戻る TOPへ

― ワンピース ―
   O N E  P I E C E
   巻一

―  第1話 ROMANCE DAWN −冒険の夜明け− ―



富・名声・力
かつて この世の全てを手に入れた男
“海賊王” ゴールド・ロジャー
彼の死に際に放った一言は
全世界の人々を海へ駆り立てた
「おれの財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ…
探してみろ
この世の全てを そこに置いてきた。」

世は 大海賊時代を迎える ―――


ここは、小さな港村だ
港には1年程前から 海賊船が停泊している
風は東
村はいたって 平和である

のどかな村の港に、ドクロの海賊旗をはためかせている海賊船。
その舳先に、一人の村の少年が立っている。
それが、この物語の主人公…モンキー・D・ルフィ。
「おい、ルフィ、何する気だ。」 甲板に集まる海賊達。
「ふん、おれは遊び半分なんかじゃないっ!!
もうあったまきた!!証拠をみせてやるっ!!!」
ルフィは、左手にナイフを持って、歯をむき出して怒鳴っている。
「だっはっは、おう!やってみろ、何するか知らねェがな!」
「またルフィが、面白ェ事やってるよ。」
はやし立てる海賊達の目の前で…
「ふん!!」 ブズ!!ルフィは、ナイフを自分の左の目の下に突き刺した!!
「!?な…」 驚く海賊達。
「いっっっってェ〜〜〜〜っ!!!」
「バ…バカ野郎、何やってんだァ!!?」
「いてーーーーよーーーっ!!」

