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WORKING!!の第1話



北海道某所にあるファミレス"ワグナリア"──。
玄関が開き、入店音が鳴る。そしてその奥の自動ドアが開き…
客を出迎える、大きなポニーテールの、背の低い女の子。フロア担当・種島ぽぷら。

種島「あ……いらっしゃいませ。2名様、喫煙席と禁煙席どちらになさいますか?」
男性客「喫煙でお願いします」
種島「はい、かしこまりました。ではこちらにどうぞ」

客を案内する種島。

一方厨房では、金髪のヤンキー風のキッチン担当・佐藤潤が出来上がった料理をカウンター通路のテーブルに置く。

佐藤「料理上がったぞ」

そこに通りかかった、腰に日本刀を提げた女性。フロアチーフ・轟八千代。

八千代「はい。8卓様、行って来ます」
佐藤「おい、5卓のハンバーグ定食、もう出していいのか?」
八千代「あ、ごめんなさい。これを持って行く時に確認してくるわ」
佐藤「今日はなんか忙しいな」
八千代「そうね…最近ちょっと人手が足りない日があるから…杏子さんが、新しいバイトを入れるって言ってたわ」

佐藤に後から声をかける、青髪のキッチン担当・相馬博臣。

相馬「新しいバイトか…佐藤君は新しいバイト、男と女どっちがいい?」
佐藤「仕事するやつならどっちでも」
相馬「そう? まあ僕もどっちでもいいけど。面白い子が入って欲しいよね」
佐藤「どうでもいいから、さっさと次の料理仕上げろよ」
相馬「はいはい」

厨房に戻る2人。

相馬「ああ、後17秒で定食のフライ、揚がるからね」
佐藤「おお」

外。くしゃみする青年、小鳥遊宗太(たかなし そうた)。

小鳥遊「はっくしょい!…ああ…風邪かな…」

再び"ワグナリア"。事務室では、店長・白藤杏子が種島にアルバイト勧誘を命令している。

種島「は!? 私がですか!?」
杏子「じゃあ、頼んだぞ」
種島「……」

落胆する種島。そんな彼女を励ますショートカットの女の子は、フロア担当・伊波まひる。

伊波「大丈夫? 種島さん…バイト探しなんて頼まれちゃって」
種島「うん…とりあえず、学校の友達とか当たってみるよ。後は街で勧誘とかしてみるしかないかな…伊波ちゃん手伝ってくれる?」
伊波「!?…友達に聞いてみるのは全然いいけど、街でか…勧誘は、私には無理かも…」
種島「そっか…街に出たら男の人いっぱい居るもんね」
伊波「うん…ごめんね」
種島「大丈夫! 私頑張るよ」

フロア。客に注文の品を差し出す八千代。

八千代「お待たせしました」

新しい客が来る。

八千代「あら…いらっしゃいませ」



WORKING!!





翌日、種島は学校でクラスメイト相手に勧誘をしたが、誰一人として応じない。
奮起して、学校帰りにも街中で勧誘を続けたが…ここでも誰にも相手にされず、一向に成果は出ない。
結局、上手く行かずに溜息をつく。ふと気がつくと、雪が降っている。

それから帰り道、住宅街で種島は1人の男に後からぶつかる。小鳥遊である。

小鳥遊「あっ! …?」
種島「バイト……バイトしませんか?」
小鳥遊「ん?」
種島「あ…あの…」
小鳥遊「大丈夫? 親御さんは?」

後ろに下がる種島。

種島「あ…親御さん?」

種島の方を向く小鳥遊。

小鳥遊「そう。お父さんやお母さん」
種島「(そうか…身元がはっきりしない人がバイトの勧誘なんかしたら怪しいもんね)…えーと、お父さんは公務員でお母さんは専業主婦です!」
小鳥遊「え? そうじゃな…ごふっ! (可愛い…)えーと、じゃあすぐそこの交番にでも行こうか」
種島「はっ! (もしや迷子と思われてる…!?)…あの…違います! ファミレスのバイト勧誘です! 一緒に働きませんか!?」
小鳥遊「え? あ…どうしよう…ファミレスごっこ? 流石にちょっと…」
種島「違います!! (どうしよう…話が通じない…でももう他の人は捕まらないだろうし、それにこの人何だかいい人そう…)…えーと…私…種島ぽぷら、17歳! 高校生です!!」

