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あなたは『東京』が、きらいですか?
日本の首都
東京〜TOKYO
人口 推定 11,923,346人
昼の人口と夜の人口の差が
200万人に上るという
不夜城都市(むてきのゆうえんち)
東京BABYLON
Vol.0 T・Y・O
新宿 歌舞伎町
桜塚動物病院
皇 北都(すめらぎ ほくと) 16歳
「じゃあ結局、その男のベッドに夜な夜な現れていた女(幽霊)は、以前に騙した素人娘だったってこと?」
皇 昴流(すめらぎ すばる) 16歳
「ほ…北都ちゃん。あんまり大きな声出すとご近所に迷惑が……」
北都
「おろかだわっ! あまりにもおろかよっ!
芸能人が素人騙して、あまつさえ自分のマンションに連れて行き、自分のベッドでコトに及んだ上、別れるのに失敗して、相手の素人娘は自殺だとぉ!
最近の女性週刊誌でも受け付けてくんないわよ、そんな古典的ギャグ!
でもなんでベッドにしか現れなかったのかしら」
昴流
「よくわかんないんだけど明絵さんって人、あの部屋でベッドしか覚えてなかったみたいで……」
北都
「つまりその男は部屋に連れ込んで、彼女にベッドの天井しか見せなかったってことだなっ。
最低な男ね。
男はねっ、女に騙されるために、この世に存在してるのよ! 女を騙してあまつさえ捨てるなんて三百光年早いわ!」
昴流
「ほ…北都ちゃん。ここよそ様のお家だから……あまりエキサイトすると……」
北都
「芸能人なんて、一般市民の皆様の血と汗で稼いだ金で生きてるくせにっ! 素人さんに手を出すだとぉ!
しかも騙して捨てただとぉ。そんな奴、チェルノブイリの後掃除にでも使うしかないわよ!
昴流!」
昴流
「は……はいっ」
北都
「そんな最低野郎なんか、助けてやることなかったのよっ!」
昴流
「でも……」
北都
「でも何よ! あんたも男の仲間ねっ!」
昴流
「僕は一応男ですけど」
北都
「お黙り!」
桜塚星史郎(さくらづか せいしろう) 25歳
「昴流くんは、その女の人のために除霊したんですよね」
昴流
「星史郎さん!!」
北都
「何よ星ちゃんも男の肩持つの!?」
星史郎
「僕は常に女性の味方です」
北都
「じゃあ 何よ!」
星史郎
「いつまでもこの世に恨みを残して、現世に留まった『死人』がどんなに辛いか、北都ちゃんも知っているでしょう。
昴流くんは、そんな おおばかやろうな男のために、それ以上その娘さんを苦しめたくなかったんですよ」
北都
「フッ。
星ちゃんは、昴流のことなら なんでもお見通しね」
星史郎
「日々、精進努力を重ねてますから」
北都
「星史郎ちゃんと昴流は、あっちっちねっ!」
昴流
「な 何言ってるんだ! 北都ちゃん!」
北都
「何を隠す必要がある! 星ちゃんは昴流に一目惚れだと言うじゃないの!
遥か昔から、この日本を霊的に守って来た我が『皇一族』その十三代目当主・皇昴流。
今じゃ数少ない陰陽師の頂点に立つあんたと、
同じ陰陽師ながら、まったく表には現れず、影から日本史を支えてきた『桜塚護(さくらづかもり)』の跡取り息子。
皇が表なら桜塚は裏……その当主と跡取りの恋だなんて……
なんて愉快なの! 浪漫よ! めるへんよっ! ハードボイルドよっ!」
星史郎
「お茶冷めちゃいますよ。北都ちゃん」
北都
「その当人が、この おおぼけやろおと めだぬきっていうのが、いまいち迫力にかけるけど」
星史郎
「今日のおやつは、木村屋のあんぱんですよ」
北都
「ちょっと昴流! あんた、この物語の主人公たる自覚あるの?
星ちゃんもよっ!! 『暗殺集団・桜塚護』が、こんな所であんぱん食ってて良いと思ってんの?