村の酒場
「野郎共、乾杯だ!!ルフィの根性と、おれ達の大いなる旅に!!」
ルフィを囲んで、海賊達の酒盛りが始まった。
「がははは、飲め飲め!」 「酒、酒、酒足りねェよ!」
ぎゃはははははははは…!!!
「あーいたくなかった。」
目に涙をイッパイためて、目の下の絆創膏も痛々しいルフィが思いっきり強がって言った。
「うそつけ!!バカな事すんじゃねェ!!」 怒鳴る麦藁帽の男。
この男こそ、海賊頭、『赤髪のシャンクス』だ!
「おれはケガだってぜんぜん怖くないんだ!連れてってくれよ、次の航海!!
おれだって海賊になりたいんだよ!!!!」
小さなルフィが、そう言って両手を一杯に広げた。
「だっはっはっはっ…お前なんかが海賊になれるか!
カナヅチは、海賊にとって致命的だぜ!!」
真っ赤な髪に麦藁帽子、腹まではだけた白いシャツから、
たくましい胸がのぞいている…左目のところに三本のキズを持つシャンクス。
「カナヅチでも船から落ちなきゃいいじゃないか!
それに、戦ってもおれは強いんだ。ちゃんと鍛えてるから、
おれのパンチは銃(ピストル)のように強いんだ!!」
DON!と、こぶしを突き出すルフィ。
「銃?へーそう。」 「なんだ、その言い方はァ!!」
そんな二人の周りに、酔った海賊達が、肩を組んで集まってきた。
「おうおうルフィ!なんだかごきげんナナメだな。」
「楽しくいこうぜ何事も!」 「そう、海賊は楽しいぜェ。」
「海は広いし大きいし!いろんな島を冒険するんだ。」 「何より自由!」
はーーーっ…わくわく顔で海賊達の話を聞いているルフィ。
「お前達、バカな事吹き込むなよ。」 シャンクスがくぎを刺す。
「だって、本当の事だもんな!」 「なー!」
「お頭、いいじゃねェか、一度くらい連れてってやっても。」
「おお!」 ルフィは大喜び。しかし…
「じゃあ、かわりに誰か船を下りろ。」 シャンクスのその一言で、
「さあ、話は終わりだ、飲もう!!」 と、みんな席へ戻ってしまった。
「味方じゃないのかよ!!」 ルフィ、怒る!
「要するにお前はまだガキすぎるんだ。せめて、あと10歳年とったら考えてやるよ。」
「このケチシャンクスめ!!言わせておけば!おれはガキじゃないっ!!」
「まァおこるな、ジュースでも飲め。」 シャンクスがジュースを渡してやると、
「うわ!ありがとう!!ゴクゴク」 嬉しそうにジュースを飲むルフィ。
「だっはっはっはっ、ほらガキだ、おもしれえ!!」
「(ガーーン) きたねえぞ!!ふうっ!もう疲れた。
今日は顔に大ケガまでして頼んだのに!」
あきらめてジュースを持って歩き出すルフィに、副船長が声をかけた。
「ルフィ、お頭の気持ちも少しはくんでやれよ。」 「シャンクスの気持ち?」
「そうさ…あれでも一応、海賊の一統を率いるお頭だ。海賊になることの楽しさも知ってりゃ、
その反対の、苛酷さや危険だって、一番身にしみてわかってる。」 「?」
「わかるか?別にお前の海賊になりたいって心意気を、
踏みにじりたい訳じゃねェのさ。」
「わかんないね!!シャンクスは、おれをバカにして遊んでるだけなんだ。」
「カナヅチ。」 ププッ!笑いをこらえながらシャンクスがつぶやく。
そこへ、きれいなオネエサンが酒樽を持ってやってきた。
この酒場の店主、マキノだ。
「相変わらず楽しそうですね、船長さん。」
「ああ、こいつをからかうのは、おれの楽しみなんだ。」
「ほら!!!」 シャンクスを指差すルフィ。
「確かに楽しんでるな。」 副船長も、納得。
「ルフィ、あなたも何か食べていく?」 マキノがルフィに尋ねた。
「ああ、じゃあ『宝払い』で食う。」 ルフィは、にっこり。
「でたな『宝払い』!お前、そりゃサギだぜ。」 シャンクスが突っ込む。
「違う!!ちゃんとおれは海賊になって、宝を見つけたら金を払いに来るんだ!!」
「ふふふ!期待して待ってるわ。」 微笑むマキノ。
「しししし。」 ナイフとフォークを握り締めて、シャンクスの隣に座るルフィ。
「シャンクス、あとどれくらいこの村にいるの?」 肉にかぶりつきながらルフィが聞いた。
「そうだなァ、この村を拠点に旅をして、もう1年以上たつからな…
あと2・3回航海したら、この村を離れて、ずっと北へ向かおうと思ってる。」
「ふーん、あと2・3回かァ…おれ、それまでに泳ぎの練習するよ!」
「そりゃいい事だな!勝手にがんばれ。」
その時!!
バキッ!!店の扉を蹴破って、誰かが入ってきた。
「邪魔するぜェ。」
