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  カッ ゴロゴロ(稲妻が煌く雷雲の中を飛ぶなにものか)

  ばざ(奇怪な仮面を被ったそれは、大きな翼と尾を持つ怪物のようだ・・・・・)








●第1話「天魔」









「慶長十九年」







  (大きな木の上に立つ旅僧姿の二人組。女性と老人らしい)

  (日本人ではないらしく、異国語で会話している)

女性「あれが・・・スンプ城か・・・」

  (遠くに見える駿府城。いわずと知れた徳川家康の居城である)

女性「ん・・・?」
老人「どうした? 何か見えるのかガルーダ」

  (ガルーダと呼ばれた女性が目を凝らすと、駿府城で跳ね回る忍者たちが)

  (二種類の装束を着た忍者たちが争っている)




忍者「ぐわっ」

  (一人の忍者が首をはねられた)

少年「晴海!」

  (まだ少年らしい忍者が仲間の死に声を上げる)






ガルーダ「『飛蜥蜴』以外にも侵入者が? 斬り合いが始まっている・・・」
老人「ほう トヨトミの手の者かのう」「さしずめ狙いはイエヤスの命か・・・」
ガルーダ「好都合ね! 囮になってくれてるようなもんだわ」「行くよ!タクシャカ」
タクシャカ「待て待て・・・」

  (木から飛び降りようとしたガルーダだがタクシャカに抑えられる)

ガルーダ「なっ何よっ!」
タクシャカ「本当に陽動かもしれん・・・」
     「それに城の守りを指揮する者が切れる奴なら そういう場合も考えて手を打つじゃろ」
     「『飛蜥蜴』めもどうなるかわからん」「しばらく様子を見たほうがよかろうて」
ガルーダ「手遅れになったらどうするのよ!!」

  (木にぶら下がって落ち着いた様子のタクシャカに対し、焦り気味のガルーダ)





  (一方、少年忍者。死んだ晴海の首を抱える)

少年「せ・・・晴海入道・・・!!」「畜生〜・・・」
  「手前ェら・・・やりやがったな・・・」

  (少年をも斬らんとつっこんでくる敵の忍者)

少年「よくも晴海をーっ!!」

  ゴッ(なんと少年、先ほどまで死を悼んでいた晴海の首を投げつける。たまらずのけぞる敵忍者)

  どず(すかさず敵忍者を刀で串刺しにする少年)

少年「いけね・・・刺しちまった」
  「チィッ 抜けねェ」

  (刀が刺さってしまい抜けなくなった少年。そこに敵の忍者が襲いかかり・・・・)

  ズバ(横から突然、別の忍者に斬られる敵忍者。斬った忍者は青年らしい)

青年「羅喉丸無事だったか」
羅喉丸「佐助!! 入道が殺られた!!」
佐助「そうか・・・」

  ズボッ(話しながら刀を引き抜く羅喉丸。夥しい血が吹き出る)

羅喉丸「才蔵は!?」
佐助「奴も死んだ」
羅喉丸「糞!!」

  ザッザッザッ(次々と集まってくる敵の忍者たち)

佐助「もはや役目の遂行もかなわん」
  「真田の殿は命を惜しめといわれた。無理ならば引き上げてこいと・・・羅喉丸お前だけでも逃げろ!」
羅喉丸「逃げろって・・・あんたはどうする?」
佐助「俺はダメだな 血を流しすぎた」
羅喉丸「げっ」

  (見ると佐助は右腕を失っており、死相を浮かべている)

佐助「おまけに・・・伊賀同心支配はあの音に聞こえた服部半蔵! 奴が駿府にいたとは・・・」
羅喉丸「・・・・・・俺一人おめおめ生きのびたってカッコよくねえ!」
佐助「人並みなことを言うな。諸国の侍は知らず、忍び武者の討死にほまれがあるか!」
羅喉丸「勝負まだ終わっちゃいねえ! 全員くたばろうと家康の首さえあげりゃ俺たちの勝ちだ!!」
   「服部某がどうした!!」

  ビュッ(血気盛んに刀を振るう羅喉丸)

佐助「待て羅喉丸!!」
  「・・・しかたがない。お前はお前の行きたい所へ行け。俺はあの化物をくい止める」
  「その方が合理的だ」
羅喉丸「佐助・・・世話になった」
佐助「おう」「世話がやけたよ」

  ぶわっ(大粒の涙を流す羅喉丸)

  スッ(音も無くその場から姿を消す羅喉丸)


