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ちっちゃな雪使いシュガー コミック版



ジリリリリ
目覚まし時計が鳴った。
バン、と少女が勢い良く窓を開いた。

 予定通り起床
 天気予報どおり晴れ―――

「ん―――― いい日曜日になりそう!!」
少女は気持ちよさそうに背伸びをし、振り向いた。
そこには写真立て、その少女と母親が写った写真が飾られていた。
「ね 母さん」


おはなし1 シュガーが街にやってきた


「おばあちゃん 行ってきまーす!!
 いつもの時間に帰るから夕食お願いね」
「はいはい6時ね
 それまでにシチューを煮込んでおきますよ」

 私サガ・ベルイマン
 グッテンベルグに住む11歳!
 おばあちゃんとふたり暮らし
 私の性格は「とにかくキチンと!」
 だから「計画どおり」と「貯金」が毎日の目標

「モーゲン サガ バイトかい?」
「うん」
道行く人々がサガに声をかける。
「モーゲン おじさん」
「よう」
(ぴったり9時45分 サガちゃんいつも時間に正確だね)

 大切な目標があるの
 そのために毎日計画作って頑張ってるの

「モーゲン サガ」
「モーゲン」

 朝食7時30分きちんと食べた
 食休みも30分!
 コーディネートもバッチリ!
 あいさつ元気よく!

「うん! 予定通りの朝って気持ちいい!!」
ついん
「ん?」
サガの側を、何か小さなものが通り抜けていった。
サガはキョロキョロと辺りを見回すが、何も見つける事は出来なかった。
ガランゴーン
「大変!遅刻じゃないっ」
定時を知らせる鐘の音に、サガは慌てた。

「おくれてごめーん ルキーノさん」
サガはバイト先のコーヒーショップに駆け込んだ。
「あ〜サガ? ちょっとおくれただけだろ そんなに働かんでも……」
「ダメです!遅刻は遅刻!!
 それにきょうはオリジナルブレンド極める予定でしょ!?」
サガはゆっくりとクッキーを食べるルキーノを横目にテキパキと働いている。
「ルキーノさん そこの豆をローストして
 あっ そっちはブレンド用じゃなくて」
「はいはい店長さん」
「んぐ!?」
ルキーノはサガの口にクッキーをくわえさせた。
「えへ おいし」
「ところで店長さん きょうのその後のご予定は?」
「ノーマたちとワッフルの試食会 そのあとは―――ヒミツかな?」


「さすが雑誌にのる店だね すごい行列!!」
「わぁ……」
サガは友人である、ノーマとアンヌと一緒にショッピングをしていた。
「どれもおいしそうで迷っちゃうよ 私こういうの決められない性格〜〜」
「ホント〜〜こういう時は「サガにお願い」だね」
「まっかせなさい」
アンヌの提言にサガは乗り気だった。
「ノーマはストロベリーとクリーム アンヌはシナモナップル 私はマーマレード」
「はいよ〜」
「わーい さすがサガ」
「あ それとプレーンふたつ」
「「ふたつ?」」
「おばあちゃんのお土産 それに私の夜食」
「さすがしっかり者」

「ん〜おいし〜
「そっちのも食べさせて」
「いいよ〜」
「ホントおいし〜」
サガたちは和気藹々と先程買ったワッフルを食べていた。
「ねーねーつぎはこのお店に食べに行こーよー」
「そだね」
「じゃっつぎの日曜日!! 時間はえ〜〜っと」
「サガったらもうスケジュール立ててる」
アンヌがくすくすと笑った。
「あむっ」
「え?」
ふと、サガの左手にあったワッフルの重さが消えた。
誰かの手が、サガの手を引っ張っていた。
「ああ〜〜っ ないっ」
確かに持っていたはずのワッフルが消失していた。
「よお!サガ 世紀の瞬間に立ち会わないか?」
「フィル!?」
サガのワッフルを食べたのはサガのクラスメイト、フィルだった。
「残念でした 爆破実験につきあう予定はないの!」
「失礼な!発明実験と言って欲しいな」
二人のやりとりを、ノーマとアンヌはくすくすと笑っていた。