その男に続いて、ぞろぞろと男達が入ってくる。
「ほほう…これが海賊って輩かい…初めて見たぜ。間抜けたツラしてやがる。」
海賊達の真ん中を通り、カウンターのマキノの前までやってきたソイツは、
山賊の棟梁、ヒグマ…額に十字の傷を持つ大きな男だ。
「おれ達は山賊だ。――が、…別に店を荒らしに来た訳じゃねェ。
酒を売ってくれ、樽で10個ほど。」
「ごめんなさい、お酒は今、ちょうど切らしてるんです。」 マキノは答えた。
「んん?おかしな話だな、海賊共が何か飲んでる様だが、ありゃ水か?」
「ですから、今出てるお酒で全部なので。」
「これは悪い事をしたなァ、おれ達が店の酒、飲み尽くしちまったみたいで、すまん。
これでよかったらやるよ、まだ栓もあけてない。」
ヒグマのすぐ横に座っていたシャンクスが、酒のビンをヒグマに差し出した。
ヒグマは、そのビンを受け取ったかと思うと、
思いっきりシャンクスの頭に、それをたたき付けた!
バリィン!!
「!!?」 驚くマキノ…何かの実をかじりながら固まるルフィ。
薄ら笑いで見ている山賊達。
「おい貴様、このおれを誰だと思ってる、ナメたマネするんじゃねェ…
ビン一本じゃ寝酒にもなりゃしねェぜ。」
ヒグマがそう言って、シャンクスをにらみ付けた。
シャンクスは、麦藁帽子から酒を滴らせながら、
「あーあー、床がびしょびしょだ。」と、ビンの破片と酒の広がった床を見ている。
ヒグマは、『WANTED』の文字とヒグマの顔の載った張り紙を出して言った。
「これを見ろ、八百万ベリーが、おれの首にかかってる。第一級のお尋ね者ってわけだ。
56人殺したのさ、てめェのように生意気な奴をな…
わかったら今後気をつけろ、もっとも山と海じゃ、もう遭う事もなかろうがな。」
しかし、シャンクスはヒグマの言葉には返事もせず、
床にしゃがみ、ビンのかけらを拾い始めた。
「悪かったなァ、マキノさん、ぞうきんあるか?」
それを見たヒグマは、腰の剣を抜いてそれを振り回した!
ヒグマの剣は、カウンターに乗っていた皿やビンをなぎ倒し、
シャンクスの麦藁帽子をかすめるようにして通り過ぎた。
ますます散らかる床…麦藁帽子を押さえてしりもちをつくシャンクス。
「掃除が好きらしいな、これくらいの方がやりがいがあるだろう…!!」
しかし、シャンクスは何も言わない…もちろん、海賊達もおんなじだ。
「じゃあな、腰ヌケ共。」
ヒグマは、そうはき捨て店を出て行った。
「酒がねェんじゃ話にならねェ、別の町へ行くぜ。」
ぞろぞろ後に続いて出てゆく山賊達。
シャンクスに駆け寄るマキノ。
「船長さん、大丈夫ですか!?ケガは?」
「あー大丈夫、問題ない。…………ぷっ!!」 ふき出すシャンクス。
すると、いままで黙っていた海賊達が、一斉に笑い出した。
「っだーっ、はっはっは、なんてザマだお頭!!」
「派手にやられたなァ!!」
ぎゃははははは…
腹を抱えて笑うシャンクスと海賊達。
「なんで笑ってんだよ!!!」 ルフィが、叫んだ。 「ん?」
「あんなの、かっこ悪いじゃないか!!何で戦わないんだよ。
いくらあいつらが大勢で強そうでも!!あんな事されて笑ってるなんて
男じゃないぞ!!海賊じゃないっ!!!」
「………」 シャンクスは、目の前に立つルフィをじっと見つめた。
「気持ちはわからんでもないが、ただ酒をかけられただけだ、
怒るほどのことじゃないだろう?」
「しるかっ!!もう知らん、弱虫がうつる!!」
「おい、まてよルフィ…」
シャンクスが、行こうとするルフィの腕をつかむと!!!
びよーーーーーーん!
腕はつかまれているのに、ルフィの体はどんどんシャンクスから離れていく…
つまり、腕がのびたわけだ。
ぶーっ!!あちこちで、海賊達が酒を吹き出している。
シャンクスもびっくり! 「手がのびた…!!こりゃあ…!!」
「まさか、お前!!」
「何だこれああ〜〜〜〜〜っ!!!」 一番びっくりしたのはルフィだった。
「ないっ!!敵船から奪ったゴムゴムの実が!!!!」
からっぽの箱を抱えた海賊が叫んだ。そして、ルフィに実の絵を見せて
「ルフィ、お前、まさかこんな実食ったんじゃ……!!」と、聞くと
「!…うん、デザートに……まずかったけど…。」 ルフィ、汗!
「ゴムゴムの実はな!!悪魔の実とも呼ばれる海の秘宝なんだ!!
食えば全身ゴム人間!!!そして一生泳げない体になっちまうんだ!!!!」
「えーーーーーっ!!!うそーーーーーーー!!!」
「バカ野郎ォーーーーーっ!!!」