高校生である事が分かる様にコートの下の制服を見せ、更に生徒手帳を呈示する種島。

小鳥遊「あァ? 高校生…!?」

何やら不満を露にする小鳥遊。怯える種島。

種島「それで…あの…バイトしてくれる人を探してして…」
小鳥遊「(この生徒手帳と制服、うちの高校の先輩? このなりで年上なのか?…しかし、12歳以上でこの異様な可愛らしさ…このパターンはアリなんだろうか!?)」
種島「…へくちっ!!……」

くしゃみする種島。

小鳥遊「(…アリだな!!)」

心の中で叫びつつガッツポーズする小鳥遊。

小鳥遊「…やります、バイト」
種島「…ほ…本当!?」
小鳥遊「…はい!」

北海道某所


ファミリーレストラン「ワグナリア」




同・事務室。

小鳥遊「で、今日から働かせて頂きます、小鳥遊宗太、16歳です! "しょうちょうゆう"とか"ことりあそび"とか言われますが、"タカナシ"です!」
杏子「ああ」
種島「私、種島ぽぷら! 『ポプラの木の様に大きくなれ』と名付けられました」
小鳥遊「ポプラの木…」

小鳥遊に近づき、左手を上げて精一杯背伸びしながら話しかける種島。

種島「1個年上だし、分かんない事あったら私に言ってね」
小鳥遊「(…可愛い!)」

ガッツポーズする小鳥遊。

種島「お互い変わった名前だけど、間違えない様にしようね。かたなし・・・・君」
小鳥遊「(間違っとる…)」
杏子「私が店長の白藤杏子だ。他のメンバーは、種島に紹介してもらえ」
種島「まっかせてー!」

2回、軽くジャンプしながら喋る種島。

小鳥遊「(店長は何だか怖そうな人だな…)」
杏子「"タカナシ"でも"カタナシ"でもいいが、私は仕事に関しては一切助言しないので、そのつもりで」
小鳥遊「それは仕事は自分で見て覚えろという事ですか?」
杏子「いや。私はあんま仕事しないから知らないんだ」
小鳥遊「…え?」

再びジャンプしながら喋る種島。

種島「だから、仕事の事は私に聞いてね」
杏子「ん。と言う訳で種島、後は任せたぞ」

事務室を去る杏子。

種島「はーい」
小鳥遊「…凄い店長ですね」
種島「そう? いやー、でも助かったよ、かたなし君」
小鳥遊「え?」
種島「募集しても人来ないし、友達もダメで…」

泣きそうになる種島。

種島「店長に言われて私が人集めしてたんだからぁ…」
種島(回想)「バイトしませんか?」
小鳥遊「あれは可愛かったなぁ…」

昨日の事を思い出した小鳥遊の顔が綻ぶ。

種島「は?」

種島は何の事を言っているのか分からず、頭上に「?」を浮かべる。
小鳥遊に近づき…

種島「…まあ、あの時会ったのも何かの縁だし、これからも一緒に頑張ろうね。かたなし君」
小鳥遊「…あの…先輩?」
種島「?」
小鳥遊「実は俺、"カタナシ"じゃなくて"タカナシ"なんです」
種島「え!? あ…ごめんね…えーと…た…か…かか…かたなし君!! …かた…かた…かた…」

上手く発音出来ない様だ。

小鳥遊「…(ま、いいや)」

フロア。客は3人。
一方、カウンター通路の棚の前で…

種島「じゃあまずカップの片付け方とか教えるから、しっかり見ててね」
小鳥遊「はい、先輩」
種島「このカップは、ここに戻すんだけど…う…うーん……う───ん…」

種島は背伸びしながら棚の一番上の段にカップを片付けようとするが…背が低すぎて届かない。

小鳥遊「……先輩?」
種島「…ハァハァ…届かないので、誰かにやってもらう…」
小鳥遊「え?」

次は使用済み食器の入った桶の前で…

種島「次は、この洗い物を流しに出すんだけ…ど!…うーん! う───ん!! う───ん!!」

桶を持ち上げようとしたが…全く上がらない。

小鳥遊「…」
種島「…ハァ…ハァ…重くて持てないので……これも誰かにやってもらう…」
小鳥遊「…(どうなんだこれ…一応仕事教えてもらってるんだよな…?)」
佐藤「おい、種島」