「あ〜ら 我がライバル サガさん
 みなさんもおそろいで」
髪の長い少女が、サガたちの前に現れた。
その顔には薄笑いが浮かんでいた。
「見てぇ〜〜 お父様に買っていただいたスイス製の時計よ
 クラスで一番の私にピッタリでしょ〜〜!?」
その少女、グレタは左腕につけた時計をサガに見せた。
居合わせたみんな、ノーマやアンヌ、フィルはただグレタを見つめるだけだった。
サガは驚いた顔をして、グレタの時計に顔を近づけた。
「う…うらやましくて?」
グレタはサガがこんなにじっくり見入るとは思っていなかったらしく、動揺して聞いた。
「やだ… 大変こんな時間!!」
「きゃっ」
サガはグレタの左腕を両手でギュッと握るとノーマたちの方を見た。
「ごめんアンヌ、ノーマ 私つぎの予定があるの」
「わかってるって バイバイ サガー」
「グレタ サンキュー」
サガは駆け出した。
「え? あのっ ちょっと」
グレタは呆然とした。
「わ〜すげ〜 分解してみて〜〜」
「キャ――汚い手で触らないでっ 離してよ サガさん 覚えてらっしゃーい」


4時を知らせる鐘が鳴っていた。

 大変!!
 この予定が一番大切なのに4時過ぎちゃった
 完璧なスケジュールが
 きょうはくるってばっかりだよ

「……」
ある店で店員が腕時計を見ていた。
「ちょっと出かけてくるよ」
「はい」
店員は声をかけられると慌てて返事をした。

サガは息を切らし、ショーウィンドウから「それ」を見ていた。
「あ……」
店員のポールがサガに向かってOKサインを見せた。
「はい!!」
「ピッタリだったよ さあどうぞ」
「ありがとうポールさん」
サガはポールに感謝の言葉を述べると、ピアノに向かって駆け出した。

 会いたかったよピアノさん……
 とても会いたかった……
 母さんのピアノ……

サガがピアノで美しいメロディを奏でているうちに、屋外では雨が降り始めていた。
サガがピアノを弾く姿を、ポールはうっとりと見つめていた。

 母さん
 私 頑張ってるよ

「………」
(やさしい音色だな
 普段セカセカしている彼女からは想像できない
 事情はわからないけど彼女本当に
 このピアノが好きなんだな
 音でわかるよ)

「わ――ん 予定外だよこんな雨〜」
サガは土砂降りの中を走っていた。
「ふう これじゃ夕食も遅刻かな」
サガは店の軒下で雨宿りをした。
ふと、横を見た。そこには……
(人形……? なに!?)
手のひらに乗るほどの大きさの女の子がダンボールの箱の上に座っていた。
(ええ!?生きてるの!?)
小さな人形の様な女の子はサガを見つめていた。
「………??」
「……」
「うう……」
「えっやだ どうしよう倒れてる
 苦しいの!?お腹痛いの!?大丈夫!?ねぇっ」
ぐうーぎゅるるるる
「……」
どうやら空腹なようだった。
「あ そうだ」
サガはカバンから夜食にと買っておいたワッフルを取り出した。
「食べるかなぁ?」
女の子はワッフルの匂いをかぐと、かぶりついた。
「アハ かわいい」
「ワッホ―― おいし――っ」
(え!? いましゃべった!?)
小さな女の子はもくもくとワッフルを食べている。
「ぴやっ」
サガはその女の子を鷲づかみにし、駆け出していた。

「おばあちゃん大変大変〜〜!!!」
「まあホント大変!びしょぬれじゃない」
「違うってば これ見て!!」
「こんにちはー」
「ほらっこれ!!」
サガの手のひらの上で、小さな女の子がワッフルを食べていた。
「え〜と ワッフルかしらねぇ?」
(え!?見えてないの!?)
「変な子ねぇ ほら夕食よ 着替えてきなさい ほらタオル」
「あ…… おば……」
(そうかおばあちゃんには見えてないんだ……)
サガは改めて手のひらに乗っかっている女の子をまじまじと見た。
(――っていうかsこんなの 見えてるほうが変だよね ―――やっぱ)
「もしかしたらこれに……」
サガは女の子を小さなピアノの上に乗せると百科事典を開いた。
「……?」
女の子は不思議そうにサガを見つめている。
「べぇ―――っ」
女の子がサガにあっかんべをした。
「ちょっとねぇ 助けてあげたのに「べー」はないんじゃない?」
「わあっ」
女の子は驚き、尻餅をついた。
その拍子に何かがピアノに落ちたが、二人はその事に気づいていないようだった。
「すっごい シュガーのこと見えてるの? 人間なのに? ステキ」
小さな女の子、シュガーはサガにキスをした。
「〜〜〜〜!!!」
「わーい わーい わーい」
サガは顔を真っ赤にして口を押さえ、シュガーはサガの周りをくるくると飛んだ。
「ひ〜ん 得体の知れないものに大切なファーストキスを〜〜」
「シュガーだよ 季節使いのシュガー 助けてくれてありがとう」
「季節使い?」
「知らないの?」
サガが怪訝そうな顔で聞いた。
「季節使いはね
 雨や風や雲 雪や太陽とか自然をあやつりながらいろんな季節を作ってるんだよ
 シュガーはそのなかの雪使いなの すごいでしょ
 まだ見習い中だけど「きらめき」をい〜っぱい集めて
 母さまみたいな立派な雪使いになるんだ!!」
(!!)
しゅがーは胸を張った。
(母さまみたいに立派な……!?)
「……」
「ねぇねぇ「きらめき」を知らない?」
「なにそれ?」
「ホワっとしてあったかくてキラキラしてるの」
(なんだか状況が受け入れなくてめまいが……)
「な〜んだ 人間と話せるからすぐ見つかると思ったのに残念〜〜」
「やだ……私ってばびしょぬれ お風呂入らなくちゃ」
「え あ ねぇちょっと シュガーの話聞いてよ ねぇ〜〜」
パタン
サガはシュガーを置いて、部屋を出た。
「んもうっ!!」
ふとシュガーが部屋を見渡すと、小さな可愛らしい小物入れがあった。
「わ〜〜かわいい〜」
バフッと飛び込むと柔らかな布がシュガーの眠気を誘った。
「なんだか気持ちいい……」