ある日…
魚屋にやってくるルフィ。 「魚くれっ!魚屋のおっちゃん。」
これ以上ないというくらい、嬉しそうに笑っている…。
「よう、ルフィ、近頃一段と楽しそうだな。お前、今日も海賊達の航海、
連れてってもらえなかったんだろ?それに一生泳げねェ体になっちまって。」
ねじり鉢巻の魚屋のおっちゃんが言った。
「いいんだ!一生カナヅチでも、おれは一生海に落ちない海賊になるから。」
そしてルフィは、ほっぺたを引っ張ってのばして見せた。
「それよりおれは『ゴムゴムの実』でゴム人間になれたから、
その方がずっと楽しいんだ!!ほら!!」
そこへ、どーん!と、やって来た村長。
「それがどうした!!確かに不思議だし、村中面白がっとるが、何の役に立つんじゃ、
体がゴムになったところで!!何度でも言うがなルフィ、
お前は絶対海賊にはならせんぞ!!村の汚点になるわい!!
あの船長は少しはわかっとるようじゃが、もうあいつらとは付き合うな!!」
ガミガミ怒る村長に、耳をふさいで背を向けるルフィ。

マキノの店
「もう船長さん達が航海に出て長いわね。
そろそろさびしくなってきたんじゃない?ルフィ。」
グラスを磨きながらマキノは、カウンターに座るルフィに言った。
「ぜんぜん!おれはまだ許してないんだ、あの山賊の一件!
おれはシャンクス達をかいかぶってたよ!もっとかっこいい海賊かと
思ってたんだ、げんめつしたね。」
「そうかしら、私はあんな事されても、平気で笑ってられる方が
かっこいいと思うわ。」
「マキノはわかってねェからな、男にはやらなきゃいけねェ時があるんだ!!」
「そう…ダメね私は。」 「うん、だめだ。」
その時…
「邪魔するぜェ。」
やってきたのは、あのヒグマと山賊達!
「今日は海賊共はいねェんだな、静かでいい…
また通りかかったんで、立ち寄ってやったぞ。」
ゾロゾロと椅子に座る山賊…
「何ぼーっとしてやがる、おれ達ァ客だぜ!!酒だ!!!」

村長の家に、駆け込んでくるマキノ。
「村長さん!!大変っ!!」
「どうしたんじゃ、マキノ、そんなに慌てて。」
「ルフィが、山賊達に…!!」

マキノの店の前の道
山賊達が、ヒグマを取り囲んでいる。
そのヒグマの腕の中には、ルフィが!!
「本当におもしれェ体だな。」 「本当だな、殴っても蹴っても効いてないらしい。」

その様子を、隣の家の窓から見ている村人達。
「お…おい、お前ルフィを助けに行けよっ!」
「でも…相手は山賊だぞ、殺されちまう!」
「それに、このケンカはルフィの方から仕掛けたらしいじゃねェか!!」