厨房から佐藤が顔を出す。

種島「?」
小鳥遊「?」
種島「あ、佐藤さん」
佐藤「そいつが今日から入った新人か?」
種島「うん、そうだよ」
小鳥遊「小鳥遊宗太です。よろしくお願いします」
佐藤「俺は佐藤潤。よろしく」
小鳥遊「(この人も店長と同じで、ちょっと怖そうな人だな)」
種島「佐藤さん、今、手空いてますか?」
佐藤「何だ? いつものか?」

佐藤にカップの片付けを手伝ってもらう種島。

種島「高くて届かないのでお願いします」
佐藤「はいよ」
小鳥遊「…」

そして、同じく桶の持ち運びも手伝ってもらう。

種島「重くて持てないのでお願いします」
佐藤「はいはい」
種島「どう? わかった? かたなし君」
佐藤「わかったか? 小鳥遊君」
小鳥遊「…自分でやります」
小鳥遊「(佐藤さん…意外といい人なのかも…)」

その頃、厨房内の相馬は彼らのやり取りを目にして、仕事の手を止める。

相馬「…?…」

寸胴鍋を持ったまま厨房の外へ。
佐藤が種島の背後でポニーテールを丸めて遊んでいる。

佐藤「お前の髪、すげえもっさりしてるよな」
種島「…わ…ぃやー! やめてよー!!」
相馬「君が今日から入った小鳥遊君?」
小鳥遊「? あ…はい」
相馬「俺、相馬博臣。よろしくね」
小鳥遊「はい、よろしくお願いします」
相馬「種島さんと同じ高校の、後輩なんだって?」
小鳥遊「え? そうですけど…よく知ってますね」
種島「ふふん、私先輩だよ」
小鳥遊「(あれ? 種島先輩と同じ高校だって、誰かに言ったっけな…?)」
相馬「種島さんが教育係?」
種島「うん。今厳しく教育中だよ」
相馬「偉いね、種島さん」
佐藤「おい」
相馬「何? 佐藤君」
佐藤「仕込み終わったのか?」
相馬「?」

寸胴鍋を見て…

相馬「…まだ…」
佐藤「さっさと片付けるぞ」
相馬「じゃあ2人共、頑張ってね」
小鳥遊「(相馬さん、世間話の好きな人なのかな…ま、あの人もいい人そうだ)」
種島「さあかたなし君、次の仕事を教えるよ」
小鳥遊「はい、先輩」

レジで、種島は小鳥遊に接客を教えている。

小鳥遊&種島「ありがとうございました」
種島「接客は大体こんな感じだよ」
小鳥遊「はい。分かりました先輩」

すると八千代が…

八千代「ぽぷらちゃーん!」
種島「八千代さん」
八千代「今日から入った小鳥遊君?」
小鳥遊「はい」
八千代「良かった。ご挨拶しようと思って探してたのよ」
小鳥遊「(へぇ…綺麗な人だな…)小鳥遊宗太です。よろしくお願いします…!?」

八千代の腰の日本刀に驚く小鳥遊。

八千代「チーフの、轟八千代です。小鳥遊君。遠慮しないで分からない事は何でも聞いてね」
小鳥遊「あ……ありがとうございます」
小鳥遊&種島&八千代「?」
八千代「8卓様がお呼びみたいね。私、行ってくるわ」
種島「お願いします」

日本刀の金属音を響かせつつ、フロアへ向かう八千代。

小鳥遊「(……まず、その腰にぶら下がっている物騒な物についてお聞きしたいんですけど…)」

カウンター通路で小鳥遊が皿を拭いている。

小鳥遊「(こういう仕事をいつも家でやってるから落ち着くなぁ…なんか流れで始めたバイトだけど、みんないい人みたいだし、しばらく頑張ってみようか な)」

すると種島が…

種島「かたなしくーん!」
小鳥遊「?」
種島「聞いてよ! さっきね、料理を持っていったテーブルのお客さんが『君、中学生?』だって! 酷いよね高校生なのにー!!」

種島は泣きそうな顔で、小鳥遊に客に対する不満をぶつける。

小鳥遊「酷いです!!」
種島「?」
小鳥遊「先輩は中学生じゃないですよ!」
種島「ありがとうかたなし君!」
小鳥遊「小学生です!!」
種島「え!?」

小鳥遊の上着の袖を何度も引っ張る種島。彼女は小・中学生と間違われる程に背が低く、それを気にしている。

種島「違うよ…私高校生…」
小鳥遊「高校生は、もう少し大きくならないとダメなんですよ。先輩」
種島「…! かたなし君、私ちっちゃくないよ!