(きっと私スケジュールのつめすぎで疲れてるんだわ
 しっかり食べていっぱい眠ればまたいつもの朝に……)
サガは部屋に戻ると、眠っているシュガーが目に入ったが、見なかった事にした。
(気にしない気にしない)

――朝
サガはガバッと勢い良く身体を起こした。
昨日シュガーが寝ていた所を見ると、そこには何も無かった。
「変な夢見ちゃったよ……」
ちゅ
「え!?」
「おはよ」
シュガーがサガにキスをした。
「………」
「おねぼうさん」
サガは言葉を失っていたが、その静寂はすぐに打ち破られた。
「キャアアアアア」


「今日は記念すべき日だね
 まさかサガが遅刻するなんて」
「雪が降るかも〜」
「言わないで〜〜〜〜っ」
(それもこれもこいつのせいだ)
「雪? シュガーが降らせちゃうよ 魔法見せたげる」
「あのね?」
サガはシュガーを鷲づかみにした。
「きゃう」
「このくらいの大きさで羽がはえててやたら我がままで迷惑な……」
「なにすんの〜もぉ〜」
「「季節使い」―――って知ってる?」
「「へ……?」」
サガの突然の問いに、ノーマもアンヌも驚きを隠せずにいた。
「やだ〜きょうのサガなんか変だよ〜」
「や……やっぱり」
「シュガーのことだよ」
シュガーが言っても二人には聞こえない。
「サガさん?」
グレタだ。
「遅刻なんて私のライバル失格よ
 ところで今日も見せたいものがあるの」
グレタがサガに見せたいもの。
それは大きくて綺麗な宝石がついた指輪だった。
「ほ〜〜らうらやましくて 本物よ」
「「きらめき」みっけ―――――っ!!」
いち早くシュガーが反応した。
「よっ」
「え?」
「いっ」
シュガーはグレタの指から指輪をはずした。
シュガーを見る事が出来ないグレタは何が起こったのか分かっていない様だった。
「バカ――――っ!!」
「へ?」
「なんてことすんのよ―――っ!!」
サガの咆哮はシュガーだけでなく、グレタたちをも驚かせていた。
「サガさん「バカ」はひどくなくって? あんまりよっ」
グレタの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「あ ごめん……」
(こォ〜〜のォ〜〜)
「はいこれ」
サガは右手でシュガーを握りしめ、左手で拾った指輪をグレタに返した。
「ちょっとォ〜「きらめき」だかなんだか知らないけど迷惑なのよ!!」
「だって〜〜」
「サガー午後は理科室に移動だよ〜早く〜」
「もうついてこないで!!」
ノーマの声はサガに届いていないようだった。


――理科室
「ではきょうは食塩水から塩を取り出す実験です
 火を使うので充分注意して………」
「ごめんねーごめんねー」
「……」
シュガーがサガの周りを飛んでいる。
サガはウンザリしているようだった。
「! こらそこ なにやってんの?」
「実験です!! 食塩の抽出なんてあたり前すぎてやってられません
 見てください!!名づけて「雨降らせ装置」」
先生から注意を受けていたのはフィルだった。
「ばっかねぇ〜〜そんなみすぼらしい装置で雨なんか作れっこないわ!!
 なんでこんなのと同じグループなの? 迷惑なのよね」
グレタだった。フィルはムッとしてグレタを見た。
「またフィルのやつなんかやってる〜〜〜」
「へ〜」
「ホントだ〜〜」
「すご〜い 人間も雨降らせるの?」
「あっ こらバカ戻ってこい」
「見てろよォ〜 いま証明してやる!!」
「「おう!!」」
フィルがスイッチを入れた。
「シュガーが雪にしてあげる サガ見てて〜〜」
シュガーはポシェットからピッコロを取り出し、奏でた。
「あ……やめ……!!」
「あれ?」
「きゃっ」
装置が光り、ボンと大きな音を立てて爆発した。