「くそォ!!!おれにあやまれ!!!」
ほっぺたを引っ張られながら、ヒグマに抱えられたままのルフィが怒鳴った。
「ゴム人間とは…なんておかしな生き物がいるんだろうなァ…!」
「この野郎!!!」 ブン!ルフィはこぶしを出したが、
ヒグマに当ることもなく、逆に地面にたたき付けられてしまう。
「ちくしょう!!!絶対許さねェ!」 ヒグマをにらむルフィ。
「新種発見だ…見世物小屋にでも売り飛ばしゃあ、結構な金になりそうだな。」
見下ろすヒグマに、ルフィは、今度は棒を持って向かってゆく。
「うわああ〜〜っ!」 「しつこいぞ…ガキ。」
ヒグマは、向かってくるルフィの顔をでかい靴で押さえ、地べたに踏みつけた!
「人が気持ちよく酒飲んで語らってたってのに…
このおれが、何かお前の気にさわる事でも言ったかい。」
靴の下で、半分つぶれた顔のルフィは、それでもこう言った。
「…言った!!!あやまれ!!ちくしょう!!!」
窓から見ている人 「くそォ、ルフィの奴、何だってあんな奴らに逆らうんだ!!」
なおも怒鳴り続けるルフィ…「足をどけろ!!バカ山賊っ!!」
そこへマキノと村長が駆けつけた。
「その子を放してくれ!!頼む!!」
そう言って土下座をする村長!
「ルフィが何をやったかは知らんし、あんた達と争う気もない。
失礼でなければ金は払う!!その子を助けてくれ!!」
村長は、額を地面にこすり付けんばかりに頭を下げた。
「!村長…」 驚くルフィ…
ヒグマは、ルフィの顔を踏みつけたまま、にやっと笑って言った。
「さすがは年寄りだな、世の中の渡り方を知ってる。だが駄目だ!!
もうこいつは助からねェ、なんせ、このおれを怒らせたんだからな…!!
こんな文字通り軟弱なゴム小僧にたてつかれたとあっちゃあ、
不愉快極まりねェぜ、おれは…!!」
そして、ルフィの顔をさらにグシャグシャと…
「悪いのはお前らだ!!!この山ざる!!」
このルフィの一言を聞いて、ヒグマは、スラッと腰の剣を抜いた。
「よし、売り飛ばすのはやめだ、やっぱり殺しちまおう、ここで。」
「ルフィ!!」 叫ぶマキノ。
「た…頼む!見逃してくれっ!」 もう一度懇願する村長。
すると、その二人の後ろから!!!
「港に誰も迎えがないんで、何事かと思えば…
いつかの山賊じゃないか。」
ドーン!と現れたのは、そう、赤髪のシャンクスだ!
「ルフィ!お前のパンチは銃のように強いんじゃなかったのか?」
ルフィに声をかけるシャンクス。
「………!!……!!うるせェ!!」 ルフィは、まだ強がっている。
「海賊ゥ…まだ居たのかこの村に。ずっと村の拭き掃除でもしてたのか?
何しに来たか知らんが、ケガせんうちに逃げ出しな。
それ以上近づくと撃ち殺すぜ、腰ヌケ。」
ヒグマは、そう言って、近づいてきたシャンクスに剣を向けた。
しかしシャンクスは、一歩一歩、ヒグマの方へ近づいてゆく。
「てめェ、聞こえなかったのか!?それ以上近づくな。
頭吹き飛ばすぞ、ハハハハ!!」
山賊の一人が、シャンクスのコメカミあたりに銃を突きつけた。
「ヘヘヘヘ!!」 薄ら笑いを浮かべる山賊達。
「銃を抜いたからには、命を賭けろよ。」
シャンクスがギロッと横目でソイツを見て言った。
「あァ!?何言ってやがる。」
「そいつは威しの道具じゃねェって言ったんだ…」
シャンクスが、その銃を指差した時!
ドン! その山賊のコメカミに、弾が炸裂!
シャンクスの後ろにいた海賊の銃が、火を噴いたのだ。
あ然とするみんな…
「や…やりやがったな、てめェ…」 「なんて事…なんて卑怯な奴らだ!!」
山賊達は、予期せぬ出来事に、口々に海賊達をののしった。
「卑怯?甘ェ事言ってんじゃねェ、聖者でも相手にしてるつもりか。」
副船長が、タバコをくわえて、そう吐き捨てた。
その周りの海賊達…こんなこと、当たり前だ―みんなの顔は、そう語っている。
「お前らの目の前にいるのは、海賊だぜ。」 シャンクスが言った。
「…うるせェ!!だいたいおれ達は、てめェらに、用はねェぞ。」
「いいか山賊…おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが、
つばを吐きかけられようが、たいていの事は笑って見過ごしてやる。…だがな!!
どんな理由があろうと!!おれは友達を傷付ける奴は許さない!!!」
シャンクスの目は、今まで見せた事のないような、怒りに燃える目になっていた。
「シャンクス…」 ヒグマの足の下で、ルフィはシャンクスの言葉をかみしめた。
「はっはっはっはっ、許さねェだと!?」 ヒグマは大口を開けて高笑い…
「海にプカプカ浮いてヘラヘラやってる海賊が、山賊様にたてつくとは笑わせる!
ブッ殺しちまえ、野郎共!!!」
「うおおおっ!!」
「死ねーーーっ!」 一斉にシャンクスの方に向かってくる山賊達。
「おれがやろう…充分だ。」
シャンクスを制して、副船長が言った。
まず、先頭切って来た奴の眉間にタバコをジュウッ!と押し付ける。
そして、次々襲ってくる山賊達を、持っていた長い銃の砲のところを握って、
それで叩きのめす…ガガガガンッ!!
副船長の束ねた髪が乱れる程の時間もかからなかった。
あっという間に、ヒグマを除いて山賊全員がのされてしまった。
最後に副船長は、銃の引き金に指を掛け、銃口をヒグマに向けた。
そうして、新しいタバコに火をつける。
「うぬぼれるなよ、山賊…!!ウチと一戦やりたきゃ、
軍艦でも引っ張ってくるんだな。」
「…つええ…」 嬉しそうだが、頭はまだヒグマに踏まれたままのルフィ。
「すごい…」 あっけにとられている、マキノと村長。
ヒグマの顔色が変わった…ものすごい汗。
「…や!!待てよ…仕掛けてきたのは、このガキだぜ。」
「どの道、賞金首だろう。」 シャンクスの言葉に、顔を引きつらせるヒグマ。
そして、切羽詰ったヒグマは、ボウン!と煙幕玉をたたき付けた!
「煙幕だ!!!」 不意をつかれたシャンクス達。
煙の中から、「来いガキ!」 「うわっ、くそ、はなせはなせェ!!」
ヒグマとルフィの声がしたが、煙の消えた後、そこに二人の姿はなかった。
「ルフィ!!し!し!しまった!!油断してた!!ルフィが!!
どうしよう、みんな!!!」
シャンクスは、さっきまでのカッコよさからとても想像できない慌てぶりだ。
「うろたえるんじゃねェ!お頭、この野郎っ!みんなで探しゃあ、すぐ見つかる!!」
そう、手下にたしなめられるシャンクス。
「…ったく、この人は…」 苦笑いの副船長。