呼び出し音。

小鳥遊&種島「?」
種島「かたなし君、私行ってくるね」
小鳥遊「はい」

皿拭きに戻る小鳥遊。後から杏子が…

杏子「おい小鳥遊」
小鳥遊「はい。何ですか店長」
杏子「1つ言っておくが、種島と仲がいいのはいいが、恋愛沙汰とかやめてくれよ? シフト組む時私が面倒臭いから」
小鳥遊「な…そんな事あるわけないじゃないですか! 恋愛沙汰なんてあり得ません」
佐藤「そうなのか?」
小鳥遊「だあぁ! …佐藤さん! いきなり話に入ってこないで下さいよ」
佐藤「丁度聞こえたんでな」
杏子「違うならそれでいいんだが」
小鳥遊「俺はむしろ…先輩の父親になりたいんです!!」
佐藤&杏子「…」

小鳥遊のトンデモ発言に茫然とする佐藤と杏子。

佐藤「…お前変だな」
小鳥遊「え!?」

杏子は用箋挟で頭を掻きつつ…

杏子「いやまぁ…それもやめてくれ」
小鳥遊「ダメなんですか!?」
杏子「普通にに当たり前だ! お前の趣味をとやかく言う気はないが、店の中で変な気は起こすなよ」
小鳥遊「ちょっと待って下さい! もしかして、俺の事ロリコンと思ってませんか!?」
佐藤&杏子「違うのか?」
小鳥遊「違いますよ!! 俺が好きなのは、小さくて可愛い物! 子供! 子犬! 子猫! ハムスター! そして…ミジンコ!!」
杏子「ミジンコ…」
小鳥遊「俺はなんかこう…一人じゃ生きられない、弱々しいものを保護したいんです! 」

自分の趣味嗜好について笑顔で語る小鳥遊。

小鳥遊「えっと…だから、先輩は俺にとって、店長が考えるそういうのじゃなくて…そう…年上だけど子供や子犬と同じで…
はっ!?…種島先輩は、俺にとってミジンコと同じレベル! 流石にミジンコとは付き合えませんよ!」
佐藤「…種島は、ミジンコと同じなのか?」
杏子「お前、結構酷い奴だな」

種島=ミジンコ(アイキャッチ)。

カウンター通路でコップを拭く小鳥遊。メモを取っている杏子に、年齢について尋ねる。

小鳥遊「そういえば、店長っていくつなんですか?」
杏子「28」
小鳥遊「へぇ、結構年なんですね」
杏子「……」

ショックを受ける杏子。
その後、小鳥遊が事務室でシフト表を見ると…

小鳥遊「……シフトが週7になってる…」
杏子「若いんだろ?」
小鳥遊「…?」

翌朝。
疲れを押して出勤する小鳥遊。

小鳥遊「ハァ…おはようございます…」
種島「おはようかたなし君。今日も出勤?」
小鳥遊「ここ数週間毎日です…流石にしんどいですね…」
種島「杏子さんに言ってみたら?」
小鳥遊「そうですね…」

杏子はカウンター通路の冷蔵庫の上に座り込んで、八千代の手作りパフェを食べながら彼女と雑談している。

小鳥遊「ハァ…店長…」
杏子「あ?」
八千代「あら小鳥遊君。もう仕事には慣れた?」
小鳥遊「チーフ…仕事にはもう十分慣れたんですが…店長。あの、俺のシフトなんですけど…」
杏子「何だ? もっと働きたいのか?」
小鳥遊「え?」
杏子「フロアチーフでもやるか? 小鳥遊」
八千代「ん?」
小鳥遊「(…俺、何かしたっけ…?)」
杏子「ふん。若いんだから死ぬ気で働けよ」
八千代「お仕事頑張ってね、小鳥遊君」