「おちついて! 皆さん大丈夫ですか おちついて……」
「なによこれ〜 なんで雪じゃないの〜?」
「〜〜〜」
サガが凄い形相でシュガーを睨んでいた。
シュガーはビクリとした。
「あんたのせいで遅刻はするし恥はかくし授業には集中できないし
 あたしの一日をどうしてくれんのよっ」
「サ… サガ?」
アンヌが驚いてサガに声をかける。
「いいかげんにしてよ……
 季節使いだかなんだか知らないけど少しは人の迷惑考えてよ!!
 もう私の周りをうろつかないで!!
 こら――なんとか言え――――っ!!」
「ご…ごめん」
シュガーは煙に咳き込み、どこかへ飛んでいった。
「サガ…?」
クラスメイトが不思議そうにサガを見つめていた。

「心配だわサガさん
 なにか悩みごとがあるんじゃないの?」
「いえその……」
(妖精が見えるなんて言っても信じてもらえるワケない)
「ご両親いないんだし なにかあったら相談してね」
「! はい……」
(しっかり者でちゃんとしてないとこう言われちゃうのに
 だからメルヘンなんかしてられないのに!!)

「あ〜あどうしよう すごくおこってたな〜〜 あ……」
シュガーはふとサガの姿を見つけた。
「!」
「ねぇ さっきはごめんね あんなになると思わなかったの」
シュガーはサガのもとに飛んできた。
「ごめんね ねぇ聞いてる?」
「……」
「ごめんねってば〜〜」
サガは反応しなかった。
「………ねぇシュガーのこと見えなくなっちゃったの ねぇ ねぇってば」
サガが突然歩みを止めた。
「ここでお別れだよ」
「え?」
「きのうここであんたを拾ってから私の計画はくるいっぱなし
 だいたいあんたのことなんか私の計画になかった
 私 あんたを見えなかったことにする 拾わなかったことにする」
シュガーの目には涙が浮かんでいた。
「だからあんたもここからもう一度やり直しなさい」
「でもせっかく会えたのに……話せたのに……う……」
「そもそも季節使いなんて信じるクチじゃないし……」
(そんな顔したってダメなんだから)
「おーい シュガー」
空から、声が聞こえた。
いやな予感がした。
「お久しぶりです〜〜」
「なにやってんだよ こんなところで」
「ゲッ また別の生物!!」
サガとシュガーの前に現れたのは、二人の妖精だった。
「わ〜〜〜〜ん会いたかったよ〜〜」
「やめっやめっ」
男の子の妖精にシュガーはキスを連発した。
「うふふあいかわらずですね」
そんな二人の姿をもう一人の女の子の妖精が微笑ましげに見ていた。
「紹介するね 太陽使いのソルトと風使いのペッパーだよ」
「なに言ってんだよ人間に見える訳ないだろう!?」
「それが見えるの」
「マジ!?」
「ステキ〜〜」
「でしょ〜〜!?」
「ところで住む家決まったか?オレなんて種まいて芽が出たぜ」
「私もです〜〜」
「え?! ないっっ 種がない!!」
シュガーはポシェットをまさぐったが、その中には無かったようだった。
「ないないないないないな〜い」
「え?あのちょっと シュガー……」
どこかに飛んでいったシュガーをサガはただ見つめるだけだった。
(泣いてたな……ごめんくらい言いたかったよ でももとに戻ったし……)

「ただいまー」
帰宅し、自分の部屋に入ったサガはすぐさま異変に気づいた。
「なにこれ!?」
部屋がめちゃくちゃに荒らされていた。
「わっほぉ〜う」
シュガーの声がした。
「あ おかえりサガ 見て見てシュガーの「魔法の種」の芽が出たの」
「「おかえり」ってあんたね……」
「だって決まりなの 「魔法の種」まいた所が人間界のシュガーの家なんだもん
 ホントは落としちゃったんだけど だから「おかえり」なの」
(人の気も知らないで……)
「こらシュガー 勝手すぎるぞ!!」
「わっほーう シュガーって呼んでくれるの?」
両手をあげてサガがシュガーを追いかける。
その顔は不思議と少し幸せそうだった。



ちっちゃな雪使いシュガー おはなし1 おわり

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