海の上
小さなボートに、ヒグマとルフィが乗っている。
「はっはっはっはっ!!まんまと逃げてやったぜ!!
まさか山賊が海へ逃げたとは思うまい!
さて、てめェは人質として一応連れて来たが、もう用なしだ!
おれを怒らせた奴は、過去56人みんな殺してきた。」
「お前が死んじまえ!!」 こぶしを出すルフィ。
ヒグマはそれを避け、「プッ…あばよ。」
ドン…!カナヅチのルフィをボートから蹴り上げた!!
「くそ!!くそ!!あいつら!クズのくせに…!!
一発も殴れなかった…!畜生!!!」
そう叫びながら、飛んでいくルフィ。
「ガキが。」 ヒグマの頭に浮かぶ、先ほどのマキノの店での一コマ…

〜 酒盛りをしている山賊達。「はっはっは!あの時の海賊共の顔見たかよ?」
「酒ぶっかけられても文句一つ言えねェで!」 「情けねェ奴らだ、はっはっは!」
手下の言葉に、ヒグマが言った。
「おれァ、ああいう腰ヌケ見るとムカムカしてくんだ。よっぽど殺してやろうかと思ったぜ。
海賊なんてあんなモンだ、カッコばっかで…」
「やめろ!!!」 その声に振り向くヒグマ… 「ああ!?」
そこには、マキノが抑えるのも聞かず、顔を真っ赤にして怒鳴るルフィがいた。
「シャンクス達をバカにするなよ!!腰ヌケなんかじゃないぞ!!!
シャンクス達を、バカにするなよ!!!!」 〜

ドボン!!「がぼっ…ぶはっ!!」 海に落ちるルフィ。
「はははははははは、あーっはっはっは!!」
ボートに立って高笑いをするヒグマ…しかし、真後ろからバケモノのような魚が!!
グルルルルル…
その唸るような声にやっと気づいたヒグマ。
「な…何、この怪物は…!!ぎゃああああーーーっ!!!」
バキバキ…バクン!! そのバケモノ魚は、ボートごとヒグマを噛み潰した!!
そして、その目は、今度は沈む寸前のルフィに…ギョロッ!
「うわあああ、がば…ば!!ば…だれか…助け、ば…!!」
大口を開けて、ルフィに迫ってくるバケモノ魚。ガバァ!!
「うわあああああああああ」
ガギッ!!バケモノ魚は、鋭い牙で何かを食いちぎったが、
「…!!シャンクス!」
ルフィは間一髪、助けに来たシャンクスに抱えられて無事だった。
シャンクスは、鋭い眼差しでそのバケモノ魚をギロッと睨んだ。
「失せろ―」
ビクッ…バケモノ魚の動きが止まる。
「………!!……!!」 シャンクスの右腕に抱かれて、泣き出すルフィ。
瞬き一つせず、バケモノ魚を睨みつけるシャンクス。
その気迫におされたか、バケモノ魚はガタガタ震えだし…
そして、尻尾を巻いて、沖のほうへと逃げて行った。
「恩にきるよルフィ、マキノさんから全部聞いたぞ。
おれ達のために戦ってくれてたんだな。」
「ひっく…えぐ…」 シャンクスの言葉にも、ルフィは泣きじゃくって答えられない。
「おい泣くな、男だろ?」 微笑むシャンクス。
「…だってよ…!!…………!!!ジャングズ…!!………!!
腕が!!!」
……シャンクスの左腕は、バケモノ魚に食いちぎられていたのだ。
白いシャツの左の肩口から、真っ赤な血が滴り落ちる…
が、それがつたって落ちるはずの左腕は、…ない。
シャンクスは、残った右手でやさしくルフィの頭を撫でた。
「安いもんだ、腕の一本くらい………無事でよかった。」
「……う………!!…うう……うわああああああああああああああああああ…」