その場を去る杏子と八千代。

小鳥遊「…店長、何怒ってるんだろ…」

後から種島が来る。

種島「かたなし君もしかして杏子さんに何か…」
小鳥遊「年だからかな…年取るとホルモンバランス崩れてイライラするとか言うし…更年期障害!」
種島「絶対何か言ったでしょ…」
小鳥遊「え? 何か言ったかなぁ…店長の態度が変わったのは、この間店長に年齢聞いてから…」
小鳥遊(回想)「そういえば、店長っていくつなんですか?」
杏子(回想)「28」
小鳥遊(回想)「へぇ、結構年なんですね」
種島「かたなし君それだよ!!」
小鳥遊「え? どれです?」
種島「女の人に『結構年なんですね』なんて言っちゃだめだよ!」
小鳥遊「だってもう年増じゃないですか! 12歳過ぎたら!」
種島「早! 早いよ!!」
小鳥遊「ああ、いえ…先輩はぜんぜん大丈夫です。年増じゃないですよ」
種島「……え? それよりも、あの位の年の人は特にデリケートなんだから、そんな事言っちゃだめだよ」
小鳥遊「ぁ…そうなんだ…謝らないと…」
種島「うん。そうだね」
小鳥遊「…はぁ…これだから年増は…!」
種島「こら!! かたなし君!!」

小鳥遊と種島は、カウンター通路の陰からフロアの様子を見ている。

種島「ほら、かたなし君。杏子さんに早く謝って」

杏子がフロアを見回っている。

小鳥遊「はい。わかりました先輩」

おばさんの客が杏子を呼びつける。

おばさん客「ねえ、ちょっと」
杏子「は?」
おばさん客「このお店暖房効きすぎよ。何とかしてちょうだい」

おしぼりで汗を拭うおばさん。すると杏子は逆ギレし…

杏子「なら外に出てその醜い脂肪を燃やしてこい」
おばさん客「あー?!」
小鳥遊「す、すいません!」
種島「ちょ、ちょっと失礼しまーす!」

大急ぎで駆けつけ、その場を収める小鳥遊と種島。2人は杏子を連れてその場をダッシュで去る。
そしてカウンター通路で…

小鳥遊「何でお客様に喧嘩を売るんですか!?」
種島「『暖房弱めます』って言えばいいんですよ」
杏子「私悪くねーもん」
種島「もっと店長らしくして下さい!」
小鳥遊「てか、普通に大人として対応して下さい!」
杏子「…!」
種島「ちゃんとしないと、悪い評判広まっちゃいますよ」
杏子「…外に漏れては困るな…なら」
小鳥遊「なら?」
杏子「冷蔵庫にぶちこめー!!」
種島「え──っ!?」
小鳥遊「はぁ…冷たい飲み物サービスしてきます」

おばさんに冷たい飲み物を差し出す小鳥遊。

おばさん客「あら?」
小鳥遊「先程は失礼しました。お詫びのドリンクと、後、暖房は少し弱めておきましたので、しばらくしてもご不快の様でしたら、一声おかけ下さい」
おばさん客「あーら、そんなつもりじゃなかったのに。いいのかしら? えーと…そうね。さっきよりは涼しくなった気がするわ。ありがと」
小鳥遊「いえ。また何かありましたら、申し付けて下さい。では」

小鳥遊「(今後、あの店長には何も期待しない事にしよう…)」
相馬「お疲れ様」
小鳥遊「な……あの…店長っていつもあんな調子なんですか?」
相馬「そうだね。店長はいつもあんな感じだよ」
佐藤「そうだな」
小鳥遊「はぁ…」

