のポスターが貼って
ある・・・・・・

その頃、柔が通う武蔵山高校では、例の記事の噂で持ちきりだった。特に男子生徒が・・・・

男子生徒「どう見ても、こりゃウチの制服だよな。
ウチの学校には女子柔道部があわけじゃないし・・・・こんなにすごい女がいるとは・・・・」

周囲の女子生徒を観察する男達。その目が柔にとどまる。

男子生徒1「猪熊ァ!! 猪熊柔!! おまえじゃないのこれ!?」
男子生徒2「そうだ!お前の名前ぴったりだもんな猪熊!!」
柔「苗字で呼ばないでちょーだい!!」
女子生徒「そうよ! 柔になにができるっていうの? あたしより腕細いのよ!!」
柔「ねえ!」

が、いつも稽古を受ける祖父の言葉を思い出す。

「柔よく剛を制す!! 相手の力を利用して技をかける・・・・ これこそ真の柔道ぢゃ!!
よいか柔!! この猪熊慈吾郎がなしえなかった、真の柔よく剛を制すの極意をつかむのぢゃ!!」

柔(猪熊柔なんて名前・・・・ だーいっきらい!!)

柔が不愉快な学校生活を送っている頃、松田はあの写真の主を探るべく、調査活動に邁進していた。

松田「いたぞ、いたぞ!あやしいのが!!」

と、武蔵山高校の名簿を見ながら言う松田。

松田「2年B組 猪熊柔!! こ・・・・こいつはもしかすると・・・・・」

と、今度はスポーツ名鑑を覗き込む。

松田「見ろ!! あの猪熊慈吾郎と同じ住所だ!! おそらく彼の孫娘と見た!!」

そういうわけで猪熊慈吾郎宅に赴いたのだが・・・・・・

慈吾郎「スポーツ新聞の記者の方が・・・・ わしになにか?」

縁側で話をする松田たち。だが・・・・

慈吾郎「柔が柔道ですと? ぶあっはっはっは!!」

豪快な笑いに松田と相棒唖然とす。タクアンをかじりながら話すところでは・・・・

慈吾郎「ごらんのように、わしゃ、柔道を捨て、ここで隠居ぐらしぢゃ!
全日本柔道選手権五連覇も、かれこれ三〇年以上も昔の話になってしもうた!」

松田それでもあきらめない。

松田「ところで猪熊七段、道場を見せていただけませんか?」
  (道場を見れば、稽古をしているかどうか一目瞭然だ!)

だが・・・・・

慈吾郎「かつて、汗と涙にまみれたわが道場も、いまや一大レーシング場と化したのぢゃ!」

道場の中にあったのは、所狭しと並べられたおもちゃのレーシングカー道路。

松田「レ・・・・・レーシングカー!! この状態じゃ道場で稽古は無理だな・・・・・」
慈吾郎「このフェラーリが速いんぢゃ!」

あきらめて帰る松田たち。

松田「ど・・・・どうもお邪魔しましたァ!」
相棒「どうもー!!」
慈吾郎「おいおいどうぢゃ、ひとレースやってかんか? おい!!」

2人が帰った頃を見計らって、慈吾郎なにやらロープを引く・・・・
なんと、レーシング道路が持ち上がり、その下からタタミが!!

慈吾郎「あんな三流新聞にすっぱ抜かれてたまるか! 柔は、センセーショナルなデビューを飾るんぢゃ!!」

ことらは街中、柔は友達と別れて家路についていた。それを見ているのは・・・・・

松田「あれが猪熊柔か・・・・・・・」
相棒「つけるんスか? あのじいさんの様子じゃ、柔道とは無関係のようですよ。」
松田「いや・・・あのじいさん、どうもウサンくさい。」

というわけで後をつける2人。柔も気づいている。

柔(つけられてる。あの写真を撮った新聞記者かしら?)

3人がしばらく行くと、

男「なあ、いいだろ?ちょっとだけドライブしよーよォ。」
女学生「はなしてよ!!」

2人の女学生が数人の男達に絡まれている。

松田「おっ、いいタイミングでトラブル発生だぜ。」

柔の大活劇を期待する松田だが・・・・

男「ほらァ、車に乗ってェ!」
女子「やめて!!」
松田「いけ、やっつけろ!!」

目を合わせず通り過ぎる柔・・・・・・・

相棒「あらあら・・・・・・」
松田「・・・・・・・・・・・・・・・・」

柔(柔道なんか二度とやんないから!! 普通の女の子になるんだから・・・・・)

女子「やめてェーーーーーー!!」
松田「やめろ!!」

しびれをきらした松田、自分で止めに入る!

松田「その娘達から手をはなせ!! さもないと・・・・さもないと・・・・・」

威勢がいいのは最初だけ。あっという間にボコボコにされる松田。

松田「猪熊柔ーーーー!! こんな状況を見て見ぬふりかァ!! 君の柔道はそんなものだったのか!!
きみの柔・・・・・」

ついにダウンした松田。だが・・・・

柔「もーーー、うるさいんだから! みんなして柔道、柔道って!!」

怒りに顔を膨らませながら、つかつかと男達のほうへ向かう。

男「ひょーーーーーーー、でへへへへへー、いいことしよーーーーー!!」
柔「これが最後よ!!」

と、いいながら一本背負い! そのまま次々と投げを決め、あっというまに男達を倒した!!

松田(うすれてゆく意識の中で、本紙記者は見た。大の男が次々と投げ飛ばされている。
いつの日か、この光景が世界中の人の目の前で再現される・・・)

きっと・・・・・・・・


男達を投げ飛ばして家に帰った柔。自分の部屋に入ると・・・

柔「やるもんですか、柔道なんて! 恋したりおしゃれしたり、青春しちゃうから!!」

ふと壁をみる柔。なんと、アイドルのポスターが貼りかえられている! 柔道の写真に・・・・

柔「おじいちゃん・・・・」

思わずへたりこむ柔。どこからか慈吾郎の声が聞こえてくるようだ・・・・・

「よいか、柔! おまえの青春は柔道ぢゃ!! 国民栄誉賞をとるのぢゃ!!」


はてさて、いったいどうなることやら・・・・・

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