  (一人残った佐助の前に現れたのは、両刃の十文字鎌槍を持つ巨漢・・すなわち服部半蔵)

半蔵「・・・うぬは甲賀流よな?」
佐助「・・・・・・」

  ハーッハーッハーッ(荒い息を切らせる佐助)

半蔵「甲賀の生き残りで汝ほど技の切れる者といえば限られる「三雲佐助・・・と見たが?」」
伊賀忍者「!」
    「『猿飛』か!?」
    「道理で・・・」
佐助「忍びに名は無い・・・」
半蔵「汝の様な気の利いた者を差し向けるは・・・さしずめ紀州九度山といったところか」

  (刀を上段に構える佐助)

佐助(下段の構えを誘い突きのみに隙を見せる)

佐助「かあああ」

  どす(斬りかかろうとする佐助。だが振り下ろすよりも早く半蔵の槍に貫かれる)

  にや(笑みを浮かべる佐助)

  ガッ、シュシュシュ(半蔵の腕を掴む佐助。何やら煙が生じる)

半蔵「!!」「うぬっ」

  どぉん(一瞬あせる半蔵。次の瞬間佐助は自爆して果てた)

伊賀忍者「御屋形様!!」「石州(石見守)様!!」

  (狼狽する伊賀忍者たちだが・・・・)

  ビチャッ(佐助の肉片が飛び散る中、ゆうゆうと起き上がる半蔵。たいした手傷は負っていないようだ)

半蔵「惜しかったな・・・猿飛佐助」
  「残るは一人! 探せ!!」

  (半蔵の命を受け散っていく伊賀忍者たち)

  (後には自爆した半蔵の腕が転がっていた・・・・・)



  ザーザー、ゴロゴロゴロ(雨が降り始め、雷も鳴り出した)

  (何やら騒がしい駿府城)

侍「曲者だァーッ」
 「出あえ!」
 「曲者はいずこに!?」
 「伊賀同心どもは何をしておる!」

  (曲者を探して場内を駆けずり回る侍たち)

侍「上様の寝所で狼藉を!!」
 「大胆な!」
 「急げ!!」

  (家康の寝所まで急ぐ侍たち。と、そこへ・・・)


羅喉丸「なーにおー!!?」


  ばごん(なんといきなり床を突き破って羅喉丸登場)

羅喉丸「一体どこの手先だ! 木村重成か明石守重か後藤又兵衛それとも長曾我部はたまた大野修理・・・」
侍「あ〜〜あ〜〜ここにも曲者!!」
 「斬れっ! 斬り捨てィ!!」
羅喉丸「うるせーッ!!」

  (突っ込んでくる侍たちを刀の一振りで吹き飛ばす羅喉丸)

羅喉丸「畜生読めた! 俺たちが伊賀同心どもを引きつけてる間に家康の首を横取りって算段か!」
   「ここまで来て油揚げさらわれた日にゃ、地獄で佐助たちに合わせる顔がねえ!!」

  ボキボキ(刀で侍たちを殴り倒しながら走る羅喉丸)

羅喉丸「ちなみに! 手前ェらを峰打ちにしてるのは刃毀れと血脂を避けるため!! 慈悲じゃねェから勘違いすんな!!」
侍「な・・・何て騒々しい忍びだ・・・」

  (なぜか解説をしながら走る羅喉丸。それでも足音を立てないあたりがさすが忍者だ)


羅喉丸「名乗るは忍びの流儀じゃねえが冥土の土産に覚えとけっ!!」
   「九曜羅喉丸!! 推参!!」
   「うおっ!?」

  (家康の寝所に押し入った羅喉丸だが、そこで見たものは・・・・)


  (奇怪な仮面を被った怪物が家康を捕えているところだった!!)


  ボボボボボボ(口から火を吐く怪物)

侍「ぎゃああああ」

  (怪物の吐いた火を食らって悶絶する侍たち)

羅喉丸「よ・・・妖怪!? 初めて見た・・・」

  (さしもの忍者・羅喉丸も驚きを隠せない)

  (一方、怪物は右腕に小さな沖縄のシーサーのような置物を持っている)

怪物「ククク・・・『シンガーの像』・・・こうも簡単に見つかるとは・・・」
  「ただの置き物と思っていたようだな・・・」
家康「うぐぐ・・・」

  (怪物はガルーダやタクシャカが話していたような異国語を話している)

  (右腕で家康の首を締め上げる怪物)