何処かから種島の叫び声が…

種島「やめて下さい!!」
小鳥遊&相馬&佐藤「?」

フロアでガラの悪そうな客2人が、寄ってたかって種島に悪戯をしている。

不良客A「ははは。何このちんちくりん。このお店小学生働かせてんの?」
不良客B「お嬢ちゃん、何年生? ははは…」
種島「やめて下さい!! 私高校生です!!」

不良Aが種島のポニーテールを引っ張り、Bが頭を掻きむしっている。

不良客B「うり、うり」
小鳥遊「先輩!!」
相馬「小鳥遊君」
小鳥遊「はい!」
相馬「大丈夫だよ」
佐藤「あいつに任せとけ」
小鳥遊「え? 誰に…」

小鳥遊の背後、杏子が不良の方に向かっている。

相馬「まあ見てなよ」
小鳥遊「あ…ああ…」

フロアの方を見る小鳥遊。

種島「わぁぁ…ちょ、ちょ、ちょっと…」
杏子「お客様…!」

レジ前。杏子は不良Aを蹴り飛ばす。

種島「ゎ…?」
杏子「ふん」
小鳥遊「店長!」
不良客B「お…おい、大丈夫か?」
杏子「お客様、暴力は困ります」
小鳥遊&種島&不良客A・B「えー!?」
相馬「ふふっ」
不良客A「いてて…」
不良客B「客蹴り飛ばす店員がいるかよ! 店長出せ!」
杏子「私に何か用か?」
不良客A・B「ちょおぉぉっ!?」
不良客B「客蹴り飛ばす店長がいるかよ!」
不良客A「もう二度と来ねえからな! クソババア!!」
杏子「…!」

クソババア呼ばわりにキレる杏子。

不良客A「こんな店潰れちまえ!!」

文句を吐きつつ去る不良達。

種島「あ…お会計まだ…」
杏子「種島、大丈夫だ」
種島「あ…」
小鳥遊「店長あんな事してますけど、いいんですか!?」
佐藤「いいんじゃねえの?」
相馬「それより、小鳥遊君」
小鳥遊「はい…」
相馬「これ。店長の携帯、持っていってあげて」

相馬から杏子の携帯電話を差し出される小鳥遊。

小鳥遊「え? これ…店長のですか?何で相馬さんが持って…」
相馬「ほら。早く早く」
小鳥遊「ああ…はい」
小鳥遊「…」
相馬「ふふっ」
小鳥遊「店長…これ、相馬さんが持ってけって…」

小鳥遊は杏子に携帯を差し出す。

杏子「うん」

電話をかけようとする杏子。

小鳥遊「警察ですか? あんまり大事にしない方がいいんじゃないですか?」
杏子「あ、ほい。今出た客から有り金、全部取ってこい」
小鳥遊「え!?」

種島の頭を撫でつつ…

杏子「大丈夫。便利な後輩がいるから」
小鳥遊「(この店長、何者だ?)」
相馬「あははっ…小鳥遊君、これから大変だろうね」
佐藤「そうだな」
杏子「事件にならない様に上手くやっとくから、心配するな」
小鳥遊「(事件て…)」
種島「杏子さん、そこまでしなくても…」
杏子「働き者の種島にちんちくりんと言ったんだぞ」
小鳥遊「(一応、この人にも店のスタッフを守る気持ちはあるのか…)」
杏子「それに…クソババアって言ったし…!」
小鳥遊「…店長?」
杏子「…クソババアって言ったし…クソババア…!」

不良客にクソババア呼ばわりされた事を思い出し、携帯を握りしめて怒りを堪える杏子。

種島「杏子さん?」
小鳥遊「(そっちか!?)…店長…あの…」
杏子「何だ」
小鳥遊「この間はすいませんでした。その、年齢の事…店長、年齢よりずっと若いって気付きました」
杏子「だろ?」
小鳥遊「はい。よく分かりました。店長、ガキですよね」
杏子「(…!)」
種島「かたなし君…」

小鳥遊「…あ…来週のシフト…1日休みがある…」(アイキャッチ)

翌日。
小鳥遊は着替えを終えて休憩室に入り、蝶ネクタイを直す。

小鳥遊「(ここのバイトもすっかり慣れてきたなぁ…って、慣れてきてる自分が怖いけど…あ、そういえば…)」

シフト表を見ている小鳥遊。そこに種島が通りかかる。

種島「お…どうかしたの? かたなし君」
小鳥遊「先輩…俺結構バイト出てるのに、この伊波さんってまだ会った事ないなと思って」

シフト表の"伊波 まひる"を指差す小鳥遊。

種島「あぁ……あのね。伊波ちゃんはね…」
佐藤「おーい種島!」
小鳥遊&種島「?」
種島「?…はーい」
佐藤「オーダー上がったぞ!」
種島「はーい! かたなし君ごめんね。ちょっと行ってくるね」
小鳥遊「ふぅ…(ま、そのうち会うか)」


数日後




学校帰りで、これからバイトに向かう伊波。
フロア。料理を運ぶ八千代。彼女の後を走って通り過ぎる種島。
レジで勘定する杏子。
伊波が裏口から入ってくる。
料理を客に配る小鳥遊。