― シャンクスが航海に連れて行ってくれない理由
海の苛酷さ 己の非力さ
なによりシャンクスという男の偉大さをルフィは知った
        こんな男にいつかなりたいと心から思った ―

数日後、港
海賊達が、出航の準備をしている。
それを見ながら、話をしているルフィとシャンクス。
「この船出で、もうこの町へは帰って来ないって本当!?」
「ああ、随分長い拠点だった…ついにお別れだな、悲しいだろ。」
いつもの白いシャツにコートを羽織って、左肩を隠しているシャンクス。
「うん、まあ悲しいけどね、もう連れてけなんて言わねえよ!」
「どうせ連れてってやんねーよー、べー」 シャンクスは舌を出した。
「自分でなる事にしたんだ、海賊には。」
「お前なんかが海賊になれるか!!!」
「なる!!!おれはいつか、この一味にも負けない仲間を集めて!!
世界一の財宝みつけて!!!
海賊王になってやる!!!!!」
こぶしを握りしめてルフィは、叫んだ。
周りの海賊達が、微笑んでルフィを見た。
「ほう…おれ達を超えるのか。」
シャンクスは、嬉しそうにトレードマークの麦藁帽子に手を掛け…
「…じゃあ…この帽子を、お前に預ける。」
そう言って、麦藁帽子をルフィの頭にかぶせた。
「おれの大切な帽子だ。」
「………………」 ルフィの頬に、涙がつたう。
「いつかきっと返しに来い、立派な海賊になってな。」
ルフィの方を振り返りながら、船に向かうシャンクス。
副船長が、シャンクスにつぶやいた。
「あいつは大きくなるぜ。」
「ああ、なんせおれのガキの頃にそっくりだ。」

「錨を上げろォ!!!帆をはれ!!出発だ!!!」


― そして少年の冒険は 10年後の この場所から始まる ― 

10年後
港で、海の方を見ている村人達。
マキノや村長もいる。
「とうとう行っちゃいましたね、村長。さみしくなるわ。」
「村のハジじゃ、海賊になろうなんぞ!」
「本気で行っちまうとはな!」

カモメの舞う沖…手漕ぎのボートが一艘進んでいる。
ギーコ…ギーコ…
「やー、今日は船出日和だなー。」
ボートに乗っているのは、あの日から10歳大人になったルフィだ。
目の下には、自分でナイフを突き刺したときのキズが残り、
もちろん、頭には、シャンクスの麦藁帽子をかぶって…
そこへ、突然!
ザバァ!!グルルルル…
あの、シャンクスの腕を食いちぎったバケモノ魚が海から飛び出した!
「出たか、近海の主!!相手が悪かったな。
10年鍛えた、おれの技をみろ!!」
ルフィは、ボートに立ち上がり、デカイ口を開けて襲い掛かるバケモノ魚に
相対すると、
「ゴムゴムの……銃(ピストル)!!!!」
右腕を、すごいスピードで繰り出し、一撃でバケモノ魚をノックアウト!!
ザッパァーン!! 「思い知ったか、魚め!…にっ!」
10年の時を経て、ルフィのゴムの体には、すさまじい威力が備わっていた。
「んん…!!まずは仲間集めだ、10人は欲しいなァ!!
そして海賊旗!!
よっしゃいくぞ!!!

海賊王に、おれはなる!!!

― まだ見ぬ彼の仲間達を巻き込まんと
小さな船は海をゆく
かくして
     大いなる旅は始まったのだ!!!―


― 第1話 END ―

inserted by FC2 system