怪物「もう少しつきあってもらうぞイエヤス」

  (城の外に飛び出した怪物。巨大な翼を広げる)

侍「おのれ物ノ怪・・・」
 「討つな! 大御所様の身が危ない」

  (イエヤスが人質にとられているため攻撃できない徳川の侍たち。しかし・・・)

侍「ぐえっ」

  どさっ(侍を足場にして宙を飛び、怪物につかみかかるのは真田の忍者・羅喉丸)

  (羅喉丸の重みのためか低空飛行になる怪物。驚く侍たち)

侍「うわあっ」
 「よ・・・妖怪!!」

羅喉丸「うっ・・・生臭え」
怪物「な・・・何だ!?」
羅喉丸「化物!! 狸を何処へ連れて行く!! 俺の獲物だぞ!!」
家康「げ・・・下郎!! このわしを面と向かって狸呼ばわりしたは六十余州に貴様だけぞ!!」
  (信長公以外では)
羅喉丸「うっせーや みんなそう呼んでる! 日本中ぜ〜んぶ」
家康「慮外者! 許さ〜ん!!」
怪物「はなさぬかこいつ!!」


  ザッザッザッ(羅喉丸と家康と怪物が争う中、木々を飛び移る人影が)

怪物「!」

  (人影の正体はガルーダ。小さな弓を構えて矢を放つ)

  バキッ(矢は怪物の仮面に当たり面を壊した)

  ガアッ!(口をあけて凶悪な牙を舌を見せる怪物)

  クン ヒュッ(古史から短剣を引き抜いて構えるガルーダ)

  たん(木から怪物に飛び掛り、短剣で切り裂くガルーダ)


  (勢いあまって転げ落ちるガルーダ。水に落ちる家康。受身を取って着地する羅喉丸。地面に激突する怪物)

  (落下の衝撃で持っていた”シンガーの像”を落とした怪物)

怪物「貴様・・・」

  ザザザザ(大雨の降る中、対峙する怪物とガルーダ。怪物の顔は驚くほど人間に似ている)

怪物「何のつもりだガルーダ!!」
ガルーダ「し損じたか・・・!」

  (地面に打ち付けたらしい右腕から血を流しているガルーダ)

羅喉丸「何者だこいつら!?」

  (状況がつかめない羅喉丸と家康)

  (転がったシンガーの像を中心に、羅喉丸・家康・ガルーダ・怪物が四方に分かれる形となった)


  ダッ(シンガーの像をとらんと飛び掛るガルーダ)

  ビュッ、ビシュッ(怪物の尾が伸びガルーダを捕える)

ガルーダ「ああッ」
怪物「裏切り者めが・・・」
ガルーダ「う・・・ぐぐぐ・・・」

  ザッ(短剣で怪物の尾を切るガルーダ)

怪物「ガァッ」
ガルーダ「きゃっ!」

  ドガッ(尾を振るいガルーダを木に叩きつける怪物)

  (シンガーの像を拾いにいく怪物・・・・だったが・・・)

怪物「!」

  がきっ!!(シンガーの像を踏みつける足。それは羅喉丸だった)


羅喉丸「なぁんだぁてめえらぁあ!!」

  (展開についていけない怒りが爆発したらしい羅喉丸)

  (あまりの剣幕に固まってしまうガルーダと怪物)

羅喉丸「本朝六十余州の命運を左右する大仕事に!」
   「ひとが命掛けで働いてる時に!」
   「くだらんガラクタ取りあってジャマするなーッ!!」

  コンコンコンコン(怒りのあまりシンガーの像をリフティングする羅喉丸。そのまま蹴斗する)

  バキ(蹴り飛ばされたシンガーの像。見事怪物の顔面に命中)

怪物「ぐえ」

  (苦しみながらも像を抑える怪物)

怪物「!!」
  「ほ・・・宝珠がない!?」

  (シーサーのような狛犬のようなシンガーの像。その像がくわえていた珠がなくなっている)




羅喉丸「あん?」




  (羅喉丸の足元に転がってくる何か。それこそシンガーの像からはずれた”宝珠”だ)





  チチッチッチッ(音を立てながら光りだす宝珠)




  (光はどんどん強くなり、ついには羅喉丸たちを飲み込むまでになる)




羅喉丸「な・・・何だこりゃ!?」
ガルーダ「宝珠が・・・発動する!!」






  (光に包まれる羅喉丸、ガルーダ、徳川家康、怪物)






  (その輝きが何を意味するのか・・・・それは次なる話にて・・・・・・)







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