小鳥遊「お待たせしました」

事務室に入る伊波。
八千代に何か呼ばれた小鳥遊。
女子更衣室。ブレザーのボタンを外す伊波。

八千代「バックに在庫があるから、1箱持ってきておいてくれるかしら?」
小鳥遊「分かりました。あれ、結構高い所に置いてありますからね」

ウェイトレス制服のスカートを履く伊波。

八千代「あ、そうなのよ。頼んじゃってごめんなさい」
小鳥遊「え…いえ。大丈夫です」

胸のリボンを結ぶ伊波。
八千代に頼まれた在庫を取りに事務室に入る小鳥遊。
エプロンの紐を結ぶ伊波。
在庫を運ぶ途中、小鳥遊はシフト表に目を遣る。

小鳥遊「…あれ? 今日この後伊波さんと初めて一緒か…どんな人なんだろう…」

着替えを終えた伊波が、休憩室に入ってくる。

小鳥遊「ん? …あ、伊波さんですか? こんにちは…」
伊波「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
小鳥遊「え? ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

伊波の強烈な右ストレートが小鳥遊の顔面に炸裂。

伊波「男ぉぉぉぉぉぉ!!!」
佐藤「?」
相馬「は…またやっちゃったみたいだね」
種島「?」
八千代「あら?」
伊波「男ぉぉぉぉぉぉ!!!」
杏子「?」
伊波「お──と──こ──!!

店の外まで響き渡る伊波の絶叫。何と、彼女は極度の男性恐怖症で、男を見ると反射的に殴ってしまうのだ。

伊波「ハァ…ハァ…ハァ…」

肩で息をする伊波。床に座り込んで壁にもたれている小鳥遊。

小鳥遊「ハァ…(いきなり何だ!?)」

種島が事務室に駆けつける。

種島「か、かたなしくーん! 大丈夫!?」
小鳥遊「先輩…あいっ…何とか…」
種島「伊波ちゃん! 伊波ちゃん落ち着いて! 伊波ちゃん!!」
伊波「ハァ…ハァ…は!?…怖い!」
小鳥遊「(怖いのはお前だ!!)」

八千代も駆けつける。

八千代「あらあら、まひるちゃんどうしたの?」
伊波「……八千代さん!! 男!! 男がいるんですー!!」
八千代「ああ、最近バイトに入った小鳥遊君よ…?」

八千代の背後に隠れる伊波。

伊波「男がいる…危ないです八千代さん!」
八千代「あら…」
伊波「武器持ってるかも…」
八千代「まひるちゃん、本当に男の人苦手ね…」
小鳥遊「(武器て…)」
八千代「小鳥遊君、紹介するわね。男性恐怖症の、伊波まひるちゃんよ」
伊波「……」

伊波は恐る恐る八千代の背後から顔を出す。

八千代「怖さのあまり男の人には襲いかかるから、殺されない様に気をつけてね」
小鳥遊「な…殺されない様にって!?」
八千代「強いのよ、これがまた」
小鳥遊「ぁ…」
八千代「でも変ねぇ…命に関わるし、小鳥遊君とはシフト合わせないって、杏子さん言ってたけど…」
杏子「あれ? 今日伊波入ってたっけ?」

杏子は事務室に入ってくるなりシフト表を確認する。

小鳥遊&種島&伊波&八千代「?」
杏子「…間違った」
八千代「あら」
小鳥遊「おい!!」
種島「…」
小鳥遊(ナレーション)「ちっちゃくて可愛い先輩にスカウトされたアルバイトは、変わった人達ばかりのファミレスだった。戸惑いつつも、何とかやっていけ るかと思った矢先、
男性恐怖症の伊波さんには、流石の俺も命の危険を感じずにはいられない…どうする俺!」

外は夜。

小鳥遊(ナレーション)「普通の俺は、この環境に耐えられるだろうか!? しかし、ちっちゃくて可愛い先輩と一緒のバイトは辞めたくない!」
杏子(ナレーション)「てか、やっぱりお前ロリコンだろ」
小鳥遊(ナレーション)「違いますよ! 俺はロリコンじゃなく、そう! 敢えて言うなら、ちっちゃい物が好きなミニコンです!」
種島(ナレーション)「かたなし君も十分変だよ…」

一品目

ワグナリアへようこそ♪小鳥遊、働く。

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