そのしあせな目! しあわせな笑顔! しあわせなあんぱん。
緊迫感がないのよおっ!」
星史郎
「そう言われても、僕はただの獣医さんで……稼業がなんであれ、個人のパーソナリティは どうしようもないものですから……」
北都
「昴流!」
昴流
「は…はいっ」
北都
「あんたもよ! 容姿は問題ないのに、その異常なまでの腰の低さは何よ! それでも世を忍ぶお仕事に従事する人間なのっ!?
『孔雀王』の孔雀さんに申しわけないと思わないのっ!? 『帝都物語』の加藤さんに すまないと思わないのっ!」
昴流
「ぼ……僕は平凡な陰陽師だから…………」
北都
「陰陽師であることが、すでに非凡なのよっ!」
昴流
「あ 僕もう行かなきゃ」
星史郎
「お仕事ですか?」
昴流
「ええ、もう一件あって……」
星史郎
「遅いですから、送っていきましょう」
昴流
「あ……いえ大丈夫です」
北都
「送ってもらいなさい! ただなんだから」
星史郎
「送っていきますよ。本当に……」
北都
「ヒューヒュー。やった!
星史郎ちゃん! 『送り狼』が駄目でもせめて『送りシェパード』くらいには なりなさいよ」
星史郎
「そうだ! みんなで行きませんか? ピクニックみたいで楽しいですよ、きっと」
昴流
「あのぉ……遊びに行くわけでは……」
北都
「ちょっと! あたしは、お邪魔コアラになるのは いやよっ!」
星史郎
「何を言うんです、北都ちゃん。北都ちゃんは将来、僕の義姉さんになる人じゃないですか。今から親族間の親睦を深めておかねばっ」
昴流
「なんの話なんですか? なんの!」
・・・
北都
「おかえりー。おつかれさん」
昴流
「どうも、お待たせしました」
北都
「なにぃ!? シャネルのスーツに宿った生霊!?」
昴流
「生霊と言うよりは、怨念に近いものだったけど…………」
北都
「なんだそれは」
昴流
「あとで正気に戻った あのお嬢さんに聞いたら、あれ伊勢丹の夏ものバーゲンで壮絶な戦いを繰り広げて買ったスーツなんだって。
その争いに負けた人の恨みや、いつもショウウィンドウに飾られているのを見てた人達の『憧れ』なんかが、あのスーツに集まっちゃったという……」
北都
「うーん。
女のバーゲンにかける執念は、すさまじいからのう……」
星史郎
「今も昔も、一番こわいのは人間ですから。
付喪神(つくもがみ)って言う道具や物に宿る精霊がいますけど、最近じゃ人間の怨念の凄さに付喪神が取りつく島もありませんね」
北都
「そとおりっ! 妖怪も化物も、人間のわがままの前では すでに無力! 環境破壊も原発問題も東欧諸国の動乱も、日本の娘たちの前では子守り歌に等しいわよ!!
エコロジーブームと口では言っても、エコロジーファッションを身にまといつつ、フロンガス入りのヘアムースをガンガン使い、
水不足だと わかっていても毎日朝シャンして、切り倒される木が可哀想とニュースを見ながら むせび泣いても、ファッション雑誌とコミックスは必ず買ってしまう!
あーーっ! 女の子って かわいいっ!!」
昴流
「北都ちゃんも、フロンガス使うの やめればいいのに」
北都
「おろか者。まだまだ浅いわよ、昴流。
すでに店頭に並んでるんですもの。私が買わなくても、そのぶん他の人が買って行くでしょ。どーせフロンガス出すなら、自分が使って自分がキレイになるほうがいいじゃないの」
昴流
「そっ…その思想は、ちょっと危険では……」
星史郎
「そう言えば、東欧にはチェルノブイリ並に老朽化している原子力発電所があるらしいですね」
北都
「きゃはははっ。いつまでももつかっ! 資源と原子力発電所ってか!?」
星史郎
「それでも僕は、この東京が大好きですがね」
昴流
「どうしてですか?」
星史郎
「この地球で たったひとつ。
滅びへの道を『楽しんで』歩んでいる都市だからですよ」
昴流
「星史郎さん……」
星史郎
「と言うわけで。
僕と昴流くんの結婚式は、一日も早いほうがいいですねっ」
昴流
「星史郎さんとは ちょっと違うけど。
僕も東京が好きですよ」
あなたは『東京』がきらいですか?
Vol.0 T・Y・O■END